16 / 19
16
しおりを挟む
私はジャスミンと別れたその足で、イグナシオに会いにいった。
彼女を針の筵のような場所にこれ以上置いておきたくなかった。
ジャスミンの涙を見て居ても立っても居られなかった。
イグナシオは婚約破棄の舞台に、卒業式を予定していると言ったが、許せるはずもない。衆人環視の中で見世物にするなど、どこまで性根が腐っているのだ。
私は一刻も早くジャスミンを苦しみから解放してあげたくて、イグナシオの前で嘘泣きをした。
というか、とっととこの阿呆が婚約解消する旨を書いてくれれば、それで良いのに、ずるずると「まだジャスミンを追い詰めていない」とかわけのわからないことを言うからこうなったのだ。本当に殺してやりたい。
お前のプライドなど、ジャスミンの涙の百分の一、いや万分の一さえ価値がないというのに。
「殿下が誰かの婚約者であることが一日だって辛いのです。わたくし、このままだと耐えきれないかも……」
暗に別れを仄めかすと、イグナシオが慌てた。
「わ、わかった。ジャスミンに婚約破棄を突きつけよう。本当は卒業式の日にしたかったんだが……」
まだ逡巡するイグナシオに追い打ちをかける。
「殿下はわたくしの願いなど、聞き届けてくださらないのね。わたくしが大事ではないんだわ。それに、卒業式の日だなんて、あまりにジャスミン様がお可哀そう」
ふいと顔を横に向けると、イグナシオが跪いて、私の手をとった。
「怒らないでくれ、優しいレヒーナ。よし、わかった。明日、ジャスミンを呼び出そう。そこで婚約破棄を突きつけてやる」
「まあ、嬉しい!」
本当に嬉しいよ。
こんな猿芝居も明日で最後だと思うと。
「ジャスミンのやつも充分、追い込んだしな。皆すっかり、ジャスミンが悪女だと思い込んでる。これなら婚約破棄したあとも、俺たちの邪魔をすることはないだろう」
邪魔なのはお前だよ。お前さえいなければ、こんな回りくどいこともせずに済んだのに。
イグナシオが立ち上がって、キスをせがんできたので、上手に避ける。
「いやですわ。殿下、婚約者のいる方とそういうことをするのは、わたくしの信条に反すると言ったでしょう。あと一日、我慢なさって」
にっこり笑ってやれば、イグナシオが焦れるような期待に満ちたような顔つきになった。
「ああ! あと一日で、君は俺のものだ。楽しみで仕方ないよ」
初めて会ってからこの日まで、今初めてお前と同じ気持ちを共有できそうだ。
私はイグナシオに初めて、嘘偽りのない表情を返してやった。
彼女を針の筵のような場所にこれ以上置いておきたくなかった。
ジャスミンの涙を見て居ても立っても居られなかった。
イグナシオは婚約破棄の舞台に、卒業式を予定していると言ったが、許せるはずもない。衆人環視の中で見世物にするなど、どこまで性根が腐っているのだ。
私は一刻も早くジャスミンを苦しみから解放してあげたくて、イグナシオの前で嘘泣きをした。
というか、とっととこの阿呆が婚約解消する旨を書いてくれれば、それで良いのに、ずるずると「まだジャスミンを追い詰めていない」とかわけのわからないことを言うからこうなったのだ。本当に殺してやりたい。
お前のプライドなど、ジャスミンの涙の百分の一、いや万分の一さえ価値がないというのに。
「殿下が誰かの婚約者であることが一日だって辛いのです。わたくし、このままだと耐えきれないかも……」
暗に別れを仄めかすと、イグナシオが慌てた。
「わ、わかった。ジャスミンに婚約破棄を突きつけよう。本当は卒業式の日にしたかったんだが……」
まだ逡巡するイグナシオに追い打ちをかける。
「殿下はわたくしの願いなど、聞き届けてくださらないのね。わたくしが大事ではないんだわ。それに、卒業式の日だなんて、あまりにジャスミン様がお可哀そう」
ふいと顔を横に向けると、イグナシオが跪いて、私の手をとった。
「怒らないでくれ、優しいレヒーナ。よし、わかった。明日、ジャスミンを呼び出そう。そこで婚約破棄を突きつけてやる」
「まあ、嬉しい!」
本当に嬉しいよ。
こんな猿芝居も明日で最後だと思うと。
「ジャスミンのやつも充分、追い込んだしな。皆すっかり、ジャスミンが悪女だと思い込んでる。これなら婚約破棄したあとも、俺たちの邪魔をすることはないだろう」
邪魔なのはお前だよ。お前さえいなければ、こんな回りくどいこともせずに済んだのに。
イグナシオが立ち上がって、キスをせがんできたので、上手に避ける。
「いやですわ。殿下、婚約者のいる方とそういうことをするのは、わたくしの信条に反すると言ったでしょう。あと一日、我慢なさって」
にっこり笑ってやれば、イグナシオが焦れるような期待に満ちたような顔つきになった。
「ああ! あと一日で、君は俺のものだ。楽しみで仕方ないよ」
初めて会ってからこの日まで、今初めてお前と同じ気持ちを共有できそうだ。
私はイグナシオに初めて、嘘偽りのない表情を返してやった。
5
お気に入りに追加
408
あなたにおすすめの小説

「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」
ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」
美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。
夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。
さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。
政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。
「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」
果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

あなたが幸せになるために
月山 歩
恋愛
幼馴染の二人は、お互いに好きだが、王子と平民のため身分差により結婚できない。王子の結婚が迫ると、オーレリアは大好きな王子が、自分のために不貞を働く姿も見たくないから、最後に二人で食事を共にすると姿を消した。

好きだった人 〜二度目の恋は本物か〜
ぐう
恋愛
アンジェラ編
幼い頃から大好だった。彼も優しく会いに来てくれていたけれど…
彼が選んだのは噂の王女様だった。
初恋とさよならしたアンジェラ、失恋したはずがいつのまにか…
ミラ編
婚約者とその恋人に陥れられて婚約破棄されたミラ。冤罪で全て捨てたはずのミラ。意外なところからいつのまにか…
ミラ編の方がアンジェラ編より過去から始まります。登場人物はリンクしています。
小説家になろうに投稿していたミラ編の分岐部分を改稿したものを投稿します。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

【完結】白い結婚をした悪役令嬢は田舎暮らしと陰謀を満喫する
ツカノ
恋愛
「こんな形での君との婚姻は望んでなかった」と、私は初夜の夜に旦那様になる方に告げられた。
卒業パーティーで婚約者の最愛を虐げた悪役令嬢として予定通り断罪された挙げ句に、その罰としてなぜか元婚約者と目と髪の色以外はそっくりな男と『白い結婚』をさせられてしまった私は思う。
それにしても、旦那様。あなたはいったいどこの誰ですか?
陰謀と事件混みのご都合主義なふんわり設定です。
愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。
それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。
一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。
いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。
変わってしまったのは、いつだろう。
分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。
******************************************
こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏)
7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる