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一生俺と一緒にいてください!
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「おかえりー」
玲奈さんの声がリビングから聞こえる。今日は朝から調子が良さそうだったし、返って来た声も元気そうで少しほっとした。
でかい花束は俺の巨体をもってしても隠しきれないので、そのままリビングまで突き進む。
キッチンでコーヒーを入れているらしい玲奈さんがこちらを向くのを、心臓をばくばくさせながら待つ。
「お外暑かった?コーヒー淹れちゃったけど、氷入れてアイスに…」
くるっと振り返った玲奈さんが固まる。口をぱかっと開けている姿さえなんて可愛らしくて、愛おしいんだろうか。
「玲奈さん」
俺が一歩近づくと、玲奈さんの大きな目が潤みだした。それを見て、俺の目頭も熱くなったけど、ここは気合でぐっとこらえた。
「俺にとって、玲奈さんと出会えたことも、こうして恋人でいられることも、奇跡です。それだけで、十分幸せだと思っています」
そっと玲奈さんの片手をとる。玲奈さんが俺を見上げている。ぽろっと涙が一筋落ちた。
「俺なんて玲奈さんには分不相応だってこともわかってます。でも、玲奈さんが俺に愛想つかすまでそばにいさせてください。俺に、これから先もずっと玲奈さんを守らせてください」
玲奈さんがつないだ手をぎゅっと握り返してくれた。
「愛想なんか…つかすわけないじゃない」
俺の胸にぎゅうと抱きついてきてくれた玲奈さんを花束を抱えたまま抱きしめ返す。
「こんな面倒なのに…私で本当にいいの?」
「玲奈さんじゃないとだめなんです」
「ありがとう。本当にありがとう。すっごく嬉しい」
その言葉を聞いて、俺は体中から張り詰めていた緊張がゆるゆると解けていくのを感じた。
「こんなに大きな花束、内緒で準備しててくれたの?」
「…はい、お恥ずかしながら」
ふふっと笑う玲奈さんに、そっと渡すと玲奈さんは涙を拭いながらそれを見つめていた。
「きっと、私、この瞬間を一生忘れない。ありがとう、くまちゃん」
「俺も、この気持ちを忘れません。玲奈さんを一生大事にします」
俺が身をかがめると、玲奈さんもそっと目を閉じた。優しく触れるだけのキスをして、もう一度抱きしめた。
自分の人生にこんな瞬間が訪れるなんて、1年前の俺には全く想像もしていなかった。
「あの…玲奈さん…俺、まだ指輪を準備できていなくて。その、どれがいいのか全然わからなくて」
しどろもどろになる俺を不思議そうに見上げる玲奈さんから、視線をそらして頭をかいた。
「それで、その、玲奈さんが気に入ったものをプレゼントしますので、好きなものを選んでほしいんです。あ、お金のことは気にしないでください。ちゃんと貯蓄してきましたから!」
最後だけは気合を入れて向き合って言ったのに、玲奈さんはぽかんとした後けらけらと笑い出した。
「あはは。そんなこと気にしてたの?くまちゃんらしくてかわいいねぇ」
玲奈さんが俺の手を引いてソファへと移動した。花束は抱いたままでにこにこしている。
膝に乗せたいところだが、多分、乗せたら花束のせいで玲奈さんが見えなくなりそうだ。おとなしく隣に座って玲奈さんの腰に手を回す。玲奈さんがこてんと俺にもたれかかってきた。
「私、指輪するの苦手なの。だから、婚約指輪はいらないなってずっと思ってたんだ。もしつけるなら、結婚指輪だけでいいなあって」
そう言われてみて、振り返ってみると確かに玲奈さんはピアスやネックレスはするけど、指輪をしていたことはなかった。
「結婚指輪は二人でつけるものでしょ?だから、二人で選ぼう。くまちゃんも気に入ったものがあったら教えてね」
「俺が指輪…」
ふと、でかくて固いだけの手を見て、これまでの人生で考えもしなかった指輪をつけている自分の手を想像した。
…違和感半端ないんじゃないだろうか…
「おっきい手だもんねぇ。何号になるんだろうねぇ」
「見当もつかないですね」
玲奈さんが俺の手を優しく撫でている。もたれていた頭を上げて、真剣なまなざしで俺を見上げていた。
「あのね、でも、私からお願いがあるの」
「はい、なんでしょうか」
「私もくまちゃんと一生一緒にいたいって気持ちは変わらないし、結婚もしたい。でも、この状態が落ち着いて、ちゃんと働いて、自信を取り戻してくまちゃんにプロポーズできるまで待ってほしい」
「はい、もちろ…」
話の途中までは理解できた。いや、俺の聞き間違いかもしれない。
「じゃあ、玲奈さんがもう大丈夫だというタイミングでもう一度俺が」
「そうなの!」
ああ、やっぱり俺の聞き間違いだったようだ。もちろん、いくらでも待てるし、何度でもプロポーズだってできる。
「レストランはお兄ちゃんのところできっと素敵なお料理を出してもらえると思うのね、そこで私が結婚指輪の入ったケースをぱかって開いて、私と結婚してくださいって言うから、くまちゃん受け取ってね」
雲行きがあやしい。勘違いでも、聞き間違いでもなさそうだ。
「俺がするんじゃないんですか…?」
「え?私もしたい、プロポーズ。くまちゃんを大々的に口説きたい」
「俺、プロポーズされるんですか?」
「うん!私プロポーズされてすっごく嬉しかったから、くまちゃんにもその気持ち味わってほしいもん!」
「え、あ…喜んでもらえてなによりです……?」
思わぬ展開に頭の中は疑問符だらけだ。
「あれかな、くまちゃんも薔薇の花束もらいたい?赤いのにしよっか?私、王子様の求愛みたいにひざまずいてもいいよ。土下座してもいい!」
「えっ、いや、そのようなことは一切いらないです」
プロポーズで土下座っていうのはありなんだろうか。よくわからない。
「でも私、それくらいの意気込みでくまちゃんを落としにかかりたい!」
「いえっ、あのう、俺はもう」
落ちるどころかめり込む勢いで玲奈さんに惚れているんだけれども、足りないんだろうか。
でも、なにやら最近の中で一番ハツラツとしている玲奈さんに水を差すのもあれな気がする。
「…玲奈さんにお任せします」
「やったぁ。どんなことしようかなぁ。ふふっ。くまちゃん泣いちゃうかもねー」
くすくす笑う玲奈さんをあっけにとられて見つめてしまう。この人は本当に俺の想像を軽く越えていく。
なんてかっこいいんだろう。誰かの理想も、常識なんて枠も、玲奈さんには関係ないんだな、ほんとに。
号泣するかもしれません、なんてことを思ったのは俺だけの胸にしまっておくことにした。
玲奈さんの声がリビングから聞こえる。今日は朝から調子が良さそうだったし、返って来た声も元気そうで少しほっとした。
でかい花束は俺の巨体をもってしても隠しきれないので、そのままリビングまで突き進む。
キッチンでコーヒーを入れているらしい玲奈さんがこちらを向くのを、心臓をばくばくさせながら待つ。
「お外暑かった?コーヒー淹れちゃったけど、氷入れてアイスに…」
くるっと振り返った玲奈さんが固まる。口をぱかっと開けている姿さえなんて可愛らしくて、愛おしいんだろうか。
「玲奈さん」
俺が一歩近づくと、玲奈さんの大きな目が潤みだした。それを見て、俺の目頭も熱くなったけど、ここは気合でぐっとこらえた。
「俺にとって、玲奈さんと出会えたことも、こうして恋人でいられることも、奇跡です。それだけで、十分幸せだと思っています」
そっと玲奈さんの片手をとる。玲奈さんが俺を見上げている。ぽろっと涙が一筋落ちた。
「俺なんて玲奈さんには分不相応だってこともわかってます。でも、玲奈さんが俺に愛想つかすまでそばにいさせてください。俺に、これから先もずっと玲奈さんを守らせてください」
玲奈さんがつないだ手をぎゅっと握り返してくれた。
「愛想なんか…つかすわけないじゃない」
俺の胸にぎゅうと抱きついてきてくれた玲奈さんを花束を抱えたまま抱きしめ返す。
「こんな面倒なのに…私で本当にいいの?」
「玲奈さんじゃないとだめなんです」
「ありがとう。本当にありがとう。すっごく嬉しい」
その言葉を聞いて、俺は体中から張り詰めていた緊張がゆるゆると解けていくのを感じた。
「こんなに大きな花束、内緒で準備しててくれたの?」
「…はい、お恥ずかしながら」
ふふっと笑う玲奈さんに、そっと渡すと玲奈さんは涙を拭いながらそれを見つめていた。
「きっと、私、この瞬間を一生忘れない。ありがとう、くまちゃん」
「俺も、この気持ちを忘れません。玲奈さんを一生大事にします」
俺が身をかがめると、玲奈さんもそっと目を閉じた。優しく触れるだけのキスをして、もう一度抱きしめた。
自分の人生にこんな瞬間が訪れるなんて、1年前の俺には全く想像もしていなかった。
「あの…玲奈さん…俺、まだ指輪を準備できていなくて。その、どれがいいのか全然わからなくて」
しどろもどろになる俺を不思議そうに見上げる玲奈さんから、視線をそらして頭をかいた。
「それで、その、玲奈さんが気に入ったものをプレゼントしますので、好きなものを選んでほしいんです。あ、お金のことは気にしないでください。ちゃんと貯蓄してきましたから!」
最後だけは気合を入れて向き合って言ったのに、玲奈さんはぽかんとした後けらけらと笑い出した。
「あはは。そんなこと気にしてたの?くまちゃんらしくてかわいいねぇ」
玲奈さんが俺の手を引いてソファへと移動した。花束は抱いたままでにこにこしている。
膝に乗せたいところだが、多分、乗せたら花束のせいで玲奈さんが見えなくなりそうだ。おとなしく隣に座って玲奈さんの腰に手を回す。玲奈さんがこてんと俺にもたれかかってきた。
「私、指輪するの苦手なの。だから、婚約指輪はいらないなってずっと思ってたんだ。もしつけるなら、結婚指輪だけでいいなあって」
そう言われてみて、振り返ってみると確かに玲奈さんはピアスやネックレスはするけど、指輪をしていたことはなかった。
「結婚指輪は二人でつけるものでしょ?だから、二人で選ぼう。くまちゃんも気に入ったものがあったら教えてね」
「俺が指輪…」
ふと、でかくて固いだけの手を見て、これまでの人生で考えもしなかった指輪をつけている自分の手を想像した。
…違和感半端ないんじゃないだろうか…
「おっきい手だもんねぇ。何号になるんだろうねぇ」
「見当もつかないですね」
玲奈さんが俺の手を優しく撫でている。もたれていた頭を上げて、真剣なまなざしで俺を見上げていた。
「あのね、でも、私からお願いがあるの」
「はい、なんでしょうか」
「私もくまちゃんと一生一緒にいたいって気持ちは変わらないし、結婚もしたい。でも、この状態が落ち着いて、ちゃんと働いて、自信を取り戻してくまちゃんにプロポーズできるまで待ってほしい」
「はい、もちろ…」
話の途中までは理解できた。いや、俺の聞き間違いかもしれない。
「じゃあ、玲奈さんがもう大丈夫だというタイミングでもう一度俺が」
「そうなの!」
ああ、やっぱり俺の聞き間違いだったようだ。もちろん、いくらでも待てるし、何度でもプロポーズだってできる。
「レストランはお兄ちゃんのところできっと素敵なお料理を出してもらえると思うのね、そこで私が結婚指輪の入ったケースをぱかって開いて、私と結婚してくださいって言うから、くまちゃん受け取ってね」
雲行きがあやしい。勘違いでも、聞き間違いでもなさそうだ。
「俺がするんじゃないんですか…?」
「え?私もしたい、プロポーズ。くまちゃんを大々的に口説きたい」
「俺、プロポーズされるんですか?」
「うん!私プロポーズされてすっごく嬉しかったから、くまちゃんにもその気持ち味わってほしいもん!」
「え、あ…喜んでもらえてなによりです……?」
思わぬ展開に頭の中は疑問符だらけだ。
「あれかな、くまちゃんも薔薇の花束もらいたい?赤いのにしよっか?私、王子様の求愛みたいにひざまずいてもいいよ。土下座してもいい!」
「えっ、いや、そのようなことは一切いらないです」
プロポーズで土下座っていうのはありなんだろうか。よくわからない。
「でも私、それくらいの意気込みでくまちゃんを落としにかかりたい!」
「いえっ、あのう、俺はもう」
落ちるどころかめり込む勢いで玲奈さんに惚れているんだけれども、足りないんだろうか。
でも、なにやら最近の中で一番ハツラツとしている玲奈さんに水を差すのもあれな気がする。
「…玲奈さんにお任せします」
「やったぁ。どんなことしようかなぁ。ふふっ。くまちゃん泣いちゃうかもねー」
くすくす笑う玲奈さんをあっけにとられて見つめてしまう。この人は本当に俺の想像を軽く越えていく。
なんてかっこいいんだろう。誰かの理想も、常識なんて枠も、玲奈さんには関係ないんだな、ほんとに。
号泣するかもしれません、なんてことを思ったのは俺だけの胸にしまっておくことにした。
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