73 / 93
73、平穏な日常(2)
しおりを挟む
クリスティーナはどぎまぎしながら、アレクシスの上着の釦をはずしていった。
場所はアレクシスの寝室――。
隣には浴室がある。
今からお風呂にはいるところである。
見下ろすアレクシスの視線が痛いほど降り注ぎ、クリスティーナは緊張した。
場所が場所だけに、この行為が何だか背徳的に思えて、赤面するのをとめられない。
眼の前にいるから、見つめられるのはわかるが、その視線にいつもと違う光が込められ、怪しい気配がしている。
脱がしているのはこちらなのに、クリスティーナのほうが脱がされていく感覚がするのは、アレクシスの視線のせいだ。すぐ目の前で見つめてくる瞳が、クリスティーナの全身を眺め回し、くまなく透かし見られている気がする。
無意識に、ぞくりと肌が粟だった。
か弱い小動物が抵抗する術も何も持たず、獲物として狙われたらこんな感じだろうか。
何故身の危険を感じるのか、クリスティーナは自身の内心に戸惑いながらも、アレクシスの服に手をかけていった。
一方、アレクシスはというと――。
(押し倒したい!)
隣にある寝台に今すぐ引きずり込んで、つなぎとめ、剥ぎ取って、思う様貪りたい。
クリスティーナはどんなふうに可愛く鳴くだろう。
透き通った白い肌はどれほど柔らかいだろう。
さっきから凶暴な思いを抑えるのに必死である。
(耐えろ、アレクシス!! そんなことしたら、嫌われる!)
それだけは絶対避けたい。
ひとり身のうちで、悶々としていれば、クリスティーナが頬を赤く染めて見つめてくる。
(だめだ! 耐えられない! 理性が決壊する!!)
手を伸ばそうとした寸前で、クリスティーナがおずおずと口を開いた。
「あ、あの、下も?」
ズボンのことである。アレクシスははっとして、欲望を押し止める。
「い、いや、下はいい。自分で脱ぐ――」
そこまで脱がしてもらったら、もう完全に後戻りできない。
クリスティーナがほっとしたような顔つきになる。
「じゃあ、あとは大丈夫だね」
「ああ、ありがとう、助かった」
「ううん――」
「……」
「……」
奇妙な沈黙が流れた。
クリスティーナはもうこれ以上手伝えないし、アレクシスも目の前で、スボンを脱げない。
「あ、じゃ、じゃあ、わたし、行くね」
「あ、ああ――」
クリスティーナがしどろもどろになりながら、頬を赤くして、部屋を出ていくのを、アレクシスも顔を赤くして見送った。
ひとり部屋に残されたアレクシスは、盛大にため息を吐く。
「危なかった。これを毎回、俺は耐えるのか。何かの修行か?」
しかし、今更撤回はできない。
この話がなしになれば、クリスティーナがまた宿舎に戻るとも言いかねない。
(そんなの駄目だ! 狼の巣窟じゃないか)
自分がその親玉であることを棚にあげ、この日よりしばらく苦悩するアレクシスの日々が始まったのだった。
場所はアレクシスの寝室――。
隣には浴室がある。
今からお風呂にはいるところである。
見下ろすアレクシスの視線が痛いほど降り注ぎ、クリスティーナは緊張した。
場所が場所だけに、この行為が何だか背徳的に思えて、赤面するのをとめられない。
眼の前にいるから、見つめられるのはわかるが、その視線にいつもと違う光が込められ、怪しい気配がしている。
脱がしているのはこちらなのに、クリスティーナのほうが脱がされていく感覚がするのは、アレクシスの視線のせいだ。すぐ目の前で見つめてくる瞳が、クリスティーナの全身を眺め回し、くまなく透かし見られている気がする。
無意識に、ぞくりと肌が粟だった。
か弱い小動物が抵抗する術も何も持たず、獲物として狙われたらこんな感じだろうか。
何故身の危険を感じるのか、クリスティーナは自身の内心に戸惑いながらも、アレクシスの服に手をかけていった。
一方、アレクシスはというと――。
(押し倒したい!)
隣にある寝台に今すぐ引きずり込んで、つなぎとめ、剥ぎ取って、思う様貪りたい。
クリスティーナはどんなふうに可愛く鳴くだろう。
透き通った白い肌はどれほど柔らかいだろう。
さっきから凶暴な思いを抑えるのに必死である。
(耐えろ、アレクシス!! そんなことしたら、嫌われる!)
それだけは絶対避けたい。
ひとり身のうちで、悶々としていれば、クリスティーナが頬を赤く染めて見つめてくる。
(だめだ! 耐えられない! 理性が決壊する!!)
手を伸ばそうとした寸前で、クリスティーナがおずおずと口を開いた。
「あ、あの、下も?」
ズボンのことである。アレクシスははっとして、欲望を押し止める。
「い、いや、下はいい。自分で脱ぐ――」
そこまで脱がしてもらったら、もう完全に後戻りできない。
クリスティーナがほっとしたような顔つきになる。
「じゃあ、あとは大丈夫だね」
「ああ、ありがとう、助かった」
「ううん――」
「……」
「……」
奇妙な沈黙が流れた。
クリスティーナはもうこれ以上手伝えないし、アレクシスも目の前で、スボンを脱げない。
「あ、じゃ、じゃあ、わたし、行くね」
「あ、ああ――」
クリスティーナがしどろもどろになりながら、頬を赤くして、部屋を出ていくのを、アレクシスも顔を赤くして見送った。
ひとり部屋に残されたアレクシスは、盛大にため息を吐く。
「危なかった。これを毎回、俺は耐えるのか。何かの修行か?」
しかし、今更撤回はできない。
この話がなしになれば、クリスティーナがまた宿舎に戻るとも言いかねない。
(そんなの駄目だ! 狼の巣窟じゃないか)
自分がその親玉であることを棚にあげ、この日よりしばらく苦悩するアレクシスの日々が始まったのだった。
0
お気に入りに追加
227
あなたにおすすめの小説
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください
楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。
ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。
ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……!
「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」
「エリサ、愛してる!」
ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる