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何もできない
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青白い玲奈さんを置いて出勤しないといけないのは胸を引き裂かれるような辛さだった。
それでも、配送の代わりを見つけもせずに休むことはできなくて、朝起きてからお粥を作って出勤した。
朝礼中も、運転中も気になって仕方なかった。
でも玲奈さんから何の返信もなくて、ずっと寝てるんじゃないかなって思いながら、帰りに何を買って帰ればいいか考えたりしていた。
斎藤先輩からも連絡が来た。「智美がすまない」って連絡来たけど、謝罪は俺にすることじゃないし、そもそも先輩がすることじゃないと思って、そのまま送った。
すると、「智美が家に帰ってきてない。ヒデのところにもいないって。昨日喧嘩別れして、そのまま行方がわかってない。もしかしたら、橘さんの店に行ってるかもしれない。家は多分、知らないはずだから」と返信が来て、ゾッとした。
斎藤の行動が俺の知っているあいつの範囲をとうに超えていて、何をどうするのか全く読めなかった。
急いで玲奈さんのお店の電話番号を調べて電話をかけた。
「お電話ありがとうございます。フィエルテ西高須店、相川が承ります」
「相川店長さんですか?!お仕事中にすみません、熊野です。あの、橘さんの」
「おお、熊野くんか。どうした。橘はどうしてる」
「すみません、玲奈さんずっと寝込んでて、俺仕事に行かないといけなくて」
「いや、それは仕方ないだろう。少し、あいつは休む必要があるから、寝かしといてやってくれ」
「それで、昨日、そこに来た俺の女友達がまたそちらに来るかもしれなくて、連絡をしました。次来たら、業務妨害ででもなんでも警察呼んでください」
「…わかった。こっちはこっちで気をつけておく。防犯カメラもあるから心配しなくていいよ。証拠は出せるし」
「すみません。本当にすみません。皆さんにまでご迷惑をおかけして。俺、ちゃんと話し合ってきますから」
「…熊野君、今、向き合わないといけないのは、その女友達のほうなのかな?」
「でも、あいつをなんとかしないと、玲奈さんが」
「…決めるのは熊野くんだから、いいよ。それと俺の携帯番号教えておくから、何かあったらかけて」
そう言って、店長さんが言った番号をメモに書いて、電話を切った。それをスマホに入力しながら、店長さんの言葉の意味を何度も考えた。
斎藤を責めたら、また玲奈さんに攻撃が向くんじゃないかって気がしてきて、連絡するのを躊躇した。
なんて言ってやろうかなんて思ってたけど、そんなことでどうにかできないんじゃないかって、頭がさえてくるごとに思うようになっていた。
とにかく、今日の仕事が終われば明日は休みだったから、早く終わらせて一旦家に戻って荷物を取ってから玲奈さんのところに向かった。
念のために玲奈さんのマンションの周りも確認したけど、誰もいなくてほっとした。このマンションはセキュリティがしっかりしてるから、それもかなり助かっている。
部屋の鍵を開けて中に入ると、えづくような音が聞こえてきて、慌てて靴を脱いでトイレに向かうと、玲奈さんが床にへたりこんでいた。
急いで背中に腕を回すと再び吐き気がこみあげたようで、トイレに顔を伏せていた。それをひたすら背中をさすりながら見ていることしかできなくて、どうしたらいいのか、情けなくてやりきれない気持ちになった。
玲奈さんの様子が落ち着くと、玲奈さんを抱き上げた。
「リビングに行きますか?横になりますか?うがいしたいんじゃないですか?気持ち悪いでしょう?」
「…うがいする…」
洗面所に運んで、うがいをした後、またふらふらしたから、抱き上げていったんリビングに連れて行った。
ソファに下ろして、白湯をもってこようとキッチンにいって、お粥が手つかずなことに気づいた。
「玲奈さん、今日、何も食べてないんじゃないですか?」
「…ごめんね…食欲なくて…」
「いえ、いいんです…あっためますね、ひとくちでいいから食べてみてください」
「…うん」
お湯とお粥を火にかけている間に、玄関に投げ捨ててきてしまった荷物を取りに行った。
ゼリーや茶わん蒸しみたいにするっと入る食べ物を買ってきたけど、玲奈さんは食べてくれるだろうか。
部屋に戻ると、キッチンのカウンターの上で玲奈さんのスマホが鳴っていた。
でも、玲奈さんはソファに横になったまま、動こうとはしなかった。
『佐々木諒一マネージャー』
の表示にどきっとした。
そのまま鳴りやんだけど、画面の表示に『佐々木諒一マネージャー 10件』という表示がされて、心臓が早鐘を打ち始めた。
白湯とお粥を少しだけ茶わんに取り分けて、テーブルまで運んだ。玲奈さんのスマホも一緒に。
玲奈さんは気だるげに目を開けると、体を起こして、ソファに座った。
手渡したマグカップの白湯を少しだけ口にするとため息をついた。
「ありがとう」
「他に何かしてほしいことないですか?明日の連絡しましょうか?相川店長さんの連絡先聞いたんです」
「そうなの…?でも、自分でしないとね…」
スマホを手渡すと、玲奈さんが表示された画面を見て、一瞬固まって、スマホを握りしめたのに気付いた。
すると、またスマホが鳴り、『佐々木諒一マネージャー』と表示された。
玲奈さんがその電話を取るのを、俺はじっと見つめていることしかできなかった。
それでも、配送の代わりを見つけもせずに休むことはできなくて、朝起きてからお粥を作って出勤した。
朝礼中も、運転中も気になって仕方なかった。
でも玲奈さんから何の返信もなくて、ずっと寝てるんじゃないかなって思いながら、帰りに何を買って帰ればいいか考えたりしていた。
斎藤先輩からも連絡が来た。「智美がすまない」って連絡来たけど、謝罪は俺にすることじゃないし、そもそも先輩がすることじゃないと思って、そのまま送った。
すると、「智美が家に帰ってきてない。ヒデのところにもいないって。昨日喧嘩別れして、そのまま行方がわかってない。もしかしたら、橘さんの店に行ってるかもしれない。家は多分、知らないはずだから」と返信が来て、ゾッとした。
斎藤の行動が俺の知っているあいつの範囲をとうに超えていて、何をどうするのか全く読めなかった。
急いで玲奈さんのお店の電話番号を調べて電話をかけた。
「お電話ありがとうございます。フィエルテ西高須店、相川が承ります」
「相川店長さんですか?!お仕事中にすみません、熊野です。あの、橘さんの」
「おお、熊野くんか。どうした。橘はどうしてる」
「すみません、玲奈さんずっと寝込んでて、俺仕事に行かないといけなくて」
「いや、それは仕方ないだろう。少し、あいつは休む必要があるから、寝かしといてやってくれ」
「それで、昨日、そこに来た俺の女友達がまたそちらに来るかもしれなくて、連絡をしました。次来たら、業務妨害ででもなんでも警察呼んでください」
「…わかった。こっちはこっちで気をつけておく。防犯カメラもあるから心配しなくていいよ。証拠は出せるし」
「すみません。本当にすみません。皆さんにまでご迷惑をおかけして。俺、ちゃんと話し合ってきますから」
「…熊野君、今、向き合わないといけないのは、その女友達のほうなのかな?」
「でも、あいつをなんとかしないと、玲奈さんが」
「…決めるのは熊野くんだから、いいよ。それと俺の携帯番号教えておくから、何かあったらかけて」
そう言って、店長さんが言った番号をメモに書いて、電話を切った。それをスマホに入力しながら、店長さんの言葉の意味を何度も考えた。
斎藤を責めたら、また玲奈さんに攻撃が向くんじゃないかって気がしてきて、連絡するのを躊躇した。
なんて言ってやろうかなんて思ってたけど、そんなことでどうにかできないんじゃないかって、頭がさえてくるごとに思うようになっていた。
とにかく、今日の仕事が終われば明日は休みだったから、早く終わらせて一旦家に戻って荷物を取ってから玲奈さんのところに向かった。
念のために玲奈さんのマンションの周りも確認したけど、誰もいなくてほっとした。このマンションはセキュリティがしっかりしてるから、それもかなり助かっている。
部屋の鍵を開けて中に入ると、えづくような音が聞こえてきて、慌てて靴を脱いでトイレに向かうと、玲奈さんが床にへたりこんでいた。
急いで背中に腕を回すと再び吐き気がこみあげたようで、トイレに顔を伏せていた。それをひたすら背中をさすりながら見ていることしかできなくて、どうしたらいいのか、情けなくてやりきれない気持ちになった。
玲奈さんの様子が落ち着くと、玲奈さんを抱き上げた。
「リビングに行きますか?横になりますか?うがいしたいんじゃないですか?気持ち悪いでしょう?」
「…うがいする…」
洗面所に運んで、うがいをした後、またふらふらしたから、抱き上げていったんリビングに連れて行った。
ソファに下ろして、白湯をもってこようとキッチンにいって、お粥が手つかずなことに気づいた。
「玲奈さん、今日、何も食べてないんじゃないですか?」
「…ごめんね…食欲なくて…」
「いえ、いいんです…あっためますね、ひとくちでいいから食べてみてください」
「…うん」
お湯とお粥を火にかけている間に、玄関に投げ捨ててきてしまった荷物を取りに行った。
ゼリーや茶わん蒸しみたいにするっと入る食べ物を買ってきたけど、玲奈さんは食べてくれるだろうか。
部屋に戻ると、キッチンのカウンターの上で玲奈さんのスマホが鳴っていた。
でも、玲奈さんはソファに横になったまま、動こうとはしなかった。
『佐々木諒一マネージャー』
の表示にどきっとした。
そのまま鳴りやんだけど、画面の表示に『佐々木諒一マネージャー 10件』という表示がされて、心臓が早鐘を打ち始めた。
白湯とお粥を少しだけ茶わんに取り分けて、テーブルまで運んだ。玲奈さんのスマホも一緒に。
玲奈さんは気だるげに目を開けると、体を起こして、ソファに座った。
手渡したマグカップの白湯を少しだけ口にするとため息をついた。
「ありがとう」
「他に何かしてほしいことないですか?明日の連絡しましょうか?相川店長さんの連絡先聞いたんです」
「そうなの…?でも、自分でしないとね…」
スマホを手渡すと、玲奈さんが表示された画面を見て、一瞬固まって、スマホを握りしめたのに気付いた。
すると、またスマホが鳴り、『佐々木諒一マネージャー』と表示された。
玲奈さんがその電話を取るのを、俺はじっと見つめていることしかできなかった。
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