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誤解だ!

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ドラッグストアに寄った後はスーパーでビールやつまみなんかを買い足して寮に戻った。
まだ四時前だったから、洗濯をして部屋に適当に干したり、軽く掃除をしたりした。
ここに玲奈さんがいたんだよなぁ…と信じがたい思いでいたら、スマホが鳴った。

長峰からの着信だった。

「どうした?」

「あ、いや、おまえもう家か?今日休みだったろ。後で飲まねーか?」

「ああ、いいけど。俺んち来るのか?」

「おう。前に置いてった酒まだあるだろ?」

「あー…悪い、飲んだ、全部」

「……おう。そんなら、買っていくわ。9時くらいには戻る」

「わかった」

歯切れの悪い感じだったが、後で部屋に来るならその時に聞けばいいと思い、時間まで横になることにした。
玲奈さんと一緒にいる間の緊張と昨夜の睡眠不足であっという間に眠りに落ちた。

ンターフォンの音で目を覚まし、働かない頭でなんとか約束を思い出し、玄関を開けた。
長峰が、でかい袋にビールや焼酎の瓶を結構な数持ってきた。

「寝てたのか?」

「ああ、そんなとこだ」

体を伸ばしながら廊下を戻り、キッチンからグラスを2個、水割り用のペットボトルの水を冷蔵庫から取り出した。

「氷もいるか?」

「いや、今日はいい」

長峰はローテーブルの上にビールを置き、俺の方に滑らせてきた。

「他のは冷やしとくか?」

「あー、いやとりあえずビール2本だけだから」

そう言って、2人でビールの缶を開けて飲み始めた。
さっき買ってきたばかりのつまみの袋を皿に開けて持ってくると、長峰がうつむきがちに話し始めた。

「おまえ、デリヘル呼んだって?」

「は?」

あまりに唐突な切り出しと内容に気の抜けた声が出てしまった。

「昨夜、女来てたって、見たやつがいてさ。コソコソしてたから、デリだろうって。おまえどんだけ誘っても風俗も行かないやつだったのに、寮に呼ぶとかすげーな」

「呼んでない!」

「まぁまぁ、何も責めちゃいなくて。ラブボとかに呼ぶのとかもどうせ知らなかったんだろ?」

「だから、待てよ」

「なんだよ」

あまりに現実とかけ離れた内容にめまいさえ覚える。
何がどうなってそんな噂に。しかも昨日の今日だってのに。

「昨夜は、玲奈さんが来てたんだ。デリヘルなんて呼んでない」

「誰だよ、レナさんって」

「だから、配達先で色々親切にしてくれた人だよ。付き合うことになったんだ。それで、昨夜はうちに来てただけなんだよ」

「はっ?!おまえ、振られたんじゃなかったのかよ?!」

やっぱり、この前こいつが来た時にしっかり誤解を解いておくべきだった…

「だって、おまえ、デートだって言ってた日に早々に帰ってくるわ、ストレス解消の掃除を始めるわ、酒は飲み尽くすわ、そんなの振られたヤツのやることだろ。なにやってんだ、おまえ」

「わかってる…情けないと思ってるよ」

ビールを一気に煽って、空になった缶をべきっと握り潰す。
長峰は、大きなため息をついて、つまみを食い始めた。

「まー、なんにせよ、よかったわ。うまくいってんなら。もう部屋に来るとかおまえもやるなー」

「いや、部屋に来たのはトラブルがあったからで、別に」

「おまえ、この後に及んで下心ありませんとか馬鹿なこと言うなよな。惚れ込んだ女が自分の彼女になって、やりたいと思わない男がいるか、馬鹿」

ぐうの音もでない。もちろん俺もわかってはいる。
玲奈さんとしたいとずっと思ってるし、多分玲奈さんもそう思ってくれているようだし、次に会う時あたりに…
あー、頭が沸騰しそうだ。

「長峰は、最初にやるときどんなんだったんだ?」

「は?俺?最初?…あ、あー、まぁ、あんまり思い出したくないと言うか…」

気まずそうに頭をかいて、ビールをひと口飲んだ。

「高校生のときでさ、動画とか色々見てたわかってる気でいたのに、いざとなるとどこに挿れんだ?!ってなったし、ゴムはうまくつけらんねーし、あー、思い出したくねぇ。まじ、なかったことにしたい」

両手で顔を覆ってため息をついているが、まずは高校生のときにセックスしてる時点でだいぶ距離は開けられているし、24にもなって、長峰が言ったようなことをまさにやりかねなくて、俺まで頭を抱えた。

全くもって、うまくやれる気がしない。
なんなら行為の最中に興奮し過ぎて鼻血まで出しそうな気がする。
いや、だって、玲奈さんの裸を見るのかと思うと、それだけで動悸がするのに。
目の前にほしくてほしくてたまらないものがいたとき、俺はどうなってしまうんだろうが…

「まぁ、でもなるようにしかならねぇよ、そんなの。うまくやることより、楽しめばいいんじゃね?」

それはその通りなんだが。
2人で重いため息をついた後、吹っ切るように飲むスピードを上げた。久々に浴びるように飲んで、泥のように眠った。

翌朝目を覚ますと、たった1日離れただけなのに、もう玲奈さんに会いたくて仕方なくなっていた。

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