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モテない男の現実
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律儀というか、育ちがいいというか、玲奈さんが俺の家族にまで挨拶をした上で同棲をしたいと思っていたなんて想像もしなかった。
もう成人してるし、働き始めて経済的にも自立して数年が経つわけだし、そういうことは自分で決めて進めていいんじゃないかと思っていたけれど、よくよく考えれば、後で一緒に住んでいたことが知られるよりは前もって言っておくほうがいいような気もした。
俺はもう玲奈さんとずっと一緒にいたいと思っているし、それを家族に言うこともなんのためらいもない。
ただ、何が俺を悩ませているかというと。
24年間、そのほぼ全てを柔道に費やし、女っけひとつなく、バレンタインのチョコは母親からもらうだけで、やれ誰を好きになっただの、誰から告白されただのという世界から一線を引くどころか、高い障壁ができていてそれを越えるより迂回して過ごしてきた人生の俺が。
玲奈さんのような美人を連れて帰ってきて、「彼女です。同棲しようと思ってます」なんて家族に紹介しようものならどうなることか。
パターン1 最有力候補 泣かれる
玲奈さんを本当の彼女と信じずに、「そんなことまでして私達を安心させようとしなくていいから。もう彼女のこととかせかさないから」と言って泣かれる
パターン2 疑われる
詐欺だと思い込んで、「こんなに綺麗な人が本気なわけがない。お金をむしりとられるかもしれないから、すぐに目を覚ませ」と説得される
パターン3 信じない
玲奈さんの存在そのものを幻覚だと思って、「ああ、私達が妄想をするあまりこんなありえない幻を生み出してしまった」と部屋に戻って寝られる
頭に次々湧くイメージがどれも建設的でないせいで、玲奈さんへの返事が曖昧になってしまった。
どうにか食事を終え、食器を片付けていると、玲奈さんはお風呂を沸かしてくれていた。
皿を洗い終わり、タオルで手を拭いてソファに腰掛けた。隣に座る玲奈さんがスマホを見ていた。
「くまちゃんのご家族のご予定もあるだろうし、くまちゃんのお休みも平日だったりまちまちだからちょっと先になるかなぁ」
筋を通すところが玲奈さんのいいところだし、尊敬もしている。俺も腹をくくらないといけないと気合を入れた。
「わかりました。でも、まずは玲奈さんのご両親にご挨拶に伺います!うちにはそれからで大丈夫です。玲奈さんのご両親が俺との同棲をまず許してくださるかどうかだと思いますから」
「え?うち?いーよーって言ってたよ。お兄ちゃんが会って、いい人だって思ったなら間違いないって」
鼻息荒く宣言したのに、あっさり肩透かしをくらってしまった。
「あ、でも今度お兄ちゃん達の荷造りの手伝いに来るらしいから、その時会う?」
「は、はい!ぜひご挨拶させてください!」
「わかったー。じゃあ、そう言っとくね。夜ごはんでも一緒に食べよ。多分、お兄ちゃんが作ってくれると思うんだ~」
「はい、お願いします」
玲奈さんがにこにこと笑顔でスマホを操作している。俺もスマホを持ち、母親に久しぶりにLINEを送った。
『近いうちに帰ろうと思ってるから母さんと父さんがいる日を教えて。俊哉達はいなくてもいい』とだけ書いた。
俊哉というのは俺の弟の名前だ。俺には2歳下に俊哉、更に2歳下に弦哉という弟がいる。どちらもまだ大学生だ。
二人とも俺とは違い、高校生くらいで彼女はできてたし、今もいると思う。確か家にも連れてきたこともあったはず。俺が見かけたことがあるくらいだから。
父さん母さんもあいつらで耐性はできてるだろうから、少しは俺のときでも驚かないくらいにはなっているかもしれない。
となんだか情けない期待を膨らませつつ、風呂に入ることにした。
風呂から上がると母さんから『あら、帰ってくるの?母さん今週末は自治会のお花見で、来週は父さんが出張でいないみたい。だから3週間後くらいになるけど、改まってどうしたの?結婚でもするの?まさかねー。夕飯唐揚げ揚げていい?何キロいる?お土産なんかいいから、まぁ帰ってきなさい』と返事がきていた。
鋭いのか鋭くないのか、それに正直に返事をしたものか、どうすればいいのか悩みながら、その日の夜は更けた。
もう成人してるし、働き始めて経済的にも自立して数年が経つわけだし、そういうことは自分で決めて進めていいんじゃないかと思っていたけれど、よくよく考えれば、後で一緒に住んでいたことが知られるよりは前もって言っておくほうがいいような気もした。
俺はもう玲奈さんとずっと一緒にいたいと思っているし、それを家族に言うこともなんのためらいもない。
ただ、何が俺を悩ませているかというと。
24年間、そのほぼ全てを柔道に費やし、女っけひとつなく、バレンタインのチョコは母親からもらうだけで、やれ誰を好きになっただの、誰から告白されただのという世界から一線を引くどころか、高い障壁ができていてそれを越えるより迂回して過ごしてきた人生の俺が。
玲奈さんのような美人を連れて帰ってきて、「彼女です。同棲しようと思ってます」なんて家族に紹介しようものならどうなることか。
パターン1 最有力候補 泣かれる
玲奈さんを本当の彼女と信じずに、「そんなことまでして私達を安心させようとしなくていいから。もう彼女のこととかせかさないから」と言って泣かれる
パターン2 疑われる
詐欺だと思い込んで、「こんなに綺麗な人が本気なわけがない。お金をむしりとられるかもしれないから、すぐに目を覚ませ」と説得される
パターン3 信じない
玲奈さんの存在そのものを幻覚だと思って、「ああ、私達が妄想をするあまりこんなありえない幻を生み出してしまった」と部屋に戻って寝られる
頭に次々湧くイメージがどれも建設的でないせいで、玲奈さんへの返事が曖昧になってしまった。
どうにか食事を終え、食器を片付けていると、玲奈さんはお風呂を沸かしてくれていた。
皿を洗い終わり、タオルで手を拭いてソファに腰掛けた。隣に座る玲奈さんがスマホを見ていた。
「くまちゃんのご家族のご予定もあるだろうし、くまちゃんのお休みも平日だったりまちまちだからちょっと先になるかなぁ」
筋を通すところが玲奈さんのいいところだし、尊敬もしている。俺も腹をくくらないといけないと気合を入れた。
「わかりました。でも、まずは玲奈さんのご両親にご挨拶に伺います!うちにはそれからで大丈夫です。玲奈さんのご両親が俺との同棲をまず許してくださるかどうかだと思いますから」
「え?うち?いーよーって言ってたよ。お兄ちゃんが会って、いい人だって思ったなら間違いないって」
鼻息荒く宣言したのに、あっさり肩透かしをくらってしまった。
「あ、でも今度お兄ちゃん達の荷造りの手伝いに来るらしいから、その時会う?」
「は、はい!ぜひご挨拶させてください!」
「わかったー。じゃあ、そう言っとくね。夜ごはんでも一緒に食べよ。多分、お兄ちゃんが作ってくれると思うんだ~」
「はい、お願いします」
玲奈さんがにこにこと笑顔でスマホを操作している。俺もスマホを持ち、母親に久しぶりにLINEを送った。
『近いうちに帰ろうと思ってるから母さんと父さんがいる日を教えて。俊哉達はいなくてもいい』とだけ書いた。
俊哉というのは俺の弟の名前だ。俺には2歳下に俊哉、更に2歳下に弦哉という弟がいる。どちらもまだ大学生だ。
二人とも俺とは違い、高校生くらいで彼女はできてたし、今もいると思う。確か家にも連れてきたこともあったはず。俺が見かけたことがあるくらいだから。
父さん母さんもあいつらで耐性はできてるだろうから、少しは俺のときでも驚かないくらいにはなっているかもしれない。
となんだか情けない期待を膨らませつつ、風呂に入ることにした。
風呂から上がると母さんから『あら、帰ってくるの?母さん今週末は自治会のお花見で、来週は父さんが出張でいないみたい。だから3週間後くらいになるけど、改まってどうしたの?結婚でもするの?まさかねー。夕飯唐揚げ揚げていい?何キロいる?お土産なんかいいから、まぁ帰ってきなさい』と返事がきていた。
鋭いのか鋭くないのか、それに正直に返事をしたものか、どうすればいいのか悩みながら、その日の夜は更けた。
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