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アマリア・アルバートン/フローラ・エインズワース

思慕

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その人は、ガラス張りの檻に閉じ込められた妖精のようにここにいるのが嘘のような、儚く消えてしまいそうな存在だった。意識もなく、ベッドにしなだれた体は白く、手足は細く、扇子を広げたように広がる金髪は光をまばゆいばかりに反射させていた。

痛みに顔を歪めるその人をコンラッドは愛おしそうに撫でていた。

まるで自分が病のときにはそうして欲しかったように。



その人がこの部屋に来てから、コンラッドは私を抱くことをやめた。私の部屋に留まることさえなくなった。

その人は最初の日、高熱を出して意識も朦朧としていた。ほとんど一日中、コンラッドはつきっきりでその汗を拭っていた。なんとか熱が下がるとシーツを替え、着替えさせて容態が安定するのを待った。

座れるようになってからは部屋に食事を運んだけれど、ほとんど手を付けられていなかった。

それでも、柔和な笑顔を浮かべて「ありがとう。食べられなくてごめんなさい」と私に声をかけた。

寝具を交換していると「もう少し元気になったら自分でできると思うから、手間をかけてごめんなさいね」と眉を下げた。

お茶とお菓子を持ってくると、「あなたも一緒にどうかした?」と微笑んでいた。



あの人に接するたびに、胸が苦しくなった。

私にスープの入った皿を投げつけたって、罵詈雑言を浴びせたっておかしくないのに。

どうして、こんな状況においても、目の輝きを失わないの。

どうして、どうして私はこんなにもあなたに惹かれてしまうの。



ソファに座るあの人が、部屋に来た私を見て微笑むのを見ると、その膝にすがりたくなった。

誰からも与えてもらえなかった愛情を、その膝に頭を乗せて泣いて打ち明けてしまいたかった。私の頭や頬を撫でて、「大丈夫」と声をかけてもらいたかった。



こんな檻に閉じ込めているくせに。この人の自由も何もかも奪っているくせに。

苦しくて、苦しくて、夜眠れなくなって、昼の仕事にも支障が出てきた。酒と薬でどうにか眠ろうとした。

でも結局どれだけその量を増やそうとも眠ることはできなかった。

コンラッドは日中は仕事に出ているけれど、夕方になると戻ってあの人の部屋に通った。そしてそのまま朝まで出てくることはなかった。

毎朝、彼女のシーツが汚れていないことを確認すると、少しだけ心を落ち着かせることができて、意識を失うようにソファで眠りに落ちることが何度かあった。

入浴の手伝いをしていることは、彼の服が濡れて着替えることで気づいていた。彼女の傷が癒えて抱くことができるかどうかを毎日こうして確認しているのかと思うと、頭の中に靄がかかるような気持ちになった。

あの人は記憶を失い、コンラッドと母子としてではなく、恋人として過ごすことはできるかもしれない。

でも、もし記憶が戻ったら?自分の息子と関係を持ったと彼女が知ったら?

あの清廉な人の心は粉々に砕けてしまうのではないかと不安だった。

あの人に本当のことを明かしてしまおうかと、私の何より大事なコンラッドを裏切るようなことが頭に浮かんで、自分の変化に身震いした。

だめ。だめ。コンラッドの望むものを、私も同じように望まなければならないのに。



でも、時々部屋に行ったときにコンラッドが見せる表情や態度は、幼い子どものように純粋だった。

私があの人と過ごすときに持つ温かい気持ちをコンラッドも持ち始めている気がしていた。

それにコンラッドが気づけば、あの人から正しく母親としての愛情を受けて、私が彼の欲望を受け止められれば、全てがあるべき場所に収まるのではないかと小さな希望を抱き始めていた。



ある日、あの人は私に寝具は自分で交換するから、それと掃除道具を持ってきてほしいと言った。

シーツを割いてロープにして逃げるかもしれないし、モップの柄で窓を割ろうとしているかもしれないと思ったが、彼女の言葉をひとまず受け入れようと思った。

どうあがいてもこの部屋から逃げられないようになっていることは、隅々まで確認した私が一番よくわかっていた。

彼女は私を近くに呼び、ソファに座らせると美しい青い瞳で私をじっくりと見た。



「ねぇ、ブリジット、あなた強いお薬を常用していない?」



穏やかなその声が温かな感触になって私の中で広がっていく。誰にもかけられたことのない優しい言葉。



「夜、眠れていないんじゃないかしら…私以前、戦争に出た後不眠症に悩んでいた騎士を診たときと同じような感じがするの。その人もよく出回っている薬で無理やり眠ろうとしていたけれど、改善しなかったの。余計に悪い夢にうなされたりして。だからね、別の薬草と薬草茶を勧めたのよ。それでだいぶ良くなったの。ブリジット、あなたも試してみない?」



なぜこんなに薬草に詳しいのか、いくら辺境領で暮らしていたとしても、コンラッドの話によれば辺境伯と見初められて婚姻直前までいっていたという。それなのに騎士に直接接して処方していたというのだろうか。



驚いて言葉もない私に夫人は笑顔を見せた。



「わかってるわ。この部屋には紙やペンはない。私が外と接触できないようにしているんでしょう?でも、それならあなたが私が言うものをメモしてくれない?その薬とお茶はどこでも手に入ると思うし、他に不眠や疲れで悩んでいる人がいたら使ってみてほしいの。ここは、たくさんの人が働いているんでしょう?」



「なぜ、そう思われるのですか?」



「声が聞こえるもの。あの小窓から。話の内容は聞こえないけれど、朝や昼よりも夕方から夜にかけて段々とにぎやかになっていく。私、そういう場所に何度も足を運んでお薬を届けたり、働いている子とどんなことに困っているか話したりしてきたの。ここは娼館なんじゃないかしら」



この人は、お飾りではない。宝石や美しいドレスにばかり意識して、表面だけの笑顔を浮かべて貴族同士の腹の探り合いをするだけの薄っぺらい存在とは一線を画している。

正しく情報を拾い、自分で考え、その上で行動するだけの力を、この華奢な身の内に持っているのだ。

私が考えることなど見透かされているのかもしれない。



「きっと眠れない子達もいるでしょう?その子達のためにも、用意してあげてくれないかしら」



背中に冷や汗をかきながら、なんとか頷くと部屋を出た。

あのまま夫人の前にいては、表情が崩れてしまっていたと思う。自分の部屋でなんとか落ち着こうと深呼吸を繰り返し、紙とペンを持って戻った。

夫人に指示されたものを書き留めていく。私が聞き慣れない単語に苦戦しても、決して口調を荒げることなくスペルと一つずつ丁寧に教えてくれる。

ああ…私にこうして教えてくれる人は誰一人いなかった。いつでも一人で学び続けていた。弟に出された本を読み、こっそり課題をこなして。アカデミーに行っても一人でずっと学んでいた。



「あなたはとても綺麗な字を書くのね。あなたから手紙を受け取った人はきっと感動するでしょうね」



そんな言葉、母親からもかけてはもらえなかった。手が震えることも、涙がこみ上げることも気づかれないように急いで荷物をまとめて部屋を後にしようと急いだ。

ぐいっと目をこすり、息を整えて、掃除道具や寝具をまとめると、鏡で自分の表情を確かめてから夫人の部屋に戻った。

それを部屋に置くと、夫人は目を細めて笑った。



「ありがとう、ゆっくり休んでね、ブリジット」



頭を下げて部屋を出て、急いで鍵を閉めた。ろうそくの灯りが揺らめく階段に座り込んで声を殺して泣いた。

あの人の前では幼子の自分が戻ってきてしまう。愛してほしいと、自分を見てほしいと願いながら、何一つ叶わずに少しずつ心をすり減らしていった、あの頃の自分がざわめき出す。

封じ込めていた自分がこれ以上漏れ出てしまうことのないように、体を引きずるようにそこから出るとしっかりと扉に鍵をかけて本棚で隠した。



涙が次々と溢れるのを隠すように浴室に駆け込み、溜めてあった湯舟に飛び込んだ。ぬるくなってしまっていたそれは、私の心をまた冷え凍らせていく。



心を鈍らせて、チクチクと刺す痛みを紛らわせてしまえばいい。それでいい。私の叶わなかった思いなど、どうなったって構わないのだから。
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