王太子は幼馴染み従者に恋をする∼薄幸男装少女は一途に溺愛される∼

四つ葉菫

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73、平穏な日常(2)

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 クリスティーナはどぎまぎしながら、アレクシスの上着の釦をはずしていった。

 場所はアレクシスの寝室――。

 隣には浴室がある。

 今からお風呂にはいるところである。

 見下ろすアレクシスの視線が痛いほど降り注ぎ、クリスティーナは緊張した。

 場所が場所だけに、この行為が何だか背徳的に思えて、赤面するのをとめられない。

 眼の前にいるから、見つめられるのはわかるが、その視線にいつもと違う光が込められ、怪しい気配がしている。

 脱がしているのはこちらなのに、クリスティーナのほうが脱がされていく感覚がするのは、アレクシスの視線のせいだ。すぐ目の前で見つめてくる瞳が、クリスティーナの全身を眺め回し、くまなく透かし見られている気がする。

 無意識に、ぞくりと肌が粟だった。

 か弱い小動物が抵抗する術も何も持たず、獲物として狙われたらこんな感じだろうか。

 何故身の危険を感じるのか、クリスティーナは自身の内心に戸惑いながらも、アレクシスの服に手をかけていった。

 一方、アレクシスはというと――。



(押し倒したい!)



 隣にある寝台に今すぐ引きずり込んで、つなぎとめ、剥ぎ取って、思う様貪りたい。

 クリスティーナはどんなふうに可愛く鳴くだろう。

 透き通った白い肌はどれほど柔らかいだろう。

 さっきから凶暴な思いを抑えるのに必死である。



(耐えろ、アレクシス!! そんなことしたら、嫌われる!)



 それだけは絶対避けたい。

 ひとり身のうちで、悶々としていれば、クリスティーナが頬を赤く染めて見つめてくる。



(だめだ! 耐えられない! 理性が決壊する!!)



 手を伸ばそうとした寸前で、クリスティーナがおずおずと口を開いた。



「あ、あの、下も?」



 ズボンのことである。アレクシスははっとして、欲望を押し止める。



「い、いや、下はいい。自分で脱ぐ――」



 そこまで脱がしてもらったら、もう完全に後戻りできない。

 クリスティーナがほっとしたような顔つきになる。



「じゃあ、あとは大丈夫だね」



「ああ、ありがとう、助かった」



「ううん――」



「……」



「……」



 奇妙な沈黙が流れた。

 クリスティーナはもうこれ以上手伝えないし、アレクシスも目の前で、スボンを脱げない。



「あ、じゃ、じゃあ、わたし、行くね」



「あ、ああ――」



 クリスティーナがしどろもどろになりながら、頬を赤くして、部屋を出ていくのを、アレクシスも顔を赤くして見送った。

 ひとり部屋に残されたアレクシスは、盛大にため息を吐く。



「危なかった。これを毎回、俺は耐えるのか。何かの修行か?」



 しかし、今更撤回はできない。

 この話がなしになれば、クリスティーナがまた宿舎に戻るとも言いかねない。



(そんなの駄目だ! 狼の巣窟じゃないか)



 自分がその親玉であることを棚にあげ、この日よりしばらく苦悩するアレクシスの日々が始まったのだった。






 
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