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肉は正義
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とりあえず、着てきたスーツを袋に詰め込みリビングに戻ると、ソファにご両親が座っていて、ローテーブルを囲んでお義兄さんと光さんが既に肉を何枚もプレートに乗せていた。
「くまちゃん、こっちこっちー」
玲奈さんが自分の隣へと俺を手招きしてくれて、そこへ収まった。
「あのね、うちの焼肉はね、基本お兄ちゃんが全部仕切ります。完璧な焼き具合の状態でぽんぽんお皿にお肉とか野菜が降ってくるから、それをハイスピードで食べます。いいですか?」
「え、あ、はい、なるほど」
説明すると丁寧語になる玲奈さんかわいいなぁと思いながら、俺の実家の男4人ががつがつ食う焼肉とはちょっと雰囲気が違う気がして、とりあえず頷いて様子を見ることにした。
「熊野くん、白ごはんもあるから、炊飯器後ろね」
光さんが菜箸で指した方向を見ると、炊飯器がどーんと床に置いてあった。隣にはお盆と茶わんとしゃもじが並べてある。レストランのセルフサービスのようだ。これならキッチンまでおかわりを取りに行かなくてすんで便利そうだ。
「ありがとうございます」
そう頭を下げたら、玲奈さんのご両親の視線を感じて、ふとそちらに顔を向けた。
「熊野君は体が大きいなぁ。玲奈が後ろにいたらすっぽり隠れそうだ」
「あ、はい、柔道をやってまして。体がでかいとよく言われます」
「ね~若いのにこんなにしっかりしてらっしゃるのに体も鍛えてらっしゃるなんて。えらいわぁ。玲奈ちゃんは本当にいい方と巡り合ったのねぇ」
「いえ、そんなとんでもないです」
「ほんとにそうなの~。くまちゃんとお付き合いできてるなんてほんとに幸せだと思ってる~」
玲奈さんのまっすぐな気持ちが俺の胸にどすどすと突き刺さって、嬉しいやら恥ずかしいやらで顔が赤くなるのを感じた。
「あの、このような格好で申し訳ないのですが、玲奈さんとここで一緒に住まわせていただくご許可を」
「そうそう!ほんとに助かります~。私達が遠方なもので熊野さんに甘えちゃう形で申し訳ないわぁ」
ご許可を…いただきたく…と続けるはずが、やや食い気味で感謝を示されてしまった。
「玲奈をよろしくお願いします」
「は、はい、こちらこそよろしくお願いします」
お義父さんからも頭を下げられてしまって、なんだかもう終わった雰囲気…なのか…?
お義母さんがふぅーっと息をついて、頬に手を当てながら話し始めた。
「玲奈ちゃんはねぇ、昔からほんとに天真爛漫で、人気者で、にこにこしてて、親から見てもよくできた子だわって思ってたんだけどね。この子無理してでも頑張っちゃうの。誰かのためってなると自分のことを二の次で。蓮人は一見誰にでも分け隔てなく接することができるけど、ちゃんと自分のペースを守ってるのよね。だから、一度美容師になるって言ったときも、あー蓮人ならうまくやれるかもって思ってたのよね。接客ってどうしても疲れるときがあるでしょう?無理難題を言われたり、パワーを吸い取られちゃう感覚になるお客様がいたりして。でも、蓮人ならそれをかわしたり、こなしたりできるだろうなと思ってたら、いつのまにかシェフになってたの」
「俺、接客嫌いだって気づいたんだよね。料理のことならいくらでも考えられるし、向き合ってられるけど、美容師みたいに人と人の仕事は向いてないなって気づいてさ。まぁ店持つってなったらそんなことも言ってらんないけど、それでもやっとこの歳でうまく回せられるようになっただけで、若い時から美容師してたら途中で挫折してたと思う」
「蓮人が美容師とか…イケメン美容師とか、カリスマ美容師とかって騒がれそうだよね。裏方のはずのシェフなのに取材されるとイケメンシェフになってるくらいだし」
光さんがぷぷっと笑いながら、焼肉を手早くひっくり返していく。
「玲奈ちゃんは頑張り屋さんだけど、疲れやすいところもあるから、そばでこんなに優しく見守ってくれる人がいるならとっても安心。本当にありがとうございます」
にこにこと笑顔で感謝され、「こちらこそいつも玲奈さんにお世話になって」と言おうとしたら、俺の前に置いてあった皿に野菜と肉が乗せられた。
「はいはーい、これからは食べるほうメインで頑張ってーどんどん来るよー」
と光さんの言葉通り、華麗な手さばきでどんどん肉を仕上げてはこれを玲奈に、これを母さんにと指示を出すお義兄さんの元で焼き肉が始まった。
「蓮人が焼くと、焼肉って肉を焼いてるのを待つ時間があるもんじゃなかったかな?って思うことがあるんだよ」
お義父さんが笑いながらお肉を頬張る。そこにすかさず次のお肉が乗せられる。
「あれ食べたいなーとかこれ食べたいなーって思ってるだけなのにそれが来るんだよ。誰がどのお肉をどれくらい食べたとか把握してるのか、蓮人?」
「お父さんだめだめ。もうお兄ちゃんとっくの昔にゾーン入っちゃって聞こえてないから」
玲奈さんがお肉をサンチュで巻いてもぐもぐと食べている。
プレートの前に座り、何枚もの皿に色んな種類のお肉を広げ、それをてきぱきと乗せたりひっくり返したりするお義兄さんには確かに何も聞こえていないようだ。
わいわいと玲奈さんのご両親と話をして、引っ越しのことや俺の家族のところにも行く予定だということも伝えた。
それを喜んでくれて、俺もやっと安心できた。
そして、玲奈さんとお義母さんは早々に満腹になり戦線を離脱。お義父さんと光さんもそれからしばらくして離脱。
俺は出されればいくらでも食べられるので、ついつい甘えてお義兄さんがテンポよく出してくれるものを次々とたいらげていった。
「わんこそばかな?」
「お母さん、大食いの番組見てるといいなーうらやましいなーって思ってたけど、やっぱり生で見るといいわねぇ」
「お父さんも若い頃は焼肉食べ放題が何よりも好きだったのになー。歳には勝てん」
横でそんなことを話されながら、お義兄さんとのフードファイト?は皿が空になるまで続いた。
「はー、焼いた焼いた。あー、すっきりした」
「今日は熊野君いてくれて助かったー。蓮人ってすぐストレスを料理で解消しようとするから、いつも食べさせれてばっかでさー。お陰で今日はゆっくり食べられたわ」
いつ食べたんだろうかと思うほどお義兄さんはずっと動いていたのに、いつのまにか満腹になっていたようだ。
光さんもお腹をさすりながらてきぱきと食器を片付け始めたので、俺もそれを手伝うことにした。
「くまちゃん、こっちこっちー」
玲奈さんが自分の隣へと俺を手招きしてくれて、そこへ収まった。
「あのね、うちの焼肉はね、基本お兄ちゃんが全部仕切ります。完璧な焼き具合の状態でぽんぽんお皿にお肉とか野菜が降ってくるから、それをハイスピードで食べます。いいですか?」
「え、あ、はい、なるほど」
説明すると丁寧語になる玲奈さんかわいいなぁと思いながら、俺の実家の男4人ががつがつ食う焼肉とはちょっと雰囲気が違う気がして、とりあえず頷いて様子を見ることにした。
「熊野くん、白ごはんもあるから、炊飯器後ろね」
光さんが菜箸で指した方向を見ると、炊飯器がどーんと床に置いてあった。隣にはお盆と茶わんとしゃもじが並べてある。レストランのセルフサービスのようだ。これならキッチンまでおかわりを取りに行かなくてすんで便利そうだ。
「ありがとうございます」
そう頭を下げたら、玲奈さんのご両親の視線を感じて、ふとそちらに顔を向けた。
「熊野君は体が大きいなぁ。玲奈が後ろにいたらすっぽり隠れそうだ」
「あ、はい、柔道をやってまして。体がでかいとよく言われます」
「ね~若いのにこんなにしっかりしてらっしゃるのに体も鍛えてらっしゃるなんて。えらいわぁ。玲奈ちゃんは本当にいい方と巡り合ったのねぇ」
「いえ、そんなとんでもないです」
「ほんとにそうなの~。くまちゃんとお付き合いできてるなんてほんとに幸せだと思ってる~」
玲奈さんのまっすぐな気持ちが俺の胸にどすどすと突き刺さって、嬉しいやら恥ずかしいやらで顔が赤くなるのを感じた。
「あの、このような格好で申し訳ないのですが、玲奈さんとここで一緒に住まわせていただくご許可を」
「そうそう!ほんとに助かります~。私達が遠方なもので熊野さんに甘えちゃう形で申し訳ないわぁ」
ご許可を…いただきたく…と続けるはずが、やや食い気味で感謝を示されてしまった。
「玲奈をよろしくお願いします」
「は、はい、こちらこそよろしくお願いします」
お義父さんからも頭を下げられてしまって、なんだかもう終わった雰囲気…なのか…?
お義母さんがふぅーっと息をついて、頬に手を当てながら話し始めた。
「玲奈ちゃんはねぇ、昔からほんとに天真爛漫で、人気者で、にこにこしてて、親から見てもよくできた子だわって思ってたんだけどね。この子無理してでも頑張っちゃうの。誰かのためってなると自分のことを二の次で。蓮人は一見誰にでも分け隔てなく接することができるけど、ちゃんと自分のペースを守ってるのよね。だから、一度美容師になるって言ったときも、あー蓮人ならうまくやれるかもって思ってたのよね。接客ってどうしても疲れるときがあるでしょう?無理難題を言われたり、パワーを吸い取られちゃう感覚になるお客様がいたりして。でも、蓮人ならそれをかわしたり、こなしたりできるだろうなと思ってたら、いつのまにかシェフになってたの」
「俺、接客嫌いだって気づいたんだよね。料理のことならいくらでも考えられるし、向き合ってられるけど、美容師みたいに人と人の仕事は向いてないなって気づいてさ。まぁ店持つってなったらそんなことも言ってらんないけど、それでもやっとこの歳でうまく回せられるようになっただけで、若い時から美容師してたら途中で挫折してたと思う」
「蓮人が美容師とか…イケメン美容師とか、カリスマ美容師とかって騒がれそうだよね。裏方のはずのシェフなのに取材されるとイケメンシェフになってるくらいだし」
光さんがぷぷっと笑いながら、焼肉を手早くひっくり返していく。
「玲奈ちゃんは頑張り屋さんだけど、疲れやすいところもあるから、そばでこんなに優しく見守ってくれる人がいるならとっても安心。本当にありがとうございます」
にこにこと笑顔で感謝され、「こちらこそいつも玲奈さんにお世話になって」と言おうとしたら、俺の前に置いてあった皿に野菜と肉が乗せられた。
「はいはーい、これからは食べるほうメインで頑張ってーどんどん来るよー」
と光さんの言葉通り、華麗な手さばきでどんどん肉を仕上げてはこれを玲奈に、これを母さんにと指示を出すお義兄さんの元で焼き肉が始まった。
「蓮人が焼くと、焼肉って肉を焼いてるのを待つ時間があるもんじゃなかったかな?って思うことがあるんだよ」
お義父さんが笑いながらお肉を頬張る。そこにすかさず次のお肉が乗せられる。
「あれ食べたいなーとかこれ食べたいなーって思ってるだけなのにそれが来るんだよ。誰がどのお肉をどれくらい食べたとか把握してるのか、蓮人?」
「お父さんだめだめ。もうお兄ちゃんとっくの昔にゾーン入っちゃって聞こえてないから」
玲奈さんがお肉をサンチュで巻いてもぐもぐと食べている。
プレートの前に座り、何枚もの皿に色んな種類のお肉を広げ、それをてきぱきと乗せたりひっくり返したりするお義兄さんには確かに何も聞こえていないようだ。
わいわいと玲奈さんのご両親と話をして、引っ越しのことや俺の家族のところにも行く予定だということも伝えた。
それを喜んでくれて、俺もやっと安心できた。
そして、玲奈さんとお義母さんは早々に満腹になり戦線を離脱。お義父さんと光さんもそれからしばらくして離脱。
俺は出されればいくらでも食べられるので、ついつい甘えてお義兄さんがテンポよく出してくれるものを次々とたいらげていった。
「わんこそばかな?」
「お母さん、大食いの番組見てるといいなーうらやましいなーって思ってたけど、やっぱり生で見るといいわねぇ」
「お父さんも若い頃は焼肉食べ放題が何よりも好きだったのになー。歳には勝てん」
横でそんなことを話されながら、お義兄さんとのフードファイト?は皿が空になるまで続いた。
「はー、焼いた焼いた。あー、すっきりした」
「今日は熊野君いてくれて助かったー。蓮人ってすぐストレスを料理で解消しようとするから、いつも食べさせれてばっかでさー。お陰で今日はゆっくり食べられたわ」
いつ食べたんだろうかと思うほどお義兄さんはずっと動いていたのに、いつのまにか満腹になっていたようだ。
光さんもお腹をさすりながらてきぱきと食器を片付け始めたので、俺もそれを手伝うことにした。
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