どこまでも続く執着 〜私を愛してくれたのは誰?〜

あさひれい

文字の大きさ
上 下
26 / 103

婚約式

しおりを挟む
アマリア達の到着から2日後、スタンリール侯爵夫妻が到着した。アマリアは久しぶりの両親との対面に喜び、特に母であるミリアリアとはすっかり話し込んでしまい、その晩母のベッドで夜を明かしたほどだった。

父のエドワードは、その妻子の様子を微笑ましく見つめながら、自分はソファで横になって過ごした。



スタンリール侯爵夫妻とロビンは翌日、正式な話し合いの場を持った。そこには、ヘンドリックと父マクシミリアン、クリスティとアマリアも同席した。

アマリアの予想通り、両親はロビンを養子に迎えられることを大歓迎しており、エルザとの婚約は問題にさえのぼらなかった。

ロビンとエルザの結婚の時期がアマリア達と前後するので、忙しくなるわね、とミリアリアが嬉しそうに言ったほどだった。エルザも呼ばれ、両親は日頃、アマリアからの手紙でエルザの尽力にいつも感謝していることを述べて、侯爵家にロビンと共に来ることを歓迎すると伝えた。エルザは普段見せないような緊張した面持ちであったが、スタンリール侯爵夫妻の笑顔を見て、ようやく安堵したようだった。ロビンはその肩をそっと抱き寄せ、満足気に微笑んでいた。



その翌日から、招待客が続々と到着し、迎賓館も別館もにぎやかになっていった。市街でも、領主である公爵家の婚約とあって、お祝いの雰囲気で盛り上がっており、至るところで「公爵様の婚約に乾杯!」と言っては、杯を空ける男たちがいた。

マクシミリアンもヘンドリックも、いつも身を粉にしてくれる領民のために、婚約式に合わせて安息日を設け、パンやお菓子の振る舞いをすると宣言したので、領民たちは更に祝福の声を高らかに上げた。





婚約式は、ヘンドリックとアマリアが希望した通り、できるだけ簡素に行われることになった。

公爵邸の中庭で、教会の司祭からの祝福を受け、招待客と共に歓談し、食事を楽しみ、夜はホールでのダンスパーティを催した。

アマリアは美しい金髪を結い上げて、肩から片側におろしている。この数か月で可憐さに大人の色香が加わり、体のラインを美しくみせるマーメイドドレスも難なく着こなしていた。ヘンドリックはそれを目を細めて堪能し、招待客からの祝福を心から喜んだ。

アマリアもヘンドリックも何度か着替え、その度に、ドレスのデザインや使用されている宝石や刺繍が話題にのぼった。会場の奥に座っているクリスティが、そのデザイナーやサロンのことを話しているので、女性たちはクリスティのそばであれやこれやと楽しそうに話し込んでいた。

アマリアはヘンドリックとのダンスを楽しみ、父エドワードにもエスコートされて、社交デビュー以来のダンスを楽しんだ。



「アマリアがこんなに早く結婚するなんて、あの時は想像もしていなかったよ」



「本当ですわね、お父様。私、ずっとお父様とお母さまと一緒にいたいと涙ぐんでいましたもの」



「どうだい?その気持ちは変わったかい?」



「はい。私はヘンドリック様を心からお慕いしております。私の生涯をかけて、お支えしたいと思っております」



その言葉にエドワードはにこりと微笑み、アマリアをぎゅっと抱きしめた。やがて曲が終わり、エドワードはミリアリアとダンスを踊り始め、アマリアはそれをしばらく眺めた後、一人、中庭へ出た。



今日、この日から私は正式にヘンドリック様の婚約者となり、半年後には結婚をするのね…



風のように過ぎ去った日々を思い返しながら、ヘンドリックとの未来に思いをはせていた。

アマリアの肩に、ふわりとショールがかけられた。横を見ると、ヘンドリックが優しく微笑みながら立っていた。



「ヘンドリック様…」



「寒くないかい?」



「いえ、たくさん踊って、とても暑くなってしまいましたの」



「そうだね、私も久しぶりに叔母様たちやいとこたちと踊ったよ。私が前にした宣言のせいで踊れなくなった仕返しだと散々言われたよ、困ったものだね」



ヘンドリックがいたずらっぽくウインクをしてみせるのを、アマリアもくすくすと笑いながら応えた。



「私がヘンドリック様の封印を解いてしまったのですね。嬉しいですけれど、ヘンドリック様が色々な方と踊られるのをみると、胸がざわざわしてしまいますわ」



「そうかい?私のことなど少しも気にしていないように見えたよ。アマリアは胸の中を隠すのが上手だね」



「いいえ、そんなことありませんわ。ヘンドリック様にはどれだけ隠そうとしても、いつも全てわかってしまいますもの。今だって…そうでしょう?」



「ははは。アマリアには叶わないね。アマリアがかわいくヤキモチを焼いていたことに気づいていたよ。さぁ、おいで」



ヘンドリックが両腕を広げると、アマリアはその胸の中に飛び込んだ。広い胸がそれを受け止め、しっかりと細い体を包み込むように抱きしめてくれる。

アマリアはその背中に腕を回し、自分の想いを伝えるように精一杯力を込めた。



「今日はまだ始まりでしかない。それでも、アマリアを正式に婚約者として宣言できたことを心から嬉しく思うよ。早く結婚式を迎えたいね」



「私も、早くヘンドリック様と本当の夫婦になりたいです」



ヘンドリックがアマリアの顎をすくい、深く唇を重ねた。

名残惜し気に離れて、アマリアの青い瞳を覗き込む。



「アマリア、私を選んでくれてありがとう。必ず幸せにする」



「私を選んでくださったのは、ヘンドリック様ですわ。ありがとうございます。私、もうとても幸せを頂いています」



「私に誓ってくれるかい?私から決して離れないと」



「もちろんです。私は決して、決してヘンドリック様から離れません。どうか、ヘンドリック様も私を離さないでくださいませ」



「あぁ、誓うよ。私の全てはアマリアのためにある。愛しているよ、アマリア」



「私も、愛しています」





夜の闇に紛れて誓った言葉には少しの迷いも、ためらいもなかった。

ただひたすらにお互いを求め、愛し、慈しんでいる者同士の幸せなひとときだった。



二人を陰からこっそりと見守る使用人達やマクシミリアンやクリスティ達も、念願叶ってようやくここまで愛を育んできたことに安堵しつつ、胸にこみ上げる温かいものに心地よく包まれていた。

ヘンドリックとアマリアの未来を阻むものなど、何もあるはずはないと、全ての者たちがそう思っていた。



少しずつ、二人の歯車が狂い始め、その宿命がいびつに歪んでいく気配に気づく者は誰もいなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

処理中です...