どこまでも続く執着 〜私を愛してくれたのは誰?〜

あさひれい

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婚約式

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アマリア達の到着から2日後、スタンリール侯爵夫妻が到着した。アマリアは久しぶりの両親との対面に喜び、特に母であるミリアリアとはすっかり話し込んでしまい、その晩母のベッドで夜を明かしたほどだった。

父のエドワードは、その妻子の様子を微笑ましく見つめながら、自分はソファで横になって過ごした。



スタンリール侯爵夫妻とロビンは翌日、正式な話し合いの場を持った。そこには、ヘンドリックと父マクシミリアン、クリスティとアマリアも同席した。

アマリアの予想通り、両親はロビンを養子に迎えられることを大歓迎しており、エルザとの婚約は問題にさえのぼらなかった。

ロビンとエルザの結婚の時期がアマリア達と前後するので、忙しくなるわね、とミリアリアが嬉しそうに言ったほどだった。エルザも呼ばれ、両親は日頃、アマリアからの手紙でエルザの尽力にいつも感謝していることを述べて、侯爵家にロビンと共に来ることを歓迎すると伝えた。エルザは普段見せないような緊張した面持ちであったが、スタンリール侯爵夫妻の笑顔を見て、ようやく安堵したようだった。ロビンはその肩をそっと抱き寄せ、満足気に微笑んでいた。



その翌日から、招待客が続々と到着し、迎賓館も別館もにぎやかになっていった。市街でも、領主である公爵家の婚約とあって、お祝いの雰囲気で盛り上がっており、至るところで「公爵様の婚約に乾杯!」と言っては、杯を空ける男たちがいた。

マクシミリアンもヘンドリックも、いつも身を粉にしてくれる領民のために、婚約式に合わせて安息日を設け、パンやお菓子の振る舞いをすると宣言したので、領民たちは更に祝福の声を高らかに上げた。





婚約式は、ヘンドリックとアマリアが希望した通り、できるだけ簡素に行われることになった。

公爵邸の中庭で、教会の司祭からの祝福を受け、招待客と共に歓談し、食事を楽しみ、夜はホールでのダンスパーティを催した。

アマリアは美しい金髪を結い上げて、肩から片側におろしている。この数か月で可憐さに大人の色香が加わり、体のラインを美しくみせるマーメイドドレスも難なく着こなしていた。ヘンドリックはそれを目を細めて堪能し、招待客からの祝福を心から喜んだ。

アマリアもヘンドリックも何度か着替え、その度に、ドレスのデザインや使用されている宝石や刺繍が話題にのぼった。会場の奥に座っているクリスティが、そのデザイナーやサロンのことを話しているので、女性たちはクリスティのそばであれやこれやと楽しそうに話し込んでいた。

アマリアはヘンドリックとのダンスを楽しみ、父エドワードにもエスコートされて、社交デビュー以来のダンスを楽しんだ。



「アマリアがこんなに早く結婚するなんて、あの時は想像もしていなかったよ」



「本当ですわね、お父様。私、ずっとお父様とお母さまと一緒にいたいと涙ぐんでいましたもの」



「どうだい?その気持ちは変わったかい?」



「はい。私はヘンドリック様を心からお慕いしております。私の生涯をかけて、お支えしたいと思っております」



その言葉にエドワードはにこりと微笑み、アマリアをぎゅっと抱きしめた。やがて曲が終わり、エドワードはミリアリアとダンスを踊り始め、アマリアはそれをしばらく眺めた後、一人、中庭へ出た。



今日、この日から私は正式にヘンドリック様の婚約者となり、半年後には結婚をするのね…



風のように過ぎ去った日々を思い返しながら、ヘンドリックとの未来に思いをはせていた。

アマリアの肩に、ふわりとショールがかけられた。横を見ると、ヘンドリックが優しく微笑みながら立っていた。



「ヘンドリック様…」



「寒くないかい?」



「いえ、たくさん踊って、とても暑くなってしまいましたの」



「そうだね、私も久しぶりに叔母様たちやいとこたちと踊ったよ。私が前にした宣言のせいで踊れなくなった仕返しだと散々言われたよ、困ったものだね」



ヘンドリックがいたずらっぽくウインクをしてみせるのを、アマリアもくすくすと笑いながら応えた。



「私がヘンドリック様の封印を解いてしまったのですね。嬉しいですけれど、ヘンドリック様が色々な方と踊られるのをみると、胸がざわざわしてしまいますわ」



「そうかい?私のことなど少しも気にしていないように見えたよ。アマリアは胸の中を隠すのが上手だね」



「いいえ、そんなことありませんわ。ヘンドリック様にはどれだけ隠そうとしても、いつも全てわかってしまいますもの。今だって…そうでしょう?」



「ははは。アマリアには叶わないね。アマリアがかわいくヤキモチを焼いていたことに気づいていたよ。さぁ、おいで」



ヘンドリックが両腕を広げると、アマリアはその胸の中に飛び込んだ。広い胸がそれを受け止め、しっかりと細い体を包み込むように抱きしめてくれる。

アマリアはその背中に腕を回し、自分の想いを伝えるように精一杯力を込めた。



「今日はまだ始まりでしかない。それでも、アマリアを正式に婚約者として宣言できたことを心から嬉しく思うよ。早く結婚式を迎えたいね」



「私も、早くヘンドリック様と本当の夫婦になりたいです」



ヘンドリックがアマリアの顎をすくい、深く唇を重ねた。

名残惜し気に離れて、アマリアの青い瞳を覗き込む。



「アマリア、私を選んでくれてありがとう。必ず幸せにする」



「私を選んでくださったのは、ヘンドリック様ですわ。ありがとうございます。私、もうとても幸せを頂いています」



「私に誓ってくれるかい?私から決して離れないと」



「もちろんです。私は決して、決してヘンドリック様から離れません。どうか、ヘンドリック様も私を離さないでくださいませ」



「あぁ、誓うよ。私の全てはアマリアのためにある。愛しているよ、アマリア」



「私も、愛しています」





夜の闇に紛れて誓った言葉には少しの迷いも、ためらいもなかった。

ただひたすらにお互いを求め、愛し、慈しんでいる者同士の幸せなひとときだった。



二人を陰からこっそりと見守る使用人達やマクシミリアンやクリスティ達も、念願叶ってようやくここまで愛を育んできたことに安堵しつつ、胸にこみ上げる温かいものに心地よく包まれていた。

ヘンドリックとアマリアの未来を阻むものなど、何もあるはずはないと、全ての者たちがそう思っていた。



少しずつ、二人の歯車が狂い始め、その宿命がいびつに歪んでいく気配に気づく者は誰もいなかった。
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