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欲張らないこと

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熊野さんが覆い被さってきた…と思ったら、掛け布団を私の体にぐるぐると巻いた。

あ、あれ…?

そして、ベッドから一旦下りるとダイニングの電気を消して、ベッドのところへ戻ってきた。
目が慣れなくて気配しか感じられないけど。
すぐに寝室が常夜灯になってぼんやりと周りが見えるようになった。

ぎしっ

隣に熊野さんがきたーと思ったけど、なんと、ぐるぐる巻きの私を封じるように背中から抱きしめられました。

え、まさか、この姿勢は…


「無責任なこと、できませんから」


あああ、やっぱり…

体の奥で火がついていたのに、あえなく鎮火されました。

でも、そうだよね。
触り合うだけで終われるかもわからないし、私がもしせがんだら、熊野さんのことだから、俺が拒否したら傷つくんじゃ…とか思って応えてくれそうだもん。
だめだめ。万が一でも妊娠の可能性があるんだから、二人の将来のために、今はそこを急ぐタイミングじゃないよね。

仕方ない仕方ない。今度はコンドームを買って準備万端に…うっうっうっ。
もう、ほんとに号泣ですよ。血の涙を惜しげもなく流しまくってますよ。貧血になるか、失血性ショックになりそうですよ。

もーもー。ここまできたのに。
あんなにいい雰囲気になったのに!
なに、この生殺し。
掛け布団越しだから、熊野さんの体温も感じられないし。

一矢報いてやらねばならぬ。


「…腕枕してください」


結構長い沈黙の後、私の頭が持ち上がって、その下に腕がきました。
あら、想像以上に高い。しかも硬い。
平安時代の貴族の人が寝てたような枕が頭に浮かんでくる。
寝られるかな、でも、きっといつかこの腕枕なしでは寝られないくらいになるんだよね。くふふ。想像するとわくわくする。

熊野さんの体が私の背中にひっついて…


だ、だめ!!!

今日髪洗ってない!このままじゃ、熊野さんの顔が私の頭にきちゃう!

ぐるぐる巻きの体でなんとか熊野さんのほうに向き直った。
お、おう、厚い胸板アゲイン。たまらない。
にやける。顔がにやける。

そうだよね、そんな焦らなくてもいいよね。
せっかく恋人になったんだから、ゆっくり進めばいいよね。
欲張らずにいきます。


「熊野さん、おやすみなさい」


体を伸ばしてちゅっとキスをして、その首元に顔をうずめて目を閉じた。
そっと私の肩を包むように腕が回されて心地よい体温が伝わってくる。

「おやすみなさい」

ああ、この低い声が好き。
熊野さんとこうして過ごせるのが本当に幸せ。


ヘルプで出勤したのが想像以上に疲労させていたらしく、さらに熊野さんのほかほかした体温がお布団越しに伝わってくるし、大好きな匂いに包まれて、私はあっという間に眠りに落ちていた。
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