どこまでも続く執着 〜私を愛してくれたのは誰?〜

あさひれい

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アマリア・アルバートン/フローラ・エインズワース

献身

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それから数日間、朝早く起きて、シーツをはがし、置いていてくれていた新しいものに交換した。

桶に水を入れて雑巾を絞り窓や棚や目につくところはとにかく磨き続けた。体を動かして無心でいる時間が欲しかった。

エインズワースで薬草を摘んだり、乾燥させたり、調合していた時間が懐かしかった。

気弱になる心を叱咤して、今私に何ができるのか、どうすればいいのか思いを巡らしながら体を動かし続けた。



掃除を始めた最初の日、昼食を持ってきたブリジットが部屋の隅に置かれた洗濯かごや汗だくになっている私を見て驚いていた。きっと本当に私が掃除をするとは思わなかったのだろう。もし、彼女にテオが私のことを公爵夫人なのだと伝えていれば信じがたいことだったに違いない。



「お食事をお持ちしました」



「ありがとう、ブリジット」



ブリジットは軽く頭を下げて洗濯かごを手に持つと部屋を出て行った。昼食をすませた後、再び掃除を始め、夕方にはお湯を張り、一人でゆっくりと湯舟に浸かった。深く息を吐き、自分を落ち着かせるために自分の呼吸や浴室に広がる香りに集中した。



これは…何の香かしら…フリージア…?



すうっと吸い込んだ瞬間、頭が晴れるような気がした。どこか懐かしくて、とても馴染みのあるものに思えた。



その瞬間、脳裏に公爵とテオの姿が交互に現れた。

テオと観劇をしている様子が見えた。でも、テオの表情は今まで私に見せていたような柔らかいものではなかった。それは無表情に近く、まるで怒っているかのようにさえ思えるものだった。



ぱっと目を開けた瞬間全ては消えてしまったけれど、私の心には何本かの道筋が見えた気がした。



入浴と着替えを済ませて外に出ると、既にそこには夕食が並べられていた。

それを下げに来たブリジットに「少し話す時間がほしい」と言って、またソファに二人で腰掛けた。



「あのね、この前伝え忘れたのだけれど、私がエインズワースで娼館に作って渡していた避妊薬があるの」



「避妊薬ですか?」



「そう。飲むものではなくて、膣の中にあらかじめ塗り込んでおくものなんだけれど、それでも何もしないよりはずっと効果があるの。ただ、体の中に入れるものだから、煮沸した水や薬草の乾燥のさせ方にも注意が必要でね。水っぽいとすぐに出てきてしまうから、ある程度は粘りがなければならないし……だからね、材料を集めた後の注意事項などを細かくメモしてほしいの。少し手間なんだけれど…」



「わかりました。紙とペンを持ってくればいいのですね。少々お待ちください」



ブリジットはすぐに動いてくれた。紙もインクも多めに持ってきてくれたことに私は嬉しくなった。



「アマリア様がお書きになりますか?間違ってはいけないものなのですよね?」



「いいの?」



「はい、私が見ていますから。全ての紙も回収しますし、大丈夫です」



「ありがとう」



かなり長く時間はかかってしまったが、全てを書き上げ、更に薬草師に伝えるわかりやすい方法などを伝えているうちにすっかり夜は更けていた。



「遅くまでありがとう。薬草茶は手に入ったかしら?」



「はい、本当に簡単に手に入るものばかりでした。ここの子達も飲んでから体の調子がいいと喜んでいます」



「そうよかったわ。もし、体に合わなかったら教えてほしいわ。分量や調合が間違っているのかもしれないから」



「わかりました。今夜はこれで失礼いたします」



「ブリジット、もしよかったらクローゼットのドレス、いくつか持って行って。私のためにこんなにあっても仕方ないもの。ここで働く子達に譲りたいの」



「ですが、あれは」



ブリジットがためらったのを見て、私はそれ以上強く言わなかった。

その代わりに「明日ハサミが欲しい」と伝えると、「テオ様からナイフやハサミや針など危険の及ぶものを渡してはならないと言いつかっております」と返された。



「あなたがいる間なら使っても構わないということ?」



「…ええ、そうなりますね…」



「なら、あなたの都合のいいときに一緒に過ごせる時間を作ってくれる?」



私の申し出にブリジットは曖昧に頷き、紙やインクなどを持って出て行った。

それを見届けると、燭台を持ってクローゼットに向かった。その中から一着を手に取り、部屋へと移動した。それを椅子にかけると、大きく息を吐いてベッドに横になった。
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