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エインズワース辺境伯
手練手管
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「大公、最近近くの村に来た男のこと知ってます?美形で、村の女どころか、娼館の女達からさえも一目置かれてるらしいんですよ」
ヴィクトルが執務中であるのに、ラウルの執務机の後ろからそんな話を振ってきた。
「知らん。そんな話聞いたこともない」
「いやー、すごいらしいんです。ほら、あの男好きのケリーいるでしょ?あいつ、その男の家に忍び込んだらしいんですよ。味見してやろうとか思ったらしくて。そしたら返り討ちにあって」
「怪我でもしたのか?」
「それが、指だけでいかされまくったらしくて、そんな程度で二度と来るなって追い出されたって。あいつ、余計に燃えて毎晩のように通ってたら、そいつ娼館に移ったんだっていうんですよ」
いくら口の軽いヴィクトルでも、なぜ急にそんな話をし始めたのか、さすがにいぶかしんだ。
「それで、その男が今、フローラさんと話してますね、ほら」
ラウルが慌てて振り返ると、窓から城の中庭を見ていたヴィクトルが指さすところに、フローラと見かけない男がいるのを見つけて、急いで執務室を飛び出した。
中庭に駆け付けると、そこにはフローラしかいなかった。
「ラウル!どうしたの?」
ラウルの姿を見つけて、笑顔をみせたが、恐らくひどい形相だったためか、心配そうにフローラが小走りで近づいてきた。
「今、誰と話していた」
「今?トーリさんと話してたわ。娼館に薬を届けてくれるの。最近、あそこで働き始めたんですって」
「それで、他には?」
「えっと、娼館のリンダが熱を出してるから、熱さましを渡したわね」
「何もされていないか。何か言われたりしていないか」
「え?トーリさんに?いえ、何も。どうしたの?」
「い、いや…新しく入ってきた者はどうしても警戒するものだから…」
苦し紛れの言葉にも、フローラは小さく何度も頷いていた。
「確かに、トーリさんは最近移住してきた人だものね。でも、いい人よ。娼婦のみんなにも優しいみたい」
フローラが特にその男に興味があるわけではなさそうだということがわかると、小さく息を吐いた。
あまり接触してほしくはないが、救護室で働き続ける以上、そんな勝手なことも言えない。
「気をつけろ。何か不審なことがあれば、すぐに言うんだ」
「ええ、わかったわ」
フローラを救護室まで送り届け、執務室に戻った。
すると、机に書類を山のように置いているヴィクトルと目が合った。
「おかえりなさいませ、閣下」
「…あぁ」
「なんで俺がこんな話してるかっていうとですね、騎士団にも少なからずお世話になってる奴が数人いるんですよ」
椅子に座ろうかとしているのに、またわけのわからない話が始まった。
いぶかしんで視線をやるとヴィクトルが真剣な表情をしてこちらを見ていた。
「戦に出て、その時の衝撃で不能になった奴らがいるのはご存知でしょう?そいつらの一人がどうしても克服したくて酒場で泣いてたら、あいつ娼館に連れて行って女でも勃たせられなかったものをなんか技を使って勃たせたうえに、娼婦とやるところまで手伝ったっていうんですよ。その腕を見込まれて、あいつ娼館で下働きもしてるけど、自分の部屋があって、不能改善の手伝いしてるらしいです。これまでできなかった奴らにとっては、はたから見れば娼館に通ってるけど、実は不能を治してもらって、そのまま娼婦を抱けるって、よくできた商売ですよね。顔も相当いいらしいですけど、腕も頭もいいですね」
「確かにそうだな…。娼館というのは、情報が思わぬ形で漏れることもある。警戒を緩めるな」
「了解です。しっかし、女を虜にする男が増えるのは困るんすけどねぇ、いろんな意味で」
「おまえは好きでフラフラしてるんだろう」
「あ、身を固めろ的なお説教なら聞きませんよ。まずは息子であるセザールからお説教してください」
「あいつは…俺がどうこうして変わるようなものでもないだろう…」
「わー、やめてください。反抗期の子供を抱えた情けない父親みたいな表情見せないでください。俺達の主君は気高き獅子なんですから」
「減らず口はその辺にしてさっさと仕事に戻れ」
「えー、俺のこの話のお陰でフローラ様にもちょっと会えたんだからいいじゃないですかぁ」
ぶつぶつ言いながらヴィクトルは自分の机に戻った。
呆れながらその様子を一瞥し、ラウルはトーリという男の名前を記憶に留めた。
フローラの周りには、騎士達をはじめとして、フローラに感心を持ち言い寄る者は多かったが、特に危険性を感じなかった。一睨みすれば散るようなヤツばかりだったからだ。
しかし、野生の勘なのか、トーリという男の危険性をひしひしと感じずにはいられなかった。
ヴィクトルが執務中であるのに、ラウルの執務机の後ろからそんな話を振ってきた。
「知らん。そんな話聞いたこともない」
「いやー、すごいらしいんです。ほら、あの男好きのケリーいるでしょ?あいつ、その男の家に忍び込んだらしいんですよ。味見してやろうとか思ったらしくて。そしたら返り討ちにあって」
「怪我でもしたのか?」
「それが、指だけでいかされまくったらしくて、そんな程度で二度と来るなって追い出されたって。あいつ、余計に燃えて毎晩のように通ってたら、そいつ娼館に移ったんだっていうんですよ」
いくら口の軽いヴィクトルでも、なぜ急にそんな話をし始めたのか、さすがにいぶかしんだ。
「それで、その男が今、フローラさんと話してますね、ほら」
ラウルが慌てて振り返ると、窓から城の中庭を見ていたヴィクトルが指さすところに、フローラと見かけない男がいるのを見つけて、急いで執務室を飛び出した。
中庭に駆け付けると、そこにはフローラしかいなかった。
「ラウル!どうしたの?」
ラウルの姿を見つけて、笑顔をみせたが、恐らくひどい形相だったためか、心配そうにフローラが小走りで近づいてきた。
「今、誰と話していた」
「今?トーリさんと話してたわ。娼館に薬を届けてくれるの。最近、あそこで働き始めたんですって」
「それで、他には?」
「えっと、娼館のリンダが熱を出してるから、熱さましを渡したわね」
「何もされていないか。何か言われたりしていないか」
「え?トーリさんに?いえ、何も。どうしたの?」
「い、いや…新しく入ってきた者はどうしても警戒するものだから…」
苦し紛れの言葉にも、フローラは小さく何度も頷いていた。
「確かに、トーリさんは最近移住してきた人だものね。でも、いい人よ。娼婦のみんなにも優しいみたい」
フローラが特にその男に興味があるわけではなさそうだということがわかると、小さく息を吐いた。
あまり接触してほしくはないが、救護室で働き続ける以上、そんな勝手なことも言えない。
「気をつけろ。何か不審なことがあれば、すぐに言うんだ」
「ええ、わかったわ」
フローラを救護室まで送り届け、執務室に戻った。
すると、机に書類を山のように置いているヴィクトルと目が合った。
「おかえりなさいませ、閣下」
「…あぁ」
「なんで俺がこんな話してるかっていうとですね、騎士団にも少なからずお世話になってる奴が数人いるんですよ」
椅子に座ろうかとしているのに、またわけのわからない話が始まった。
いぶかしんで視線をやるとヴィクトルが真剣な表情をしてこちらを見ていた。
「戦に出て、その時の衝撃で不能になった奴らがいるのはご存知でしょう?そいつらの一人がどうしても克服したくて酒場で泣いてたら、あいつ娼館に連れて行って女でも勃たせられなかったものをなんか技を使って勃たせたうえに、娼婦とやるところまで手伝ったっていうんですよ。その腕を見込まれて、あいつ娼館で下働きもしてるけど、自分の部屋があって、不能改善の手伝いしてるらしいです。これまでできなかった奴らにとっては、はたから見れば娼館に通ってるけど、実は不能を治してもらって、そのまま娼婦を抱けるって、よくできた商売ですよね。顔も相当いいらしいですけど、腕も頭もいいですね」
「確かにそうだな…。娼館というのは、情報が思わぬ形で漏れることもある。警戒を緩めるな」
「了解です。しっかし、女を虜にする男が増えるのは困るんすけどねぇ、いろんな意味で」
「おまえは好きでフラフラしてるんだろう」
「あ、身を固めろ的なお説教なら聞きませんよ。まずは息子であるセザールからお説教してください」
「あいつは…俺がどうこうして変わるようなものでもないだろう…」
「わー、やめてください。反抗期の子供を抱えた情けない父親みたいな表情見せないでください。俺達の主君は気高き獅子なんですから」
「減らず口はその辺にしてさっさと仕事に戻れ」
「えー、俺のこの話のお陰でフローラ様にもちょっと会えたんだからいいじゃないですかぁ」
ぶつぶつ言いながらヴィクトルは自分の机に戻った。
呆れながらその様子を一瞥し、ラウルはトーリという男の名前を記憶に留めた。
フローラの周りには、騎士達をはじめとして、フローラに感心を持ち言い寄る者は多かったが、特に危険性を感じなかった。一睨みすれば散るようなヤツばかりだったからだ。
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