どこまでも続く執着 〜私を愛してくれたのは誰?〜

あさひれい

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帰還

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公爵家の玄関には、全ての使用人が並んでいた。庭師や門兵、公爵家に残っていた騎士団達も門から続く道に整列していた。

玄関前には、クリスティとアマリアが並んで待っていた。

門を見下ろせる位置にあるマクシミリアンの部屋からは、その窓辺に姿を確認できた。



やがて、先導の騎士たちの馬がつき、ヘンドリックを乗せた馬車が到着した。

アマリアは体が震えだすのを止めることはできなかった。

御者が鍵を外し、ドアを開けると、中から杖を持ったヘンドリックが姿を現した。



「ヘンドリック様っ!!」



アマリアは夢中で走りだし、ヘンドリックの前に立った。

馬車から降り立ったヘンドリックはまだ動きづらそうにしており、体がすっかり肉が落ちていた。

右脚を骨折し、その足には添え木が包帯で巻かれていた。右手で杖をつき、一歩一歩とようやく歩いていた。

顔の肉も削げ落ちたような状態だった。しかし、その瞳だけは、変わらず優しい色を保っていた。



「遅くなってしまったね…戻ったよ、アマリア」



片手を広げてアマリアを招く。アマリアは大粒の涙をこぼしながら、ヘンドリックの胸にそっと歩み寄った。



「心配しないで、力を入れて大丈夫だから。アマリア、不安にさせたね。抱きしめていいんだよ」



アマリアの背を撫でると、アマリアは声を上げて泣きながら、ヘンドリックの体を抱きしめた。



「ヘンドリック様っ…ヘンドリック様っ…」



「すまなかった。こんなに細くなってしまって。かわいそうに。苦労をかけたね」



「いいえ、いいえ、ヘンドリック様がご無事にお戻りなら、私にはそれ以上のものなどございませんっ」



「ありがとう、アマリア。私もここにやっと帰ってくることができて、ほっとしているよ。皆も心配をかけたね」



ヘンドリックが顔を上げて、使用人達を見回すと、目から涙を溢れさせている者たちばかりだった。

騎士団でさえ、列を乱さずにはいたものの、零れる涙をぬぐうこともなかった。



車椅子を押されて近づいてきたクリスティに気づいて、ヘンドリックは頭を下げた。



「姉上、ご迷惑をおかけいたしました。留守の間の仕事を任せっきりにしてしまって、さぞお疲れになったでしょう」



「いいのよ、ヘンドリック。無事でよかったわ。さぁ、もう二人とも部屋で休みなさい。食事は食べやすいものにするから、アマリアも今日からはきちんと食事をとるのですよ」



「はい、クリスティ様…ご迷惑をおかけいたしました…」



「二人とも、謝るのはもう終わりにして。私は何とも思っていないのだから」



笑顔のクリスティに促されて、ヘンドリックとアマリアは公爵邸の中へと進んだ。ヘンドリックが杖をついていることもあり、2階の居室ではなく、1階の客間を使用するように準備は万端だった。



侍女達が扉を開け、ヘンドリックが中へ進む。その後ろにアマリアが続いた。

客間は杖で移動しても支障ないように、できる限り物を置かないように変更した。そのため、ベッドと、ソファとローテーブルなど必要最低限だけになっていた。

ヘンドリックはベッドに腰かけ、上着を脱いだ。それを侍女に預け、アマリアに横に座るように促した。

アマリアが座ると、その体を引き寄せ、頭にそっとキスをした。

侍女たちは、何も言わずに頭を下げて、部屋を静かに出て行った。



「熱がなかなか下がらなくて、動くに動けない状態だったんだ」



「そうだったのですね…おそばにいられなくて申し訳ございませんでした」



「いや、いいんだ。あそこまで来るにも大変だったろうし、ロビンはまだ残って、修復作業に指示を出している。発見できたのが早くてよかった。道路が塞がったままでは、領民たちも往来ができなくなるし、下手に森を進むと賊にあったり、迷ったりするからね」



「ヘンドリック様に大事がなくてよかったです。私…私…ヘンドリック様がいなくなってしまったらっ…」



声を殺して泣き出したアマリアを横から両腕で抱きしめた。



「すまない、アマリア。こんな思いをさせるなんてね…でも、私もこのままここでは死ねないとずっと思っていたよ。こんな風にアマリアを一人残して逝くことはできないと、ずっとずっと思っていた」



「よかった…お戻りになられて本当によかったです…」



お互いの目を見つめ合い、そっと瞼を閉じて唇を重ねた。何度も何度もついばむようなキスを繰り返す。

ふとヘンドリックが力をこめた瞬間に激痛が走り、ヘンドリックが顔を歪めた。

異変に気付いたアマリアが体を離して、不安げに脚を見た。



「痛むのですか?」



「あぁ、まだ時折ね。せっかくアマリアに会えたのにアマリアを抱くことができるのは、少し先になりそうだね」



「だめですわ、ヘンドリック様。少し先だなんて。きちんと治るまで、そのような無理はさせられません」



「はははっ。それはまた長いことお預けをさせられることになりそうだね。まぁ、いい。アマリアがいるなら、もう十分だよ。おいで、アマリアも疲れたろう?一緒に休もう」



「はい、私、ずっとヘンドリック様のおそばで眠りたかったんです」



「私もだよ。アマリアが腕の中にいないことがこんなに辛いことだとは思わなかった」



アマリアは掛布を上げ、ヘンドリックが体を中に滑らせる手伝いをした。寝る間は、包帯と添え木を外したほうが楽だと言ったので、アマリアはそれらをゆっくりと丁寧に解き、巻きなおしてベッドサイドのローチェストの上に置いた。

ベッドの反対側に回り、自分の体をヘンドリックの左側にぴったりとひっつけて、ほっと息を吐いた。

アマリアの首の下に腕を差し込んだヘンドリックはその体を更に密着させるように力を込めた。



「しばらく、休もう。私も…とても疲れた…」



「はい。おやすみください、私も少しだけ…」



必死に張り詰めていた糸がぷつりと切れたように、二人は深い深い眠りについた。

その体はぴったりと寄り添い決して離れることはなかった。

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