婚約者の隣にいるのは初恋の人でした

四つ葉菫

文字の大きさ
上 下
14 / 19

14

しおりを挟む
「あのクソ野郎!! ぶっ殺してやる!!」

 私は仮の邸宅で、ものに当たり散らしていた。

「で、殿下っ。だんだん言葉が汚くなってますよっ。ひとまず落ち着いてください!」

「これが落ち着いていられるか! ジャスミンがまたも公衆の面前で、侮辱されたんだぞ!」 

 イグナシオは想像を超える行動をしてきた。
 なんとジャスミンをありもしない罪で責め立てたのだ。それも何度も何度も。
 証拠も証人もいないお粗末な罪だが、なぜだかイグナシオは自信満々で。
 初めてそのことを聞かされた時は、怒りを抑え込むのに必死だった。
 やめてほしいと何度も懇願したけれど、こいつ好みの楚々とした演技では「レヒーナはなんて優しいんだ! 君の分まで俺は頑張るよ」と、逆効果になってしまった。
 意気揚々と「俺に全部任せて、君は安心して待っててくれ」と言い渡して去っていく。
 未だにキスのひとつも許さないことに、余計拍車をかけるのか、止めようがない。
 
「殿下がほしくてほしくて堪らないんでしょうね。まあ、俺だって殿下が男だとわかってなかったら、ぜひお相手を――」 

「あ”あ”?」 

「……その格好で低い声だすのやめてください……」

 汗を一筋たらりと垂らしたシーグルドが、話題を変えるためにぽんと手をうつ。

「とにかく、作戦は大成功ってことじゃないですか。状況はどうあれ、イグナシオ殿下は婚約破棄するために奔走してるわけですから」

「まあな。でも、ジャスミンに対する生徒の視線が最近変わってきてるのが気がかりだ」
 
 イグナシオの言葉を信じた生徒たちがあからさまにジャスミンに冷たい目線を送っている。
 ジャスミンから何もされていないと私が言ったところで、庇っているとしか捉えられない。
 やけに私に心酔してる者たちは、私が『悪』というものさえ、許してしまう高尚な人物に見えるようだ。

「やりすぎたかな」

 イグナシオを引っ掛けるためとはいえ、出来過ぎた人間を演出し過ぎたようだ。

「いーえ。殿下は黙って立っているだけで、ご令嬢方をぽーっとさせて引き寄せる効果がありますから、多少手加減したところで変わらないと思いますよ」

 私の考えを読んだのか、シーグルドが言ってくる。
 
「そうか? でも、もしジャスミンに手を出すような輩が現れたら、その時は――」

 私の据わった目を見て、シーグルドがぶるっと震えた。

「今の顔、殿下の顔を見ていつもキャーキャー騒いでる国の令嬢たちにお見せしたいですね」

「美しいものには棘があるのに」と嘆息して愚痴を零された。





しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」

ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」 美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。 夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。 さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。 政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。 「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」 果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

あなたが幸せになるために

月山 歩
恋愛
幼馴染の二人は、お互いに好きだが、王子と平民のため身分差により結婚できない。王子の結婚が迫ると、オーレリアは大好きな王子が、自分のために不貞を働く姿も見たくないから、最後に二人で食事を共にすると姿を消した。

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

好きだった人 〜二度目の恋は本物か〜

ぐう
恋愛
アンジェラ編 幼い頃から大好だった。彼も優しく会いに来てくれていたけれど… 彼が選んだのは噂の王女様だった。 初恋とさよならしたアンジェラ、失恋したはずがいつのまにか… ミラ編 婚約者とその恋人に陥れられて婚約破棄されたミラ。冤罪で全て捨てたはずのミラ。意外なところからいつのまにか… ミラ編の方がアンジェラ編より過去から始まります。登場人物はリンクしています。 小説家になろうに投稿していたミラ編の分岐部分を改稿したものを投稿します。

この恋を忘れたとしても

メカ喜楽直人
恋愛
卒業式の前日。寮の部屋を片付けていた私は、作り付けの机の引き出しの奥に見覚えのない小箱を見つける。 ベルベットのその小箱の中には綺麗な紅玉石のペンダントが入っていた。

処理中です...