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狂気が生まれる夜
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ずっと、あの人の愛が欲しかった。
抱きしめてほしかったし、笑いかけてほしかった。
その膝に乗ってお菓子を食べたかった。一緒に出かけて、ほしいものをねだりたかった。
子供のときは、どうしてあの人に近づくことができないのかわからなかった。
普通の家庭の母親がすることなんて、少しも知らなかったけれど、そういう愛情が欲しかったんだと思う。
乳母や使用人達に囲まれて不自由はなかった。
でも、同じ屋敷にいるのに会えないあの人がずっと気になっていた。
ベッドに潜り込もうと、夜部屋に近づこうとしたら、護衛に止められた。この先には行ってはいけないと。
真っ暗な廊下の奥は、決して踏み入ることのできないところだと子供心に理解した。
6歳になり、寄宿学校に入れられた。
朝から夕方まで勉強ばかり。友達はできたし、寮で夜通ししゃべったり、疲れ切るまで遊ぶのも楽しかった。
でも、長期の休みになって、また寮に戻ったときに聞かされる友達の家での出来事は、まるでおとぎ話のような感覚だった。
俺と、父と母は、何かおかしい。
なぜ、休暇中の晩餐くらいしか顔を合わせられない。
なぜ、どこにも出かけない。なぜ、お互いの誕生日を祝えない。
なぜ、なぜ、なぜ。
少しずつ、降り積もる雪のように疑念は俺の心にずしりとのしかかり、そして凍らせていった。
13歳の時、護衛の交代の時間を見計らって、あの人の部屋に忍び込んだ。
でも、あの人は部屋にいなかった。
扉の向こうからくぐもった声が聞こえてきて、静かに扉に近づいていった。
少しだけ開いていた扉から、小さく灯りの残る父親の部屋が見えた。
父は、あの人を抱いていた。
時折、あの人のもののような、あ、とか、う、とか、小さい声が聞こえた。
「愛している、アマリア」と何度も繰り返しながら、腰を打ちつける父に、驚きが隠せなかった。
二人の関係は既に凍り付いてるのだと、子供ながらに思っていたからだ。
しかし、それよりも、父が抱き起すように自分の膝に持ち上げたあの人の美しい体に心を奪われた。
そして、違和感に気づいた。
あの人は、眠ったままだった。
手も足も、体さえ何の力も入っていない。それを父が思う様に揺さぶっていたのだ。
再び組み敷いたあの人の体に、父は液体を吐き出した。何度もそれをしごいて、最後の一滴まで絞り出してあの人の体を汚した。
父は、それまでの乱暴なまでの動きとは対照的に、あの人の体を丁寧にゆっくりと清めていった。
そして、寝間着を着せると、父はあの人を抱き寄せ、掛布の中に隠れてしまった。
全てを見終わった時、俺の下着もズボンも濡れていた。
いつ、それが溢れたのかさえ気づかないほどに、目が離せなかった。
護衛が廊下に立っていること、あの人が意識もないまま抱かれていることが奇妙で少しずつ調べ始めた。
護衛は夜から朝まで必ず立っていることがわかった。公爵家の守りとしては普通かもしれないが、外からの侵入よりも、中からの侵入に備えているような気がした。
そして、あの人の夜の習慣を調べたら、入浴やマッサージはいいとして、夜に必ず飲む紅茶が、日中のものがしまっている棚ではなく、鍵付きの棚から取り出したものを使用していることがわかった。
一度、忍び込んで、棚の鍵を開け、少量の茶葉を取り、自室で淹れて飲んだら、ソファに寝転んだまま、朝まで全く目覚めなかった。
この家は、何かおかしい。
あの人以外の全員が、この奇妙さを共有しているのに、それを誰ひとりおくびにも出さないことが余計に気味が悪かった。
寮に戻り、よく話していた平民の3つ上の女生徒の部屋の窓から侵入し、有無を言わせず押し倒した。
その女は慣れた様子で俺をすぐに招き入れた。
初めてのことなのに、無意識に動き続ける腰に陶酔していたら、女が言った。
「外に出して」と。
このまま中に吐き出してはいけないのだと思い、ずるっと引き出すと、女の腹に吐き出した。
なぜ、中に出してはいけないのかと聞いたら、まだ妊娠したくないなとけらけらと笑った。あなたが私を囲うとも思えないし、今だけ、楽しめればいいわ、とも言っていた。
女には言わなかった。あれだけ柔らかい肌とその温もりに酔わせてもらったのに、吐き出す瞬間に思い浮かべたのは、あの人だったことを。
その女は優しかった。俺の全く自分に向いていない気持ちをわかっていながら、俺に体を開き続けてくれた。
それに甘えて、ずるずると体だけ重ねてきた。
俺は狂人だ。
自分の母親に欲情する狂った男だと、吐き気がした。
それでも、あの人を思って、自慰をすることも、女の体を抱き続けることもやめられなかった。
あの人に子供として見つめられるのが嫌でたまらなかった。その視線が余計、俺を苦しめた。
おかしいのは自分だとわかっていても、俺はあの人にとって、子供ではいたくなかった。
あの人が俺の母であり、父に抱かれていることも、認めたくなかった。
寄宿学校で離れて過ごせば落ち着きを取り戻せるのに、邸宅に帰り、わずかな期間共に過ごせる間、秘められた夜の行為を隠れ見ることはやめられなかった。
夏の休暇で王都の邸宅に戻り、あの人のいない日々を過ごしていた。
街に出て、1人で過ごしていた時、突然一人の女に話しかけられた。
「あんたが、公爵家のぼっちゃん?」
声のした方を見ると、いかにも娼婦といった身なりの、まろびでそうなほど豊満ではだけた胸に茶色い髪がかかった、20代くらいの女がいた。
「何の用だ」
「そんな怖い顔しなさんなって。あんた、自分のこと知りたいと思わない?」
「女は間に合ってる」
「さすがだね、おぼっちゃん。でも、聞いといたほうがいいよ、あんたの母親のことだからね。ずっと、あんたを探してたんだよ、私は。ほら、これをご覧よ」
女が意味ありげに、ゆらゆらと振って見せたのは、カフスボタンだった。
それは、金の台座、そして、ブルーダイヤモンドの周りにオニキスが散りばめられていた。
とても街の娼婦の持てる品物ではなかった。そして、俺はその出所を言われるまでもなくわかっていた。
「ついておいで」
俺の変化に気づいた女は、身を翻して、スタスタと路地裏へと入っていった。
薄暗い路地の奥、そして更に小道に入り、二階に登り、ギシギシと金具の鳴るドアを開けると、そこにはベッドとテーブルと椅子しかない簡素な部屋があった。
俺の寮の部屋の半分ほどしかない狭い部屋だった。
「ここの壁は薄いけど、この時間は誰もいないから安心しなよ。誰も見ちゃいないさ」
女はベッドに座ると、黙って俺を見ていた。その口元がうっすらと笑っていることが不快でならなかった。
「それは、父のか。父はおまえのところに通っているのか」
「はははっ。こんなしなびたところになんか、公爵様が来るわけないだろ。公爵様がお客になってるんだったら、もう少しマシな家に引っ越してるさ。これはね、私の母さんのものだよ。私の母さんがあんたの父親と寝たんだ」
「いつ。あんたの母さんとやらはどこにいる。なぜ、父じゃなくて、俺に近づいた。金なら父はのほうが持ってるに決まってるだろう」
「消されちゃうからさ。私は金をもらうことなんかより、生きていたいからね」
「死んだのか、その女は…殺したのか、父が」
「欲を出したのが悪かったんだよ。身の丈以上のものを求めたりするから。昔から、母さんは頭が悪くて、男に騙されて、つけこまれて。清廉潔白な公爵様のスキャンダルになんかなれば、ただじゃすまないことなんて、わかりきってるのに」
「たかが娼婦の一人や二人、貴族にとってなんのスキャンダルにもなりはしない」
「…子供ができたんだよ、公爵様とうちの母さんの間にね。生まれるまでじっと隠してきた。そして、生まれて、黒目黒髪だったから、このカフスボタンの1つを持ってのこのこと公爵家に行ったんだ。1つは私に残していった。そこだけは賢かったね。母さんはそのまま帰ってこなかった。母さんを唆してた男達もついでに消えた。恐ろしい家だね、あんたのとこ」
何も言わなくなった俺に気づいたのか、女は笑って続けた。
「子供は殺されなかった。公爵家で生き延びた。それが、あんただよ。私はあんたの父親違いの姉さ」
「…あの人は確かに出産している」
「そうだね。あんたのほうが何ヶ月か先に生まれてると思うよ。母さん達はずっとどのタイミングで脅迫するか狙ってたからね。その子は死んだんじゃないのかい。公爵家が、夫人の産んだ子をみすみす手離すわけないじゃないか」
ゆっくりと、俺の中にくすぶっていた疑念がまるで点と点を結んで線になるように全てがつながっていった。
「何が望みだ」
「私はね、このおっかない物と秘密を手放したいんだよ。殺される恐怖に怯えながら生きるのはもう嫌なんだ。私をよそに逃してほしい。確かなルートで」
「わかった。手筈は整える。小切手も俺の金で出せるだけ準備する」
「あははっ。私はね、金持ちになりたいわけじゃないんだよ。娼婦としてやっていける、まだしばらくはね。適当な男と家庭が持てたらそれでいいし、一人で死んでも構わない。でも、誰かにそれを勝手に邪魔されるのが耐えられないんだよ」
「そうか。とりあえず、手持ちの金は置いていく。そのカブスボタンを渡してくれ」
「ほらよ」
女は雑な動きで投げてよこした。
「やっと、これを手放せるよ。私にとっちゃ呪いみたいなもんだから、厄介払いができてせいせいする」
「殺された男の中にあんたの父親がいたんじゃないのか」
「私の父親なんて、わかりゃしないよ。娼婦だよ。あんたのときだけ特別さ。避妊もしなかったし、その後客をしばらくとらなかったんだ。口や手で抜いて小金も稼いでたみたいだけど。そんで妊娠がわかったら全部ツケで暮らしてたよ。男達も大金が入るって騒いで、トンズラしたってみーんな散々に言ってたよ。私は何も言わなかった。消されたんだってわかったから。死にたくなかったんだ、私は」
当時のことを思い出しているのか、女は床を見つめてそれ以上何も言わなかった。
俺は財布から有り金を全部取り出して、テーブルに置いた。
「また、来る。近いうちに。準備をしておけ、国の外に出してやる」
「それなら船に乗せてよ。一度船に乗って、どっかに行ってみたいと思ってたんだ」
「ああ」
ふと、その女の名前を聞こうとして、やめた。
これ以上、何を知る必要がある。巻き込まれたくないと思っている、この女の何を。
そのまま部屋を出た。女は何も言わなかったし、追ってもこなかった。
暗い路地を抜けて、大通りに戻ってきた。
そのまま、歩いた。ポケットに入れたカブスボタンに触れながら、ただぼんやりと歩き続けた。
やがて、夕焼けの赤さを背に負って、邸宅の裏から静かに中に入った。
邸宅の裏には薬草庭園がある。温室もあり、栽培が難しいものもそこで管理している。
話し声がして、とっさに木の陰に隠れた。
「じゃあ、私はもう少し、孤児院に持っていく薬草を摘んでいるから、アンドリューは他の仕事へ行っていいわよ」
「奥様、働き詰めではないですか。お休みになってください」
「いいの、薬草のことをしているときが一番楽しいのだから。疲れたりなんかしないわ」
あの人と、使用人のアンドリューだった。
アンドリューは礼をして、屋敷の方へ向かった。あの人は、庭で薬草を摘んで、籠に入れていた。しばらくすると立ち上がってスカートの汚れを軽く払い、庭園と温室の間にあるベンチに腰かけた。
ベンチに置いてあったショールを肩にかけ、膝に乗せた籠をぼーっと見つめていた。
しばらくそのまま見ていたら、こくりこくりと頭が揺れ始め、それが止まると座ったまま眠ってしまったようだった。
膝の上の籠が落ちそうになっているのをみて、そっと近寄った。
籠を握る手は既に力が入ってなかったから、すぐに取れた。そのままベンチに置いて、眠る彼女の前にかがんだ。
こんなに間近で、この人を見たのは初めてかもしれない。ふっと、甘い香りがした。フリージアだ。この人の…香りだ。
顔を近づけ、その無防備な唇に唇を重ねた。うっすらと開いていたそこから、舌を入れたら、ん、と小さな声がして身じろぎした。
思わず離れたが、目を覚ましてはいなかった。
彼女が起きないか少しだけ観察して、彼女の胸元に手を伸ばした。服の上から、その膨らみに触れると全身にぞわぞわした感覚が走った。庭園での動きやすさを優先したのか、腹部だけのコルセットをした襟ぐりの大きい服を着ていた彼女の胸元に手を滑り込ませるのは容易だった。
滑らかな白い肌。柔らかく、温かいその膨らみは手に吸い付くようだった。感触の違う先端が指先に触れたとき、あ…と甘い声が漏れた。
ここが固く立ち上がるまで触れたい。口に含んでその甘さを堪能したい。両手でその形が変わるほどに握り込んで、喘がせたい。
俺の下に組み敷きたい。張り詰めた楔を体の奥深くにねじ込んで、思うままに突き上げたい。そして、その奥深くに俺の証を刻み込みたい。
欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。この人が欲しくてたまらない。
「ヘンドリック…」
彼女がぽつりと声を出して、慌てて体を離した。
そして、踵を返して屋敷の正面に急いだ。玄関から血相変えて入ってきた俺を見て、使用人達は驚いていたが、構うな!と叫んで、自室にこもった。
すっかり勃ち上がっていた性器を取り出して、上下にしごいた。
「はぁっ…はぁっ…アマリア…アマリア…」
手のひらに大量に吐精して、そのベタつく白い液体を見る。
「必ず。必ず。手に入れる。アマリア、俺のアマリア」
脳裏に、手に、唇にアマリアの感触がある。
いつか必ず、俺の手でその体を開き、その中に俺を埋め込んでやる。
アマリアは俺の母ではない。俺が欲する唯一の女だ。
抱きしめてほしかったし、笑いかけてほしかった。
その膝に乗ってお菓子を食べたかった。一緒に出かけて、ほしいものをねだりたかった。
子供のときは、どうしてあの人に近づくことができないのかわからなかった。
普通の家庭の母親がすることなんて、少しも知らなかったけれど、そういう愛情が欲しかったんだと思う。
乳母や使用人達に囲まれて不自由はなかった。
でも、同じ屋敷にいるのに会えないあの人がずっと気になっていた。
ベッドに潜り込もうと、夜部屋に近づこうとしたら、護衛に止められた。この先には行ってはいけないと。
真っ暗な廊下の奥は、決して踏み入ることのできないところだと子供心に理解した。
6歳になり、寄宿学校に入れられた。
朝から夕方まで勉強ばかり。友達はできたし、寮で夜通ししゃべったり、疲れ切るまで遊ぶのも楽しかった。
でも、長期の休みになって、また寮に戻ったときに聞かされる友達の家での出来事は、まるでおとぎ話のような感覚だった。
俺と、父と母は、何かおかしい。
なぜ、休暇中の晩餐くらいしか顔を合わせられない。
なぜ、どこにも出かけない。なぜ、お互いの誕生日を祝えない。
なぜ、なぜ、なぜ。
少しずつ、降り積もる雪のように疑念は俺の心にずしりとのしかかり、そして凍らせていった。
13歳の時、護衛の交代の時間を見計らって、あの人の部屋に忍び込んだ。
でも、あの人は部屋にいなかった。
扉の向こうからくぐもった声が聞こえてきて、静かに扉に近づいていった。
少しだけ開いていた扉から、小さく灯りの残る父親の部屋が見えた。
父は、あの人を抱いていた。
時折、あの人のもののような、あ、とか、う、とか、小さい声が聞こえた。
「愛している、アマリア」と何度も繰り返しながら、腰を打ちつける父に、驚きが隠せなかった。
二人の関係は既に凍り付いてるのだと、子供ながらに思っていたからだ。
しかし、それよりも、父が抱き起すように自分の膝に持ち上げたあの人の美しい体に心を奪われた。
そして、違和感に気づいた。
あの人は、眠ったままだった。
手も足も、体さえ何の力も入っていない。それを父が思う様に揺さぶっていたのだ。
再び組み敷いたあの人の体に、父は液体を吐き出した。何度もそれをしごいて、最後の一滴まで絞り出してあの人の体を汚した。
父は、それまでの乱暴なまでの動きとは対照的に、あの人の体を丁寧にゆっくりと清めていった。
そして、寝間着を着せると、父はあの人を抱き寄せ、掛布の中に隠れてしまった。
全てを見終わった時、俺の下着もズボンも濡れていた。
いつ、それが溢れたのかさえ気づかないほどに、目が離せなかった。
護衛が廊下に立っていること、あの人が意識もないまま抱かれていることが奇妙で少しずつ調べ始めた。
護衛は夜から朝まで必ず立っていることがわかった。公爵家の守りとしては普通かもしれないが、外からの侵入よりも、中からの侵入に備えているような気がした。
そして、あの人の夜の習慣を調べたら、入浴やマッサージはいいとして、夜に必ず飲む紅茶が、日中のものがしまっている棚ではなく、鍵付きの棚から取り出したものを使用していることがわかった。
一度、忍び込んで、棚の鍵を開け、少量の茶葉を取り、自室で淹れて飲んだら、ソファに寝転んだまま、朝まで全く目覚めなかった。
この家は、何かおかしい。
あの人以外の全員が、この奇妙さを共有しているのに、それを誰ひとりおくびにも出さないことが余計に気味が悪かった。
寮に戻り、よく話していた平民の3つ上の女生徒の部屋の窓から侵入し、有無を言わせず押し倒した。
その女は慣れた様子で俺をすぐに招き入れた。
初めてのことなのに、無意識に動き続ける腰に陶酔していたら、女が言った。
「外に出して」と。
このまま中に吐き出してはいけないのだと思い、ずるっと引き出すと、女の腹に吐き出した。
なぜ、中に出してはいけないのかと聞いたら、まだ妊娠したくないなとけらけらと笑った。あなたが私を囲うとも思えないし、今だけ、楽しめればいいわ、とも言っていた。
女には言わなかった。あれだけ柔らかい肌とその温もりに酔わせてもらったのに、吐き出す瞬間に思い浮かべたのは、あの人だったことを。
その女は優しかった。俺の全く自分に向いていない気持ちをわかっていながら、俺に体を開き続けてくれた。
それに甘えて、ずるずると体だけ重ねてきた。
俺は狂人だ。
自分の母親に欲情する狂った男だと、吐き気がした。
それでも、あの人を思って、自慰をすることも、女の体を抱き続けることもやめられなかった。
あの人に子供として見つめられるのが嫌でたまらなかった。その視線が余計、俺を苦しめた。
おかしいのは自分だとわかっていても、俺はあの人にとって、子供ではいたくなかった。
あの人が俺の母であり、父に抱かれていることも、認めたくなかった。
寄宿学校で離れて過ごせば落ち着きを取り戻せるのに、邸宅に帰り、わずかな期間共に過ごせる間、秘められた夜の行為を隠れ見ることはやめられなかった。
夏の休暇で王都の邸宅に戻り、あの人のいない日々を過ごしていた。
街に出て、1人で過ごしていた時、突然一人の女に話しかけられた。
「あんたが、公爵家のぼっちゃん?」
声のした方を見ると、いかにも娼婦といった身なりの、まろびでそうなほど豊満ではだけた胸に茶色い髪がかかった、20代くらいの女がいた。
「何の用だ」
「そんな怖い顔しなさんなって。あんた、自分のこと知りたいと思わない?」
「女は間に合ってる」
「さすがだね、おぼっちゃん。でも、聞いといたほうがいいよ、あんたの母親のことだからね。ずっと、あんたを探してたんだよ、私は。ほら、これをご覧よ」
女が意味ありげに、ゆらゆらと振って見せたのは、カフスボタンだった。
それは、金の台座、そして、ブルーダイヤモンドの周りにオニキスが散りばめられていた。
とても街の娼婦の持てる品物ではなかった。そして、俺はその出所を言われるまでもなくわかっていた。
「ついておいで」
俺の変化に気づいた女は、身を翻して、スタスタと路地裏へと入っていった。
薄暗い路地の奥、そして更に小道に入り、二階に登り、ギシギシと金具の鳴るドアを開けると、そこにはベッドとテーブルと椅子しかない簡素な部屋があった。
俺の寮の部屋の半分ほどしかない狭い部屋だった。
「ここの壁は薄いけど、この時間は誰もいないから安心しなよ。誰も見ちゃいないさ」
女はベッドに座ると、黙って俺を見ていた。その口元がうっすらと笑っていることが不快でならなかった。
「それは、父のか。父はおまえのところに通っているのか」
「はははっ。こんなしなびたところになんか、公爵様が来るわけないだろ。公爵様がお客になってるんだったら、もう少しマシな家に引っ越してるさ。これはね、私の母さんのものだよ。私の母さんがあんたの父親と寝たんだ」
「いつ。あんたの母さんとやらはどこにいる。なぜ、父じゃなくて、俺に近づいた。金なら父はのほうが持ってるに決まってるだろう」
「消されちゃうからさ。私は金をもらうことなんかより、生きていたいからね」
「死んだのか、その女は…殺したのか、父が」
「欲を出したのが悪かったんだよ。身の丈以上のものを求めたりするから。昔から、母さんは頭が悪くて、男に騙されて、つけこまれて。清廉潔白な公爵様のスキャンダルになんかなれば、ただじゃすまないことなんて、わかりきってるのに」
「たかが娼婦の一人や二人、貴族にとってなんのスキャンダルにもなりはしない」
「…子供ができたんだよ、公爵様とうちの母さんの間にね。生まれるまでじっと隠してきた。そして、生まれて、黒目黒髪だったから、このカフスボタンの1つを持ってのこのこと公爵家に行ったんだ。1つは私に残していった。そこだけは賢かったね。母さんはそのまま帰ってこなかった。母さんを唆してた男達もついでに消えた。恐ろしい家だね、あんたのとこ」
何も言わなくなった俺に気づいたのか、女は笑って続けた。
「子供は殺されなかった。公爵家で生き延びた。それが、あんただよ。私はあんたの父親違いの姉さ」
「…あの人は確かに出産している」
「そうだね。あんたのほうが何ヶ月か先に生まれてると思うよ。母さん達はずっとどのタイミングで脅迫するか狙ってたからね。その子は死んだんじゃないのかい。公爵家が、夫人の産んだ子をみすみす手離すわけないじゃないか」
ゆっくりと、俺の中にくすぶっていた疑念がまるで点と点を結んで線になるように全てがつながっていった。
「何が望みだ」
「私はね、このおっかない物と秘密を手放したいんだよ。殺される恐怖に怯えながら生きるのはもう嫌なんだ。私をよそに逃してほしい。確かなルートで」
「わかった。手筈は整える。小切手も俺の金で出せるだけ準備する」
「あははっ。私はね、金持ちになりたいわけじゃないんだよ。娼婦としてやっていける、まだしばらくはね。適当な男と家庭が持てたらそれでいいし、一人で死んでも構わない。でも、誰かにそれを勝手に邪魔されるのが耐えられないんだよ」
「そうか。とりあえず、手持ちの金は置いていく。そのカブスボタンを渡してくれ」
「ほらよ」
女は雑な動きで投げてよこした。
「やっと、これを手放せるよ。私にとっちゃ呪いみたいなもんだから、厄介払いができてせいせいする」
「殺された男の中にあんたの父親がいたんじゃないのか」
「私の父親なんて、わかりゃしないよ。娼婦だよ。あんたのときだけ特別さ。避妊もしなかったし、その後客をしばらくとらなかったんだ。口や手で抜いて小金も稼いでたみたいだけど。そんで妊娠がわかったら全部ツケで暮らしてたよ。男達も大金が入るって騒いで、トンズラしたってみーんな散々に言ってたよ。私は何も言わなかった。消されたんだってわかったから。死にたくなかったんだ、私は」
当時のことを思い出しているのか、女は床を見つめてそれ以上何も言わなかった。
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「ああ」
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そのまま部屋を出た。女は何も言わなかったし、追ってもこなかった。
暗い路地を抜けて、大通りに戻ってきた。
そのまま、歩いた。ポケットに入れたカブスボタンに触れながら、ただぼんやりと歩き続けた。
やがて、夕焼けの赤さを背に負って、邸宅の裏から静かに中に入った。
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話し声がして、とっさに木の陰に隠れた。
「じゃあ、私はもう少し、孤児院に持っていく薬草を摘んでいるから、アンドリューは他の仕事へ行っていいわよ」
「奥様、働き詰めではないですか。お休みになってください」
「いいの、薬草のことをしているときが一番楽しいのだから。疲れたりなんかしないわ」
あの人と、使用人のアンドリューだった。
アンドリューは礼をして、屋敷の方へ向かった。あの人は、庭で薬草を摘んで、籠に入れていた。しばらくすると立ち上がってスカートの汚れを軽く払い、庭園と温室の間にあるベンチに腰かけた。
ベンチに置いてあったショールを肩にかけ、膝に乗せた籠をぼーっと見つめていた。
しばらくそのまま見ていたら、こくりこくりと頭が揺れ始め、それが止まると座ったまま眠ってしまったようだった。
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籠を握る手は既に力が入ってなかったから、すぐに取れた。そのままベンチに置いて、眠る彼女の前にかがんだ。
こんなに間近で、この人を見たのは初めてかもしれない。ふっと、甘い香りがした。フリージアだ。この人の…香りだ。
顔を近づけ、その無防備な唇に唇を重ねた。うっすらと開いていたそこから、舌を入れたら、ん、と小さな声がして身じろぎした。
思わず離れたが、目を覚ましてはいなかった。
彼女が起きないか少しだけ観察して、彼女の胸元に手を伸ばした。服の上から、その膨らみに触れると全身にぞわぞわした感覚が走った。庭園での動きやすさを優先したのか、腹部だけのコルセットをした襟ぐりの大きい服を着ていた彼女の胸元に手を滑り込ませるのは容易だった。
滑らかな白い肌。柔らかく、温かいその膨らみは手に吸い付くようだった。感触の違う先端が指先に触れたとき、あ…と甘い声が漏れた。
ここが固く立ち上がるまで触れたい。口に含んでその甘さを堪能したい。両手でその形が変わるほどに握り込んで、喘がせたい。
俺の下に組み敷きたい。張り詰めた楔を体の奥深くにねじ込んで、思うままに突き上げたい。そして、その奥深くに俺の証を刻み込みたい。
欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。この人が欲しくてたまらない。
「ヘンドリック…」
彼女がぽつりと声を出して、慌てて体を離した。
そして、踵を返して屋敷の正面に急いだ。玄関から血相変えて入ってきた俺を見て、使用人達は驚いていたが、構うな!と叫んで、自室にこもった。
すっかり勃ち上がっていた性器を取り出して、上下にしごいた。
「はぁっ…はぁっ…アマリア…アマリア…」
手のひらに大量に吐精して、そのベタつく白い液体を見る。
「必ず。必ず。手に入れる。アマリア、俺のアマリア」
脳裏に、手に、唇にアマリアの感触がある。
いつか必ず、俺の手でその体を開き、その中に俺を埋め込んでやる。
アマリアは俺の母ではない。俺が欲する唯一の女だ。
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え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか?
え? 私、アースさん専用の聖女なんですか?
魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。
※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。
※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。
※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。
R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。
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