どこまでも続く執着 〜私を愛してくれたのは誰?〜

あさひれい

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アマリア・アルバートン/フローラ・エインズワース

矜持

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挑発的な視線を送るコンラッドを見据えて私の心は固まっていた。

数歩先へ進みコンラッドの前まで来ると足を止めた。

ぐっと奥歯を噛みしめた。



「っっ」



ぱんっと乾いた音が響き、目を見開いたコンラッドがゆっくりと私と視線を合わせた。



「コンラッド、あなたが私を母親と思っていなくても、実の母親ではなくても、私にとってあなたは息子でしかないの。母親として何をしてあげられたわけではないけれど、それでもあなたの成長を見守ってきた。あなたを不幸にする選択をするくらいなら、私はここで舌を嚙み切る覚悟はできてるわ」



「…なぜ、俺があなたを手に入れることが俺を不幸にすると決めつけるのですか」



「あなたが欲しいのは私ではない。長い間私から得られなかった愛を別の形で埋めようとしているだけよ。今ここであなたが私を抱けば、あなたはもうそこから抜け出せない。あなたにはちゃんと誰かを愛して、愛されてほしい。それが私の勝手な親心だとしても」



「やめろっ!今更…今更、母親としてなんか見られない。俺はずっと…ずっと…あいつがあなたを抱くのを見てからあなたを抱くことだけを考えてきた。血がつながらないとわかって、やっとそれが叶えられるんだ!」



「ヘンドリックが私を…?一体、何の話をしているの。私達はずっと前からそんな関係ではなくなっていたのよ。あなただって私達の関係が冷めきっていたことを知っているでしょう」



コンラッドは吐き捨てるように笑い、髪をかき上げた。



「あの人は眠っているあなたを毎晩のように抱いていた。あなたの飲む紅茶に薬を仕込んで、目が覚めないようにした上でずっとあなたを思いのままに抱いていたんだ。あなたがどれだけあの人の愛を望んでいたかを知っていながらそれを無視して、ただ勝手に欲望をぶつけていた」



苦しそうに視線をそらしたコンラッドを見て、その輪郭にヘンドリックを思い出していた。

言葉にできない想いが胸の奥からこみあげてきた。



「…そう。ヘンドリックは私にあなたのことを打ち明けられなかったのね…それで…あんな…。なんて…なんて不器用な人…」



「悔しくないのか?!憎くないのか?!こんな事実を隠されてきて!」



私の両腕をつかみ、前後に揺するコンラッドをしっかりと見据えて告げた。



「悔しいわ。ヘンドリックを支えられたのも、愛せたのも私だけだったのに、私はそれを果たせなかった。私達の子が死んだという事実をあの人だけに背負わせたことが悔しいわ。元気に生んであげられなかった自分が憎くてたまらないわ!でも見くびらないで、コンラッド。私は自分の生涯をかけてヘンドリックを愛したの。何を犠牲にしても構わないほど、あの人を愛したの。ヘンドリックの血を受け継いでいるなら、ヘンドリックがあなたを自分の子として公爵家に迎えたのなら、あなたは私の息子なのよ。私はアルバートン公爵夫人。その矜持を忘れたことはないわ」



コンラッドは私をつかむ力を緩め、よろよろとベッドに腰掛け、片手で顔を覆った。



「あなた達は愚かだ…そんなことを言い切れるくらいなら…なぜ、俺はこんな…」



その震える肩に手をそえるべきか逡巡して、差し出した手を握りしめた。



「ごめんなさい。私達にできることはあなたに償いをすることだけよ。あなたが生きてきた18年を辛いものにしてしまった以上、親としてあなたの望む生き方ができるよう尽くすだけ。あなたにはあの強大な権力を持つ公爵家を継ぐことだってできるし、全く別の道を歩むことだってできるわ」



「はっ。あの人がなんのために俺を引き取ったと思ってる。公爵家の跡取りのためだろう。あなたが子どもが生めないからと公爵家から去ることを阻止するためにこんなことをしたのに、それを簡単になかったことにしましょうとでも提案するつもりとでも?!」



「見くびらないでと言ったでしょう。提案するのではないわ。これは親として当然の務めなのよ。ここまでの事実を知った以上、自分達の望むようにするためにあなたを縛るようなこと、私がヘンドリックにはさせはしない。例え過去にその選択をするためにどれだけの苦しみを味わったとしても、それはあなたには関係のないことよ。その業は私とヘンドリックが負うの。だから、コンラッド、あなたはこれから自分がどう生きたいのか、考えてちょうだい。こんな…偉そうに本当は言える立場じゃないのはわかっているけれど…本当にごめんなさい…」



「あなたは馬鹿だ…こんな目に遭ってまで…」



「アマリアであった私は何も知らず、狭い世界でしか生きたことのない本当に小さくて愚かな存在だったわ。記憶を失わずにただアマリアとして事故の後も目を覚ましていれば、私は今の事実を知っても泣くばかりだったでしょうね。でも、フローラとしてエインズワースで過ごしたことは私を大きく変えてくれた。女性だからといって、決して弱い存在ではないとエインズワースのみんなから学んだわ。私も仕事を得て、色々なところへ出向いて多くの人に出会ったわ。何ができるのか自分に問いかけながらずっと過ごしてきた。ラウルとセザールの家族として過ごしたことも私の考えを大きく変えてくれた。私の中にはもうアマリアとフローラとしての自分が存在するの。私は少なくともアマリアとして生きていたよりはずっと強くなったわ」



「俺は、あなたが弱いままの存在でいてくれればよかった。そうすれば俺があの人からあなたを奪えたのに」



コンラッドが吐き捨てるように言った後、立ち上がり、私を見て、ふと笑った。その顔は私がヘンドリックに出会った頃のような懐かしさを思い出させた。



「今のあなたでは到底無理よ。私が恋に落ちたときのヘンドリックはもっと、もっと素敵だったもの」



「やめてください。この歳になって、両親の馴れ初めなんか聞きたくありません」



コンラッドは苦笑したまま私のそばまで来ると、優しく抱き寄せた。その背中に腕を回し、ぽんぽんと背中を叩いた。



「やり直せますか、俺達は」



「もちろんよ、コンラッド。子どもの過ちを受け止められないほど私達は弱くないわ」



カタンと音がして振り返ると、寝室のドアのところに人影が見えた。



「ブリジット?」



コンラッドから離れ、彼女に声をかけた。コンラッドも体を離し、彼女を見た。



「リアーナ、俺達はこの部屋を出る。今まですまなかった。俺達はこれから」



コンラッドが話し始めた時、ブリジットが動いた。その手に光るものが見えたとき、体は勝手に動いていた。



「コンラッド!!」



倒れこむようにコンラッドの体を押しやったとき、ブリジットの体が私にぶつかり、その反動で床に弾き飛ばされた。



「母上!!」



床に倒れた痛みに顔を歪め、違和感のある場所を手で押さえた。ぬるっとした感触がして、確認しようと顔を動かした時、激痛が走った。

ああ…私は刺されたのね…

コンラッドが駆け寄り私を抱き起こしたとき、私はちゃんと笑えていただろうか。この子を不安にさせないように母親としての笑顔を浮かべることはできていただろうか。
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