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微かな平穏

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アマリアは生活の中に様々な変化を感じていた。

最も大きな変化は、コンラッドが寄宿学校に入学したため、家からいなくなってしまったことだった。

朝と夜の食事だけは共に過ごしていただけに、その空虚感は大きかった。

しかし、それ以外の接点のなさを、生活の変化があまりなかったことで気づかされることにもなった。



そして、ヘンドリックとは寄宿学校に入れることでの大きな衝突があったこと以外、問題は起きなかった。

むしろ、コンラッドが入学してからは、ヘンドリックが家にいる時間が多くなったように感じている。

アマリアの寂しさを埋めるためにいてくれているのではないかと、そんな気がしていた。

これまでとても頑なだった態度や、家での常に気を張った姿勢が和らいだような感じを受けた。

アマリアにはわからない、職務上のストレスもあったのかもしれない。

なににせよ、ヘンドリックとの関係が良い方向に変化していることは、アマリアには嬉しいことだった。



その夜、入浴を終えたアマリアはいつものようにハンナの淹れた紅茶を飲んでからベッドに入り、目を閉じた。

すると、続き扉が開き、ヘンドリックがアマリアの部屋へとやってきた。



アマリアは驚きのあまり、体を起こして、ヘンドリックを言葉もなく凝視した。

ヘンドリックが続き扉を開けてやってくるのは、コンラッドが生まれて以来6年ぶりのことだった。

アマリアは夢ではないかと、ヘンドリックがゆっくりと近づいてきて、ベッドに腰かけ、アマリアの頬に触れるまで信じられなかった。



「ヘンドリック?」



「なんでもないよ。気にせず、おやすみ」



「そんなことできません。どうされたのですか?」



アマリアの頬に振れていた手がゆっくりと離れていく。アマリアはそれをとても寂しく感じた。



「邪魔したね。ゆっくりおやすみ」



ベッドから立ち上がろうとするヘンドリックの腕をアマリアは慌ててつかんで引き留めた。



「お待ちください」



動きを止めたヘンドリックがアマリアの顔をゆっくりと見た。



「また来るよ。おやすみ、アマリア」



その瞳の奥に宿るものが、かつての熱を持っている気がして、アマリアはおずおずとその手を離した。

ヘンドリックはそのまま続き扉から自室へと帰っていった。



その日から、ヘンドリックはアマリアが就寝する時間になるとアマリアの部屋で過ごすことが多くなった。侍女達が準備したワインを飲みながら談笑することもあれば、ソファで二人寄り添い、静かな時の流れを堪能する日もあった。

それでも、ベッドを共にすることはなかったが、長く苦しい完全なすれ違いの時期を思えば、嬉しい変化だった。

そして、アマリアは自分の中にあるヘンドリックへの愛は変わらずにあるのだと確かめることもできた。

いつか、マクシミリアンが言った言葉を思い出していた。「ただ、そばにいるだけでいい」と。

アマリアはそう自分に言い聞かせ、眠りにつこうとした。遠くにいる息子がどのような日々を送っているのか、それを思いながらため息をつき、夜の闇の中に平穏な日々を過ごしていることを祈った。
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