熊ちゃん配達員を食べたい腹ペコな私 清純なのは見た目だけ!とにかくおとなしく食べられなさい!

あさひれい

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気圧されてしまいました

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とぼとぼと会場を歩き続けて、出口を探してた。くまちゃんにただついてきただけだったから道順をよく覚えてなくて、さまよってる感じ。

でも、なんていうか、私の今の心もまさにさまよってます。

もう少し、事前情報もらっておけばよかったな…。ただ応援に来るねーぐらいのことじゃなかったんだね。
友達とか、道場のこととか、聞いておけばよかったのに。
智美さんのことも、聞いても話したかどうかはわからないけど。
多分、彼女はくまちゃんが好きだろうし、くまちゃんはそれには気づいてないと思う。
くまちゃんに告白してる感じじゃなくて。
告白できなくて辛いけど、でも自分じゃない子と付き合うくらいなら、男の子同士くっついてくれたほうがいいっていつか誰かに聞いたことがある。
私がもし、高校生で、今と同じ状況にあったら、きーきー喧嘩してたと思うし、くまちゃんにまとわりつかないで!って言ってたと思う。
でもね、この年まで来ると、そう簡単にいろんなことできないな。
それぞれの気持ちがわかるし、でも自分の気持ちも譲れないし、かき乱された心だって自分でどうにかしなきゃいけないし。
ここは引き下がるのが一番だなって経験から感じてたんだけど、くまちゃんに一言も言わずに去るのはいけないなと思って、スマホを取り出した。

「あの、待ってください!」

後ろから声をかけられて、振り返った。
智美さんのお兄さんがなぜかそこにいた。

「智美のせいですよね?すみません。あいつ、ばかだから、散々失礼なことしたと思います。俺が代わりに謝っても全然気が済まないと思いますけど、すみませんでした」

まっすぐに私の目を見て謝罪の言葉を言うと、頭を下げた。
私はそれをぽかんと見つめていた。

「あいつ、熊野のこと、ずっと好きなんですよ。でも、熊野は智美のこと、全然なんとも思ってなくて…勘違いだったらすみません。熊野の彼女なんですよね?」

「…はい」

「勝手に騒いで嫌な気分にさせてすみませんでした」

「いえ、智美さんの気持ち…わからないわけでもないですから…好きな人に彼女ができてたら、それは辛いですよね」

目を合わせるのは辛くて、床をじっと見つめていた。

「帰るんですか?」

「あ…今日はそうしようかなと思って…迷惑がかかるのは嫌ですし…もう今更かもしれないですけど」

「熊野が頑張ってる姿、見てやってくれないですか」

「でも、私…」

「俺がそばにいれば智美ももう来ませんから」

どうしたらいいのか、考えがまとまらないほど、もう私の頭は疲れ切っていた。
そうこうしていたら会場から歓声が上がる。

「熊野も、見てもらいたいと思うんで、どうかお願いします」

また深々と頭を下げられて、私も心を決めた。
今日はくまちゃんの応援に来たんだもん。めげてる場合じゃないよね。

「じゃあ、こっちに」

智美さんのお兄さんが先導してくれたけど、行く先はさっきの道場の人たちがいたところじゃなくて、会場の裏のようなところだった。

「ここって」

「本当は関係者しか入れないんですけどね。今日はそんなに大きい試合じゃないんで、大丈夫ですよ。そこの隙間から見ると、上から見るのとは全然違った迫力でいいですよ」

そう言われて一歩先に進むと、少し開いた扉の向こうは試合会場だった。
くまちゃんがもう礼をして、構えている状態だった。

「熊野、頑張ってきたんで、最後まで見てやってください」

そんな言葉も耳に入らないほど、私の目はくまちゃんの姿に釘付けになっていた。
それからはずっと私はそこで試合を見守って、何も言わずに智美さんのお兄さんも後ろにいてくれた。
結局、くまちゃんは準決勝で負けちゃったけど、初めて見る試合はとてもとても感動した。
あそこで心が折れて帰らなくて本当によかった。

ずっと私に付き合って立ちっぱなしで見てたのに、笑顔でまた会場のほうへと案内してくれた。

「ありがとうございました。私に付き合わせてしまって、すみませんでした」

「いやいや、もとはと言えば智美のせいなんで。俺たちは打ち上げに行きますけど、えっと、あなたは」

「あ、私、名前言ってませんでしたね。橘です。今日はこのまま帰ります。熊野さんによろしくお伝えください」

「わかりました。智美と顔合わせないほうがいいですからね。俺は、斎藤と言います。今日は本当にすみませんでした」

お互いに会釈をしてそこで分かれた。くまちゃんには『お疲れ様でした。すっごくかっこよかったよー。打ち上げ楽しんでね』とメッセージを送って会場を出た。

このままくまちゃんちに行って、帰りを待つ予定だったんだけど、今日はとてもとても心が疲れてしまって、くまちゃんの前で笑える気がしなくて、そのまま家に帰ることにした。
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