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借りてきた猫
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初めて入った橘さんの部屋のソファの上でかちんかちんに固まっています。
橘さんの部屋は、いつも玄関しか入ったことはなくて中がとんな風になっているかなんて考えたことはなかった。
女性向けの部屋らしく、玄関から奥の廊下や部屋が見えない作りになっていたから、いつも、玄関前の壁しか見えなくて。
玄関から左に進むとドアがあって、そこが俺が今いるリビングだ。キッチンも見えるからダイニングなのか?割と広い。
玄関からの廊下の途中から右に行くとトイレと風呂場があるらしい。その奥に寝室があるんだろうか。未知の領域だ。
そもそも、女性の部屋に入ること自体が初めてで、同棲してるヤツの家とか、結婚してる先輩の家には行ったことあるけど、それでもいつも何人かで行くから、俺単身で来たのは本当に初めてだった。
なんていうか、当たり前だけど、俺の部屋とは全く違っている。
こんなかわいいソファもなければ、茶色い脚のガラスのローテーブルなんて、中に何かおしゃれな小物が並んでいる。これは、元々店で入れてるわけじゃなくて、きっと橘さんが好んで並べたものなんだろうな…と思うと、俺の感覚と全く違って、しみじみと見入ってしまう。
9個あるスペースの中にこの前のデートのときに俺が買った熊のネックレスが柔らかそうな白い布の上に置かれていた。
胸がじんと熱くなった。こんな風に橘さんの生活の一部になっているかと思うと、顔が緩んでしまう。
じろじろと見てしまうのはあんまりよくない気がして、またソファに深く腰掛けてできるだけ何にも焦点が合わないようにした。
そうだ。スマホを見てればいいんだ。
橘さんが教えてくれたシェアパーキングというやつを調べておこうと思った。
ほんとにそんな細かいことまで、いつも気遣ってくれるよなぁって心から感心する。
気が利かない俺とは雲泥の差だ。
昨日だって、俺の風呂場にあるようなものだけじゃきっと足りなかったんだと思うのに、一言も文句も言わずにいたし。
俺の部屋着や下着を持って帰りたいとか、必要なものがあれば置いておくなんて…ここに来てまた昨夜のように泊まったりしていいって言ってくれてるようで、少し照れる。いや、かなり照れている。
今朝、何でもないように振る舞ったけど、目が覚めたら橘さんが抱きついて寝てるし、細い脚が俺の体に乗ってるし…
あと少し上にくると、俺のに当たりそうで、朝勃ちしてるのにほんとにどうしようかと思った。
でも、柔らかい感触が体に残っていて、気持ちよかったなぁ…なんて。
ソファが心地よく体を沈ませてくれて、部屋に残る橘さんの香と睡眠不足からくる疲れのせいか、うとうととしてしまった。
目が覚めたら、目の前に食事が並んでいた。
トーストが何枚か乗った皿と、目玉焼きとソーセージとミニトマトが乗った皿があって、コーンスープがマグカップを平たくしたようなものに入っていた。
「あ、起きました?」
声のほうをみると、橘さんがかわいいお姉さんから、いつもの綺麗なお姉さんに変身してしまっていた。
お化粧も髪も、服も支度が終わって、朝ごはんまでできているということは、俺は結構眠っていたんじゃ…?
「す、すみません、来て早々眠るなんて」
「ううん、全然。お仕事で疲れてるのかなって思って、少しでも眠れたならよかった」
動こうとして、するっと膝から落ちた柔らかいブランケットに気づいた。薄いピンクのそれを俺にかけてくれていたらしい。
「ありがとうございます、これ。全然気づかなくて」
「うん、よく眠ってた。キスしても起きなかったんだよ~」
「?!」
トレイにジャムやスプーンなんかを乗せてやって来た橘さんはにこにこしてるけど、冷やかしてる感じじゃなくて。
つまり、本当に、寝てる俺にキスしたという…ことなのか…?
「足りるかなぁ?あ、でも出勤前にもう少し食べる予定だから、その時にたくさん食べようね」
ソファの俺の横に座って、どんどん準備をしてくれる。
「お腹空いたでしょ。ごめんね、冷蔵庫にあるのがこんなのしかなくて。とりあえず食べよっか」
「とんでもないです。美味しそうです。いただきます」
「ふふっ。ありがとう。いただきまーす」
にこにこしながらパンにジャムを塗ってくれている。
皿に乗っている量が倍くらい違うんだが、遠慮なく食べることにした。
「あのね、ずっと言おうと思ってたんだけど、敬語使わなくていいよ?私もちょっとずつ慣らしていこうかなって思って」
「あ、はい、俺もそうします…」
「全然なってない」
あははと笑う橘さんがとてもかわいい。
「あとね、玲奈って呼んで。橘さんじゃなくて」
「…え、あの…」
それはちょっとハードルが高いというか、小っ恥ずかしいというか…
「私、くまちゃんって呼ぶから」
…なぜ?
なぜ俺は苗字なんだろうか。達哉でも、タツでもなんでも構わないのに。
「くまちゃんってかわいいから、ぴったりでしょ?」
「かわいい…?」
24年生きてきて、一度も言われたことはないし、きっとこの先も橘さん以外に言う人はいないと思う…
そのうち親密度が上がったりしたら、名前の呼び捨てとかになるんだろうか
いまいちその原理はよくわからないが、橘さんが楽しそうなので頷いておいた。
朝食を食べ終わって、キッチンで並んで皿洗いをしたり、拭いてしまったりしてると、あーこういうことをするのが2人で暮らすってことなのかなぁとか想像してしまって、勝手に赤くなっていた。
いや、おこがましいのはわかってるけど、想像してみたくて。
全部が片付いたら10時半になっていて、11時に出て、カフェでも行ってから仕事場に行こうかということになった。
あと、30分くらいここにいられる、と確かに気を緩めてはいた。
まさか、橘さん…玲奈さんが膝に座ってくるとは思ってなかった。
玲奈さんはスマホを片手に当たり前のようにソファに座る俺の膝に横向きに乗っかってきた。昨夜の再現だ。
俺の太ももに玲奈さんの柔らかいお尻の感触がある。
しかも、玲奈さんは出勤前なのでふわふわしたスカートを履いていて、動くとちらちらと膝とかふくらはぎが見えるというか、丸見えです!いや、ストッキング履いてるから素肌じゃないけど、やはりそこはどうなんでしょう!
ぴったりとくっついた上半身も、なんか薄い長袖1枚だし、胸がいつもよりくっきりわかるような気がして、それで出勤して、働いて、電車で帰ってくるんですか?!大丈夫ですか?!って聞きたいくらいだった。
こてん、と頭が俺の首元にはまった。
玲奈さんは綺麗なお姉さんだけど、なかなかの甘えん坊のようだ。
た、たまらないっ…
一人、悶えていたら、玲奈さんがスマホをいじってため息をついた。
「しばらくお休みが合わないから、会うの難しいかもね」
「え、そうなんですか?」
「そう、ほら、これが私の出勤なんだけど、前にくまちゃんに聞いたお休みと全然かぶらないの」
スマホの画面を見せてくれたが、確かに俺の休みは玲奈さんは出勤のようだ。
「来月ももう予定出しちゃったし、お休みを合わせられるのは再来月くらいからになりそうだねー。いつがいいとかあったら教えてね。早めに予定組むから」
「あ、はい、わかりました。でも、俺車ですし、朝も強いんで、玲奈さんの休みの日に合わせて動きますよ」
「え、でも仕事が終わってからこっちに来るの大変じゃない?」
「たぶん、大丈夫だと思います」
「わー、嬉しい。ありがとー」
むぎゅーと抱きついてくれるのはとても嬉しいんですが、胸が、胸が。
「じゃあ、その時はゴム買っとくね、どんなのがいいの?」
石像になりました。
れ、玲奈さん…?まだ朝の10時半ですよ…?
そんな爽やかに、そんな笑顔で言われるなんて…
「どんなのがいい…と言われましても…その…使ったことが…なくてですね…」
なんとかフリーズした脳を動かしてしゃべったものの、すぐさま失敗に気づいた。
ほら、玲奈さんが固まってしまったじゃないか!
「使ったこと、ないの…?いつも、なしでしてたの…?」
怪訝そうになってる!
ち、ちがいます!昨日もなかったのにしなかったじゃんみたいな想像しないでください!
「ちがいます!してません!なくても、あっても、したことないんです!」
「したことが、ない…?」
あああ…ついに話してしまった…
玲奈さんが固まってしまってる。やっぱり、嫌なんだろうか。嫌だろうな、そりゃ…
「そういうお店も?」
「な、な、ないです、そんなの!」
「なるほど…」
神妙な顔で黙ってしまった。
こんな質問、想定外過ぎて、なんでこんなにべらべらとしゃべってしまったんだ、俺…
「うん、わかった!じゃあ、とりあえず次に会えるのは私のお休みの日かな?なにが食べたい?作れるものだったら作っておくね」
俺の背中は滝のような汗でびっしょりなんだが、玲奈さんは相変わらず綺麗なままでにこにこしている。
童貞が嫌とか、引かれたような感じじゃなくて、ひとまず胸を撫で下ろした。
ちゅっ。
え?と思ったら、玲奈さんがにこにこしている。
え、今?と口を触ったら、
「あ、まだリップ塗ってないから大丈夫だよ」
と笑ってたけど、全然大丈夫じゃないです!
な、な、なんですか、そのかわいさは!
あーだめだ。本当にやばい。
知れば知るほど、ドツボにハマっていく…
俺に経験があろうとなかろうと、玲奈さんに彼氏に選んでもらったんだから、とにかくどうにかするしかないだろう!
胸の中で気合を入れて、柔道の礼をしていたら、玲奈さんがぎゅーと抱きついてきた。
体の力が途端に抜けたし、入らない。
瞬殺ですね。もう、一撃必殺です。絶対、玲奈さんにはかなわない…
「あー、離れたくない。仕事行きたくない…」
俺もです。離れたくないです、ほんとに。
でも、玲奈さんの評価に関わるので、きっちり送らせてもらいます!
と意気込んで、玲奈さんのお店の近くのカフェでコーヒーと軽食を食べて、別れようとしたら、せっかくだからとお店まで連れて行かれた。
中に入るのはさすがに気が引けて、首を振ってたら、中から長身で細身のかっこいい男の人が出てきた。
玲奈さんに「うちの店長です!店長、私の彼氏の熊野さんです!」って紹介を受けたし、されたんだけど、なんかじーっと見てませんか?
玲奈さんにはやはり、あなたのようなおしゃれでイケメンな人がふさわしいんでしょうか。
「大変だと思う。かなり。頑張ってくれ」
と謎のメッセージを残して、またスタスタとお店の中に行ってしまった。
玲奈さんも「ここまで送ってくれてありがとう!また連絡するね!」と言って中に入っていった。
見るからに俺には縁のないお店もというか、世界で、本当に玲奈さんは俺でよかったんだろうか…とまた自信を失いそうになってきた。
あ、いや、でも玲奈さんの気持ちが変わらないように俺も努力しないといけないじゃないかと思い直した。
とりあえず、必要だと思われるコンドームを買いに行くわけだが、しれっとレジに持っていく勇気がなかなかわかず、ドラッグストアで長居してしまった。
次に会うときにこれを持っていくのかと思うと頭が爆発しそうだ。
橘さんの部屋は、いつも玄関しか入ったことはなくて中がとんな風になっているかなんて考えたことはなかった。
女性向けの部屋らしく、玄関から奥の廊下や部屋が見えない作りになっていたから、いつも、玄関前の壁しか見えなくて。
玄関から左に進むとドアがあって、そこが俺が今いるリビングだ。キッチンも見えるからダイニングなのか?割と広い。
玄関からの廊下の途中から右に行くとトイレと風呂場があるらしい。その奥に寝室があるんだろうか。未知の領域だ。
そもそも、女性の部屋に入ること自体が初めてで、同棲してるヤツの家とか、結婚してる先輩の家には行ったことあるけど、それでもいつも何人かで行くから、俺単身で来たのは本当に初めてだった。
なんていうか、当たり前だけど、俺の部屋とは全く違っている。
こんなかわいいソファもなければ、茶色い脚のガラスのローテーブルなんて、中に何かおしゃれな小物が並んでいる。これは、元々店で入れてるわけじゃなくて、きっと橘さんが好んで並べたものなんだろうな…と思うと、俺の感覚と全く違って、しみじみと見入ってしまう。
9個あるスペースの中にこの前のデートのときに俺が買った熊のネックレスが柔らかそうな白い布の上に置かれていた。
胸がじんと熱くなった。こんな風に橘さんの生活の一部になっているかと思うと、顔が緩んでしまう。
じろじろと見てしまうのはあんまりよくない気がして、またソファに深く腰掛けてできるだけ何にも焦点が合わないようにした。
そうだ。スマホを見てればいいんだ。
橘さんが教えてくれたシェアパーキングというやつを調べておこうと思った。
ほんとにそんな細かいことまで、いつも気遣ってくれるよなぁって心から感心する。
気が利かない俺とは雲泥の差だ。
昨日だって、俺の風呂場にあるようなものだけじゃきっと足りなかったんだと思うのに、一言も文句も言わずにいたし。
俺の部屋着や下着を持って帰りたいとか、必要なものがあれば置いておくなんて…ここに来てまた昨夜のように泊まったりしていいって言ってくれてるようで、少し照れる。いや、かなり照れている。
今朝、何でもないように振る舞ったけど、目が覚めたら橘さんが抱きついて寝てるし、細い脚が俺の体に乗ってるし…
あと少し上にくると、俺のに当たりそうで、朝勃ちしてるのにほんとにどうしようかと思った。
でも、柔らかい感触が体に残っていて、気持ちよかったなぁ…なんて。
ソファが心地よく体を沈ませてくれて、部屋に残る橘さんの香と睡眠不足からくる疲れのせいか、うとうととしてしまった。
目が覚めたら、目の前に食事が並んでいた。
トーストが何枚か乗った皿と、目玉焼きとソーセージとミニトマトが乗った皿があって、コーンスープがマグカップを平たくしたようなものに入っていた。
「あ、起きました?」
声のほうをみると、橘さんがかわいいお姉さんから、いつもの綺麗なお姉さんに変身してしまっていた。
お化粧も髪も、服も支度が終わって、朝ごはんまでできているということは、俺は結構眠っていたんじゃ…?
「す、すみません、来て早々眠るなんて」
「ううん、全然。お仕事で疲れてるのかなって思って、少しでも眠れたならよかった」
動こうとして、するっと膝から落ちた柔らかいブランケットに気づいた。薄いピンクのそれを俺にかけてくれていたらしい。
「ありがとうございます、これ。全然気づかなくて」
「うん、よく眠ってた。キスしても起きなかったんだよ~」
「?!」
トレイにジャムやスプーンなんかを乗せてやって来た橘さんはにこにこしてるけど、冷やかしてる感じじゃなくて。
つまり、本当に、寝てる俺にキスしたという…ことなのか…?
「足りるかなぁ?あ、でも出勤前にもう少し食べる予定だから、その時にたくさん食べようね」
ソファの俺の横に座って、どんどん準備をしてくれる。
「お腹空いたでしょ。ごめんね、冷蔵庫にあるのがこんなのしかなくて。とりあえず食べよっか」
「とんでもないです。美味しそうです。いただきます」
「ふふっ。ありがとう。いただきまーす」
にこにこしながらパンにジャムを塗ってくれている。
皿に乗っている量が倍くらい違うんだが、遠慮なく食べることにした。
「あのね、ずっと言おうと思ってたんだけど、敬語使わなくていいよ?私もちょっとずつ慣らしていこうかなって思って」
「あ、はい、俺もそうします…」
「全然なってない」
あははと笑う橘さんがとてもかわいい。
「あとね、玲奈って呼んで。橘さんじゃなくて」
「…え、あの…」
それはちょっとハードルが高いというか、小っ恥ずかしいというか…
「私、くまちゃんって呼ぶから」
…なぜ?
なぜ俺は苗字なんだろうか。達哉でも、タツでもなんでも構わないのに。
「くまちゃんってかわいいから、ぴったりでしょ?」
「かわいい…?」
24年生きてきて、一度も言われたことはないし、きっとこの先も橘さん以外に言う人はいないと思う…
そのうち親密度が上がったりしたら、名前の呼び捨てとかになるんだろうか
いまいちその原理はよくわからないが、橘さんが楽しそうなので頷いておいた。
朝食を食べ終わって、キッチンで並んで皿洗いをしたり、拭いてしまったりしてると、あーこういうことをするのが2人で暮らすってことなのかなぁとか想像してしまって、勝手に赤くなっていた。
いや、おこがましいのはわかってるけど、想像してみたくて。
全部が片付いたら10時半になっていて、11時に出て、カフェでも行ってから仕事場に行こうかということになった。
あと、30分くらいここにいられる、と確かに気を緩めてはいた。
まさか、橘さん…玲奈さんが膝に座ってくるとは思ってなかった。
玲奈さんはスマホを片手に当たり前のようにソファに座る俺の膝に横向きに乗っかってきた。昨夜の再現だ。
俺の太ももに玲奈さんの柔らかいお尻の感触がある。
しかも、玲奈さんは出勤前なのでふわふわしたスカートを履いていて、動くとちらちらと膝とかふくらはぎが見えるというか、丸見えです!いや、ストッキング履いてるから素肌じゃないけど、やはりそこはどうなんでしょう!
ぴったりとくっついた上半身も、なんか薄い長袖1枚だし、胸がいつもよりくっきりわかるような気がして、それで出勤して、働いて、電車で帰ってくるんですか?!大丈夫ですか?!って聞きたいくらいだった。
こてん、と頭が俺の首元にはまった。
玲奈さんは綺麗なお姉さんだけど、なかなかの甘えん坊のようだ。
た、たまらないっ…
一人、悶えていたら、玲奈さんがスマホをいじってため息をついた。
「しばらくお休みが合わないから、会うの難しいかもね」
「え、そうなんですか?」
「そう、ほら、これが私の出勤なんだけど、前にくまちゃんに聞いたお休みと全然かぶらないの」
スマホの画面を見せてくれたが、確かに俺の休みは玲奈さんは出勤のようだ。
「来月ももう予定出しちゃったし、お休みを合わせられるのは再来月くらいからになりそうだねー。いつがいいとかあったら教えてね。早めに予定組むから」
「あ、はい、わかりました。でも、俺車ですし、朝も強いんで、玲奈さんの休みの日に合わせて動きますよ」
「え、でも仕事が終わってからこっちに来るの大変じゃない?」
「たぶん、大丈夫だと思います」
「わー、嬉しい。ありがとー」
むぎゅーと抱きついてくれるのはとても嬉しいんですが、胸が、胸が。
「じゃあ、その時はゴム買っとくね、どんなのがいいの?」
石像になりました。
れ、玲奈さん…?まだ朝の10時半ですよ…?
そんな爽やかに、そんな笑顔で言われるなんて…
「どんなのがいい…と言われましても…その…使ったことが…なくてですね…」
なんとかフリーズした脳を動かしてしゃべったものの、すぐさま失敗に気づいた。
ほら、玲奈さんが固まってしまったじゃないか!
「使ったこと、ないの…?いつも、なしでしてたの…?」
怪訝そうになってる!
ち、ちがいます!昨日もなかったのにしなかったじゃんみたいな想像しないでください!
「ちがいます!してません!なくても、あっても、したことないんです!」
「したことが、ない…?」
あああ…ついに話してしまった…
玲奈さんが固まってしまってる。やっぱり、嫌なんだろうか。嫌だろうな、そりゃ…
「そういうお店も?」
「な、な、ないです、そんなの!」
「なるほど…」
神妙な顔で黙ってしまった。
こんな質問、想定外過ぎて、なんでこんなにべらべらとしゃべってしまったんだ、俺…
「うん、わかった!じゃあ、とりあえず次に会えるのは私のお休みの日かな?なにが食べたい?作れるものだったら作っておくね」
俺の背中は滝のような汗でびっしょりなんだが、玲奈さんは相変わらず綺麗なままでにこにこしている。
童貞が嫌とか、引かれたような感じじゃなくて、ひとまず胸を撫で下ろした。
ちゅっ。
え?と思ったら、玲奈さんがにこにこしている。
え、今?と口を触ったら、
「あ、まだリップ塗ってないから大丈夫だよ」
と笑ってたけど、全然大丈夫じゃないです!
な、な、なんですか、そのかわいさは!
あーだめだ。本当にやばい。
知れば知るほど、ドツボにハマっていく…
俺に経験があろうとなかろうと、玲奈さんに彼氏に選んでもらったんだから、とにかくどうにかするしかないだろう!
胸の中で気合を入れて、柔道の礼をしていたら、玲奈さんがぎゅーと抱きついてきた。
体の力が途端に抜けたし、入らない。
瞬殺ですね。もう、一撃必殺です。絶対、玲奈さんにはかなわない…
「あー、離れたくない。仕事行きたくない…」
俺もです。離れたくないです、ほんとに。
でも、玲奈さんの評価に関わるので、きっちり送らせてもらいます!
と意気込んで、玲奈さんのお店の近くのカフェでコーヒーと軽食を食べて、別れようとしたら、せっかくだからとお店まで連れて行かれた。
中に入るのはさすがに気が引けて、首を振ってたら、中から長身で細身のかっこいい男の人が出てきた。
玲奈さんに「うちの店長です!店長、私の彼氏の熊野さんです!」って紹介を受けたし、されたんだけど、なんかじーっと見てませんか?
玲奈さんにはやはり、あなたのようなおしゃれでイケメンな人がふさわしいんでしょうか。
「大変だと思う。かなり。頑張ってくれ」
と謎のメッセージを残して、またスタスタとお店の中に行ってしまった。
玲奈さんも「ここまで送ってくれてありがとう!また連絡するね!」と言って中に入っていった。
見るからに俺には縁のないお店もというか、世界で、本当に玲奈さんは俺でよかったんだろうか…とまた自信を失いそうになってきた。
あ、いや、でも玲奈さんの気持ちが変わらないように俺も努力しないといけないじゃないかと思い直した。
とりあえず、必要だと思われるコンドームを買いに行くわけだが、しれっとレジに持っていく勇気がなかなかわかず、ドラッグストアで長居してしまった。
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