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終わったはずだったのに
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仕事が終わってお店を出ると、本当にお店の前に智美さんのお兄さんが待ってた。
私を見つけると姿勢を正して頭を下げた。
「すみません。一応来ましたけど、このまま帰ってくださっていいですよって言いたくて」
「わざわざすみません」
「熊野にも連絡したんで」
「え?連絡したんですか?」
「さすがに、もう見過ごせないですから。それに、これは正直、熊野と智美がやらなきゃいけないやり取りであって、あなたを巻きこむのは間違ってると思うんで」
「でも…それって、智美さんにくまちゃんに気持ちを打ち明けろってことですか?」
「俺はそうしたらいいと思ってます。ばっさり断られてないからいつまでも変に引きずってて。ヒデだっているのに、全部に誠実じゃないでしょう、あれじゃ。ヒデにも連絡して、店にはヒデが行ってます。だから、来なくていいですよってのは本当です」
「今日はどうしてここに?」
「智美がもうすぐ誕生日なんで、プレゼントを買ってくれ、買い物に一緒に行こうって言われてついてきたんですけど、こういうことだとは思ってなくて」
「あ、ああ、そういうことだったんですか。智美さん、私の職場も知ってたんですね」
「すみませんでした。多分、熊野からじゃないです。周りの奴からうまいこと聞き出したんだと思います」
だんだんと気分が悪くなってきて、めまいがした。
それを智美さん兄が支えてくれて、踏みとどまった。
「大丈夫ですか?」
「ごめんなさい。大丈夫です。私…このまま帰りますね」
「駅まで送ります。もし途中で智美がいたら面倒なんで」
その言葉に体が震えた。頭がズキズキと痛み出して、足がすくんだ。
「橘?どうした?」
目の前が真っ暗になりそうなとき、懐かしい低い声が聞こえてきた。
「佐々木マネージャー…?」
膝から崩れ落ちそうになるのを慌てて二人が支えてくれた。
「おい、しっかりしろ」
「大丈夫ですか?」
気分が悪くて、もう目をつぶったまま頷くことしかできなかった。その瞬間、体がふわっと浮かんで寒い空気から温かい私のよく知る空間の匂いがした。
気が付いたら、休憩室の長椅子に横になってた。
どうしたんだっけ、ここはどこだろうと働かない頭で考えてたら、少しずついろんなことを思い出してきた。
私…お店の前で倒れたんだ…
手で目を覆ってため息をついた。
すると、休憩室のドアが開いて、マキちゃんと佐々木マネージャーが入って来た。
私と目が合うとマキちゃんはすっとんできた。
「先輩!どこも痛くないですか?吐きそうとか、なにもないですか?」
横になったままの私のそばで悲壮な顔をしてる。なんていい後輩だろう。
「まだ、寝とけ。いきなり起き上がらないほうがいい」
「佐々木マネージャー…」
「マキ、おまえまだ締め作業あるんだろ。ここは俺が見とくから、さっさと終わらせて来い」
「すみません、よろしくお願いします」
マキちゃんが私のそばにミネラルウォーターのペットボトルをそっと置いて休憩室を出て行った。
私はゆっくりと視線をマネージャーに移した。
「どうして、ここに?」
「たまたま近くで会議があったから顔を出しただけだ」
「相川店長、今日お休みなんですよ」
「あいつとは店長会議でもよく顔を合わせるから別にいい」
「またまたぁ、仲良しのくせにぃ」
あははと笑って、私はゆっくりと体を起こした。それを支えてくれて、椅子に座って壁に背中を寄りかからせて息を吐いた。
「あ、あの後、あの人どうしました?私がお店の前で一緒にいた」
「ああ、簡単に事情を説明してくれたな。その後、俺が帰らせた。特にすることもないしな」
「マネージャーも帰ってもよかったのに。結構時間経ちましたよね?」
「おまえの顔を見に来たのに、目の前でぶっ倒れられて、それを放置して帰るほど、俺は鬼畜じゃねぇよ」
「え?」
「橘、俺のところに戻ってこないか」
私を見つけると姿勢を正して頭を下げた。
「すみません。一応来ましたけど、このまま帰ってくださっていいですよって言いたくて」
「わざわざすみません」
「熊野にも連絡したんで」
「え?連絡したんですか?」
「さすがに、もう見過ごせないですから。それに、これは正直、熊野と智美がやらなきゃいけないやり取りであって、あなたを巻きこむのは間違ってると思うんで」
「でも…それって、智美さんにくまちゃんに気持ちを打ち明けろってことですか?」
「俺はそうしたらいいと思ってます。ばっさり断られてないからいつまでも変に引きずってて。ヒデだっているのに、全部に誠実じゃないでしょう、あれじゃ。ヒデにも連絡して、店にはヒデが行ってます。だから、来なくていいですよってのは本当です」
「今日はどうしてここに?」
「智美がもうすぐ誕生日なんで、プレゼントを買ってくれ、買い物に一緒に行こうって言われてついてきたんですけど、こういうことだとは思ってなくて」
「あ、ああ、そういうことだったんですか。智美さん、私の職場も知ってたんですね」
「すみませんでした。多分、熊野からじゃないです。周りの奴からうまいこと聞き出したんだと思います」
だんだんと気分が悪くなってきて、めまいがした。
それを智美さん兄が支えてくれて、踏みとどまった。
「大丈夫ですか?」
「ごめんなさい。大丈夫です。私…このまま帰りますね」
「駅まで送ります。もし途中で智美がいたら面倒なんで」
その言葉に体が震えた。頭がズキズキと痛み出して、足がすくんだ。
「橘?どうした?」
目の前が真っ暗になりそうなとき、懐かしい低い声が聞こえてきた。
「佐々木マネージャー…?」
膝から崩れ落ちそうになるのを慌てて二人が支えてくれた。
「おい、しっかりしろ」
「大丈夫ですか?」
気分が悪くて、もう目をつぶったまま頷くことしかできなかった。その瞬間、体がふわっと浮かんで寒い空気から温かい私のよく知る空間の匂いがした。
気が付いたら、休憩室の長椅子に横になってた。
どうしたんだっけ、ここはどこだろうと働かない頭で考えてたら、少しずついろんなことを思い出してきた。
私…お店の前で倒れたんだ…
手で目を覆ってため息をついた。
すると、休憩室のドアが開いて、マキちゃんと佐々木マネージャーが入って来た。
私と目が合うとマキちゃんはすっとんできた。
「先輩!どこも痛くないですか?吐きそうとか、なにもないですか?」
横になったままの私のそばで悲壮な顔をしてる。なんていい後輩だろう。
「まだ、寝とけ。いきなり起き上がらないほうがいい」
「佐々木マネージャー…」
「マキ、おまえまだ締め作業あるんだろ。ここは俺が見とくから、さっさと終わらせて来い」
「すみません、よろしくお願いします」
マキちゃんが私のそばにミネラルウォーターのペットボトルをそっと置いて休憩室を出て行った。
私はゆっくりと視線をマネージャーに移した。
「どうして、ここに?」
「たまたま近くで会議があったから顔を出しただけだ」
「相川店長、今日お休みなんですよ」
「あいつとは店長会議でもよく顔を合わせるから別にいい」
「またまたぁ、仲良しのくせにぃ」
あははと笑って、私はゆっくりと体を起こした。それを支えてくれて、椅子に座って壁に背中を寄りかからせて息を吐いた。
「あ、あの後、あの人どうしました?私がお店の前で一緒にいた」
「ああ、簡単に事情を説明してくれたな。その後、俺が帰らせた。特にすることもないしな」
「マネージャーも帰ってもよかったのに。結構時間経ちましたよね?」
「おまえの顔を見に来たのに、目の前でぶっ倒れられて、それを放置して帰るほど、俺は鬼畜じゃねぇよ」
「え?」
「橘、俺のところに戻ってこないか」
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