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たとえライバルがいたとしても
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規則正しい寝息を立てる玲奈さんの顔を眺めながら、打ち上げで起きたことを思い出していた。
斎藤は最初から機嫌が悪かった。会場で北川と氷室と話して分かれてから、合流したときにはぎろっと睨まれたし。
それなのに、居酒屋に着いたら隣の席に座るなり、ビールをハイペースでぐびぐび飲んで、気合が入ってないだの、彼女が応援に来て浮かれてるから優勝できなかっただの、あんな美人になんか簡単に捨てられるだの、散々言いたい放題だった。
最初は聞き流してたが、だんだんと玲奈さんのことを悪く言う流れになってきて、「やめろ」と一喝したら、「気分悪い」と言って外に出て行った。
しばらくしても戻らなくて、俺のせいのような気がして、外に出た。
店の前に置いてある丸椅子に斎藤はただ座ってた。俺の顔を見るなり、あからさまに嫌な顔をした。
「どこで知り合ったの?」
「は?」
「あの人とどこで知り合ったの?」
「どうでもいいだろ、そんなの」
「自分が、あんな綺麗な人に似あうって思ってんの?全然モテなくて、今まで彼女一人できなかったくせに」
「俺の彼女は玲奈さん一人で十分だよ」
すると突然斎藤が立ち上がって、ふらふらと歩き出した。危ないと思って腕をつかもうとしたら、その前に叩き落された。
「私、あの人にお兄ちゃん紹介したの。お兄ちゃん、絶対あの人のこと気に入ったと思う」
「何言ってんだ?」
「見てわかるでしょ!あんな美人、あんたなんかすぐ飽きるんだから!どうせロクなセックスだってしてないんでしょ!そんなやつ、すぐ捨てられるだけだから!結局、経験豊富で、甘えられるほどしっかりした人のほうがよくなるのよ。今は何の遊びか知らないけど、なーんにも知らないあんたで遊んでるだけなんだから!」
「斎藤…いい加減に」
「智ちゃん!」
あまりの言いようにさすがに言い返してやろうと構えたところに、斎藤の彼氏で俺の高校の同級生でもあるヒデがやってきた。
ふらついている斎藤を支えると、俺と目が合った。
「よぉ、久しぶりだな」
「あぁ。迎えに来たのか?」
「まーな。夕方、北川から連絡来て。なんかあったんだろうなと思ってたし。そんでちょっと前にこいつの兄ちゃんから連れて帰れって連絡もきたから」
「なら、話は早いな。あとは、頼む」
「まだ、話は終わってないでしょ!」
「おまえと話すことは何もない。これ以上玲奈さんに絡んだり、そういうことばかり言うなら、俺はもう道場には顔を出さないし、おまえとも付き合いはしない」
「なによっ!彼女ができたからって浮かれて…調子に乗ってるんじゃないわよ!」
「智ちゃん、落ち着いて?もう帰ろう?荷物は?ちょっと貴史兄さんに連絡するから、あそこの公園で休もうか」
二人のやりとりを横目に俺は居酒屋に戻った。それと入れ違いで、多分斎藤の荷物を持った先輩が店を出て行った。
俺もそろそろ帰ろうと財布から金を出して幹事に渡すと、荷物を持って外に出た。
さすがに斎藤とヒデはいなくなってて小さく息を吐いた。どっと疲れた気分だった。
「悪かったな、智美があんなになって」
後ろから声をかけられて、驚いて振り返ると、先輩がいた。
「今日、あいつおまえの彼女に俺から見てもどうなんだと思うくらいのことを言ったし、やったわ。俺からも謝ったけど、嫌な思いさせたと思う。挙句今度はおまえにまで」
「いえ、あいつが俺につっかかるのはいつものことなんで、先輩は気にしないでください」
「おまえの彼女、本当は帰ろうとしてたんだよ。それくらいのこと、あいつはした。あの席だとまた智美がなんかするかもと思って裏から見てたけど、ずっと一生懸命おまえのこと応援してたよ。いい子だな」
「…はい、とてもいい人です」
「ははっ。のろけるのも直球かよ。おまえらしいわ。じゃあ、気を付けて帰れよ」
「はい、お先に失礼します」
頭を下げて、先輩が居酒屋に戻るのを見届けた。
俺はそのまま駅に急いだ。
玲奈さんが俺のことをずっと応援していた。
そして、先輩はそれを、ずっと見ていた。
すごく嫌な予感がした。今すぐ玲奈さんに会いに行かないといけないと思うほどに。
たとえ先輩が玲奈さんのことを気に入ったとしても、先輩がライバルになったとしても、俺は決して譲らない。
玲奈さんだけは、俺の人生で誰にも譲れない。
斎藤は最初から機嫌が悪かった。会場で北川と氷室と話して分かれてから、合流したときにはぎろっと睨まれたし。
それなのに、居酒屋に着いたら隣の席に座るなり、ビールをハイペースでぐびぐび飲んで、気合が入ってないだの、彼女が応援に来て浮かれてるから優勝できなかっただの、あんな美人になんか簡単に捨てられるだの、散々言いたい放題だった。
最初は聞き流してたが、だんだんと玲奈さんのことを悪く言う流れになってきて、「やめろ」と一喝したら、「気分悪い」と言って外に出て行った。
しばらくしても戻らなくて、俺のせいのような気がして、外に出た。
店の前に置いてある丸椅子に斎藤はただ座ってた。俺の顔を見るなり、あからさまに嫌な顔をした。
「どこで知り合ったの?」
「は?」
「あの人とどこで知り合ったの?」
「どうでもいいだろ、そんなの」
「自分が、あんな綺麗な人に似あうって思ってんの?全然モテなくて、今まで彼女一人できなかったくせに」
「俺の彼女は玲奈さん一人で十分だよ」
すると突然斎藤が立ち上がって、ふらふらと歩き出した。危ないと思って腕をつかもうとしたら、その前に叩き落された。
「私、あの人にお兄ちゃん紹介したの。お兄ちゃん、絶対あの人のこと気に入ったと思う」
「何言ってんだ?」
「見てわかるでしょ!あんな美人、あんたなんかすぐ飽きるんだから!どうせロクなセックスだってしてないんでしょ!そんなやつ、すぐ捨てられるだけだから!結局、経験豊富で、甘えられるほどしっかりした人のほうがよくなるのよ。今は何の遊びか知らないけど、なーんにも知らないあんたで遊んでるだけなんだから!」
「斎藤…いい加減に」
「智ちゃん!」
あまりの言いようにさすがに言い返してやろうと構えたところに、斎藤の彼氏で俺の高校の同級生でもあるヒデがやってきた。
ふらついている斎藤を支えると、俺と目が合った。
「よぉ、久しぶりだな」
「あぁ。迎えに来たのか?」
「まーな。夕方、北川から連絡来て。なんかあったんだろうなと思ってたし。そんでちょっと前にこいつの兄ちゃんから連れて帰れって連絡もきたから」
「なら、話は早いな。あとは、頼む」
「まだ、話は終わってないでしょ!」
「おまえと話すことは何もない。これ以上玲奈さんに絡んだり、そういうことばかり言うなら、俺はもう道場には顔を出さないし、おまえとも付き合いはしない」
「なによっ!彼女ができたからって浮かれて…調子に乗ってるんじゃないわよ!」
「智ちゃん、落ち着いて?もう帰ろう?荷物は?ちょっと貴史兄さんに連絡するから、あそこの公園で休もうか」
二人のやりとりを横目に俺は居酒屋に戻った。それと入れ違いで、多分斎藤の荷物を持った先輩が店を出て行った。
俺もそろそろ帰ろうと財布から金を出して幹事に渡すと、荷物を持って外に出た。
さすがに斎藤とヒデはいなくなってて小さく息を吐いた。どっと疲れた気分だった。
「悪かったな、智美があんなになって」
後ろから声をかけられて、驚いて振り返ると、先輩がいた。
「今日、あいつおまえの彼女に俺から見てもどうなんだと思うくらいのことを言ったし、やったわ。俺からも謝ったけど、嫌な思いさせたと思う。挙句今度はおまえにまで」
「いえ、あいつが俺につっかかるのはいつものことなんで、先輩は気にしないでください」
「おまえの彼女、本当は帰ろうとしてたんだよ。それくらいのこと、あいつはした。あの席だとまた智美がなんかするかもと思って裏から見てたけど、ずっと一生懸命おまえのこと応援してたよ。いい子だな」
「…はい、とてもいい人です」
「ははっ。のろけるのも直球かよ。おまえらしいわ。じゃあ、気を付けて帰れよ」
「はい、お先に失礼します」
頭を下げて、先輩が居酒屋に戻るのを見届けた。
俺はそのまま駅に急いだ。
玲奈さんが俺のことをずっと応援していた。
そして、先輩はそれを、ずっと見ていた。
すごく嫌な予感がした。今すぐ玲奈さんに会いに行かないといけないと思うほどに。
たとえ先輩が玲奈さんのことを気に入ったとしても、先輩がライバルになったとしても、俺は決して譲らない。
玲奈さんだけは、俺の人生で誰にも譲れない。
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