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知らない一面
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百合子さんはあっという間に何食分にもなる栄養価たっぷりの食事を作って、タッパーにつめて冷蔵庫へ入れてくれた。洗濯物も掃除もぱぱっとすませて、「よしっ」と言うとエプロンを外して帰る準備を始めた。
「それじゃあ、私帰るね。あ、何かあったときは遠慮なく連絡して?LINE交換しておこっか」
「はい、すみません。とても助かります。俺もしばらく玲奈さんのところから通勤するつもりなんですけど、夜遅くなることもあるので」
「いーのいーの。困ったときはお互い様でしょ?うちもね、玲奈ちゃんにはさくらのことをどうしてもみれないときにお願いしたこともあったし」
「そうなんですね。でも、本当に今日は助かりました。俺じゃロクなものが作れないから」
「玲奈ちゃん、基本的に一人でなんでもできちゃうからね。もっと甘えたって、手を抜いたっていいんだけど…。まぁ、そういう真面目なところも魅力よね」
「はい」
「きゃー、堂々と惚気てくれちゃって。ほんといい彼氏ができてよかった。安心した」
百合子さんは荷物をまとめて、笑顔で手を振って家を後にした。なんてかっこいい人なんだろう。
とはいえ、感心している場合じゃない。これからのことを頭の中で考えてはいたがそれをどう玲奈さんに伝えるか、どうやって実行するか悩んでいた。
その時、俺のスマホに着信があって、画面を見ると『柏木秀人』と表示されて、少し嫌な予感がした。
俺はベランダに出てから、応答ボタンを押した。
「おう、ヒデ、どうした」
「熊野、おまえのとこに智美行ってないか?」
「は?」
「貴史兄さんから連絡きたけど、智美家に帰ってないって。俺のとこにも来てない」
「それでなんで俺のところに来ることになるんだよ」
「…おまえの彼女のところに、貴史兄さんと一緒に行っただろ。その日、俺が智美の待ってる店に行ったら、散々罵倒されてさ。もう別れるって言われたよ。俺がいるせいで熊野が自分を彼女にしないんだって」
「なにがどうしてそうなってるんだよ」
「智美の気持ちを利用した俺が悪いのはわかってるけど、俺は俺で智美と別れるつもりないから」
「俺に言っても仕方ないだろうが。言う相手を間違ってんぞ」
「おまえだから言うんだろ。とにかく、おまえのところに智美来たら、すぐに連絡くれ。迎えに行くから。部屋に上げるなよ」
「馬鹿言うな。それに俺は寮にはいないから、来たとしても連絡はやれない」
「どこにいるんだよ、おまえ」
「…彼女のとこにいるんだよ。おまえらのせいで体調壊したんだよ。人を巻きこんで散々迷惑かけやがって、いい加減にしろよ。俺は今回のことに関して許すつもりもないし、必要なら出るとこも出るからな」
「それは…悪かったな。彼女さんには関係ないことだったのにな。わかった。俺はとにかく探しに出るから。おまえのとこに連絡きたら教えてくれ。すまない」
「ああ、じゃあ、切るぞ」
赤いボタンを投げやりに押して、ため息をついた。夜空の下で何がどうしてこんなことになっているのか、いくら考えてもわからなかった。
なんで斎藤がヒデと別れる理由に俺の彼女になることを挙げてんだ。
正直に言って、大会からこっち、斎藤は俺の知っている斎藤ではない気がして、気味悪ささえ感じている。
一旦、部屋に戻ろうとしたら、またスマホが鳴って『斎藤先輩』と表示された。応答すると、どこか外から電話をかけてきたようだった。
「熊野、今大丈夫か?」
「はい、どうしたんですか、先輩。斎藤がいなくなったって、今ヒデから連絡が来たんです」
「ああ、やっと連絡ついてな。迎えに行ってきたとこだ。俺の車の中にいる」
「そうですか、よかったです。ヒデにも連絡してやってください」
「あいつ、お前の寮に行ってたんだよ」
先輩の言葉に背筋にぞくっとしたものが走った。
「もう長引かせるだけ無駄な気がしてな。おまえ、今から出てこれないか?」
どうしたらいいのか、すぐには決められなかった。
「それじゃあ、私帰るね。あ、何かあったときは遠慮なく連絡して?LINE交換しておこっか」
「はい、すみません。とても助かります。俺もしばらく玲奈さんのところから通勤するつもりなんですけど、夜遅くなることもあるので」
「いーのいーの。困ったときはお互い様でしょ?うちもね、玲奈ちゃんにはさくらのことをどうしてもみれないときにお願いしたこともあったし」
「そうなんですね。でも、本当に今日は助かりました。俺じゃロクなものが作れないから」
「玲奈ちゃん、基本的に一人でなんでもできちゃうからね。もっと甘えたって、手を抜いたっていいんだけど…。まぁ、そういう真面目なところも魅力よね」
「はい」
「きゃー、堂々と惚気てくれちゃって。ほんといい彼氏ができてよかった。安心した」
百合子さんは荷物をまとめて、笑顔で手を振って家を後にした。なんてかっこいい人なんだろう。
とはいえ、感心している場合じゃない。これからのことを頭の中で考えてはいたがそれをどう玲奈さんに伝えるか、どうやって実行するか悩んでいた。
その時、俺のスマホに着信があって、画面を見ると『柏木秀人』と表示されて、少し嫌な予感がした。
俺はベランダに出てから、応答ボタンを押した。
「おう、ヒデ、どうした」
「熊野、おまえのとこに智美行ってないか?」
「は?」
「貴史兄さんから連絡きたけど、智美家に帰ってないって。俺のとこにも来てない」
「それでなんで俺のところに来ることになるんだよ」
「…おまえの彼女のところに、貴史兄さんと一緒に行っただろ。その日、俺が智美の待ってる店に行ったら、散々罵倒されてさ。もう別れるって言われたよ。俺がいるせいで熊野が自分を彼女にしないんだって」
「なにがどうしてそうなってるんだよ」
「智美の気持ちを利用した俺が悪いのはわかってるけど、俺は俺で智美と別れるつもりないから」
「俺に言っても仕方ないだろうが。言う相手を間違ってんぞ」
「おまえだから言うんだろ。とにかく、おまえのところに智美来たら、すぐに連絡くれ。迎えに行くから。部屋に上げるなよ」
「馬鹿言うな。それに俺は寮にはいないから、来たとしても連絡はやれない」
「どこにいるんだよ、おまえ」
「…彼女のとこにいるんだよ。おまえらのせいで体調壊したんだよ。人を巻きこんで散々迷惑かけやがって、いい加減にしろよ。俺は今回のことに関して許すつもりもないし、必要なら出るとこも出るからな」
「それは…悪かったな。彼女さんには関係ないことだったのにな。わかった。俺はとにかく探しに出るから。おまえのとこに連絡きたら教えてくれ。すまない」
「ああ、じゃあ、切るぞ」
赤いボタンを投げやりに押して、ため息をついた。夜空の下で何がどうしてこんなことになっているのか、いくら考えてもわからなかった。
なんで斎藤がヒデと別れる理由に俺の彼女になることを挙げてんだ。
正直に言って、大会からこっち、斎藤は俺の知っている斎藤ではない気がして、気味悪ささえ感じている。
一旦、部屋に戻ろうとしたら、またスマホが鳴って『斎藤先輩』と表示された。応答すると、どこか外から電話をかけてきたようだった。
「熊野、今大丈夫か?」
「はい、どうしたんですか、先輩。斎藤がいなくなったって、今ヒデから連絡が来たんです」
「ああ、やっと連絡ついてな。迎えに行ってきたとこだ。俺の車の中にいる」
「そうですか、よかったです。ヒデにも連絡してやってください」
「あいつ、お前の寮に行ってたんだよ」
先輩の言葉に背筋にぞくっとしたものが走った。
「もう長引かせるだけ無駄な気がしてな。おまえ、今から出てこれないか?」
どうしたらいいのか、すぐには決められなかった。
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