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虎穴に入らずんば虎子を得ず

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現在の状況を説明しますと、熊野さんのおうちにいます。
何をしているかと言うと、お風呂場で全裸でシャワーを浴びています。
て、展開が速すぎませんか。
今までの、のんびりゆったりのペースはどこにいったんでしょうか。

そして、私はシャワーを浴びつつ、メイクを完全に落としてもう一度し直すのか、すっぴんになるのか、顔は洗わずにいるのか悩んでいます。
熊野さんのおうちに来るなり、洗面所に直行したのでバックも全部あるんだけど、フルメイクする時間はさすがにないし…でも、お店出る前にさっと直しただけだし、既にシャワーの湿気でもうメイクもグズグズだし…という問題に直面してるんです。
ギィーと浴室のドアを開けて、ごそごそとバックの中から、試供品のメイク落としと洗顔を取り出して、覚悟を決めました。もう一気に落とすことにします!
すっぴんでも受け入れてください!
だって、あれこれして汗かいて、よれたメイクの状態のやらしい顔見られるのはいや!
という結論に至りました。

体は石鹸があったので、手でこすりました。
なんか、熊野さんが使ってるのはとてもハードなボディタオルで、赤くなりそうでした。痛くないのかな…

そして、洗面所に出たんですけど、タオルはわかったんです。
お借りしまーすって小さく言いながらタオルを取って、髪と体を拭きつつちょっと洗面所を観察。
なんていうか、無駄な物は一切置かないみたいで、洗濯洗剤とハブラシと歯磨き粉、シェーバーと充電器とか見える範囲にはそれくらい。
どうやら、女の気配は一切ないようです。
ていうか、どこもかしこもピカピカでびっくり。
鏡もきれいに磨かれてるし。

バッグから再び化粧水や乳液の試供品を取り出して塗りたくる。
ポーチに入れといてよかった。いや、急に温泉に行きましょうとかなったときに必要かなって思ってたんだけど、こんなに早く使うことになるとは。


それで、最大の問題なんですけど。
今、まだバスタオル巻いてるだけなんです。
ノーパンだし、ノーブラなんです。
で、さっきフラペチーノぶちまけたワンピースは当然着られないので、熊野さんにお洋服借りるんですけど、バスタオル姿で出てっていいものなんですかね?
ブラ紐が見えるのなんか間抜けな気がするから、ノーブラなのはいいとして、ノーパンでバスタオル巻いて出て行くのどうなんでしょう…?
うーん、でも、後で脱ぐだろうしと思って、バスタオルのまま洗面所のドアを開けようとしたら、ぱって引かれちゃって、勢いよく倒れ込みました。

相変わらず、固い…

とにかく、熊野さんの胸は固いです。
ドアノブを引いた格好のまま変なポーズで固まってる熊野さんの反対の手にはスウェットらしきものがありました。

「あ、持ってきてくれたんですね。ありがとうございます」

「は、ははいっ」

声が裏返ってますよ?と思ったら、くるって踵を返してお部屋に戻ってしまいました。
熊野さんちは玄関入ってすぐ右がトイレで、左が洗面所になっていて、廊下の先にドアがあって、その先がダイニングとお部屋になっているそう。
熊野さんは廊下の先のドアを閉めて向こうに行ってしまったのでもう姿は見えないけど。

熊野さん、お腹空いたって言ってた気がするから、えっちよりもごはんが先かな。
なら、下着も着ましょうかね、と思い直して、ブラと下着をつけて、手渡されたスウェットの上下を着ようとした。
どっちも案の定、ぶっかぶか。
どんだけ袖をまくっても、ずり落ちてくる。
ズボンはもう紐締めても落ちるし。
スウェットのトップスがお尻の下まであるから、もういいや!と思って、トップスだけにしました。
いや、あざとさなんて計算に入れてませんから。ほんと、ほんと。
熊野さんちにはドライヤーがないので、髪は洗いませんでした。今度泊まりに来るときには持ってこないとなー。

白い斑点になってしまったワンピースはとりあえず畳んで、バッグに入れてたエコバッグにしまった。
履かなかったスウェットのズボンとバッグとエコバッグを持って、廊下を進む。
ドアを開けたら、熊野さん立って待っててくれました。

「シャワーお借りしました。これ、大きくて履けなかったのでお返しします」

にこにことズボンを返したら、熊野さんが全く目を合わせずにそれを受け取った。

熊野さん?私はこっちですけど?

と思いつつ、お部屋をちゃっかり観察。

キッチンは2口コンロが置いてあって、その上にはやかんが1つ。
隣に冷蔵庫。
小さい食器棚の上に電子レンジ。

で、ダイニングにはローテーブルとその前にテレビ。

たぶん、あの木のスライドドアを開けたら、寝室なのかな?

ほうほう。なかなかいいお部屋ですね。
私はどこにおさまったらいいのかな。

「い、いい、今、コーヒー入れます。座っててください」

「あ、はい。ありがとうございます。私がしましょうか?」

「い、いえ、あの、その格好では危ないので、その、座っててください」

あ、お湯が跳ねたりするからかな?
お言葉に甘えてローテーブルの横に座る。
私の家に来たときにはお返しにおもてなししますからねー。

しっかし、このお部屋もぴかぴかだなぁ。
私もお部屋のお掃除頑張らなくちゃ。

「あ、そうだ。夜ごはんどうしますか?」

「俺が弁当でよければ買ってきますけど」

「私は全然それでいいです。なんていうお店ですか?ネットでメニューみられるかな」

「ここから1番近いのは来々軒っていうとこなんですけど、シュウマイ弁当がうまいんですよ」

「わー食べてみたーい。あ、あった。ほんとだ、おいしそう」

「じゃあ、俺が電話して、取ってきます。飲み物も何もなくて、買ってきますけど、何がいいですか?」

熊野さんがマグカップを持ってきてくれた。両手で受け取ろうと手を伸ばしたら、フリーズした。
熊野さん時々固まっちゃうんだけど、私、威力の弱いメデューサになった気分。

「炭酸系が飲みたいです。なんでもいいので適当にお願いします。すみません、ほんとは一緒に行きたいんですけど」

「いいえ!俺が一人で行きます!だめです!そんな格好で外を歩いてはいけません!!」

は、はい、お父さん…なんていうか、お母さん…?


「お、俺、行ってきます!あの、適当にくつろいでてください。リモコン、ここにあるんで」


熊野さんは行ってしまいました。素早い。
いつも思うけど、体大きいのに竣敏なんだよね。

あったかいコーヒーをひと口飲んで、一人残された部屋でぼんやり。
なんて、するわけないですよね!
見える範囲で観察しまくるに決まってるじゃないですか!

私、独占欲強いんで!
女の気配を感じ取ってやりますよ!それは隅々から!!

とは意気込んだものの、ほんとにさっぱりしたお部屋で。
食器も1人分しかないみたいで、マグカップでさえ1個だし。
飲み終わったマグカップをキッチンで洗って、ふきんを探したけど、見つからず。とりあえず、シンク横に置きました。

女っ気がないのはわかったので、次は何を探そうかな~。
エロ本とかないかな。DVDでもいいんだけど。
性癖とか傾向とか知りたいけどなー。
お兄ちゃんはベッドのマットレスの下とか、机の1番下の引き出しの本とか立てていれるじゃないですか、あの底の部分にノートとかカモフラージュで置いてその下に隠してたりしてたんですよ!
でも、このダイニングスペースにはそのどっちもない!
くぅー、どっかに置いてないかな、オープンスケベだったりしないかな。
テレビ台の中にDVDがある!知ってます!こういうときって、DVDの後ろとか、テレビ台の裏とか下に隠してるんですよね?!
見ちゃおーっと。
テレビの前にごろーんと寝転んで、下とか裏にはないかなーって見てたときでした。


「お待たせしまし…」


あ、熊野さん帰ってきちゃった。
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