どこまでも続く執着 〜私を愛してくれたのは誰?〜

あさひれい

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母として

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主治医がアマリアに公爵邸ならば歩いて移動したり、短い散歩をしてもいいと告げたのは、目を覚ましてから2か月ちょっと経ったときだった。

喜んだアマリアが真っ先に向かったのは、息子のコンラッドの部屋だった。

アマリアは、自分とヘンドリックの部屋の向かいに準備した子供部屋に急ぎ、そのドアを開けたが、そこはもぬけの殻だった。改装した壁紙が美しく輝いているだけで、家具が何一つなかった。



ハンナが慌てて続き、驚いて振り返ったアマリアに告げた。



「申し訳ありません、お伝え忘れておりましたが、コンラッド様のお部屋は反対側の端にございます」



「まぁ、そんな遠くに?」



「はい、コンラッド様が大変お元気で、よく泣かれまして、夜もお泣きになることがございますので、アマリア様をゆっくりお休みしていただくように、お部屋は移させていただきました。旦那様のご指示でございます」



「そうだったの…?私のせいで、みんなには迷惑をかけたわね。じゃあ、そちらに行きましょう」



アマリアははやる気持ちを抑えて、廊下を進み、部屋仕えの侍女がアマリアを見るとすぐにドアを開けた。



きょろきょろと部屋を見回し、ベビーベッドの中で寝ている存在に気づくと、満面の笑顔で歩を進めた。

そこには、黒髪の赤ん坊がすやすやと寝ていた。小さな白い服から出ている手を足も小さいのに、ぷくぷくと柔らかそうに膨らんでいて、アマリアは感動で涙を浮かべた。



「コンラッド…」



ようやく母として会うことがかなった息子に、手を伸ばそうとして、ハンナからそっと止められた。

小声で「今、おやすみになったばかりですので、眠らせておいたほうがよろしいかと」と言われ、アマリアは手をぱっとひっこめた。



「ごめんなさい、私、何もわかっていなくて…」



「座ってご覧になってはいかがですか?」



ハンナが椅子を持ってこようとしたが、アマリアは首を振った。



「いいの、こうして見ていたいから」



アマリアは眠り続ける息子を慈愛に満ちた顔で、飽きることなく眺め続けた。

部屋に控えていた乳母やハンナ達もその様子に涙を浮かべては、静かに見守り続けた。



しばらくして、部屋が小さくノックされ、侍従の一人がクリスティがアマリアに会いたがっていると告げ、アマリアはコンラッドの部屋を後にした。



クリスティは、中庭のガセポで静かに待っていた。



「アマリア、今日は顔色がよさそうね」



「はい、クリスティ様、すっかり体調もいいです」



「そう、よかったわ。どうぞ、掛けて」



アマリアはクリスティの向かいに座り、微笑み合った。侍女達が紅茶とお菓子を運んでくる。



「砂糖や油を使わないお菓子よ。胃にも優しいから安心して」



「まぁ、そんなお菓子があるんですの?」



「そうなの、料理人達がたくさん勉強して作ってくれたわ、あなたのために」



アマリアはそれを聞いて、胸が熱くなった。



「それに、ほら、見て?」



クリスティが指をさした先には、ウサギの形に刈り取られた木が何本もあった。



「あ、あれは」



「庭師がね、アマリアの部屋から見えるところに造ったのよ、ここからもとてもよく見えるけれど、かわいらしいでしょう?」



「はい、私、いつかこんな形の木がお庭にあったらと思っていたんです、すごい…夢のよう…」



「みんな、あなたが元気になることをずっと待っていたわ」



「‥‥っ」



アマリアはこぼれそうになる涙を手でおさえた。



「ご心配をおかけして、申し訳ございませんでした」



「ちがうわ、アマリア。あなたが謝ることは何一つないの。私達はね、あなたに感謝しているの。またあなたの笑顔を見られることに」



「…ありがとうございます」



「でも、決して無理はしないで。まだ完全に回復したわけではないから。公爵夫人としてのお仕事は私が今までのように行えるし、コンラッドのことは乳母がいるから心配しないで。時期を見て、少しずつ両方ともできるようになればいいから。でも、きっと元気になる頃には、夜会やお茶会の出席で大変でしょうけど」



クリスティがふふっと笑って、アマリアも笑顔になった。



「また元気になってもらわなくっちゃ。あなたはもう社交界の華なのよ。あなたがいなくては、流行の生まれないし、サロンも沈んだままだわ」



「はい、私のお役目も理解しております。流行を生み、消費を促し、領地の繁栄につなげます。必ず」



「ふふふ。でも、それはもう少し先ね。今のうちにたくさんデザイン画を描かせておかなくてはね」



クリスティと久しぶりにゆっくりとお茶をして、アマリアは心が落ち着いた気がした。





ただ、子を産み、母になったはずなのに、まるで子供を産む前のような生活であることに寂しさを感じていた。

しかしそれも、自分が元気になれば、全て解消するはず。母としてコンラッドに向き合える日がもうすぐそこまで来ていると信じていた。
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