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しおりを挟む今日開かれる夜会は公爵邸で行われていた。
着いたときには既にすっかり日が落ちて暗くなっていた。
屋敷の階段前に降り立ち、入り口を仰ぎ見た瞬間、私は圧倒されてしまった。
灯りに照らされ、列柱が幻想的に浮かび上がる玄関ホール。
華やかな灯りが外に向かって漏れ出る。
その広さ、高さのなんと大きいこと。
次々と馬車から人が降り立ち、華やかな装いの紳士と貴婦人が前を通り過ぎ、階段を登っていく。
――今までいた世界とは別世界みたい。
「さあ、手を回して」
立ち尽くしてしまった私に、腕を曲げたフェリシアン様が声をかけてくる。
「あ、は、はい」
いけない。入る前からこれでは、私を連れたフェリシアン様がなんと思われるか。
私は慌てて外見だけはなんとか取り繕ろうと、フェリシアンの腕に手を回して階段を登り始めた。
玄関扉を潜れば、そこもまた見たことがない世界だった。
――これが一介の貴族の家。
自分の家とは天と地程の差があった。
敷かれた赤い絨毯。高い天井。光り輝くシャンデリア。飾られたいくつもの絵画。
それらに半ば心奪われた状態で、中に進んでいく。
隣を仰げば、フェリシアン様の涼しい表情が見えた。
平然としているその様子から、今の状況が特段驚くべきことではないのだと知らされる。
――フェリシアン様の家はもっとすごいのかしら。
行ったことがないから、わからなかった。
そのまま真っすぐ進めば、今日の晴れ舞台でもある夜会の会場があった。
扉をくぐった瞬間、私はまたしても圧倒されてしまった。
たくさんの見知らぬ人。自分がいる世界とはまるで違う世界のひとたちに見えた。礼服を完璧に着こなし、堂々とした振る舞いに気圧される。
シャンデリアから降り注ぐ光がまたまばゆくて、彼らを一層綺羅びやかに見せていた。
下を見れば、綺麗な幾何学模様を描くタイルが目を引き、顔を上げれば、光を弾くシャンパングラス、華やかに飾り付けられた花々の間で人々が談笑しているのが見える。
繰り広げられる光景に目を丸くして、ふとテラスに目を向ければ、庭が見えた。
薄暗がりの中に浮かぶ庭園はとても広大に見えた。
綺麗に芝生が整えられ、照明が木々や花を照らし、庭を浮かび上がらせている。
――なんて大きいのかしら。
日の下で見れば、それこそ正確な広さがわかったかもしれない。
ここから見ても規模が大きなガーデンパーティーが開けそうなことだけはわかった。
――私も子爵家や男爵家の令嬢に誘われてガーデンパーティーに行ったことはあるけれど、十人程度でちょうど良いくらいの大きさだったわ。もちろん我が家はその規模でさえ、開くことは難しいけれど。
高位貴族の方々はこんな立派な庭をみんな持っているのかしら。
だとしたら、我が家のちっぽけな庭を見て、フェリシアン様はどう思ったかしら。
フェリシアン様と自宅の庭を回った時のことを思い出して、その時のフェリシアン様の内心を思うと、恥ずかしさで顔が赤くなった。
そんな私の動揺など知る由もないフェリシアン様は私を連れて中へと進んでいく。
その時、声がかかった。
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