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綺麗なお姉さんを好きになってしまいました
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橘さんは、本当に綺麗だ。
すごく美人なのに、スタイルも良くて、見てはいけないとわかってはいるけど胸も大きい…
荷物を届けたときも、いつだってにこにこと対応してくれていたし、今日だって俺のつまらない話にもずっと笑顔で頷いて、たくさん反応してくれる。
人の目を引かないはずがない。
待ち合わせ場所からここに来るまでの間も、すれ違う男達の目線が橘さんに行くことに何度も気づいた。
橘さんにそれを気づいてほしくなくて、なんでもない話を切り出したりして。つまらない独占欲を出してしまって、落ち込んだりしてた。
焼き鳥屋に案内して、注文する段になってふと気づいた。
女の人って、焼き鳥食べる時串から外すって聞いたけど、そうなると何本ずつ頼めばいいんだろうか、と。
でも、橘さんが2本ずつってすかさず言ってくれて、安心した。
俺が気を張ってるのなんかとっくにお見通しで、ずっと俺のことに気を配ってくれている気がする。
こんな素敵な人がモテないわけないじゃないか…
お仕事も、洋服屋さんの店員だと言われて、それでこんなにセンスのいい格好なんだなぁって納得した。
Tシャツにジーンズの俺が隣にいることが申し訳ない気持ちだった。
一緒にいることが恥ずかしいと思われていないだろうか。いつも制服で過ごしてるし、男としかつるまないから、洋服を気にしたことなくて、今日も結局いつもと同じ服を着てきただけで、今になって後悔した。
年齢を聞いて、また落ち込んだ。
そもそも女性と付き合ったことがないから、年上でも同い年でも年下でもどうなるのかはわかってないけど、橘さんみたいな人がわざわざ余裕も何にもない俺みたいなのを選んでくれるとは到底思えなかった。
今日も、親切な橘さんが、俺が誘ったから断りづらくて来てくれただけなんじゃないかって考えがむくむくとわきあがってきた。
余計なことを考えたくなくて、ビールをどんどん飲んだ。
トイレに立って、戻ろうとしたとき
「あそこ、すっげー美人がいる」
「一人かな?空いてるとこもう一人女の子だったら、あとで声かけてみようぜ。一緒に飲めないかな」
という声がして、はっと橘さんを探したら、店員からトマトのベーコン巻きの皿を受け取っていた。一本しか乗ってないってことは、俺が注文したものじゃなくて、サービスなんだと察しがついた。
誰からも声をかけられたことも、好意を持たれたことさえない俺にとって、橘さんは、手の届かないような人なんだな…
そう、思い知らされた。
席に戻ってからも、橘さんは変わらず優しくて俺とサービスの串を分け合おうとしてくれた。
ふと、今夜が、最初で最後になるかもしれない。
それなら、ちゃんと自分のこと伝えておきたいと思った。
他の誰にもしなかったことを、橘さんにだけしたいと思ったと…正直うまく伝えられたのか、口下手な俺の言葉で理解してもらえたからわからないけれど、橘さんに
「熊野さんに誘ってもらえて嬉しかったです」
と言ってもらえたときは、もうこれでいいんだと、これ以上を望むのはいけないことだと思った。
本当は帰したくなかったし、帰りたくもなかったけど、引き留めることなんかできるわけもなくて。
よくやく言えたのは「送っていきましょうか」ってことぐらいだった。
別になんの下心もない。ただ、一緒にいられる時間がほしかっただけで。
でも、橘さんのスマホが何度か鳴ってから、橘さんは一人で帰りますと言って、駅で別れた。
彼氏から連絡がきたのかもしれない。
その人のところへ行くのかもしれない。
今日、聞きたかったのに聞けなかった唯一のこと。
でも、彼氏がいてもいなくても、俺に勝算はないんだと思ったら、もう聞くのが怖くなった。
このまま、友達としてでもいいから、どんな形でもいいから、また会えないだろうかと、卑怯にも思ってしまった。
「カッコ悪過ぎだろ、俺…」
部屋に戻り、ベッドに倒れ込んだ。
その弾みで起きた風の中に、焼き鳥屋の炭火やタバコの匂いに混じって、橘さんの香りがした気がした。
「また…会いたいなぁ…」
言葉にして余計落ち込んだ。
いい夢をみせてもらったと思って、諦めろよ、俺。
ピコン。
俺のズボンのポケットに入ったままだったスマホが鳴った。
取り出してみると、橘さんからLINEが来ていた。
『夜分遅くにすみません。無事に帰り着いたので連絡しました。心配してくださって、ありがとうございます。今夜はごちそうさまでした。とっても楽しかったです。今度は私がよく行くところに一緒に行きませんか?もしよかったらなんですけど』
ガバッと起きて、もう一度画面をしっかりよく見た。
何度読んでも、やっぱりまた誘ってもらえてる…
涙が出るほど嬉しかった。そのままベッドにもう一度倒れた。
『無事に帰り着いてよかったです。今日はこちらこそありがとうございました。ぜひまた行きましょう。』
とLINEを返信するのに2時間かかった。
送った後に、もう夜中の1時近くになってることに気づいて、同じ失敗をまたしてしまった、と頭を抱えた。
でも、すぐに
『楽しみにしてますね。お休みの日を教えてもらえると嬉しいです』
という返信と、にっこり笑ったうさぎのスタンプが送られてきて、胸を撫で下ろした。
そして、あ、俺の人生で初めてのデートだったなと気づいて、それが橘さんで本当に幸せだと思いながら眠りについた。
いや、興奮してて、眠ろうとしても1時間くらい悶々としたけど。
翌朝も早く起きてとにかく走った。
何度もスマホの橘さんとのやり取りの画面を見て、本当に現実に起きてることなんだよなって確認しては、走った。
挙動不審過ぎるだろ、俺。しっかりしろよ…
すごく美人なのに、スタイルも良くて、見てはいけないとわかってはいるけど胸も大きい…
荷物を届けたときも、いつだってにこにこと対応してくれていたし、今日だって俺のつまらない話にもずっと笑顔で頷いて、たくさん反応してくれる。
人の目を引かないはずがない。
待ち合わせ場所からここに来るまでの間も、すれ違う男達の目線が橘さんに行くことに何度も気づいた。
橘さんにそれを気づいてほしくなくて、なんでもない話を切り出したりして。つまらない独占欲を出してしまって、落ち込んだりしてた。
焼き鳥屋に案内して、注文する段になってふと気づいた。
女の人って、焼き鳥食べる時串から外すって聞いたけど、そうなると何本ずつ頼めばいいんだろうか、と。
でも、橘さんが2本ずつってすかさず言ってくれて、安心した。
俺が気を張ってるのなんかとっくにお見通しで、ずっと俺のことに気を配ってくれている気がする。
こんな素敵な人がモテないわけないじゃないか…
お仕事も、洋服屋さんの店員だと言われて、それでこんなにセンスのいい格好なんだなぁって納得した。
Tシャツにジーンズの俺が隣にいることが申し訳ない気持ちだった。
一緒にいることが恥ずかしいと思われていないだろうか。いつも制服で過ごしてるし、男としかつるまないから、洋服を気にしたことなくて、今日も結局いつもと同じ服を着てきただけで、今になって後悔した。
年齢を聞いて、また落ち込んだ。
そもそも女性と付き合ったことがないから、年上でも同い年でも年下でもどうなるのかはわかってないけど、橘さんみたいな人がわざわざ余裕も何にもない俺みたいなのを選んでくれるとは到底思えなかった。
今日も、親切な橘さんが、俺が誘ったから断りづらくて来てくれただけなんじゃないかって考えがむくむくとわきあがってきた。
余計なことを考えたくなくて、ビールをどんどん飲んだ。
トイレに立って、戻ろうとしたとき
「あそこ、すっげー美人がいる」
「一人かな?空いてるとこもう一人女の子だったら、あとで声かけてみようぜ。一緒に飲めないかな」
という声がして、はっと橘さんを探したら、店員からトマトのベーコン巻きの皿を受け取っていた。一本しか乗ってないってことは、俺が注文したものじゃなくて、サービスなんだと察しがついた。
誰からも声をかけられたことも、好意を持たれたことさえない俺にとって、橘さんは、手の届かないような人なんだな…
そう、思い知らされた。
席に戻ってからも、橘さんは変わらず優しくて俺とサービスの串を分け合おうとしてくれた。
ふと、今夜が、最初で最後になるかもしれない。
それなら、ちゃんと自分のこと伝えておきたいと思った。
他の誰にもしなかったことを、橘さんにだけしたいと思ったと…正直うまく伝えられたのか、口下手な俺の言葉で理解してもらえたからわからないけれど、橘さんに
「熊野さんに誘ってもらえて嬉しかったです」
と言ってもらえたときは、もうこれでいいんだと、これ以上を望むのはいけないことだと思った。
本当は帰したくなかったし、帰りたくもなかったけど、引き留めることなんかできるわけもなくて。
よくやく言えたのは「送っていきましょうか」ってことぐらいだった。
別になんの下心もない。ただ、一緒にいられる時間がほしかっただけで。
でも、橘さんのスマホが何度か鳴ってから、橘さんは一人で帰りますと言って、駅で別れた。
彼氏から連絡がきたのかもしれない。
その人のところへ行くのかもしれない。
今日、聞きたかったのに聞けなかった唯一のこと。
でも、彼氏がいてもいなくても、俺に勝算はないんだと思ったら、もう聞くのが怖くなった。
このまま、友達としてでもいいから、どんな形でもいいから、また会えないだろうかと、卑怯にも思ってしまった。
「カッコ悪過ぎだろ、俺…」
部屋に戻り、ベッドに倒れ込んだ。
その弾みで起きた風の中に、焼き鳥屋の炭火やタバコの匂いに混じって、橘さんの香りがした気がした。
「また…会いたいなぁ…」
言葉にして余計落ち込んだ。
いい夢をみせてもらったと思って、諦めろよ、俺。
ピコン。
俺のズボンのポケットに入ったままだったスマホが鳴った。
取り出してみると、橘さんからLINEが来ていた。
『夜分遅くにすみません。無事に帰り着いたので連絡しました。心配してくださって、ありがとうございます。今夜はごちそうさまでした。とっても楽しかったです。今度は私がよく行くところに一緒に行きませんか?もしよかったらなんですけど』
ガバッと起きて、もう一度画面をしっかりよく見た。
何度読んでも、やっぱりまた誘ってもらえてる…
涙が出るほど嬉しかった。そのままベッドにもう一度倒れた。
『無事に帰り着いてよかったです。今日はこちらこそありがとうございました。ぜひまた行きましょう。』
とLINEを返信するのに2時間かかった。
送った後に、もう夜中の1時近くになってることに気づいて、同じ失敗をまたしてしまった、と頭を抱えた。
でも、すぐに
『楽しみにしてますね。お休みの日を教えてもらえると嬉しいです』
という返信と、にっこり笑ったうさぎのスタンプが送られてきて、胸を撫で下ろした。
そして、あ、俺の人生で初めてのデートだったなと気づいて、それが橘さんで本当に幸せだと思いながら眠りについた。
いや、興奮してて、眠ろうとしても1時間くらい悶々としたけど。
翌朝も早く起きてとにかく走った。
何度もスマホの橘さんとのやり取りの画面を見て、本当に現実に起きてることなんだよなって確認しては、走った。
挙動不審過ぎるだろ、俺。しっかりしろよ…
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