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ラブストーリーは突然に

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一言で言うと、心臓がもたない。これに尽きる。

初めて橘さんを助手席に乗せただけでも舞い上がっていたのに、いろんなことが起こり過ぎて、頭がついていかない。

橘さんが、女の人が好きそうなお店でくまのネックレスを手に取った時、自意識過剰だとは思ったけど、俺の名前にちなんだものでもあるから、持っていてほしいなと欲を出した。
断られる前にと思って、さっさと会計して渡したら、輝くような笑顔で受け取ってもらえて嬉しかった。
しかも、その後すぐにつけてくれて、誰かに何かをプレゼントして、喜んでもらえることがこんなにも幸せなことなんだと心臓をばくばくいわせながら思っていた。

カフェのランチも、俺が大食いなのをわかってて、ここを選んだんだろうなって気づいた。
それだけ下調べをしてくれたんだろうけど、全くそんな気配も感じさせないし、むしろ、ただ楽しみにするだけで何も用意してこなかった自分が恥ずかしいと思った。

滝を見たいと言っていたので散策していたら、どんっと背中に橘さんがぶつかってきた。
一瞬、橘さんの両手が俺の腰を掴んだ気がして、振り返ったら、鼻を抑えていた。
心配になって思わず橘さんの腕を掴んでしまって、その柔らかさにびっくりしてすぐに離した。
俺の体のどこを触ってもこんな感触はない。
橘さんが全く別の存在であることを痛感して、益々意識してしまった。
背中に口紅がついたらしいけど、別に何も気にしなかったのに、シートにつくからとわざわざ受け取ってくれるし、どこまでも気配りの人なんだなぁと感心した。


でも、ソフトクリームを半分こしましょうと言われたときは、一体どうやって半分にするつもりなのか考えただけで頭が沸騰しそうだった。
こんなに無防備で大丈夫ですかと詰め寄りたい気持ちを抑えて買いに走った。


足湯で橘さんの足を拭いたり、靴下と靴を履かせたりしたんだが…
その、セクハラと思われなかっただろうか…
両手が使えない状況で有無を言わせずにやってしまったことだったけど、後から思うと完全にアウトだった気がする。
橘さんが走り去った後にものすごく自己嫌悪に沈んだ。
笑顔で戻ってきてくれた橘さんにどれだけ安堵したことか…


それから俺たちは道の駅の売店で飲み物やお土産のお菓子を買って車に戻った。
橘さんは職場の人たちに配るそうだ。俺も寮の人たちにあげようと思って酒のつまみになりそうなものをいくつか買った。

橘さんが夜は、お肉と魚どっちがいいですか?と聞いてくれて、あ、まだ一緒にいられるんだと思うととにかく嬉しかった。

でも、まだまだ晩飯には早い時間だったから、車で少し行ったところにある展望台に向かうことにした。
車から降りて、また少し山道を歩いたところにある展望台は、あまり人気がないみたいで、景色は綺麗に見えるのに全く人がいなかった。



「みんな、足湯のところから見える海と景色で満足しちゃうんですかね。でも、こんなところ私たちだけで独り占めできちゃうなんて、嬉しいですけどね」

歩いて少し汗をかいたみたいで、タオルで首元を拭いている橘さんが展望台の手すりに手をかけて言った。
まっすぐに見上げる瞳が俺を映している。

あぁ、ほんとに橘さんは綺麗だな…とその笑顔を見て思った。


「俺、橘さんが好きです」


あ、と思った時にはもう、言葉になってしまっていた。
橘さんが薄く口を開いて固まっていた。
でも、もう止めることはできない。

「俺と付き合ってくれませんか」
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