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どう考えても浮いている

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玲奈さんの職場の人達が食事に誘ってくれているようだが、恐らく仕事が遅くなったからみんなで飲みに行こうという流れになって、玲奈さんが俺が迎えに来るからと言ったところ、じゃあ呼べば?ぐらいの感じだと思う。
だから、終わった頃に迎えに行こうと思っていたら、来ないなら帰さないと言われていると返事が来て。
状況がよく飲み込めないが、行ったほうがいいんだろうと思って返信した。

その後に来たメッセージに目を疑って、二度見してしまった。

そこにはかなり色っぽい玲奈さんの写真があって、『早く来てね』の文字が。
ちゃんと車を止めてラインのやり取りをしていてよかったとつくづく思った。
いや、職業上、運転中の違反行為はご法度だから、無意識でもそうなるんだが。

玲奈さんがそんな格好でいくら職場の人と一緒とはいえ出歩くのを想像するだけで嫌な予感がする。
しかも、飲みとなると女性が多ければ、混ざってこようとする男もいるから、一刻も早く玲奈さんの隣でガードしなければならない!とハンドルを握りしめた。

会うたびに思うけれど、玲奈さんはなんというか、狙われやすそうな容姿をしている気がする。
万人受けする美人だし、スリムなのに出るところは出ていて…と自分で考えながら、よこしまな方向に進みそうになって、一人車の中で叫んでいた。
運転中は集中しないと、事故る!

車を30分くらい走らせたら、ナビが「目的地周辺です」と言って終了した。来る途中で店の名前は確認したし、駐車場があるというメッセージも受けたが、駐車場の位置がよくわからない。
その店の前に、玲奈さんが立っていた。よかった。さっきの格好に薄出のコートを着ているからまだ体のラインが隠れている。

「くまちゃん!駐車場ね、この裏なんだって」

手を振りながら、近寄ってきてくれた玲奈さんが笑顔でその方向を指さしてくれた。

「わかりました。ちょっと停めてきます」

「ここで待ってるね」

店の裏に車2台分のスペースがあり、おしゃれな外観には不釣り合いの軽トラを停めて、お店の正面に回った。
名前からして俺が同僚や先輩と行くような居酒屋じゃなさそうだなとは思っていたが、レンガ造りの建物の前にはいくつもでかい木が鉢植えに植えられている。看板もネオンじゃなくて、木製の黒板にメニューが出書きで書いてある。

「くまちゃん」

俺が歩いてくるのに気づいた玲奈さんが小走りで駆けてきて、そのままの勢いで抱きついてきた。
抱きしめ返しながら、今日も一段とかわいいなぁとしみじみ思っていた。
仕事終わりで汗くさいだろうに、俺の胸元に顔をうずめた後、にこにこと見上げて「来てくれてありがとう」と喜んでくれた。
この笑顔が見れるなら、どこへでも駆け付けます。

「いえ、でも俺が来て本当によかったんですか?」

「もちろんだよー。みんなくまちゃんに会いたいんだもん」

「…そんなものですか…?」

正直、俺は玲奈さんを職場の人に見られるのは、怖い。
玲奈さんが狙われそうだし、玲奈さんが他の人を好きになったらと思うと、とてもじゃないが男に紹介したいと思えない。自分の懐の狭さが嫌になるが、まだ、心の準備ができていない。

玲奈さんに腕を引かれて店の中に入ると、中はこじんまりとしていて、窓際にいくつか2人用の席があって、中央に4人掛けくらいの席が2つある。

「奥にね、個室があるの。みんなはそこで待ってるよ」

玲奈さんが店員に会釈すると、感じのいい女性店員が奥の方へ手を伸ばしていた。どうやらその先に個室があるらしい。

奥に進むと、声が聞こえてきた。玲奈さんが壁で仕切られている部屋へ先に入った。ドアはないが、確かに個室のようだ。
俺もそれに続くと、ソファ席だった。L字型のソファに奥から男性が一人、この前会った店長さんだと思う、がいて、女性が3人座っていた。玲奈さんと俺はテーブルを挟んでその向かいに置いてある二人掛けのソファの方へ進んだ。

「遅くなりました、熊野です」

「くまちゃんです!」

「急に呼び出して悪かった。なんでも好きに注文してくれていいから」

店長さんがわざわざ立ち上がって、俺に座るように促してくれた。会釈をして、玲奈さんの隣に座る。

「あのね、店長はもう会ったことがあるけど、相川店長、マキちゃん、カホちゃん、アイリちゃんだよ。みんなうちのお店の社員なの」

割と名前と顔を一致させて覚えるのは得意なほうなので、玲奈さんの言ったことを頭の中で復唱しながらみんなとしっかり目を合わせて、一人一人に頭を下げた。

なんていうか、こう、みんな、おしゃれです!というオーラが半端じゃない。
それは洋服屋さんなんだから当然なのかもしれないが、全身に隙がない感じがする。大学のときでも、こんな人達は俺の周りにはいなかった。柔道のマネージャー達も時々スカートを履いている程度で、ほとんどジーンズやパンツだった気がする。
これは、どう考えても俺が混ざっていていい集団ではない。体のごつさからしても、俺は異種だ。相容れない気がする。

「くまちゃん、何飲む?これがね、ソフトドリンクとノンアルコールの飲み物のメニューだよ」

玲奈さんが渡してくれたメニューを見ると、ノンアルコールビールだけじゃなく、ノンアルコールワインやカクテルだけで軽く20種類くらいはありそうな充実っぷりだった。ソフトドリンクも、アップルジュースとかに並んでブラッドオレンジジュースとかピーチジンジャーなんていう聞きなれないものまで色々ある。
ひとまず、ノンアルコールビールを注文することにした。

「玲奈さんは何を飲んでるんですか?」

「私はね、ノンアルのカシスオレンジだよ。お料理は適当に注文したのがもうすぐ来るから待っててね。たぶん、すぐにお通し持ってきてくれるから、そのときにビール頼もうね」

玲奈さんが言ったタイミングでさっきの女性店員さんが両手にトレーを持って現れた。
テーブルにそれを一旦置いて、俺にお水とおしぼりと、生ハムやチーズの乗ったクラッカーを出された。これがお通しだろうか。居酒屋ではありえないシロモノだ。

テーブルにはどんどん料理が並べられていく。カルパッチョとかタラモサラダとかバゲットとか、これも全く聞きなれない。
テーブルマナーはどうだったっけ?と頭の中では大混乱だ。
そんな俺に代わって玲奈さんがノンアルのビールを注文してくれていた。
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