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85、残された手紙
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『アレクへ
突然、王宮を去ることをお許しください。
家の事情で、帰らなくてはならなくなりました。
申し訳ありません。
今までお仕えすることができて、光栄でした。
従者としてずっとそばにいられてから、幸せでなかったことはありません。
たくさんの思い出をありがとう。
決して忘れません。
アレクはこれからもずっと、わたしの親友であり続けます。
お元気で。
あなたの親友、クリス・エメット』
何度も読んだ内容。
アレクシスは手紙をじっと見つめる。
朝、着替えの手伝いに来なかったから、珍しく寝坊かと思った。
しかし、そのあとメイドから届けられた手紙を開けば、こんな内容が書かれている。
「なぜだ?」
既に着替え終えた状態だったが、再び寝台の上に腰をおろし、頭をかかえる。
目を皿のようにして、何度も見返すが、現実だとは受け入れたくない。
まだ自分の気持ちも伝えていないのに、何故去ってしまったのだろう。
(家の事情とはなんだ? 男の格好してたことと関係あるのか? それとも全然違うことか?)
詳しいことが何ひとつ書かれていないことに疑問に思う。
アレクシスとクリスティーナの仲である。人には言えないことも、お互いならもう少し具体的に書かれていてもいいのではないのだろうか。でなければ、従者を辞めるなど簡単に納得できない。
(家の事情っていうのが、ただの建前かもしれないな)
そこではたと思いつく。
(もしかして、俺と離れたかったとか――?)
それなら、言葉を濁す必要がある。
それに直接伝えに来なかった理由にもなる。
(やはり、昨日のあれはやり過ぎだったか!?)
クリスティーナが色事に対して無知なことを利用して、不埒なことをしてしまった。
思い返せば、さすがにやり過ぎだったのではないかと、思えてくる。
(それで、俺のことが嫌いになったのか!?)
親友だと思っていた者にあんなことをされてしまったのだ。普通に考えたら、おかしいと思って当たり前。
(それに、昨日はあのあと怒ってたしな……。クリスがあんなに怒るなんて、今まで見たことがない……)
どんどん思考が暗くなる。
愛想を尽かされてしまったのだろうか。
もう一度、手紙を読み返す。
(俺は好きだから、あんなことしてしまったが、クリスはそうじゃなかったのかもしれないな……)
クリスティーナは女性だ。好きでもない男性から、口付けまがい――本当はまがいでも何でもないのだが、クリスティーナはただの口移しだと勘違いしているためそう云うほかない――のことをされたら、さすがに鈍感なクリスティーナでも嫌なはずだ。
(そう、好きでもない男性――)
何度も読み返すうちに気付いてしまった。
(手紙に、『親友』って文字が二回も使われている……)
これは自分を男としては見れないという牽制なのではないのだろうかと思えてくる。
それ以外の言葉は思いやりに溢れているが――
(クリスは優しいからな――)
嫌だと言えず、自分のもとから逃げ出してしまったのかもしれない。
「はあ」
重い溜め息を吐いたところで、扉がノックされる。
「入れ」
「殿下、御朝食の用意が整っております」
「わかった」
いつまでもこうして思い悩んでいるわけにはいかない。
王太子として日々の仕事が待っている。
アレクシスは手紙を懐にしまった。
途端に、ずんと重たくなった気がしたのは気の所為ではないだろう。
アレクシスは足取り重く、自分の部屋を出たのだった。
突然、王宮を去ることをお許しください。
家の事情で、帰らなくてはならなくなりました。
申し訳ありません。
今までお仕えすることができて、光栄でした。
従者としてずっとそばにいられてから、幸せでなかったことはありません。
たくさんの思い出をありがとう。
決して忘れません。
アレクはこれからもずっと、わたしの親友であり続けます。
お元気で。
あなたの親友、クリス・エメット』
何度も読んだ内容。
アレクシスは手紙をじっと見つめる。
朝、着替えの手伝いに来なかったから、珍しく寝坊かと思った。
しかし、そのあとメイドから届けられた手紙を開けば、こんな内容が書かれている。
「なぜだ?」
既に着替え終えた状態だったが、再び寝台の上に腰をおろし、頭をかかえる。
目を皿のようにして、何度も見返すが、現実だとは受け入れたくない。
まだ自分の気持ちも伝えていないのに、何故去ってしまったのだろう。
(家の事情とはなんだ? 男の格好してたことと関係あるのか? それとも全然違うことか?)
詳しいことが何ひとつ書かれていないことに疑問に思う。
アレクシスとクリスティーナの仲である。人には言えないことも、お互いならもう少し具体的に書かれていてもいいのではないのだろうか。でなければ、従者を辞めるなど簡単に納得できない。
(家の事情っていうのが、ただの建前かもしれないな)
そこではたと思いつく。
(もしかして、俺と離れたかったとか――?)
それなら、言葉を濁す必要がある。
それに直接伝えに来なかった理由にもなる。
(やはり、昨日のあれはやり過ぎだったか!?)
クリスティーナが色事に対して無知なことを利用して、不埒なことをしてしまった。
思い返せば、さすがにやり過ぎだったのではないかと、思えてくる。
(それで、俺のことが嫌いになったのか!?)
親友だと思っていた者にあんなことをされてしまったのだ。普通に考えたら、おかしいと思って当たり前。
(それに、昨日はあのあと怒ってたしな……。クリスがあんなに怒るなんて、今まで見たことがない……)
どんどん思考が暗くなる。
愛想を尽かされてしまったのだろうか。
もう一度、手紙を読み返す。
(俺は好きだから、あんなことしてしまったが、クリスはそうじゃなかったのかもしれないな……)
クリスティーナは女性だ。好きでもない男性から、口付けまがい――本当はまがいでも何でもないのだが、クリスティーナはただの口移しだと勘違いしているためそう云うほかない――のことをされたら、さすがに鈍感なクリスティーナでも嫌なはずだ。
(そう、好きでもない男性――)
何度も読み返すうちに気付いてしまった。
(手紙に、『親友』って文字が二回も使われている……)
これは自分を男としては見れないという牽制なのではないのだろうかと思えてくる。
それ以外の言葉は思いやりに溢れているが――
(クリスは優しいからな――)
嫌だと言えず、自分のもとから逃げ出してしまったのかもしれない。
「はあ」
重い溜め息を吐いたところで、扉がノックされる。
「入れ」
「殿下、御朝食の用意が整っております」
「わかった」
いつまでもこうして思い悩んでいるわけにはいかない。
王太子として日々の仕事が待っている。
アレクシスは手紙を懐にしまった。
途端に、ずんと重たくなった気がしたのは気の所為ではないだろう。
アレクシスは足取り重く、自分の部屋を出たのだった。
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