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愛されてるなぁ

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精神的に落ち込むことも二度目ともなると変な慣れというか、前回よりは自分に余裕がある気がする。
でも、一番私に安心をもたらしてくれているのはくまちゃんだなっていうのは確実。
夜、ふと目が覚めても隣にいてくれる存在、お昼近くに起きて怠い体をベッドからなんとか引き剥がしてぼーっとソファに座って、ようやく体と心が起動してスマホを見れば、くまちゃんから「おはようございます。無理はしないでくださいね」のメッセージが入っていることがどれほど私の気持ちを軽くしてくれていることだろう。
誰かに大事にされることが、自分で自分を大切にできる第一歩なんだって、いつか誰かが教えてくれたけど、本当にそうだと思う。

でもね、お兄ちゃん。私、お兄ちゃんにも愛されてるなっていうか、シスコンなのかな?って思ったことも今までに何度もあったけどね、数か月後に引っ越す予定だったはずなのに、どうして来月私達がそっちに入居する手筈を整え始めちゃってるのかな?
いや、物件押さえているのも知ってるし、今のお店の退職も来月末だなってのは知ってる。
今のお店で働きながら、新しいお店のオープン進めるの大変だなぁ、なんかお手伝いできないかなって元気なときは思ってた。
でも、その忙しい中で更に引っ越し早めるなんて睡眠時間とかどうしてるの?
と自問自答しているのは、昨夜から今朝にかけて届いたLINEのメッセージを眺めてのことで。
私とお兄ちゃんと光さんのグループLINEには「荷物、詰め込み始めた!とりあえず、玲奈と熊野君が入る部屋を優先して空けていくからね!」というお兄ちゃんからのメッセージと段ボールの写真。
「玲奈は荷造り無理したらだめだよ!私が代わりにするから!」という光さんからのメッセージ。

うーん、愛されてる…というか、過保護…?
いや、あの二人ももしかすると新居で早く住み始めたいのかも…はないな。

くまちゃんの通勤のことも考えると確かに長くここにいるよりは、早めに引っ越してしまったほうが負担は軽くなるのかもしれないけど…

なんてことを考えながら、今日は調子が良くて久しぶりにキッチンに立って料理を始めた。
当たり前のことが突然億劫になったり、全然できなくなったりするから心の問題って怖いところがあるけど、それが少しでもできるとすごく嬉しくなったりする。
でも、調子に乗り過ぎて無理しないようにしないとなって自分に言い聞かせつつ、くまちゃんの帰りを待った。

結局、一週間の休暇消化では回復しきれなかったから、私はしばらく休職することになった。
幸い、店舗は人が足りてたことと、マキちゃんがサブ昇進するためのトレーニング期間にしてくれるそうで、サブとしてのお仕事もそのままマキちゃんが引き継いでくれている。
復職することを目標にするにしても、環境を整えておくことはいいことのような気がしていた。
ただ、気になっていることがあって、この話を進める前にくまちゃんと話をしないとなと思ってた。


夜になってくまちゃんはいつものように帰って来た。

「おかえりなさーい」

「遅くなりました。ただいまです。今日は何もありませんでしたか?」

「あ、うん、だいぶ調子が良かったよ」

「そうですか、よかったです」

私をぎゅーっとしてから、手洗いうがいをしにキッチンへとくまちゃんは移動した。

「ごはん温めるね~」

「ありがとうございます」

このさりげない感謝の言葉がほっこりさせてくれるんだよね~。

お味噌汁とおかずを温め直しつつお皿の準備をしているとくまちゃんもお箸とか出してくれた。

「あのね、今日お兄ちゃんから連絡がきて」

「あ、引っ越しのことですか?」

「え?くまちゃんにも来てたの?」

「はい、来月末には出られるようにしとくからねって連絡きました」

「手を回すのが速い…」

「きっと俺の通勤のことを気にしてるんだと思います。申し訳ないって言ってましたし。だから、そんなに焦らなくても大丈夫ですよとは返したんですけど、せっかくのご厚意なので俺も準備を進めようかなと思ってます。休みの日はあっちの荷物片づけに行ってきますね」

「え、いや、ちょっと待って、みんな仕事が速すぎない?」

あら?私が遅いだけ?って気になるくらい、みんな話を進めていくよね。

とりあえずテーブルにご飯を並べて食べ始めつつ、さっきの会話を続ける。

「でもね、一緒に住むようになるわけでしょ?その前にしないといけないことがあるっていうか」

「あ、この部屋の解約の手続きとかですか?」

「まぁ、それはまだ更新まで時間もあるしいいんだけど、ご両親に」

「あ、玲奈さんのご両親にご挨拶に伺わないといけないですよね!すみません、気づかなくて」

「え、いやいや、うちはもうお兄ちゃんが仕切ってるくらいだし、いいんだけど、くまちゃんのご家族にご挨拶もなしに同棲を始めるのはどうかと思って…」

「うちの親にですか?」

くまちゃんがきょとんとして私を見ている。そのままどこか焦点のあわない視線のまま黙々と食事をしているけれど、どうしたのかな?

「ちょっと…想像ができないというか…」

「あ、反対されそうな感じ?」

「え、いえ、そんなことはないと思うんですけど…」

なんでか歯切れの悪い様子で濁すから少しずつ不安になってきた。
でも、ここは踏ん張りどころだ!

「私、ちゃんとご挨拶に行く!くまちゃんを誘惑したのは確かだけど、怪しい女じゃありません!ってご両親に安心してもらいたい!」

ぐっとこぶしを握り締めて宣言したら、お味噌汁をすすっていたくまちゃんがむせた。

「安心してもらえなさそう…?やっぱりすぐ復職してからのほうがいいかな…でも順序が逆になるのも…」

「げっほごっほ…いえっ…安心しないっていうか…ごほごほっ」

背中をトントンと叩いてあげつつ、くまちゃんの言葉を待つ。

「多分…信じてもらえないと思います…」

くまちゃんの衝撃の一言に思わず背中をさする手が止まってしまった。
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