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新しい日々

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アマリアが意識を取り戻し、安定して食事がとれるようになってから、公爵邸の空気も明るさを取り戻していった。

アマリアはまだ絶対安静で、部屋のベッドから起き上がって移動することはできなかったが、体を起こして過ごす時間も少しずつ増えていった。

家のどこか遠くから聞こえる赤ん坊の声に気づくと、「連れてきてほしい」と言ったが、「まだそのお体ではお抱きになれませんから」と難しい顔されて、息子に会うことが叶わなかった。



「お会いになると、抱きたくなりますから。その腕では、落としてしまわれるかもしれません」



主治医もハンナも棒のように細くなってしまった腕や体を案じていた。



「焦らずにまずはご自身の快復を優先されてください。大丈夫です。子供はどこにもいきませんから」



笑顔で説得され、アマリアもため息をつきながらも頷き、1日でも早く自分の腕で抱くのだと意欲を見せ始めていた。

しかし、アマリアには不安に思っていることが1つあった。

それは、アマリアが目を覚ました日以降、ヘンドリックとろくに顔を合わせることがなくなってしまったことだった。

ハンナやクリスティからは、アマリアの看病で相当の期間、公務ができなかったため、今はそれを取り戻すために朝も夜も働きづめになっているということだった。

そんなに働いて体を壊すのではないかと心配だった。

それでも、深夜には必ずアマリアの様子を見に部屋に来ていることを教えられると、嬉しくもあり、会いたい気持ちは強くなっていった。



ある夜、アマリアはふと目を覚ました。ベッドの端に誰か座っているのに気づいて、声をかけた。



「ヘンドリック…?」



暗い部屋の中で、陰がゆらりと動いた。



「すまない。起こしてしまったね」



アマリアはゆっくりと体を起こして、座った。ヘンドリックはすぐにクッションをいくつも背中に当ててくれ、ベッドヘッドに寄りかかるようにアマリアは体を倒した。

ヘンドリックは帰ってきたばかりだったのか、まだ正装のままだった。



「おかえりなさいませ。お会いできなくて寂しかったです」



「あぁ、私もだよ。すまない。アマリア」



「そんな、何度も謝らないでくださいませ。こうして毎日来てくださっていることをハンナも教えてくれたんです」



「…そうか」



どこか沈んだ声に気づき、アマリアは話題を明るく変えようと努めた。



「ヘンドリック、私達の赤ちゃんの名前を決めたのでしょう?私、長いこと眠っていたから、知らなくて。みんなも、旦那様から聞くのかよろしいのではと言って、教えてくれないの」



「…そうだったのか。コンラッドと名付けたよ」



「コンラッド、良い名前ですね。ありがとうございます」



「いや。アマリアも早く休みなさい」



すっと立ち上がってしまったヘンドリックにアマリアは慌てて、その手を握った。しかし、その手を振り払われて、アマリアは驚きのあまり身動きが取れなかった。



「すまない。もう、私は部屋に戻る。ハンナを呼ぶから、眠れるようお茶を飲むといい」



短く言い残して、ヘンドリックは続き扉から部屋に戻ってしまった。

程なくハンナがやってきて、アマリアの体調などを確認しているともう一人の侍女が紅茶のポットとカップを載せたトレーを持ってきた。

ハンナがテーブルでそれを注ぎ、アマリアのもとへ運んだ。

アマリアはそれを受け取り、深いため息をついた。



「ヘンドリックは、なんだか…いつもと違う気がするの…。コンラッドのこともたくさん話をしたかったのに、できなかったし、一緒に休みましょうと言う暇さえなかったわ」



「きっとお疲れなのだと思います。コンラッド様も今は乳母がつきっきりでおりますから、ご安心ください。それに、一緒に休まれるのは、まだお早いかと…」



アマリアはふとハンナの言葉の意味を考えて、顔を赤くした。



「ち、違うのよ!そんな意味じゃなくて、ただ一緒に横になって休んだらどうかしらと思っただけなの」



ハンナがくすくすと笑って、アマリアからカップを受け取る。



「わかりました。そういうことにしておきますね、奥様」



「もうっ、ハンナったら!」



「でも、奥様、しばらくは本当に無理ですからね。旦那様もきつく主治医から言われていますから。それに、男性としては同じ布団で寝ているのに何もできないとなるとお辛いのではないでしょうか」



「そう…なのかしら…。え、ねえ、ハンナ、もしかしてあなたそのような相手がいるの?」



「ふふふっ。それは秘密です、奥様」



アマリアはハンナと笑い合いながら、ぽかぽかと温まってきたこともあり、心地よい睡魔がやってきて、ゆっくりと眠りについた。

ハンナと廊下に控えていた侍女が下がった後、続き扉からガウン姿のヘンドリックが姿を現した。

ぐっすりと眠るアマリアの顔を見て、小さく息を吐くと、掛布の上に置かれたアマリアの手を握った。



「すまない…すまない、アマリア…」



闇に消え入りそうな声で、同じ言葉を繰り返し続けた。
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