どこまでも続く執着 〜私を愛してくれたのは誰?〜

あさひれい

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ヘンドリックの脚の怪我は完治するまでに2か月ほどかかった。

王宮としては、表立っては隠しているが第三皇子が原因で起きた怪我であることから、その間ヘンドリックの出仕を強く催促しなかった。ヘンドリックの状態が落ち着き、日常生活にも支障がなくなった頃にアマリアと共に王都の邸宅に戻った。

邸宅には、先に戻っていたクリスティとロビン、使用人達が二人が戻るのを待ち焦がれていた。



「長い間留守に致しました、姉上」



「おかえりなさい、ヘンドリック、アマリア」



「ただいま戻りました、クリスティ様。何から何までありがとうございました。お陰様で、ヘンドリック様の看病に専念させていただきまして、本当に感謝しております」



「なんだい、兄さん。怪我にかこつけて、アマリアとただいちゃついてただけなんじゃないか。これならもう、結婚式の後の蜜月はいらないんじゃないかな」



茶目っ気たっぷりに言うロビンをヘンドリックは鋭く睨んだ。



「おまえは、あの怪我をした後のことをよく知っているくせに、そんな軽口を叩くとは。どうやら、俺が留守の間に仕切っていたものを全て隅々まで確認し直さないといけないようだな」



「げっ、待ってよ兄さん。兄さんみたいに完璧にできるわけないじゃないか」



ぶつぶつと文句を言うロビンの背中を叩きながら、ヘンドリックは執務室へ行き、その様子をアマリアとクリスティはにこやかに見つめていた。



「さあ、アマリア、あなたも少し休みなさい」



「ありがとうございます、クリスティ様。あ、そうでした。今日から私の専属侍女になりましたハンナです。まだ若いのですけど、とても優秀なんですの」



「ハンナ、これからよくアマリアに仕えるのですよ」



「はい、クリスティ様。誠心誠意お仕えさせていただきます」



アマリアが後ろに控えていたハンナを紹介すると、クリスティは強い視線でハンナを見たが、ハンナはそれに毅然とした態度で応えた。それに満足したクリスティは、小さく頷くと自室へと戻っていった。



アマリアは、ハンナを伴って久しぶりの自分の部屋に戻ってきた。

公爵領でそこまで長く滞在する予定ではなかったため、気がつくと結婚式まであと3か月ほどになっていた。

結婚式自体はほとんどが手配済みであったし、ドレスも細かい調整を残すのみなので、さほど心配することはないのだが、やはり気持ちとしてはまだまだ落ち着かないところも多かった。



アマリアは、ハンナと他の侍女達に囲まれて、入浴を済ませて、普段着になり、自室のソファに深く腰掛けるとふーっと大きく息を吐いた。

ハンナが香りのよい紅茶をテーブルに置くと、アマリアは優しく微笑んだ。



「いい香りね、ハンナ。後で、孤児院の報告書を持ってきてくれる?こんなに長いこと不在にしてしまって、変わりがないか心配なの」



「承知致しました、奥様」



「あと、他の社会奉仕の記録もまとめて私のテーブルに置いておいてくれる?」



「奥様、どうぞ今夜はご無理をなさらないでください。明日、全て準備を整えておきますので」



「…そうね、ありがとう、ハンナ。少し焦っていたみたい。こんなに長いこと自分の職務を放棄してしまって、今更なのだけど…」



「これまでは特別な事情がございましたから…」



「ありがとう。大丈夫、ハンナの言う通りにするわ。今日は、晩餐もあるし、少し休むわね」



アマリアは、そう告げると、ハンナを下がらせた。

アマリアの心の中は、ヘンドリックが戻ってきた日からずっとざわついたままだった。

いくらそばでどれだけ看病を続けていても、昼夜問わず一緒にいられる時間が増えたとしても、その胸のざわめきがなくなることはなかった。

そして、その原因は何なのか、アマリアにはわかっていた。ヘンドリックにも決して話さなかった、自分の思いによるものだということを。



その夜、家族4人で晩餐を囲み、平穏で楽しい時間を過ごした後、アマリアは身を清めて、自室に戻った。

真珠色のガウンの胸元をぎゅっと握りしめ、続き扉を開けて、ヘンドリックの居室へと入っていった。

ヘンドリックはまだ部屋に戻っておらず、アマリアは窓のそばにたたずんでいた。



しばらくするとヘンドリックが部屋に戻り、アマリアの姿を確認すると笑顔になった。



「アマリアからこちらに来るなんて珍しいね」



そっとアマリアのそばまで来ると優しく抱き寄せた。



「お加減はいかがですか?」



「ありがとう。馬車での移動も全く支障はなかったよ。今日も執務をして、晩餐もして、ご覧、前のように戻ったと思わないかい?」



「主治医はなんと申しておりましたか?」



「ん?」



アマリアの真剣な声色にヘンドリックは顔を見下ろして瞳を覗き込んだ。



「もう、私を抱いても構わないと言っておりましたか?」



「…アマリア…」



その青い瞳に吸い込まれそうな感覚に襲われ、一瞬息をのんだ。息を吹き返すとともに、桃色の唇に荒々しくヘンドリックの唇が重なった。頬を両手でおさえ、舌を絡め、唾液をすすり合う音が淫靡に部屋に響いた。



「ああ、アマリア。すまなかった。醜い傷跡を見たくないのかと、私に抱かれたくないのかと思っていたんだ。我慢させていたんだね。私の体を気遣って…」



きつくアマリアを抱きしめると、その細い体を軽々と持ち上げてベッドへと運んでいく。

丁寧にその体をベッドに横たわらせると、真珠色のガウンの紐を解いた。ヘンドリックは目を瞠り、言葉をなくした。

真珠色のガウンの下は、アマリアの美しい裸身があるだけだった。ヘンドリックに抱かれ始めてから更に色香を増した体が惜しげもなくそこにさらされていた。

柔らかな膨らみの先にある桃色の突起は既にぷっくりと立ち上がっていて、ヘンドリックは喉を鳴らした。



「美しい…私を狂わせるただ一人の存在だよ、アマリア」



口の端を上げたヘンドリックは自身のガウンを脱ぎ去り、すぐに裸になった。そのままアマリアに覆いかぶさろうとすると、アマリアが上半身を起こして、それを避けた。



「アマリア?」



「横になってくださいませ」



アマリアがヘンドリックにベッドの中央を譲ったので、理解できないながらも、促されるままに横になり、アマリアの両腕をつかんで引き寄せようとした。

しかし、それもアマリアは首を振って拒絶した。



「どうしたんだい、アマリア。私を焦らしているのかな?」



「いいえ、私、ヘンドリック様が欲しいんです」



これまで聞いたこともないようなはっきりとした口調でつむぎだされた言葉にヘンドリックは返事に窮した。

その隙に、アマリアはヘンドリックの下半身に顔を寄せた。



「アマリア!」



躊躇なくそれを口に含むと、喉の奥までそれを咥え込んだ。金色の髪がヘンドリックの太ももをくすぐるようにゆらゆらと触れる。



「っ…」



アマリアに自分が奉仕することはあっても、アマリア自身が口淫をするのは初めてだった。

想像以上に淫らで、快感を引きずり出すような、そして己の征服欲を満たすようなその光景にヘンドリックは興奮を抑えきれなかった。

硬く勃ち上がったそれは、すぐにで吐き出したいほどに膨らみあがっていた。

そっと顔を離したアマリアの唇は唾液でいやらしく濡れていた。それを指で拭う仕草さえ、妖艶で美しかった。

陶酔するようにアマリアを眺めていると、そのままヘンドリックの腰にまたがり、勃ち上がったそれに手を添えて自身の奥へと導こうとしていた。



「アマリア、私が」



「ヘンドリック様、動いてはだめです」



ヘンドリックは自分のものがずぶずぶとアマリアの中へと入っていく様子を瞬きもせずに見つめていた。



「んんっ…」



アマリアが漏らした声に、呼び戻され、つながった場所からゆっくりと、くびれた腰、揺れる胸、すらりと伸びた首、快感を自分で呼び起こそうとする色づいた顔に視線を這わせた。

全てを自分の中に埋め込んでしまうと、アマリアは前後に腰を振り始めた。



「くっ…」



アマリアが自分で動くことは初めてだった。未だに清楚で少女のような外見なのに、ヘンドリックの上で細い腰を押し付けるように動く姿にヘンドリックは欲望をくすぐられているような錯覚を感じた。

この美しい少女を、妖艶なまでに開花させたのは、自分自身だと。

ヘンドリックなしではいられない体に丁寧に育て上げててきたのだと、満足感さえ覚えた。



「あっ…ああ…」



アマリアの腰をつかみ、動きに合わせて、奥に当たるように腰を動かすたびにアマリアの嬌声があがる。

金髪が灯りを反射してきらきらと輝く。それが体に沿って、膨らんだ胸の突起を見え隠れさせる様子が酷く煽情的だった。



もっと激しく動きたい。

ヘンドリックが上半身を起こし、体を反転させようと動いたとき、アマリアが覆いかぶさって、口を塞いだ。



「んっ…んん…」



舌を絡めながら、ヘンドリックの体が起き上がらないように上から体重をかけているようだった。

アマリアの体を押しのけることなど造作もなかったが、その積極的な様子にヘンドリックは喜びを禁じえなかった。その姿勢のまま、ベッドヘッドに寄りかかるようにずりあがり、アマリアの乳首を口に含んだ。



「あああっ」



高く鳴く様子に笑みを深くして、両手で胸をつかみ、乳首を刺激しては、アマリアの快感を引き出した。

アマリアは体を震わせながら、ヘンドリックの肩に両手をつき、腰を上下に動かしたり、前後に揺らしたり、激しい動きを始めた。



「はっ…ああっ…」



「アマリア、もう、達してしまう。腰を」



ヘンドリックの声に、アマリアは腰の動きを速めた。吐精を促すようにきゅうっと締め付けられて、ヘンドリックは苦し気に顔を歪めた。



「アマリア」



アマリアの腰を持ち上げようとつかんだ両手に、アマリアの両手が重なる。そして、奥を押し付けるように腰を更に激しく揺らした。



「あっ…うっ…」



こらえきれなくなったヘンドリックが腰を震わせて白濁をアマリアの中に吐き出した。



「はぁっ…ああっ…」



初めての感覚に体を震わせて、アマリアは感じ入っていた。

汗で濡れる白い体を、ヘンドリックは呆然と見つめていた。



「私…ヘンドリック様が、ほしいんです。全部、全部、私のものだから」



腰にまたがったまま、自分を見下ろす女性が、昨日までの、いや、先刻までと同一人物とは思えないほどだった。



「ヘンドリック様のものにならないまま、離れ離れになるのは、もういやなの」



悲し気な表情でその言葉を吐き出したことで、ヘンドリックはようやくその意図をはっきりと理解した。

つながったまま、アマリアの体を引き寄せた。額にキスをして、髪を撫でる。



「すまない。不安にさせたね。私の子を宿してくれるのかい?結婚式もしていないのに」



「結婚式なんて、いいんです。ドレスが着れなくなってもいい。ヘンドリック様のものにならずにいるくらいなら、そんなものどうだってよかったんだって、気づいたんです」



「ありがとう、アマリア。大丈夫。私はどこにも行かない。アマリアを残して死なないよ」



「…っ…うっ…」



肩を震わせて泣き出したアマリアを優しく抱きしめたまま、髪を撫で続けた。



「愛しているよ、アマリア。もうずっと前から、私はアマリアのものだ。そして、アマリアも私のものだ。何が二人を隔てても、それだけは変わらない」



アマリアは顔を覆いながら、何度も頷いた。

ヘンドリックはアマリアの中から自身を抜くと、そっとアマリアを横たわらせた。



「でも、そうだね。私も、あのまま死ぬのかと思った時の恐ろしい感覚は二度と味わいたくない」



「はい…私も…もう二度といやです…」



アマリアの頬をつたう涙を指で払い、アマリアにもう一度キスをした。角度を変えながらお互いの存在を確かめ合っているうちに、体が再び熱くなってくる。



「アマリア、君はいつでも、私を狂わせるね。もう止めることはできないよ。もう、引き返させてやることもできない」



「かまいません。私がそれを望んでいるのですから」



その言葉にヘンドリックは自身を奥まで一気に突き立てた。アマリアの背中がしなり、白い喉がさらされる。

両手の指を絡め、ぎゅっと握りしめる。



「全てを受け止めてくれるね、アマリア」



「はい。愛しています、ヘンドリック様」



二人は荒々しく唇を重ねた。お互いを欲する気持ちを確かめ合うように何度も何度も求め合った。
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