どこまでも続く執着 〜私を愛してくれたのは誰?〜

あさひれい

文字の大きさ
上 下
71 / 103
エインズワース辺境伯

出陣

しおりを挟む
翌朝、どうにか補給物資をまとめ荷馬車と援軍のために第2騎士団が動き出そうとしているときに、早馬が到着した。

背中に矢が刺さったまま、息も絶え絶えにやってきた騎士を見て、誰もが最悪の事態を想定した。



「東の砦が襲われました…援軍を…どうか、早く援軍を…」



そう言葉を残して意識を失った騎士を周りの者達が急いで救護室に運び込んだ。

ラウルは再び作戦を練り直さなくてはならなくなり、残る騎士団の隊長と南の砦への連絡のために馬を走らせた。



「これだけの規模の侵入を果たすとは、用意周到にしなければ不可能だったはずだ。それに気づけなかったとは」



ラウルが机をたたき、地図上のコマがいくつか倒れた。



「南の砦から東に援軍を出させる。南の砦には周辺の貴族の騎士団を出すように要請するんだ。俺は東に向かう。第1騎士団は城を守れ。第2騎士団の半分と第5騎士団は俺と共に南へ向かう」



「はっ!!」



隊長らが動き出し、ラウルも自らの剣を手に持った。執務室にいるヴィクトルとジャンに向き直り



「いいか、城主代行に副官のメイナードを置いていく。よく指示に従え。城を守り抜け」



「承知いたしました!」



ラウルは自室へ戻り、帷子や甲冑を身に着けると城の門前まで進んだ。

フローラの姿を探したが、見当たらず、唇を噛みしめて馬にまたがった。



「フローラ様!こちらです!」



侍女の声がして、髪を振り乱したフローラがラウルのもとへと駆け寄って来た。その目は不安に揺れていた。



「ラウル!」



フローラが伸ばした手をラウルはしっかりと握りしめた。



「ここにいれば安全だ。城に侵入させるようなことは決してさせない」



「私のことよりも、ラウルが…」



「これが俺の役目だ。案ずるな、すぐに戻る」



「はい…私達もしっかりと…城をお守りいたします…」



フローラの目からは涙がこぼれていた。ラウルは馬を下り抱きしめたい気持ちをどうにか抑え込み、侍女に目をやりフローラを安全な場所まで下がらせた。



「エインズワースの獅子達!行くぞ!」



ラウルの声に騎士らが声を上げ、一斉に馬と共に駆け出していった。辺りには土埃が舞い上がり、白いもやとなって彼らの姿を見えなくさせた。



『すぐに戻る』



フローラはその言葉が何度も頭の中で繰り返され、ラウルではない誰かの声がそれに重なり、めまいを覚えた。



「誰…あなたは…誰なの…?」



よろめくフローラを侍女が支え、城の奥へと下がった。周りの者達の制止を無視して、フローラは崩れ落ちそうになる自分を叱咤して薬草や包帯の手配に勤しんだ。



砦の情報が伝わるのを誰もが緊張の中で待ち続けた。いつでも補給部隊を出せるようにその準備をしながら、騎士達の無事の帰りを願っていた。

西の砦の侵攻を防ぐことに成功し、事後処理の作業に入ったと早馬が来たのは2日後のことだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

処理中です...