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新しい家族
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公爵邸に着いて、馬車を降りると使用人が一同に玄関前に並んでいた。
馬車をつけたところまで出迎えてくれたのは、社交デビューの夜にスタンリール侯爵家に足を運んでくれたレイモンドと若い執事だった。
アマリアは見知った顔に少しだけ緊張が解れ、笑顔になる。
「おかえりなさいませ、旦那様。ようこそお越しくださいました、奥様」
「あぁ、戻った。元気そうだな、」
「大変、ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです」
「これはこれは、なんともお優しいお言葉をありがとうございます。旦那様と奥様が並び立つお姿もすっかり様になりましたな」
「おまえに旦那様と連呼されるとまだこそばゆいがな」
「何をおっしゃいますやら。もうご当主として立派に務められているというのに」
かっかっかっと笑うレイモンドの言葉にアマリアは頷き、隣に立つヘンドリックを見上げる。いつもはほとんど表情を変えずに淡々となんでもこなしてしまうヘンドリックがこうして、軽い冗談を言ったり、自然体で誰かといるのは珍しいことだった。
「奥様、ご紹介いたします。こちら、私の愚息であります、チャールズと申します。こちらで執事見習いをしております」
「奥様、初めてお目にかかります。チャールズです。どうぞ今後ともよろしくお願いいたします」
「まぁ、そうなのね。こちらこそどうぞよろしくお願い致します」
にこりとアマリアが微笑むと、その場にいた者全員が温かく微笑む。
「奥様はいつでもお変わりなく、フリージアのような可憐さでございますな」
そのレイモンドの言葉にヘンドリックも頷く。アマリアの肩をそっと抱き寄せた。
「そうだろう?こうして、私の寵愛を独占していても、何も変わらないのがアマリアだ」
「ヘンドリック様っ」
いくら身内でもアマリアは恥ずかしくてうつむいてしまう。
三人は笑いながら、アマリアに邸宅内へと歩を進めるように促した。
玄関前には30人ほどの使用人が待っていた。これでも本館だけでこの人数らしい。王都からも専属侍女のエルザやアマリア専用御者のダンカン、同様にヘンドリックの執事達も来ているので、本館で働く人数は増える。
更に、今回は別館と迎賓館での接待もあるため、公爵領で新たに使用人を雇用したりしたようだ。
下女に近い仕事は新しく採用した不慣れな者でもなんとかなるが、直接お迎えする方々と接する重要な役割を持つ使用人はいくらいても不足はないので、王都の邸宅からも後からベテランの使用人達が来る予定である。
アマリアが一人一人に挨拶をしようとしていたら、ヘンドリックに手を引かれて、中へと連れていかれた。
「彼女たちとはまた話す機会はあるから。父上に会いに行こう」
「そうですわね。申し訳ございません。まず、最初にご挨拶しなければならないですのに」
「いや、そういう誰に対しても変わらず真摯であろうとする姿は、アマリアの美徳だよ」
微笑み合う二人を背にして、レイモンドとチャールズは笑みを深くして、ヘンドリックの父であるマクシミリアンが待つ部屋へと急いだ。
マクシミリアンの居室は、邸宅の2階のほぼ中央にあり、邸宅の自慢の中庭を一望できる絶好の場所である。
中庭だけでなく、その奥には公爵領が見渡せるので、病に伏せ、以前ほど出歩けなくなったマクシミリアンのために改装した場所でもあった。
レイモンドが扉をノックして、名乗り、中から声がかかると、静かにその扉を開けた。
マクシミリアンの部屋はとても広いが、調度品の類は最小限に抑えられている。
毎日掃除をしていても埃はどうしても溜まるため、部屋の空気とマクシミリアンの肺のために装飾品は置かないことになっていた。
それでも、壁には大きな肖像画かいくつも掲げられていた。
マクシミリアンは、部屋の中央に置かれたソファに腰かけていた。にこやかに微笑みながら、入室したヘンドリックとアマリアを見つめていた。
「よく来たね。座ったままですまない。立ったり、座ったりが億劫でね。家族だから許してくれ」
「お義父様、ご挨拶がこのように遅れて大変申し訳ございません。アマリアでございます」
淑女の礼をするアマリアに、優しく何度も小さく頷く。
「思っていた通りの可愛らしいお嬢さんだ。ヘンドリックも果報者だね。いい婚約者を迎えられて」
「はい、父上。アマリアはとてもよくやってくれています」
ヘンドリックは誇らしげに言いながら、マクシミリアンの向かいのソファに進み、アマリアを座らせてから自分も腰かけた。
ほどなく、侍女が紅茶をワゴンで持ってきて、それぞれの前に置いた。
「私がこんな体でなければ、王都での婚約式ができたのに申し訳ないね。スタンリール侯爵ご夫妻にもご足労をおかけしてしまって」
「そんな、とんんでもないことでございます。わざわざ両親までご招待くださって、ありがとうございます。公爵邸に滞在できるなんて、本当に名誉なことでございます」
「はははっ。そんなに固くならないで。もう引退した身だ。それに、病を得てからは、もう前のようにはなかなかいかなくてね。十分なもてなしができるかどうか」
「お義父様、そんなお気遣いくださらなくても…」
とその時、ばたばたと激しい足音がして、マクシミリアンの部屋の扉がバタンと開かれた。
「父上、兄上、ただいま戻りました!」
突然現れた金髪碧眼の美青年にアマリアはあんぐりと口を開けてしまった。
どなた…?父上、兄上とおっしゃったわ、この方…
「ロビン、ノックくらいしなさい」
マクシミリアンが呆れたように発した言葉でアマリアは思い至り、急いで立ち上がって礼をした。
「ロビン様、初めまして、アマリアと申します」
「初めまして、アマリア。ロビンだよ。そう、緊張しないで」
平民のような服装でも、立居振る舞いは毅然とした生粋の貴族である。そのアンバランスさがアマリアにはとても不思議に思えた。
ロビンは部屋を見回して、テーブルのそばの椅子を持ち上げると、マクシミリアンの右側に椅子を置き、座った。
「はぁー長い旅でした。ありがとうございました、またこんなに色々と学ばせてくださって、本当に充実してましたよ。これからしばらくは出られないと思うと、これまで以上に燃えました」
にこにことマクシミリアンとヘンドリックを見ながら話すロビンは、2人と全く似ておらず、アマリアはしげしげと見比べてしまった。
「ねぇ、兄さん、俺とアマリアって、本当の兄妹みたいだね、こうして見ると。アマリア、話は聞いてる。俺は侯爵家の養子になるつもりだよ。いつでも兄さんって呼んでくれていいからね。きっと周りはみんな、本当の兄妹だと勘違いするんじゃないかな」
人懐っこい笑顔でアマリアに楽しげに話しかける。
アマリアも、以前ヘンドリックが提案していたことを覚えていたが、本当にそれが実現するのか心配だったところもあり、ロビンの屈託のない笑顔を見て、安堵した。
「ありがとうございます。スタンリールのために申し訳ございません。とても助かります」
「ううん、全然。どっかの王女様とかとひっつけようと企まれたり、ほんとに面倒でさ。やっと腰を落ち着けられるよ、こちらこそありがとう」
公爵家の次男とは思えないほど、垣根のない話し方にアマリアはふふと笑ってしまった。
きっと、この人がスタンリール侯爵家に入れば、あの家はもっともっと輝かしく、にぎやかで楽しい家になると思わずにはいられなかった。
「ロビン、そのくらいにしておけ。アマリアも着いたばかりで疲れてるんだ。あとは晩餐の時に話すとしよう。父上、お疲れでしょう。しばらくお休みください」
「そうだな、みんなに会えてよかったよ。また後でな」
こうして新しい家族との交流は和やかに始まった。
夕刻前に、別で移動していたクリスティも無事に到着し、その夜は公爵家全員で晩餐を囲むことができた。
アマリアはこの家族の一員になれることを、心から感謝した。
馬車をつけたところまで出迎えてくれたのは、社交デビューの夜にスタンリール侯爵家に足を運んでくれたレイモンドと若い執事だった。
アマリアは見知った顔に少しだけ緊張が解れ、笑顔になる。
「おかえりなさいませ、旦那様。ようこそお越しくださいました、奥様」
「あぁ、戻った。元気そうだな、」
「大変、ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです」
「これはこれは、なんともお優しいお言葉をありがとうございます。旦那様と奥様が並び立つお姿もすっかり様になりましたな」
「おまえに旦那様と連呼されるとまだこそばゆいがな」
「何をおっしゃいますやら。もうご当主として立派に務められているというのに」
かっかっかっと笑うレイモンドの言葉にアマリアは頷き、隣に立つヘンドリックを見上げる。いつもはほとんど表情を変えずに淡々となんでもこなしてしまうヘンドリックがこうして、軽い冗談を言ったり、自然体で誰かといるのは珍しいことだった。
「奥様、ご紹介いたします。こちら、私の愚息であります、チャールズと申します。こちらで執事見習いをしております」
「奥様、初めてお目にかかります。チャールズです。どうぞ今後ともよろしくお願いいたします」
「まぁ、そうなのね。こちらこそどうぞよろしくお願い致します」
にこりとアマリアが微笑むと、その場にいた者全員が温かく微笑む。
「奥様はいつでもお変わりなく、フリージアのような可憐さでございますな」
そのレイモンドの言葉にヘンドリックも頷く。アマリアの肩をそっと抱き寄せた。
「そうだろう?こうして、私の寵愛を独占していても、何も変わらないのがアマリアだ」
「ヘンドリック様っ」
いくら身内でもアマリアは恥ずかしくてうつむいてしまう。
三人は笑いながら、アマリアに邸宅内へと歩を進めるように促した。
玄関前には30人ほどの使用人が待っていた。これでも本館だけでこの人数らしい。王都からも専属侍女のエルザやアマリア専用御者のダンカン、同様にヘンドリックの執事達も来ているので、本館で働く人数は増える。
更に、今回は別館と迎賓館での接待もあるため、公爵領で新たに使用人を雇用したりしたようだ。
下女に近い仕事は新しく採用した不慣れな者でもなんとかなるが、直接お迎えする方々と接する重要な役割を持つ使用人はいくらいても不足はないので、王都の邸宅からも後からベテランの使用人達が来る予定である。
アマリアが一人一人に挨拶をしようとしていたら、ヘンドリックに手を引かれて、中へと連れていかれた。
「彼女たちとはまた話す機会はあるから。父上に会いに行こう」
「そうですわね。申し訳ございません。まず、最初にご挨拶しなければならないですのに」
「いや、そういう誰に対しても変わらず真摯であろうとする姿は、アマリアの美徳だよ」
微笑み合う二人を背にして、レイモンドとチャールズは笑みを深くして、ヘンドリックの父であるマクシミリアンが待つ部屋へと急いだ。
マクシミリアンの居室は、邸宅の2階のほぼ中央にあり、邸宅の自慢の中庭を一望できる絶好の場所である。
中庭だけでなく、その奥には公爵領が見渡せるので、病に伏せ、以前ほど出歩けなくなったマクシミリアンのために改装した場所でもあった。
レイモンドが扉をノックして、名乗り、中から声がかかると、静かにその扉を開けた。
マクシミリアンの部屋はとても広いが、調度品の類は最小限に抑えられている。
毎日掃除をしていても埃はどうしても溜まるため、部屋の空気とマクシミリアンの肺のために装飾品は置かないことになっていた。
それでも、壁には大きな肖像画かいくつも掲げられていた。
マクシミリアンは、部屋の中央に置かれたソファに腰かけていた。にこやかに微笑みながら、入室したヘンドリックとアマリアを見つめていた。
「よく来たね。座ったままですまない。立ったり、座ったりが億劫でね。家族だから許してくれ」
「お義父様、ご挨拶がこのように遅れて大変申し訳ございません。アマリアでございます」
淑女の礼をするアマリアに、優しく何度も小さく頷く。
「思っていた通りの可愛らしいお嬢さんだ。ヘンドリックも果報者だね。いい婚約者を迎えられて」
「はい、父上。アマリアはとてもよくやってくれています」
ヘンドリックは誇らしげに言いながら、マクシミリアンの向かいのソファに進み、アマリアを座らせてから自分も腰かけた。
ほどなく、侍女が紅茶をワゴンで持ってきて、それぞれの前に置いた。
「私がこんな体でなければ、王都での婚約式ができたのに申し訳ないね。スタンリール侯爵ご夫妻にもご足労をおかけしてしまって」
「そんな、とんんでもないことでございます。わざわざ両親までご招待くださって、ありがとうございます。公爵邸に滞在できるなんて、本当に名誉なことでございます」
「はははっ。そんなに固くならないで。もう引退した身だ。それに、病を得てからは、もう前のようにはなかなかいかなくてね。十分なもてなしができるかどうか」
「お義父様、そんなお気遣いくださらなくても…」
とその時、ばたばたと激しい足音がして、マクシミリアンの部屋の扉がバタンと開かれた。
「父上、兄上、ただいま戻りました!」
突然現れた金髪碧眼の美青年にアマリアはあんぐりと口を開けてしまった。
どなた…?父上、兄上とおっしゃったわ、この方…
「ロビン、ノックくらいしなさい」
マクシミリアンが呆れたように発した言葉でアマリアは思い至り、急いで立ち上がって礼をした。
「ロビン様、初めまして、アマリアと申します」
「初めまして、アマリア。ロビンだよ。そう、緊張しないで」
平民のような服装でも、立居振る舞いは毅然とした生粋の貴族である。そのアンバランスさがアマリアにはとても不思議に思えた。
ロビンは部屋を見回して、テーブルのそばの椅子を持ち上げると、マクシミリアンの右側に椅子を置き、座った。
「はぁー長い旅でした。ありがとうございました、またこんなに色々と学ばせてくださって、本当に充実してましたよ。これからしばらくは出られないと思うと、これまで以上に燃えました」
にこにことマクシミリアンとヘンドリックを見ながら話すロビンは、2人と全く似ておらず、アマリアはしげしげと見比べてしまった。
「ねぇ、兄さん、俺とアマリアって、本当の兄妹みたいだね、こうして見ると。アマリア、話は聞いてる。俺は侯爵家の養子になるつもりだよ。いつでも兄さんって呼んでくれていいからね。きっと周りはみんな、本当の兄妹だと勘違いするんじゃないかな」
人懐っこい笑顔でアマリアに楽しげに話しかける。
アマリアも、以前ヘンドリックが提案していたことを覚えていたが、本当にそれが実現するのか心配だったところもあり、ロビンの屈託のない笑顔を見て、安堵した。
「ありがとうございます。スタンリールのために申し訳ございません。とても助かります」
「ううん、全然。どっかの王女様とかとひっつけようと企まれたり、ほんとに面倒でさ。やっと腰を落ち着けられるよ、こちらこそありがとう」
公爵家の次男とは思えないほど、垣根のない話し方にアマリアはふふと笑ってしまった。
きっと、この人がスタンリール侯爵家に入れば、あの家はもっともっと輝かしく、にぎやかで楽しい家になると思わずにはいられなかった。
「ロビン、そのくらいにしておけ。アマリアも着いたばかりで疲れてるんだ。あとは晩餐の時に話すとしよう。父上、お疲れでしょう。しばらくお休みください」
「そうだな、みんなに会えてよかったよ。また後でな」
こうして新しい家族との交流は和やかに始まった。
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