上 下
87 / 142

黒子になってはいけません

しおりを挟む
いろんなことが起きても、大人の日常というものは、変わらずやってくるわけで。
こうして、大人は色々な思いを抱えて日々生きてるわけなんですよねぇ…と感傷に浸る暇もないほど忙しいです!

冬のセールでバンバン売る!、気づいたら春物来てる!服屋って季節感じる前に先に服が届くもんで、え、今季節なんだっけ?って思うほどですよ!
しかも売らなきゃいけないということは、スタッフはそれぞれ買ってきないといけないからね。
真冬なのに、私はこんな春物を着るんですか?ということだってありますよ。
まだお店の中は暖かいからいいけどね。もうそんな春物きて通勤できないんで、出勤したらお着換えですよ。
靴だって春物ロッカーに置いてますよ。
あー、早く春が来て、くまちゃんと桜見に行きたいな…外は雪降りそうなくらい寒いけど…

遠い目をしていたら、お客様が入店されたので「いらっしゃいませー」と笑顔で入口を振り返ったら。
まさかの…智美さんご兄妹来店…

えっ。なに。どういうこと?

笑顔を浮かべたまま固まる私。
お構いなしにずんずん近づいてくる智美さん。
その後ろで驚いたように目を大きく開けてる智美さん兄。

「い、いらっしゃいませ」

「何時に終わるの?」

「へ?」

「仕事、何時に終わるの?」

「え、私ですか?今日は…8時ですけど…」

「じゃあ、後でお兄ちゃん迎えに来させるから私が指定したお店に来て」

「へ?」

「それだけ」

えーーー。私の返答は?NOの選択肢は?お兄さんをパシッちゃう宣言したけど、兄の人権は?
わからない。私、アナタノコトゼンゼンワカラナイヨ。

智美さんはあっという間にお店を出て行ってしまって、智美さん兄は頭を下げてそれについてった。

ぽかーんとしている私の元にマキちゃんが飛んできた。

「先輩!大丈夫ですか?何されたんですか?誰ですか、あの女!」

「え、いや、あの…前に話したくまちゃんの」

「あのいけ好かない女ですね!」

「こ、声が大きいよマキちゃん!私そんなこと言ってないし!」

「熊野さんのことが好きなのに男作るわ、熊野さんに彼女できたらこんなところまでストーカーするとか」

怒っているらしくマキちゃんの拳が震えている。そこにカホちゃんが静かに近づいて来た。

「消したいよね」

「消したい」

ちょっと!だめだめ!あなた達は名探偵役だから!全身黒タイツ履いて目元しか見えない犯人役やっちゃダメだから!
探偵が犯人とかいうタブー犯しちゃだめです!

「あんにゃろ、ちょっとくらい顔がいいからって、先輩にかなうと思うなよ!」

あの、マキちゃん?お言葉が…

「なに言われたんですか?」

「あ、なんか仕事終わりに話があるのか指定されたお店に来いって」

「え、どこですか?」

「それが終わる時間にお兄さんが迎えに来るとかで」

「あ、さっき一緒にいた人ですか?なんだ例の彼氏かと思ったのに、お兄さんかぁ」

「熊野さんに連絡しましょう」

「う、うーん。私もそうしようかと思ったんだけど、さすがに修羅場になりそうじゃない?」

「いいんですよ!熊野さんにびしっと言ってもらいましょう!二人でいちゃつくとこ見せつけてやりましょう!」

「ストーカーって刺激しちゃだめなんだよ…」

私の言葉にはっと表情を変える二人。うん、大丈夫、大丈夫。

「二人ともありがと。仕事戻ろう。ごめんね、私のせいで」

「先輩…」

大きく深呼吸して、気合を入れなおして仕事に戻った。よかった、他にお客様がいなくて。
笑顔、笑顔。私は大丈夫。大丈夫。
少しだけ手が震えるのを誰にも知られないように、ぎゅっと握りしめた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【R-18・連載版】部長と私の秘め事

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:4,085pt お気に入り:761

美醜逆転世界で治療師やってます

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:817

古本屋とおっぱい

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:5

【R-18】♡喘ぎ詰め合わせ♥あほえろ短編集

BL / 連載中 24h.ポイント:908pt お気に入り:49

美醜逆転した世界に転がり落ちたらイケメンたちに囲われました。

BL / 連載中 24h.ポイント:454pt お気に入り:3,328

パワハラ女上司からのラッキースケベが止まらない

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:12

処理中です...