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年上のお姉さんは好きですか

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たわいないおしゃべりをあれこれしていてふと、年齢の話になったんです。

熊野さんの


「24です」


の言葉に、なんとなく年下のような気がしていたんだけど、あぁ、やっぱりそうだったのね…という気持ちになった。
年下だから残念ということではなく、私が年上であることでハードルがぐんとあがってしまうのではないかという危惧からです。


「年齢よりも落ち着いてみえるって言われません?」

「はい…いいのか悪いのかわかんないすけど、よく言われます。たぶん、長男なんで、弟達の面倒とか見てたのが出てきてるんですかね」

長男…弟(複数・人数未確認)…
ちょっとしゅーんってなったって、入力、とにかく個人情報は余すところなく入力。

「そうなんですね。お兄ちゃんって感じしますもんねぇ。私、27なんです。お店でも結構年上のはずなんですけど、いつも1番面倒かけてるような気がします。あ、私は兄が1人いて、2人兄妹なのに末っ子気質が抜けてないなって…」

そうなんです。私、大変出来が良く、面倒見が良い4つ上の兄がいるんです。
私が部屋に忍び込んでエロ本漁っても、知らなかったふりしてくれる素晴らしい人なんです。
たぶん、何回隠し場所変えても執念深く探し回る妹に恥ずかしさより、諦めの気持ちが勝ったんでしょうかね。
1回、巨乳のお姉ちゃんたちがいっぱい見たいと付箋に書いてエロ本に挟んでおいたら、隠し場所に本を追加しててくれるほど、出来た人なんです。
兄のコレクション的に、巨乳より、美乳好きのはずなのに、妹の希望のために律儀に入手してくれるあたりが健気ですよね。
お陰様で、巨乳本と美乳本をじっくり読んで、は~女性の体って色々なのね~ってしみじみ思ったよね。胸の大きさだけじゃなくて、乳首の大小も、乳輪の大小も、色も千差万別。学んだよね~。
みなさん、エロは1日にして成らず。このような小さな積み重ねにより、今日の私は出来上がりました。
私もいつかこの恩を返そうと、兄が男の体を見比べるために本を買ってこいと言われてもいいように覚悟してたんですけど、今のところ一度もお願いされていません。
あ、すみません、私の家族談義なんてどうでもよかったですね。


熊野さんはもう5杯目のビールに手をつけてるけど全然顔色も変わらず、いい飲みっぷりのままで、本当にお酒強いんだなぁって思った。
そういう私はウーロン茶を飲み、コーラを飲み、再びウーロン茶に戻ってきたところです。
でも、グラスの大きさ2倍くらい違うからね。とってる水分量全然違うと思う。

「すみません、ちょっとトイレ行ってきます」

「あ、はい、どうぞどうぞ」

熊野さんが席を立った。
ちょっとだけ、気を張ってたのを緩められたけど、なんか寂しい。

「どうぞ、サービスです!」


といきなり店員さんが、トマトのベーコン巻きの串が乗った皿を私に差し出してきた。


「えっ?!」

「いい食べっぷりだって、うちの店長喜んでました」

「え、あ、すみません。いただきます。全部とってもおいしいですって伝えてください」

「あざーす」

愛想のいい店員さんはさっさとカウンターの中へと戻っていった。
呆気に取られていたら、熊野さんが戻ってきた。
にっこり笑顔で迎えようと思ったら、なんとなく熊野さんの空気が重い気がした。

「どうかしました?」

「いえ、なんでもないんです。ありがとうございます」

「そうですか?あ、これ今サービスってもらったんです。半分こしませんか?」

「ありがとうございます。でも、せっかく橘さんにサービスしたものなので、俺まで食べたら申し訳ないです」

どこまでも律儀な人だなぁ。いい人。


「そうですか?じゃあ、遠慮なくいただきますね」


うーん、ミニトマトとベーコンって合うよね~。
結構焼き鳥食べたけど、まだ入るってすごい。ここのお店は本当に美味しい。いいところ教えてもらっちゃったなぁ。


カウンターのテーブルに乗せられた熊野さんの手がぎゅっと握りしめられているのが、ちょっと気になる。
やっぱり私の年齢聞いたら、うわー、そんな年上だったんだぁとか思ったんだろうか…
そうだよね、化粧とか洋服とかでわかんなかったかもだけど、年下か同い年かもって思ってたのに、年上ってわかったら、微妙な気持ちになるよね、きっと…

なにせもうアラサー。熊野さんはアラツー?
あれ?アラウンドサーティーで、アラサーでしょ?
アラウンドトゥウェンティーだから、アラトゥー?
聞いたことないな、そんなの。

私が盛大に頭の上にはてなマークを飛ばしていたら、熊野さんがぽつりと言った。

「俺、女の人とまともに話したこと、ほとんどないんです。仕事ではお客様と職務上のやりとりはしますけど、橘さんみたいに世間話したことないんです」

「あ、そうなんですか?」

でも、なんとなくそうなんじゃないかなと感じてましたよ!

「俺…こんな風に誘ったのは、橘さんが…初めてなんです」

ぐふっ。
や、やめて、突然そんな豪速球投げてこないで。
まぶしい!まぶしすぎて受け止められない。
自分の邪なところを照らされるようで、太陽を浴びたドラキュラ並みに灰になって消えそうです…

ああ、どうしよう、こんなナリだけど、中身はエロオヤジなんです。
こんな純粋な熊野さんを私がどうこうしようなんて、あんなことやこんなことがしたいなんて、おこがましすぎるのかも、もっとピュアな子じゃないとダメなのかも…


「誤解してほしくなくて…急にすみません」

「いえいえ、誤解だなんて、そんなこと全然思ってなったです。ほんとに」

「よかったです。橘さん、すごく素敵な人だから、たくさん声をかけられたりしてるだろうなとは思ったんです。俺なんかが誘っていいのかなって」

「え、そうだったんですか?そんなこと全然ないですよ。むしろ、熊野さんに誘ってもらえて嬉しかったです」

ええ、本当に、心の底から思ってます。私の中の私が高速で首を縦に振っているのをお見せしたいくらいです。

ていうか、ナチュラルに褒めてくれて気恥ずかし~~。
清純派の擬態完璧じゃない。
清純派、誰得!とか言ってごめんなさい。今、私多大に恩恵受けてます!あざーす!


お互いのグラスが空になったところで、帰りましょうかという話になった。
私も結構食べたので、出しますと言ったけど、俺がお礼として誘ったのでそれはだめですと言われて、おとなしく引き下がって、奢ってもらいました。
おしぼりとドリンクのお礼にしては割高だと思うんで、お返しに私とかどうですか、だめですか、だめですよね、わかります。

のれんをくぐりつつ、そんな自問自答をしていたのだった。
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