熊ちゃん配達員を食べたい腹ペコな私 清純なのは見た目だけ!とにかくおとなしく食べられなさい!

あさひれい

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送り狼になれるかな?

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送り狼とは、かよわい乙女を家まで送ると善良な人を装いながら、その乙女にあれやこれや不埒なことをしようと企む者のことを言います。
世の正しい乙女の皆様、このように、「家まで送るよ」と爽やかに告げられても、決して油断せずに、そして、家の前まで本当に送ってくれても、このままお茶も出さずに帰したら失礼じゃないかしら、なんて罪悪感に囚われずに、「ありがとうございましたぁ」とさっさと部屋に帰るんですよ。部屋に入ってからも、特定されないためにすぐに電気はつけないとかありますが、遮光カーテンにしておくといいですよ。

なんて、現実逃避しているのはなぜかと言いますと、熊野さんがですね、

「遅くなったので、家まで送りましょうか」

と真剣な表情で言ってくれているからです。

19時に待ち合わせて、ゆっくり食べたり飲んだりおしゃべりしたりして、まだ21時半なんです。
もう1軒行きたいんです、私としては。お茶とかでも、なんならラーメンでもいいんです。
まだ別れたくないんですぅ~~。

でも、熊野さんは本当になんの嫌味も感じさせる様子もなく、解散を宣言してるんですけど。

私を何が悩ませているかというと、

選択その1「送ってくださるんですか?ありがとうございます」と親切心を素直に受ける

選択その2「いえいえ、まだ早い時間なので、大丈夫です。一人で帰れます」とやんわり断る

のどちらかということなんですが。

選択その1を選びますと、そもそも熊野さんは私の家を知ってるんで、確かなルートで送ってくれるに違いないんですよ。そして、きっとマンションの前で「じゃあ」って言って帰るんですよ。
それをきっと私は全身全霊で止めちゃうよね。いやいやいやいやって。
「まぁまぁ、上がってお茶でも飲みましょうよ」
「いえ、そんな悪いです」
「ちっとも悪くなんてないですから、どうぞどうぞ」
「いえ、そんな」
「まぁまぁ、お茶だけですから、ちょっと、ちょっとだけ」

とか、先っちょだけ論法のようにして熊野さんを蜘蛛の巣へ追い込むように罠にかけそうなんですよ。

あー見えるなー見えるなー。
熊野さんのTシャツを奪い取って、半裸に剥いて、逃げ腰の熊野さんを目をギラつかせて、よだれ垂らしながらじりじりと追い込む自分の姿が。

ひひひ…うまそう…うまそうだ…

きゃーあーれー(熊野さんの悲鳴)

ちがいます。うちは妖怪小説ではありません。恋愛小説です。


だめ!だめよ!
送ってくださいなんて甘えたりなんかしたら、甘えたフリして送り狼を食べる狼になるんだから!共食い禁止!!


おわかりいただけます?この、特上の餌を目の前に吊るされてるのにかじりついちゃいけません!って言われてる悲痛な状況

あぁ、どうして、どうして今夜は食べちゃダメなの!

わかっています。ワンナイトになりたいわけじゃないし、身体さえつなげればいいなんて、今回ばかりは思ってないからです。
彼氏になってほしいから、ちゃんと段階踏まないとダメなんです…


勝手に妄想して悶えて落ち込むまでにかかったのは、わずか数秒。
私の脳内、働くときは働くもんだなー

「ありがとうございます」と言いかけたとき、バッグの中のスマホが振動した。
ぱっと取り出してみると、『マキちゃん:持ち帰り禁止!』の文字が。


どこかで見てる?!!


ついきょろきょろしちゃったよね。
挙動不審の私を、つぶらな瞳で見つめる熊野さん。
はぅん。
焼き鳥でお腹はいっぱいですけど、熊野さんを食べる余裕はまだまだありますぅ。


ピコン
『マキちゃん:遂行できなかったら、一人で棚卸しさせんぞって店長言ってます』


ひぃぃぃぃ


うちのボス軍師、容赦無い…
そう、私は歩兵、ロクな武器も持たずに戦いに挑むか弱き雑兵…
撤退命令を無視したら、無駄死にするだけなんです…


心の中で血の涙を流しながら、笑顔で言いました。


「ありがとうございます。でも、まだ時間も早いので一人で帰れます。熊野さんって優しいんですね。嬉しいです。また、ごはん食べに行きましょうね」


くっそう!くっそう!!
食べたいのに…とっても食べたいのに…


熊野さんとは駅で別れ、私はどんよりとした負のオーラ満載で家まで帰りました。

いつか、いつか絶対食べてやるから!首とアソコを洗って待っていろー!
あ、でも私一緒にお風呂入るの好きなんで、ご希望とあらば、ご希望でなくても、洗っちゃいますよー♪
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