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エインズワース辺境伯
出陣
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翌朝、どうにか補給物資をまとめ荷馬車と援軍のために第2騎士団が動き出そうとしているときに、早馬が到着した。
背中に矢が刺さったまま、息も絶え絶えにやってきた騎士を見て、誰もが最悪の事態を想定した。
「東の砦が襲われました…援軍を…どうか、早く援軍を…」
そう言葉を残して意識を失った騎士を周りの者達が急いで救護室に運び込んだ。
ラウルは再び作戦を練り直さなくてはならなくなり、残る騎士団の隊長と南の砦への連絡のために馬を走らせた。
「これだけの規模の侵入を果たすとは、用意周到にしなければ不可能だったはずだ。それに気づけなかったとは」
ラウルが机をたたき、地図上のコマがいくつか倒れた。
「南の砦から東に援軍を出させる。南の砦には周辺の貴族の騎士団を出すように要請するんだ。俺は東に向かう。第1騎士団は城を守れ。第2騎士団の半分と第5騎士団は俺と共に南へ向かう」
「はっ!!」
隊長らが動き出し、ラウルも自らの剣を手に持った。執務室にいるヴィクトルとジャンに向き直り
「いいか、城主代行に副官のメイナードを置いていく。よく指示に従え。城を守り抜け」
「承知いたしました!」
ラウルは自室へ戻り、帷子や甲冑を身に着けると城の門前まで進んだ。
フローラの姿を探したが、見当たらず、唇を噛みしめて馬にまたがった。
「フローラ様!こちらです!」
侍女の声がして、髪を振り乱したフローラがラウルのもとへと駆け寄って来た。その目は不安に揺れていた。
「ラウル!」
フローラが伸ばした手をラウルはしっかりと握りしめた。
「ここにいれば安全だ。城に侵入させるようなことは決してさせない」
「私のことよりも、ラウルが…」
「これが俺の役目だ。案ずるな、すぐに戻る」
「はい…私達もしっかりと…城をお守りいたします…」
フローラの目からは涙がこぼれていた。ラウルは馬を下り抱きしめたい気持ちをどうにか抑え込み、侍女に目をやりフローラを安全な場所まで下がらせた。
「エインズワースの獅子達!行くぞ!」
ラウルの声に騎士らが声を上げ、一斉に馬と共に駆け出していった。辺りには土埃が舞い上がり、白いもやとなって彼らの姿を見えなくさせた。
『すぐに戻る』
フローラはその言葉が何度も頭の中で繰り返され、ラウルではない誰かの声がそれに重なり、めまいを覚えた。
「誰…あなたは…誰なの…?」
よろめくフローラを侍女が支え、城の奥へと下がった。周りの者達の制止を無視して、フローラは崩れ落ちそうになる自分を叱咤して薬草や包帯の手配に勤しんだ。
砦の情報が伝わるのを誰もが緊張の中で待ち続けた。いつでも補給部隊を出せるようにその準備をしながら、騎士達の無事の帰りを願っていた。
西の砦の侵攻を防ぐことに成功し、事後処理の作業に入ったと早馬が来たのは2日後のことだった。
背中に矢が刺さったまま、息も絶え絶えにやってきた騎士を見て、誰もが最悪の事態を想定した。
「東の砦が襲われました…援軍を…どうか、早く援軍を…」
そう言葉を残して意識を失った騎士を周りの者達が急いで救護室に運び込んだ。
ラウルは再び作戦を練り直さなくてはならなくなり、残る騎士団の隊長と南の砦への連絡のために馬を走らせた。
「これだけの規模の侵入を果たすとは、用意周到にしなければ不可能だったはずだ。それに気づけなかったとは」
ラウルが机をたたき、地図上のコマがいくつか倒れた。
「南の砦から東に援軍を出させる。南の砦には周辺の貴族の騎士団を出すように要請するんだ。俺は東に向かう。第1騎士団は城を守れ。第2騎士団の半分と第5騎士団は俺と共に南へ向かう」
「はっ!!」
隊長らが動き出し、ラウルも自らの剣を手に持った。執務室にいるヴィクトルとジャンに向き直り
「いいか、城主代行に副官のメイナードを置いていく。よく指示に従え。城を守り抜け」
「承知いたしました!」
ラウルは自室へ戻り、帷子や甲冑を身に着けると城の門前まで進んだ。
フローラの姿を探したが、見当たらず、唇を噛みしめて馬にまたがった。
「フローラ様!こちらです!」
侍女の声がして、髪を振り乱したフローラがラウルのもとへと駆け寄って来た。その目は不安に揺れていた。
「ラウル!」
フローラが伸ばした手をラウルはしっかりと握りしめた。
「ここにいれば安全だ。城に侵入させるようなことは決してさせない」
「私のことよりも、ラウルが…」
「これが俺の役目だ。案ずるな、すぐに戻る」
「はい…私達もしっかりと…城をお守りいたします…」
フローラの目からは涙がこぼれていた。ラウルは馬を下り抱きしめたい気持ちをどうにか抑え込み、侍女に目をやりフローラを安全な場所まで下がらせた。
「エインズワースの獅子達!行くぞ!」
ラウルの声に騎士らが声を上げ、一斉に馬と共に駆け出していった。辺りには土埃が舞い上がり、白いもやとなって彼らの姿を見えなくさせた。
『すぐに戻る』
フローラはその言葉が何度も頭の中で繰り返され、ラウルではない誰かの声がそれに重なり、めまいを覚えた。
「誰…あなたは…誰なの…?」
よろめくフローラを侍女が支え、城の奥へと下がった。周りの者達の制止を無視して、フローラは崩れ落ちそうになる自分を叱咤して薬草や包帯の手配に勤しんだ。
砦の情報が伝わるのを誰もが緊張の中で待ち続けた。いつでも補給部隊を出せるようにその準備をしながら、騎士達の無事の帰りを願っていた。
西の砦の侵攻を防ぐことに成功し、事後処理の作業に入ったと早馬が来たのは2日後のことだった。
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