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アマリア・アルバートン/フローラ・エインズワース
私が選んだ道
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リアーナの体調は彼女が言っていた通り、何の不安要素もなく、母体も健康そのもので、つわりや体調不良もほとんどなく、むしろ食べ過ぎによる体重増加を指摘されるほどだった。
羨ましいと思う反面、とても元気で幸せな妊娠生活を送れるだろうと心から安心することができた。
自分の妊娠を思い返しても、お腹をさすりながらショーンの誕生を心待ちにできたのはほんのわずかな間で、その大部分をベッドで寝たきりで過ごした日々だった。
「そろそろ、私もここを離れても大丈夫のようね」
ふと言葉に漏れ出たけれど、一言口にしてしまった途端、エインズワースで待つラウルに会いたくなってしまった。
執務のために王都から戻り、以前と同じように辺境領の侵略に備え、領民を支えている彼を思うと、何の約束もしないままなのに公爵領で過ごす私をどんな思いで待っているのかと胸が締め付けられた。
最後の仕事もここで区切りがつけられそうだと胸にすとんと落ちた気がして、鈴を鳴らしてハンナを呼んだ。
「奥様、お呼びでしょうか」
すぐに部屋にやってきたハンナは数日前にセザールがエインズワースに帰ってからはとてもはつらつとして見えた。くすっと笑ってしまった後に、ハンナに告げた。
「ええ、私、準備を整え次第、ここを発つわ。ほとんどのものは置いていくつもりだけれど、道中に必要な物だけまとめてもらえる?置いていくものは売れるものは売ってほしいし、必要な者達があれば好きに持って行ってほしいとレイモンドに伝えてくれる?形見分けみたいなものだから」
「奥様…そんな…」
不安そうな顔をするハンナを手招きして、ソファの隣に腰掛けさせた。小さいのにしっかりと筋肉のついた肩を抱き寄せ、その手を取った。
「ハンナはどうするか決めた?」
「奥様…私は…許されるなら、奥様についていきたいです…」
「許すなんて、そんなこと言わないで。あなたには王都で暮らすことも、この豊かな公爵領で暮らすことも、仕事に生きてもいいし、家庭を持ってもいいし、たくさんの選択肢があるの。その中で私は何も無理強いしたくないわ。あなたの未来だから。わかっていると思うけれど、エインズワースは厳しい土地で、なかなか出ることもままならないの。ご家族とも手紙のやり取りはできても、何年も会えなくなると思う」
「はい、わかっています。それでも、私は奥様のおそばにいたいです」
「ありがとう、ハンナ。もう少しだけ時間はあるから、やり残すことがないようにね」
ハンナの頭をぽんぽんと撫でるとハンナが膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめた。
「セザール様が…」
「えっ?」
「私のことをあれほど素直に好きだと言ってくださる方は初めてで。私、全然女らしくないじゃないですか。同じ護衛の訓練を受けてきましたけれど、エルザさんはとてもお綺麗だし、社交界のことも元々多くのことをご存知でしたし…」
「ええ、ロビンが早々にエルザと結婚する意志を固めてしまったから、エルザはそういう教育をしっかり受けて育ったようだから…それが心配なの?」
「それもありますけど…セザール様…好きだとか好きになってほしいとはおっしゃっても、決して無理に結婚したいとかエインズワースに来ると約束してほしいとおっしゃらないんです。きっと…私の心が決まるのを待っていらっしゃるのかなと思って…」
ハンナの素直な言葉が私の胸にちくりと刺さった。
「私の周りには多くの騎士がいました。男性騎士も女性騎士も。戦場に行く前に『必ず帰ってくる。待っていてほしい』と言う者もいれば、『死んだら自分を忘れて幸せになってほしい』と言う者もいました。どちらも本心なんだと思います。でも、私…セザール様が戦場で倒れられることを想像すると苦しくて苦しくてたまらないんです…もう考えないようにしようと必死に動き回ってみたんですけど、できなくて…」
「ああ、ハンナ…」
ぽろぽろと涙をこぼし始めたハンナを抱き寄せ、彼女の髪に頬を寄せた。
「ありがとう。セザールのために泣いてくれて。そんな風に想ってもらえているとわかったら、きっとあの子は感動するわ。嬉しくて嬉しくてハンナを離さずにどこへでも連れていくでしょうね」
冗談交じりの言葉にハンナはくすっと笑った。
「それでいいのよ、ハンナ。あなたは私達の誰もなしえないような伴侶になって。私は城で待つばかりの女主人だったけれど、あなたは別の道を進めばいいの。追いかけたいと思えばそれができる。それはあなただけの強みよ」
「私なんかが…そんな立場になっていいのでしょうか…」
「そんなに卑屈に考えないで。エインズワースはね、とても強いのよ。絆以上に大切なものはないと教えてくれたの。それに、身分どころか素性も知れない私を女主人に迎え入れてくれるようなところよ?あなたが歓迎されないわけがないわ。そして何より、セザールが選んだ人を否定するような人はいない。もしそんな人がいたら、私達がエインズワースから追い出してあげる」
「いつからそんなにお強く…」
ぽかんと開いた口から漏れ出た本音に今度は私が噴き出してしまった。
「ふふふっ。でも私達って、とても勇敢なのに、肝心なところで臆病になる人を好きになってしまったようね」
「臆病…なんですか…?セザール様と辺境伯様が…?」
「いくら好きだ、愛してると言っていても、それは自己満足でもあるでしょう?一言、いいえ私はあなたを受け入れられません、と返してしまえば、そこで終わってしまうもの。その言葉を言われてしまうかもしれないという恐怖は誰しもが持っているものよ」
「そうなのですか…」
「ええ、だから、私達もしっかり返してあげましょう。あの時告げておけばよかったと後悔する前に」
「…はい…」
「あ、でも、セザールに言うときは、身の安全を確保できるような場所でね。嬉しくて馬に乗せられて結婚するぞーって高らかに言いながらエインズワース一周走り回らされたり、三日三晩くらい寝室から出てこられなくなりそうだし…ハンナはそれに付き合いきれるほどの体力も素質もあるから…」
「え?」
「ええ、きっとそうね。これから出発するまでできるだけ体力のつくものを食べてね。道中でも栄養価の高いものを携帯できるように料理長に伝えましょう」
「いえ…奥様…?御冗談ですよね…?」
「ハンナ、エインズワースの騎士の体力を甘くみてはいけないわ。私はその…手加減してもらえたけれど、多分、セザールは年齢的にも体力的にも加減はしないと思うの」
ハンナの顔色が青白くなったとき、ドアがノックされ、返事をすると侍女が晩餐の支度が整ったと教えてくれた。
「ありがとう、すぐに行くわ。コンラッド達にも話をしないと。あ、それとレイモンドと料理長に会いたいと伝えてくれる?」
「かしこまりました」
侍女が下がり、私も立ち上がろうとしたけれど、放心状態のハンナが心配でもう一度顔を覗き込んだ。手をひらひらとさせても、宙を見つめるばかりで反応が返ってこない。
「あらあら、どうしましょう。怖がらせ過ぎてしまったわ…。でも私も閨の教育は実家でも受けてこなかったから正しいと言える方法をよくわかっていないし、実践あるだけと言うなんて無責任よね…。クリスティ様のように下着をたくさん準備してあげてもいいのだけれど、それはきっとセザールを助長させてハンナが倒れることになりかねないし…どうしたものかしら…」
悩み続けていると再び侍女がやってきて、私達の様子を見て何かを察したのか、「ハンナのことはお任せください!」と言ってさっと連れて行ってしまった。
その夜の晩餐で、コンラッドとリアーナには準備が整い次第公爵領を発つことを伝えた。
「お母様…本当に何から何までありがとうございました。こんなに長い間私達のために滞在してくださるなんて…感謝の気持ちでいっぱいです」
「いいえ、いいのよ。私もしてあげられることは今のうちに何でもしてあげたいもの。これから先、ここへはお忍びでしか来られないでしょうから。でも、エインズワースにはいつても来てね」
「はい、ありがとうございます。赤ちゃんが生まれて落ち着いたら必ず伺います」
「ええ、とても楽しみにしているわ。生まれたらすぐにでも駆け付けたいけれど、その役回りはヘンドリックに譲るわ。きっととても可愛がってくれると思うの」
「母上には本当に感謝しています。ご自分のことより、俺達のことを優先してくださってありがとうございました」
「どういたしまして。立派な父親になれなんて私達ができなかったことは言わないわ。でも、寄り添ってあげてね。辛いときも、苦しいときも」
「はい、母上」
「ハンナは一緒に来ると言うから、彼女も準備をさせて連れていくけれどよかったかしら?」
「はい。元々彼女は母上専属侍女ですから。それに、母上がここを去るのと一緒にエインズワースに移る希望を出している騎士達もいますから、道中は心配いらないと思います」
「あら、そうなの?エインズワースに行きたいと言ってくれているの?」
「血気盛んな奴もいますが、ほとんどが母上を慕ってついていきたいんだと思います。叶えてやってください」
「まぁ、なんてありがたいのかしら。エインズワースは人手不足だから助かるわ」
ありがたい申し出に微笑んでいると、リアーナもにこにこと嬉しそうにしていた。
「ハンナもいよいよセザール様と結ばれるのですね。結婚祝いは何がいいのでしょうか」
「あ、それはまだ控えめにお願いね。セザールに知られると先走って大変なことになりかねないから」
「え?そうなのですか?」
「あれだけ好意を爆発させてたくせに何の手も出してなかったあいつが、やっとそれが許されるとわかれば一週間は部屋から出てこないでしょうからね」
「一週間…?」
信じられないといった表情で固まったリアーナが、古くなった人形のようにぎぎぎと顔を私に向けてコンラッドの言葉が本心か冗談かをはかろうとしていた。
そして、私も私で、自分の試算は甘かったかもしれないと考えを改めさせられた。
それでも話はとんとん拍子に進み、エインズワースに帰る日取りが決まり、私達が公爵領を去る時がやってきた。
羨ましいと思う反面、とても元気で幸せな妊娠生活を送れるだろうと心から安心することができた。
自分の妊娠を思い返しても、お腹をさすりながらショーンの誕生を心待ちにできたのはほんのわずかな間で、その大部分をベッドで寝たきりで過ごした日々だった。
「そろそろ、私もここを離れても大丈夫のようね」
ふと言葉に漏れ出たけれど、一言口にしてしまった途端、エインズワースで待つラウルに会いたくなってしまった。
執務のために王都から戻り、以前と同じように辺境領の侵略に備え、領民を支えている彼を思うと、何の約束もしないままなのに公爵領で過ごす私をどんな思いで待っているのかと胸が締め付けられた。
最後の仕事もここで区切りがつけられそうだと胸にすとんと落ちた気がして、鈴を鳴らしてハンナを呼んだ。
「奥様、お呼びでしょうか」
すぐに部屋にやってきたハンナは数日前にセザールがエインズワースに帰ってからはとてもはつらつとして見えた。くすっと笑ってしまった後に、ハンナに告げた。
「ええ、私、準備を整え次第、ここを発つわ。ほとんどのものは置いていくつもりだけれど、道中に必要な物だけまとめてもらえる?置いていくものは売れるものは売ってほしいし、必要な者達があれば好きに持って行ってほしいとレイモンドに伝えてくれる?形見分けみたいなものだから」
「奥様…そんな…」
不安そうな顔をするハンナを手招きして、ソファの隣に腰掛けさせた。小さいのにしっかりと筋肉のついた肩を抱き寄せ、その手を取った。
「ハンナはどうするか決めた?」
「奥様…私は…許されるなら、奥様についていきたいです…」
「許すなんて、そんなこと言わないで。あなたには王都で暮らすことも、この豊かな公爵領で暮らすことも、仕事に生きてもいいし、家庭を持ってもいいし、たくさんの選択肢があるの。その中で私は何も無理強いしたくないわ。あなたの未来だから。わかっていると思うけれど、エインズワースは厳しい土地で、なかなか出ることもままならないの。ご家族とも手紙のやり取りはできても、何年も会えなくなると思う」
「はい、わかっています。それでも、私は奥様のおそばにいたいです」
「ありがとう、ハンナ。もう少しだけ時間はあるから、やり残すことがないようにね」
ハンナの頭をぽんぽんと撫でるとハンナが膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめた。
「セザール様が…」
「えっ?」
「私のことをあれほど素直に好きだと言ってくださる方は初めてで。私、全然女らしくないじゃないですか。同じ護衛の訓練を受けてきましたけれど、エルザさんはとてもお綺麗だし、社交界のことも元々多くのことをご存知でしたし…」
「ええ、ロビンが早々にエルザと結婚する意志を固めてしまったから、エルザはそういう教育をしっかり受けて育ったようだから…それが心配なの?」
「それもありますけど…セザール様…好きだとか好きになってほしいとはおっしゃっても、決して無理に結婚したいとかエインズワースに来ると約束してほしいとおっしゃらないんです。きっと…私の心が決まるのを待っていらっしゃるのかなと思って…」
ハンナの素直な言葉が私の胸にちくりと刺さった。
「私の周りには多くの騎士がいました。男性騎士も女性騎士も。戦場に行く前に『必ず帰ってくる。待っていてほしい』と言う者もいれば、『死んだら自分を忘れて幸せになってほしい』と言う者もいました。どちらも本心なんだと思います。でも、私…セザール様が戦場で倒れられることを想像すると苦しくて苦しくてたまらないんです…もう考えないようにしようと必死に動き回ってみたんですけど、できなくて…」
「ああ、ハンナ…」
ぽろぽろと涙をこぼし始めたハンナを抱き寄せ、彼女の髪に頬を寄せた。
「ありがとう。セザールのために泣いてくれて。そんな風に想ってもらえているとわかったら、きっとあの子は感動するわ。嬉しくて嬉しくてハンナを離さずにどこへでも連れていくでしょうね」
冗談交じりの言葉にハンナはくすっと笑った。
「それでいいのよ、ハンナ。あなたは私達の誰もなしえないような伴侶になって。私は城で待つばかりの女主人だったけれど、あなたは別の道を進めばいいの。追いかけたいと思えばそれができる。それはあなただけの強みよ」
「私なんかが…そんな立場になっていいのでしょうか…」
「そんなに卑屈に考えないで。エインズワースはね、とても強いのよ。絆以上に大切なものはないと教えてくれたの。それに、身分どころか素性も知れない私を女主人に迎え入れてくれるようなところよ?あなたが歓迎されないわけがないわ。そして何より、セザールが選んだ人を否定するような人はいない。もしそんな人がいたら、私達がエインズワースから追い出してあげる」
「いつからそんなにお強く…」
ぽかんと開いた口から漏れ出た本音に今度は私が噴き出してしまった。
「ふふふっ。でも私達って、とても勇敢なのに、肝心なところで臆病になる人を好きになってしまったようね」
「臆病…なんですか…?セザール様と辺境伯様が…?」
「いくら好きだ、愛してると言っていても、それは自己満足でもあるでしょう?一言、いいえ私はあなたを受け入れられません、と返してしまえば、そこで終わってしまうもの。その言葉を言われてしまうかもしれないという恐怖は誰しもが持っているものよ」
「そうなのですか…」
「ええ、だから、私達もしっかり返してあげましょう。あの時告げておけばよかったと後悔する前に」
「…はい…」
「あ、でも、セザールに言うときは、身の安全を確保できるような場所でね。嬉しくて馬に乗せられて結婚するぞーって高らかに言いながらエインズワース一周走り回らされたり、三日三晩くらい寝室から出てこられなくなりそうだし…ハンナはそれに付き合いきれるほどの体力も素質もあるから…」
「え?」
「ええ、きっとそうね。これから出発するまでできるだけ体力のつくものを食べてね。道中でも栄養価の高いものを携帯できるように料理長に伝えましょう」
「いえ…奥様…?御冗談ですよね…?」
「ハンナ、エインズワースの騎士の体力を甘くみてはいけないわ。私はその…手加減してもらえたけれど、多分、セザールは年齢的にも体力的にも加減はしないと思うの」
ハンナの顔色が青白くなったとき、ドアがノックされ、返事をすると侍女が晩餐の支度が整ったと教えてくれた。
「ありがとう、すぐに行くわ。コンラッド達にも話をしないと。あ、それとレイモンドと料理長に会いたいと伝えてくれる?」
「かしこまりました」
侍女が下がり、私も立ち上がろうとしたけれど、放心状態のハンナが心配でもう一度顔を覗き込んだ。手をひらひらとさせても、宙を見つめるばかりで反応が返ってこない。
「あらあら、どうしましょう。怖がらせ過ぎてしまったわ…。でも私も閨の教育は実家でも受けてこなかったから正しいと言える方法をよくわかっていないし、実践あるだけと言うなんて無責任よね…。クリスティ様のように下着をたくさん準備してあげてもいいのだけれど、それはきっとセザールを助長させてハンナが倒れることになりかねないし…どうしたものかしら…」
悩み続けていると再び侍女がやってきて、私達の様子を見て何かを察したのか、「ハンナのことはお任せください!」と言ってさっと連れて行ってしまった。
その夜の晩餐で、コンラッドとリアーナには準備が整い次第公爵領を発つことを伝えた。
「お母様…本当に何から何までありがとうございました。こんなに長い間私達のために滞在してくださるなんて…感謝の気持ちでいっぱいです」
「いいえ、いいのよ。私もしてあげられることは今のうちに何でもしてあげたいもの。これから先、ここへはお忍びでしか来られないでしょうから。でも、エインズワースにはいつても来てね」
「はい、ありがとうございます。赤ちゃんが生まれて落ち着いたら必ず伺います」
「ええ、とても楽しみにしているわ。生まれたらすぐにでも駆け付けたいけれど、その役回りはヘンドリックに譲るわ。きっととても可愛がってくれると思うの」
「母上には本当に感謝しています。ご自分のことより、俺達のことを優先してくださってありがとうございました」
「どういたしまして。立派な父親になれなんて私達ができなかったことは言わないわ。でも、寄り添ってあげてね。辛いときも、苦しいときも」
「はい、母上」
「ハンナは一緒に来ると言うから、彼女も準備をさせて連れていくけれどよかったかしら?」
「はい。元々彼女は母上専属侍女ですから。それに、母上がここを去るのと一緒にエインズワースに移る希望を出している騎士達もいますから、道中は心配いらないと思います」
「あら、そうなの?エインズワースに行きたいと言ってくれているの?」
「血気盛んな奴もいますが、ほとんどが母上を慕ってついていきたいんだと思います。叶えてやってください」
「まぁ、なんてありがたいのかしら。エインズワースは人手不足だから助かるわ」
ありがたい申し出に微笑んでいると、リアーナもにこにこと嬉しそうにしていた。
「ハンナもいよいよセザール様と結ばれるのですね。結婚祝いは何がいいのでしょうか」
「あ、それはまだ控えめにお願いね。セザールに知られると先走って大変なことになりかねないから」
「え?そうなのですか?」
「あれだけ好意を爆発させてたくせに何の手も出してなかったあいつが、やっとそれが許されるとわかれば一週間は部屋から出てこないでしょうからね」
「一週間…?」
信じられないといった表情で固まったリアーナが、古くなった人形のようにぎぎぎと顔を私に向けてコンラッドの言葉が本心か冗談かをはかろうとしていた。
そして、私も私で、自分の試算は甘かったかもしれないと考えを改めさせられた。
それでも話はとんとん拍子に進み、エインズワースに帰る日取りが決まり、私達が公爵領を去る時がやってきた。
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