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【閑話休題】恋愛特殊スキルを会得せよ!
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これは少し時を遡って玲奈がまだ元気にお店で働いているときのお話です。
今日は店舗ミーティングの日で、パートの小春さんとアルバイトのカオリちゃん以外のスタッフで集まってた。
ミーティング自体はささっと済んでしまって、店長が本部から戻るまでの時間をどう使うかという話になった。
アイリちゃんがおもむろに「私、みなさんに質問したいことがあって…」と話し始めたので、テーブルについている私とマキちゃんとカホちゃんで、特に構えもせずに頷いて、先を促した。
「あの、キスマークつけるじゃないですか」
「「「……」」」
私を含め三人とも聞き間違いかなって思って固まり、アイリちゃんの表情を見て、あ、これ聞き間違いじゃないなと思い直して、姿勢を正し、この迷える子羊が森の奥深くにでもさまよい込む前に導いてやらねばと肩を回して気合を入れた。
「うん、どういうことかもう一度説明してくれるかな?」
ここは一応サブとしての私が先陣を切りますよ。
「はい、BLでだいたい攻めが受けの首とか体のありとあらゆるところにキスマークを残すんですよ」
「…ほう、それで?」
「この前、女子会があって、あ、そこは腐女子じゃなくて、正当な女子会で。そこで恋愛漫画を久しぶりに読んだんですよ」
正当な女子会というのが何なのか気になるけど、先を急ごう。
「そしたら、なんと男女の恋愛でも、マーキングのようにキスマークつけまくってたんですよ!ていうことはあれですか、キスマークをつけるスキルというのは恋愛に必須なんですか?」
「え?スキル?」
ヘルプを出そうとマキちゃんとカホちゃんを見たけど、全然目線すら合わない…
「で、アイリはそのスキルを会得したいと思ってるということ?」
あ、マキちゃんが助け舟を出してくれた。よかったよかった。
「そうなんですよ!それで試しに腕を吸ってみたんですけど、これが思いのほか大きくなっちゃうんです!」
ほら!とカーディガンの袖をめくってみせてくれた肘より3センチほど離れたところには赤い痕が。
ああ、なんか小さいときに自分の腕をちゅーちゅー吸ってたことがあった気がする…と遠い記憶が呼び起されてくる。
「こんなにおっきいと、見つけた人が『おいおい、熱い夜を過ごしたのか?』ってからかうっていうより、『おい!でかい虫にさされてんぞ!』ってなる気がするんです」
「う、うん…」
アイリちゃんの想定が男性同士の会話しかないところも気になるけど、頷いておこう。
「それに、薄い本とか読んでても、一瞬でやってのけるんです。適度な大きさのキスマークをさらりと!」
「蚊の師匠的存在なんだろうね」
いや、カホちゃん相槌適当かっ。
「先輩方はつけたりつけられたりするんですか?」
ここで一気に視線が私に集中しました。
ぎぎぎと首を倒し、ぽりぽりと頭をかく。
「き、記憶がある範囲ではないような…気がいたします…」
「あれだけ彼氏さんがいた橘サブでも経験がないんですか?!」
「マーキングしなくてもサブは離れていかないから」
「もしかしたら背中とかにされてたかもしれないですよね」
厳しいマキちゃんの意見とフォローしてくれるカホちゃん。神妙な顔で黙るアイリちゃん。
いや、なんで私だけ暴露して終わってるのかな?
「じゃあ、次はどれくらいの大きさならキスマークだって視認できるか実験したいです!」
「シニン?」
「あ、視力の『視』に認めるで、視認です」
そこからアイリちゃんの熱いプレゼンが始まった。
まず、腕を吸います。適度な大きさのキスマークを作ります。
そこにセロハンテープを貼ります。
セロハンの上から、ピンクと赤のペンを絶妙に混ぜつつ色と大きさを再現します。
剝がします。
椅子に腰かけている橘サブの耳のやや後ろ首筋に貼ります。
サブの椅子から50センチ間隔で床にマスキングテープで印をつけます。
どれくらいの位置から視認できるか実験します。
という内容だった。
え?と思っている間に、カホちゃんはアイリちゃんとキスマークをセロハンテープに再現していくし、マキちゃんはメジャーで正確に距離を測ってマスキングしていく。
ややあって完成したらしいセロハンを首にぺたりと貼られ、ぽけーっとしている間に話が進んでいく。
「これ、おっきすぎっていうか、色気ないね」
「これだと小さすぎですね。虫さされにしか見えないです」
「そもそもうなじ覗き込むってもうその人に気があるとしか思えないですけどねー」
「じゃあ、今度はこれを…」
三人はやいのやいの言いながら私の首に貼っては剥がし、貼っては剥がしを繰り返してた。
私は私で、くまちゃんにキスマークつけてみたいなという気持ちがむくむくと湧いてきていたので、腕をちゅーちゅー吸って試してみてた。
まぁ、これがうまくいかない。うっ血みたいな赤い斑点みたいなのができちゃうほど強く吸うと痛々しいし、弱いとなんの痕も残らない。
「難しい…」
気づくと左腕がキスマークだらけというか、ひどい虫さされ痕みたいになってしまってた。
カーディガンで隠せるかな…?とロッカーに置いてある私物を想像していたら、スタッフルームのドアが開いて店長が入って来た。
「悪い遅くなっ…また何をやってんだ?」
「いえ、なんでもありません」
不自然に離れた距離から座る私を後ろから眺めるスタッフ3人がなんでもなくはないんだろうけど、店長はあえてスルーしてくれた。店長の視線が私に向かないうちにそっと立ち上がってロッカーからカーディガンを取って羽織った。
「店長の奥様に直径1センチのキスマークを襟足から見えるか見えないか程度の位置につけてくださいってDM送ってもいいですかね?再現されてるものを見てみたいです。その状態の店長を50センチ後ろの距離から見下ろしたくないですか?私達が導き出したべスポジで」
とかなんとか多分店長の耳に届いていたらお叱りの言葉が雷鳴のごとく降り注いだと思うけれど、幸い気づかれなかったよう。
私はとりあえず今夜はくまちゃんにかじりついてみようとぐっと心の中で拳を握りしめた。
今日は店舗ミーティングの日で、パートの小春さんとアルバイトのカオリちゃん以外のスタッフで集まってた。
ミーティング自体はささっと済んでしまって、店長が本部から戻るまでの時間をどう使うかという話になった。
アイリちゃんがおもむろに「私、みなさんに質問したいことがあって…」と話し始めたので、テーブルについている私とマキちゃんとカホちゃんで、特に構えもせずに頷いて、先を促した。
「あの、キスマークつけるじゃないですか」
「「「……」」」
私を含め三人とも聞き間違いかなって思って固まり、アイリちゃんの表情を見て、あ、これ聞き間違いじゃないなと思い直して、姿勢を正し、この迷える子羊が森の奥深くにでもさまよい込む前に導いてやらねばと肩を回して気合を入れた。
「うん、どういうことかもう一度説明してくれるかな?」
ここは一応サブとしての私が先陣を切りますよ。
「はい、BLでだいたい攻めが受けの首とか体のありとあらゆるところにキスマークを残すんですよ」
「…ほう、それで?」
「この前、女子会があって、あ、そこは腐女子じゃなくて、正当な女子会で。そこで恋愛漫画を久しぶりに読んだんですよ」
正当な女子会というのが何なのか気になるけど、先を急ごう。
「そしたら、なんと男女の恋愛でも、マーキングのようにキスマークつけまくってたんですよ!ていうことはあれですか、キスマークをつけるスキルというのは恋愛に必須なんですか?」
「え?スキル?」
ヘルプを出そうとマキちゃんとカホちゃんを見たけど、全然目線すら合わない…
「で、アイリはそのスキルを会得したいと思ってるということ?」
あ、マキちゃんが助け舟を出してくれた。よかったよかった。
「そうなんですよ!それで試しに腕を吸ってみたんですけど、これが思いのほか大きくなっちゃうんです!」
ほら!とカーディガンの袖をめくってみせてくれた肘より3センチほど離れたところには赤い痕が。
ああ、なんか小さいときに自分の腕をちゅーちゅー吸ってたことがあった気がする…と遠い記憶が呼び起されてくる。
「こんなにおっきいと、見つけた人が『おいおい、熱い夜を過ごしたのか?』ってからかうっていうより、『おい!でかい虫にさされてんぞ!』ってなる気がするんです」
「う、うん…」
アイリちゃんの想定が男性同士の会話しかないところも気になるけど、頷いておこう。
「それに、薄い本とか読んでても、一瞬でやってのけるんです。適度な大きさのキスマークをさらりと!」
「蚊の師匠的存在なんだろうね」
いや、カホちゃん相槌適当かっ。
「先輩方はつけたりつけられたりするんですか?」
ここで一気に視線が私に集中しました。
ぎぎぎと首を倒し、ぽりぽりと頭をかく。
「き、記憶がある範囲ではないような…気がいたします…」
「あれだけ彼氏さんがいた橘サブでも経験がないんですか?!」
「マーキングしなくてもサブは離れていかないから」
「もしかしたら背中とかにされてたかもしれないですよね」
厳しいマキちゃんの意見とフォローしてくれるカホちゃん。神妙な顔で黙るアイリちゃん。
いや、なんで私だけ暴露して終わってるのかな?
「じゃあ、次はどれくらいの大きさならキスマークだって視認できるか実験したいです!」
「シニン?」
「あ、視力の『視』に認めるで、視認です」
そこからアイリちゃんの熱いプレゼンが始まった。
まず、腕を吸います。適度な大きさのキスマークを作ります。
そこにセロハンテープを貼ります。
セロハンの上から、ピンクと赤のペンを絶妙に混ぜつつ色と大きさを再現します。
剝がします。
椅子に腰かけている橘サブの耳のやや後ろ首筋に貼ります。
サブの椅子から50センチ間隔で床にマスキングテープで印をつけます。
どれくらいの位置から視認できるか実験します。
という内容だった。
え?と思っている間に、カホちゃんはアイリちゃんとキスマークをセロハンテープに再現していくし、マキちゃんはメジャーで正確に距離を測ってマスキングしていく。
ややあって完成したらしいセロハンを首にぺたりと貼られ、ぽけーっとしている間に話が進んでいく。
「これ、おっきすぎっていうか、色気ないね」
「これだと小さすぎですね。虫さされにしか見えないです」
「そもそもうなじ覗き込むってもうその人に気があるとしか思えないですけどねー」
「じゃあ、今度はこれを…」
三人はやいのやいの言いながら私の首に貼っては剥がし、貼っては剥がしを繰り返してた。
私は私で、くまちゃんにキスマークつけてみたいなという気持ちがむくむくと湧いてきていたので、腕をちゅーちゅー吸って試してみてた。
まぁ、これがうまくいかない。うっ血みたいな赤い斑点みたいなのができちゃうほど強く吸うと痛々しいし、弱いとなんの痕も残らない。
「難しい…」
気づくと左腕がキスマークだらけというか、ひどい虫さされ痕みたいになってしまってた。
カーディガンで隠せるかな…?とロッカーに置いてある私物を想像していたら、スタッフルームのドアが開いて店長が入って来た。
「悪い遅くなっ…また何をやってんだ?」
「いえ、なんでもありません」
不自然に離れた距離から座る私を後ろから眺めるスタッフ3人がなんでもなくはないんだろうけど、店長はあえてスルーしてくれた。店長の視線が私に向かないうちにそっと立ち上がってロッカーからカーディガンを取って羽織った。
「店長の奥様に直径1センチのキスマークを襟足から見えるか見えないか程度の位置につけてくださいってDM送ってもいいですかね?再現されてるものを見てみたいです。その状態の店長を50センチ後ろの距離から見下ろしたくないですか?私達が導き出したべスポジで」
とかなんとか多分店長の耳に届いていたらお叱りの言葉が雷鳴のごとく降り注いだと思うけれど、幸い気づかれなかったよう。
私はとりあえず今夜はくまちゃんにかじりついてみようとぐっと心の中で拳を握りしめた。
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