上 下
44 / 142

色気の出し方を、至急!

しおりを挟む
私は事の重大さに打ち震えております。仕事はとにかく真面目にこなしますけれども、内心焦っています。
昼出勤だった私は最後のレジ締めと戸締りまで担当なので、お店に最後の最後までいるわけですが。
帰りに本屋に寄れそうな時間じゃないので、帰ってからネットで調べるとかするかな…と一人悶々としていました。

今日は、社員のみんなも帰るのが早くて、戸締りもさっと終わりそう。
そんな時、パートの小春さんが走ってお店に戻ってきた。

「ごめんね、橘ちゃん、スマホ忘れちゃったみたい」


「わー、閉める前でよかったです。困りますよね、スマホないと」


小春さんは奥の休憩室に入って、スマホを持ってすぐに戻ってきた。

「ありがとう。ほんとに助かった。今日は夫が保育園お迎えに行って、家で子供達みてるから急に追加の買い物とかの連絡が入ったら困るなと思って」

「そうだったんですね。相変わらず優しい旦那さんですねぇ」

「ふふふ。ありがとう。橘ちゃんの彼氏も優しそうって聞いたよ」

「えへへ、そうなんです…って誰に聞いたんですか?!」

「そりゃあ、店長よ。あの人が太鼓判押すくらいだから、間違いなだろうね~。よかった。橘ちゃんがいい人に巡り合えて」

そうですねー。小春さんもこの店舗でのパートが長いから、私の1年程前の惨状をよくご存知でいらして…。

「あの…小春さんの旦那さんって年下でしたよね、確か」

「そうだよ。あ、橘ちゃんの彼氏も?」

「そうなんです。3つ下で、その…あ、いえ、なんでもないです」

さすがになんでも聞くのは気が引けて躊躇した。
でも、正直相談するならメンバーの中では、小春さんが一番いい気がしてはいるんだよね。
なんというか、話題が過激に走り過ぎる傾向があるので、うちの優秀な探偵たちは…
小春さんはおっとり美人で、2人の子持ちにはとても見えない。そして、身の内から溢れる、夫の手綱握ってます感が心惹かれるというか、このお方になら相談してもいいのではないかと…

「どうしたの、橘ちゃん、難しい顔して」

「あ、あのう、今お時間ありますか…?」

「え、全然いいよ。お迎えもないし、ちょっとくらい遅くなっても全然平気」

私はその言葉に意を決した。

「私、えっちをリードしきれるか、心配で!」

「うーん、奥に行こうかな?」

小春さんが優しく私の背中を押して休憩室に入らせた。電気をつけて、休憩室のおなじみのテーブルに二人で斜めに座った。

「どうしたの?彼氏さんと何かあったの?」

「いえ、それが、どうやらえっちをしたことがないみたいなんです」

「あら、まぁ」

「私、初体験のときでも、経験がある人だったし、初めての人が初めてで。ちゃんとできるかどうか…」

「彼氏がちゃんとできるか心配なの?」

「あ、違います。私がちゃんとリードしてあげられるか心配で…。だって、初めてのことなのに、えっちがうまくいかなかったりして、これからするの嫌とか、私とするの嫌とか思われるの、怖くて」

「うーん、好きな人とできるなら、ちょっとくらい失敗しても、また次をって頑張れる気がするけどなぁ」

「でも、初めてなら、いい思い出にしてあげたいし」

「好きなのねぇ、彼氏さんのこと」


「ひゃい…そうなんです…」

いやー、そんなストレートに言われますとさすがに照れます!

「でも、結局誰とでも初めてのことはうまくいくかどうかを悩んでも、してみるしかないじゃない?準備することなんてできないし、心の準備以外には」

「そう…ですよね…」

「かわいいねぇ、橘ちゃんは。いつでも一生懸命にいろんなことを考えてて」

「え、そうですか?そんな風に言ってもらえると嬉しいです」

「きっと、その気持ちは彼氏さんに伝わってると思うよ。それに、多分、緊張してるとしたら彼氏さんのほうじゃないかな。橘ちゃんに経験があることを知ってて、自分が初めてなら余計にうまくできるかどうか、悩んでると思う」

「えぇ?!そんな、私は別に気にしないのに」

「ね?そんなものでしょ?だから、橘ちゃんも気にしないの。好きなんだから、どんな形になっても、二人で経験するしかないのよ」

「そうなんですねぇ…なんていうか、初めてをもらう責任を感じてしまって」

「いつも突然の男らしさを出すもんね、橘ちゃんは。もらえるんだから、もらっときなさい」

「はい、もらいますけど、誰にも譲りませんけど、それは」

あははと小春さんが笑ったので、私もつられて笑顔になる。
そっかー…同じ気持ちなのかぁ。それならちょっと肩の荷が下りるかなぁ。

「でも、橘ちゃんが私に直接相談するの珍しいね。マキちゃんとかカホちゃんじゃなくて」

「あ、いえ、ほんとはいつでも相談したいんですけど、小春さんは家庭もあってお忙しいですから。でも、今回ばかりはちょっと内容が過激になりそうで、みんなに言うと」

「過激?」

「ほら、よく言うじゃないですか、男の恋愛は名前を付けて保存で、女の恋愛は上書き保存だって。そしたら、マキちゃんとかは、『上書き保存なんかしないですよ。そいつのダメさ加減を女子会っていうクラウドで共有して散々にこき下ろした挙句、本体からもクラウドからも抹消ですよ!』って感じで。ちょっとでもえっちのことを相談すると、いろーんな話が沸いてきそうで…」

いや、聞くのはいいんだよ?女子会で、へーとかふーんとか言ってるのは全然いいんだけど、今聞くと、くまちゃんがなんかそれに該当するようなことをした時に思い出しちゃいそうで怖いなっていうだけで。
適当に聞き流せるときの愚痴とか元カレのひどい話とかはいいんだけどねぇ。

「若いうちに色々経験しておくのはいいと思うのよ。でも、みんながみんないい男とは限らないから、そうやって吐き出す場所があるのはいいことよね」

うんうん。やっぱり小春さんは余裕があります。なんでも前向きに肯定してくれるもんね。

「でも、橘ちゃん、その彼氏に本気なら、心もそうだけど…体で篭絡させなさい」

えっ?!あら、聞き間違い?トーンが、声のトーンが違いますし、表情が…

「橘ちゃんなしではいられなくさせたらいいのよ、簡単簡単」

こ、小春さん?
そんな優し気な微笑みを浮かべて言うセリフではありませんよ…?

「大丈夫、橘ちゃんはとっても素晴らしい体をしているし、手でも口でもなんでも使って彼氏さんを虜にしちゃいましょう」

なんということでしょう。おっとり美人の小春さんからとんでもない色香を感じます。
これが、大人の色気…私、また新しい道を開いてしまいそうになります…小春お姉様…


「とにかく夢中にさせちゃえばいいわけだから…」


と始まったそれはそれは大変ためになる、とてもここではお話できないようなことをあまたご教授頂きました。
ていうか、旦那さん小春さん相手にしたらそりゃあどの女性でも物足りなくなるでしょうよ!

「ふふふっ。技は小出しにするのよ?マンネリ防止にもなるし、橘ちゃんの彼氏みたいに初心だと警戒されちゃうかもしれないからね」

とにこやかに笑っておられます。

これが、大人の余裕…。色気というものなんでしょうか。同じことをしているはずなのに、なぜ私はがっつく感じになってしまうのか。えっちの仕方よりも、色気の出し方を学びたいです!
あー、なぜ私にちんちんがついていないのか。ぜひ体験したい。いや、でもそれは浮気になってしまう。えー、それでも、ちんちんでそんなに気持ちよくなる感覚を味わいたい。
いいなぁいいなぁ。ちんちんほしいなぁ。
くまちゃんのちんちんで試したいし、遊び尽くしたいのに。
今夜、襲いにいこうかな…むらむらしてきた…


「橘ちゃん?大丈夫?」


はっ!だめだめ!何をうっかり惑わされているのかしら、私。
恐るべし、大人の色気。
私なんて、ほんとぺーぺーなんだなって痛感しました。
でも、年下の旦那さんと今でもラブラブな小春さんは、私の目指す姿だし。私も余裕たっぷりのお姉さんになれるように頑張らなきゃ!
余裕たっぷりにがっつきたい!ん?なんか矛盾するような…
でも、とにかく、決戦の日まで体をぴかぴかに磨いときましょう!色気は追々考えます!
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

毎週金曜日、午後9時にホテルで

恋愛 / 完結 24h.ポイント:205pt お気に入り:228

【R18】恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,428pt お気に入り:13

異世界じゃスローライフはままならない~聖獣の主人は島育ち~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:32,667pt お気に入り:8,855

処理中です...