どこまでも続く執着 〜私を愛してくれたのは誰?〜

あさひれい

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逃がさない

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「探せ!この屋敷の者たちも街へ出ろ!なんとしてでも、アマリアを連れ戻せ!」



執務室の机の上のものは既に薙ぎ払われ、ソファやローテーブルは部屋のそこかしこでひっくり返っている状態だった。

肩で息をしながら、乱れた髪を直しもせず、ヘンドリックは壁を殴りつけた。





アマリアと共に出かけた護衛が馬を走らせて戻ってきたのは一刻前のことだった。ちょうど馬車で王宮から戻ってきたヘンドリックと鉢合わせし、そこで、アマリアが行方不明になったことを告げられ、ヘンドリックはその足でアマリアが最後に向かった孤児院へ急いだ。



孤児院では、顔面蒼白のハンナがヘンドリックを見るなり、走り寄って土下座して謝罪した。同様に、護衛達と御者のダンカンも急いで集まり、ヘンドリックの足元にひれ伏した。



「どういうことだ!」



「奥様は、子供達と共に街へお菓子を買いに出られました。騎士達に子供達をみるように言いつけられ、菓子店に行かれたのですが、そのまま行方がわからなくなったそうです。申し訳ありません、私が遅れて行ったばかりに…奥様が…」



ヘンドリックは護衛達に目を向けた。



「申し訳ございません、旦那様。奥様が入られた菓子店に、しばらくして戻られなかったため中に入ったのですが、奥様の姿はありませんでした。孤児院に戻られたのではないかと、その道も確認しましたがいらっしゃいませんでした。辺りを捜索して、もう一度奥様を探しに菓子店に戻りましたところ、奥様は菓子を注文し、孤児院に戻るとおっしゃられてその店を出たそうなんですが、そこからの足取りが全くわかりません」



頭を下げ続ける護衛達の肩はわずかに震えていた。ヘンドリックから発せられるすさまじい威圧感に死の恐怖さえ感じていた。



「見つけろ。なんとしてでも、見つけてくるんだ」



「はっ!」



護衛達は一目散に駆け出して行った。既に辺りは真っ暗で、灯りなしに歩くことはままならないほどだった。

孤児院のシスターが入口近くに立ち尽くしているのが見えたが、ヘンドリックは軽く頭を下げ、馬車に戻った。

公爵邸に戻っているかもしれないとその道のりを馬車の窓から注意深く見ながら、その成果もなく公爵邸に到着した。

同乗していたハンナは、手の平に血がにじむほど握りしめ、ぽたぽたと涙をこぼしていた。



公爵邸に着くと、使用人達は不安そうな様子であちこち走り回っていた。

執事長が玄関まで出迎えると、ヘンドリックは首を振った。



「誘拐かもしれない。残りの騎士たちを連れてこい」



「かしこまりました」



ヘンドリックは執務室に戻り、上着を投げ捨て、乱暴に椅子に座った。頭を掻きむしり、机を壊さんばかりの力で殴りつけた。



そこへ、開かれたままの扉をノックする音がした。そちらを見ると、アマリアの部屋付きの侍女が立っていた。



「なんだ」



「旦那様…奥様の机にこれが…」



侍女が涙を浮かべて持ってきたものは、求婚したときにアマリアに渡したはずの指輪だった。アマリアはそれを片時も外すことなく、どの装いでも身に着けていた。

ヘンドリックは渡されたそれを呆然と眺めた。



「奥様の…ドレスの1つが…解体されていました」



「どういうことだ?」



「ドレスについていたはずの宝石が1つ残らずなくなっています。でも、ドレス1つだけなんです。他にたくさんドレスがあるのに、1つのドレスだけ、宝石が…」



ヘンドリックは素早く立ち上がり、階段を駆け上ると、アマリアの居室に向かった。そこには2人の侍女がいた。「こちらです」と持ってきたドレスは、とても古いものだった。



「こちらは、奥様が公爵邸にお越しなった際に身に着けていらっしゃったものだそうです。奥様がこれだけは残しておきたいとおっしゃって、ずっとここの奥に保管しておりました。このドレスの存在自体、奥様と部屋付きの侍女である私達くらいしか知らないことなんです」



ヘンドリックはその言葉の意味を理解して、拳を握りしめた。



「アマリアは、自分で宝石を取り、それを持って家を出たのか…」



「申し訳ございません。奥様のご様子の変化に気づくことができずに、誠に申し訳ございません」



侍女達が床にひれ伏した。ヘンドリックはそれを一瞥すると、居室をぐるりと見渡した。



「他に何か持って出ていないのか。どこに行くか、誰かと連絡を取ったことはないのか」



「いえ、他になくなったものはございません。奥様は今日、孤児院へ訪問されるときのいつもと同じ装いと荷物で出かけられました。どこか遠くに出られるような荷物は何も持っていらっしゃいません。ここ最近ではどなたとも会うお約束も、ご予定も立てられておりません」



ヘンドリックは目の前が闇に包まれていく感覚に襲われていた。

アマリアが、この腕からすり抜けていく。17歳で初めてアマリアを見た日から、25でアマリアを手に入れると決めた日から、アマリアの全てを把握してきた。

アマリアはどこまでも自分のものだと思っていた。

それなのに、アマリアは自分から逃げ出した。自分の意思で、ここを出て行ったのだ。

ヘンドリックを形作っていたものが全て壊れていくような音がした気がした。



「こんな、こんなはずではなかった…アマリア…」



主を失った部屋で、ヘンドリックは力なく呟いた。
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