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 それ以降リリアナさんは何故か私とすれ違うと、度々転ぶようになった。決まって「私に突き飛ばされた」と言う。
 いくら違うと言っても、彼女の中では確定してしまっているのだろう。聞き耳を持ってくれない。
 そんな日々に疲れていたある日、ひとりになりたくて、人気のない校舎裏に足を向ければ――

「お前、平民のくせに生意気なんだよ」 

「少し顔がいいからって、いい気になるなよ」

 どうやら苛めの現場に出くわしてしまったらしい。
 今は気力を振り絞るのがきついのにと、とりあえずそっと伺うつもりで見てみれば、そこにオレンジ色の髪を見つけた途端、体が勝手に飛び出していた。

「そこで何をしているの」  
 
 人がいるとは思わなかったのか、カイルを取り囲んでいた生徒のふたりがびくりと肩を震わせた。

「やばっ」

「あなた達、こんなことをして――」

「逃げろっ」

「あ、ちょっと待ちなさい!」

 呼び止めるも、ふたりはあっという間に去っていってしまった。

「まったく――。――大丈夫?」

「はい。助かりました。ありがとうございます」 

 振り返れば、カイルが頭を下げた。
 話すのは入学式以来ね。
 学園では思いの外、カイルの姿を見ることが少なかった。
 クラスが違うから当たり前なのだが、でも、同じ教室にいるヒロインに会いにくると思っていたのに。
 ゲームではとても仲が良かったふたりが、一緒にいるところを一度も見かけないのは不思議だった。
 今のリリアナさんは殿下といることが多いから、遠慮してるのかしら。
 
「こういうこと良くあるの?」

「たまにですけど。俺、孤児院出身なんで――。それで、余計目をつけられるのかも」

「そう……」
 
『学問の前では、皆等しく平等なり』と言っても、誰もがみんな殿下のように高尚になれるわけではない。
 ゲームでも苛められていたりしたのかしら。
 だとしたら、ヒロインの前では明るく振る舞っていたのね……。

「あの、すみません」

 物思いに沈んでいたら、何故かカイルが謝ってきた。

「どうして、謝るの?」

「リリアナのやつが迷惑かけてますよね」

「それは……」

 なんと答えてよいかわからない。
 正直、困っているのは本当だけれど。

「あいつ、昔からそうなんです。気に入らない相手には容赦なくって……」

 どういう意味だろう。
 ヒロインは天真爛漫で、優しい性格のはず。
 でも、ここ最近、正直それだけじゃないような気はしているけど――。

「とにかく、すみません」

 頭を下げるカイルに、私は慌てた。

「ううん。あなたが悪いわけじゃないわ、気にしないで」

 申し訳なさそうなカイルに元気になってほしくて、私は笑ってみせた。

「私なら大丈夫よ。それより、また苛められたら言って。力になるから」

「……シャルロッテ様は優しいですね」
 
 カイルがふっと笑った。その笑顔が私の心の奥深くを揺さぶった。
 ああ、今まで認められたくて頑張ってきたわけではないけれど、肯定してくれるそのカイルの言葉で、これまでの自分が報われた気がした。

「ありがとう……」

 嬉しくて、胸がじんわりと温かくなるのを感じる。
 少しだけ弱っていた心が私の涙腺を緩ませたので、慌てて瞼を伏せるとそっと微笑んだのだった。



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