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もう容赦しません

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ふっふっふっ。
もう離すわけないじゃないですか。
そんな自分から罠に飛び込んどいて、今更抜け出そうなんて許しません。

がっちりと恋人つなぎで熊野さんをホールドして、帰り道を歩いています。

なんか、不思議な感じだよね。
この、恋人になる前と後って。
あの一瞬で、私達の関係は変わってしまったわけで。それも、がらっと。
こんな風に触れ合ってもいいんだと思うと、まだどこか照れくさい。

私としては夜ごはん食べて、夜景でも見ながらいい雰囲気になるのを見計らって告白する予定だったんだけど、こんなに早く展開するとは想像もしてませんでした。
ていうか、熊野さんがこういう行動に出たということは、私の気持ちは筒抜けだったんじゃないでしょうか…!
恥ずかしいっ…!いや、もうバレバレだったかもしれないけど、考えると顔から火が出そう…

体温が上がったような気がして、頬に手を当てていると、熊野さんが心配そうに声をかけてくれた。

「大丈夫ですか?疲れましたか?」

はい、精神的にかなり…とは言えないので

「いえ、大丈夫です。なんでもないです」

今はまだちょっと恥ずかしくて、首を振るくらいしかできません。
というか、にやける顔を見られたくないです!

ぎゅっと握り返してくれる手の熱さが嬉しくて、またふにゃり…と顔が緩む。
いかんいかん、家に帰るまでがデートです。しっかり、しっかり!

でも、やっぱり嬉しい!
ぎゅうーっと熊野さんとつないだ左腕に抱きついたら、がちっと固まった。
え、あれ、銅像?ってくらいに、綺麗な歩き出すポーズで足も止まった。
体をひっつけたまま、恐る恐る顔を見上げると、前を凝視したまま瞬きもしてない。

「どうか…しました…?」

もしかして虫が嫌いで、なんか大きいものが見えてしまったとか?
私よりも背が高いから遠くまで見えちゃったのかもしれない。
私も虫も爬虫類も嫌いだから、慌てて周りをキョロキョロ見回す。
とりあえず、そばには見当たらない。でも、いたら悲鳴あげそうだから、遠慮なく熊野さんにひっついておくことにした。

「車に、戻りましょう…?」

私が声をかけると、ぎしっぎしっと錆の入ったロボットのような動きで歩き出した熊野さん。
大丈夫です。大きい体でも苦手なものはあるはず!私はそんなことでは幻滅したりしませんよ!!
むしろ、今、虫出てきたら、私に抱きついてくれちゃうハプニングが起きたりするんじゃない?!とか思うと、ウキウキしてきた。

熊野さんの手の汗がすごい?と思って、顔を見上げたら、額とか、首とかものすごい汗!
えええ、どうしたの?!と思ったけど、すかさず思いついたよね。
今こそ、あの差し出す用のハンカチを披露するべきときでしょ!
手を離して、バックからかわいいピンクと白のハンカチを取り出して、熊野さんの額の汗を拭おうと背伸びをした。
スニーカーだと精一杯背伸びしないと額に手が届かない…
はっ。もしかして、キスするときもこんな感じなの?!
きゃーなんか悶える~~。

「わわっ」

突然、熊野さんに抱きしめられました。それもとてもぎゅうぎゅうに。

えー、なにその不意打ち~。
大歓迎ですぅ。

ちょうど額に手を伸ばしてたとこだったから、そのまま首の後ろに手を回して私もぎゅーっと抱きついた。
すると、熊野さんから「ぐぅっ」って呻き声みたいなのが聞こえたんですけど。
もしかして、これってハグじゃなくて、具合悪くて倒れ込んできたとかでしたか?!

「大丈夫ですか?」

まだ背伸びしっぱなしなので、なんとか届いている首とか背中の間くらいをナデナデとさする。
尋常じゃない汗だったし、ランチかソフトクリームに当たったとか?
確か車に停めたところにトイレあったはず!
そう思い至って、ぱっと体を離して、ぐいぐい手を引っ張って歩きました。

あ、やっぱりトイレあった!

「どうぞ、行ってきてください。私、待ってますんで」

と言ったら、熊野さん素直に歩いていきました。
わかる、わかるよ。好きな人の前でトイレとか、お腹痛いとか言うの恥ずかしいよね。
うんうんと一人で頷きながら、近くの自動販売機でスポーツドリンクと麦茶を買った。
なんか…罠を仕掛けていたときを思い出す…
きっと、これからも買うたびに思い出すんだろうなぁと思って、ふふっと笑ってたら、熊野さん戻ってきたんです。

顔も頭も水でびしょびしょですけど!
滴り落ちてますけど!
透ける!Tシャツが透けるから!!
見てない?!誰もこんなセクシーな熊野さん見てない?!

目をひん剥いて周りを確認したよね。
よしっ、誰も来る気配はない。
動物くらいなら見るのも許可してやろう。

「熊野さん、車にさっきのタオルあるんで取ってきます。鍵を開けてもらえますか?」

「はい…」

ピピっと開けてくれたんだけど、明らかに覇気がない。
とりあえず、車の中のタオルとシャツを持って戻った。
足湯で使ったタオルなんだけど、いいのかな…どうかな…

「あの、タオルです…そのままだと車の乗れないかなと思って、シャツも…もうリップは乾いてるからシートにはつかないと思うんで…」

「すみません、ありがとうございます」

熊野さんがタオルを受け取ってくれて、がしがし顔や頭を拭いてる。
そんでいきなり、Tシャツ脱いだんですよ!
瞳孔開いたよね。叫ばなかっただけ、私すごい。
いや、Tシャツ濡れてるから脱いで拭かないといけないのはわかってたんだけど、なんの躊躇もなくばっさーって脱ぐから。
心の準備をさせてください…そんな…上半身裸を披露するならすると…
とは言ってますけど、顔も逸らしませんし、なんならガン見してますし、心の盗撮シャッター押しまくってます。

なんですか、そのごつごつした体。
胸は何カップですか?ってくらいに盛り上がってるし、二の腕とか私の両手でつかんでも指が回らなそうだし、お腹がね…
鼻血出そうです。心の中で実況しながら鼻の粘膜に強化魔法を必死にかけてます。
触りたい!その割れてる腹筋触りたい!!
か、彼女になったんだし、い、いいんじゃない?


「すみません、シャツを持たせたままで」


ああああ。私の腕からシャツが取られ、羽織られてしまいましたぁ…

へっ。前、閉めないの?開けたままなの?!
え、私これからそのチラチラ見える上半身を前に『待て』なの?!
なにこの拷問。
いやもう触っちゃえよって、久々登場のエロ橘玲奈が囁いてます。
清純派橘玲奈は、恋人になった途端に痴女発覚はだめよ!もっと後になってからじゃないと、引かれるわよ!ってさすが見た目だけの清純派なだけあって、まったくピュアとはかけ離れた計算高いこと言ってます。

頭の中は大戦争。
くらくらしながらも、熊野さんに飲み物を渡して、とりあえず笑顔を作る。

「すみません、落ち着いたんでもう大丈夫です」

どうやら、お腹痛いのはなんとかなったみたい。
よかったよかった。

私はちょっとまだ頭が痛いです。
できるだけ曝け出してる上半身を見ないように目線を上げ続けてるんで首も若干痛くなってきました。

熊野さん、私、相当嬉しいですけど、できれば屋外でなく、室内で脱いで欲しいです。室内でといっても、私の部屋とかホテルとか、その、襲いかかっても支障のない場所でお願いしたいです。
こんなところでかぶりつけないじゃないですか!!


そんで、ほんとにここから、私の心の中はずっと、はぁはぁ言ってるのに、顔は完璧な笑顔を浮かべ続けるという何の罰ゲーム?って感じの時間が始まったんです。

でも、どうやら熊野さん、本当に調子が悪くなったみたいで、今日はこのまま送ってもらうことになりました。
まぁ、なんていうか、そのチラ見せの状態でどこのお店に行くんだっていうか、誰がこんなセクシーな熊野さん見せてやるか!っていう私の独占欲丸出しの結果でもありましたけどね。
でも、心配だったから「うちで休んでいかなくていいですか?」って聞いたけど、ぶんぶん首を振られちゃって。
まぁでもいきなり部屋に上がるのは気がひけるのかもね。
それで、「今度までにコインパーキング見つけておくので、部屋に遊びに来てください」って言ったら、なんかすっごく咳き込んでた。
水浴びたせいで風邪引いたのかな。
無理させちゃって申し訳ないなと思いつつ、ドアを閉めて、車が見えなくなるまで見送った。


夜まで一緒にはいられなかったけど、告白が成功したんだもん、大成功でしょ!

ふふふ~♪
次はいつ会えるかな~。



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