動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする

拍羅

文字の大きさ
上 下
6 / 25

6

しおりを挟む
俺は初めて森から出た。でも、ここからもっと遠くに逃げるために、走り続けた。これも、神様が付けてくれた特典のお陰だろう。普通なら、休憩をして何日もかけなければ辿り着けない場所まで来られた。


以前の森とは違って、今度はどこか不気味な雰囲気がある森だ。恐怖から身体が震えたが、自分は襲われても大丈夫だと言い聞かせて中に入る。


ヒスイさんは善人は助けるが、悪人には力を貸さない。先程のように殺す場合もある。だから、このような治安が悪い場所には来ないと分かっていた。


森に入るとすぐに狼に襲われた。衝撃で身体は地面に倒れるが、加護のお陰で俺の肌には爪や牙は通らない。死なないことは分かっていても、傷は付けられてみたいと初めて思った。前世ではあれほど痛いことは嫌だったのに、今では血が見たくなる。こんな、蕁麻疹じゃなくて。


身体に赤い斑点が浮かび上がるが、倒れるほどまではいかなかった。ヒスイさんが憐れんで一度だけ血を飲ませてくれたお陰だろう。


狼達は俺に危害を加えられないことが分かると、身体から退いてじっとこちらを睨んでくる。そして、他の狼に比べて一際体格のいい狼が目の前にやってくる。


「オマエ、何者だ?」


「俺はルカ。あなたがボス?」


「そうだ。」


「お願いがあるんだ、俺を暫くここに居座らせて欲しい。あなた達に危害は加えないから。」


「何だと?」


ボス狼が唸る。でも、何も怖くない。俺は前世から猛獣も大好きだったのでこれほど近くで見られることを逆に嬉しく感じてしまうほどだ。でも、それは本来の自分の時の心境に限る。


じっと見つめていると、ボス狼は溜め息を吐く。


「勝手にしろ。ただし、我らに何かしたら殺す。」


「ええ、好きなようにして下さい。」


その言葉を聞くと、狼達はそのまま暗闇の中に消えていった。1人になると、周囲の騒がしさが耳に入る。鳥が騒ぎ立て、またそこら中の茂みから音がする。


俺は一つ溜め息を吐くと、身体を起こして再び歩いた。この森を散策していると一つの湖を見つけた。ヒスイさんと水遊びしていた光景が頭に浮かんで、苦しくなる。


湖に足を入れてみると底が深いようで足が届きそうにない。でも、構わず身体をそのまま水の中へと沈めた。身体はどんどん下に沈み込んでいくが、陸地にいたように呼吸は出来る。ここだけ、何も音がしなくて静かだった。


足の裏に何か柔らかい感触を感じたことで、湖の底まで来たのだと分かる。


「…嫌われちゃった。」


膝を抱え込むと頭を埋めた。


自分の身体に傷を付けられないのなら、食事をしなければ死ねるのかと思った。何もせずじっとしていることは、前世の自分で慣れていたので俺はそのまま目を閉じることにした。




どれくらい経ったのか分からない。でも、優に数日は経過しているように思えた。お腹は空いている気はするが、別に何かを食べたいとは思わない。このままなら、餓死出来るのではないかと感じ始めた頃、身体が何かに揺すられた気がした。


でも、水嫌いな獣達がこんな場所に来れるはずがないと思い直す。だから、水の流れのせいだと思って顔を上げなかった。でも、次の瞬間、膝に回していた腕が引っ張られる。


「え?」


驚いて顔を上げた瞬間、泣きそうになった。


ーー何でここにいるの…


「やっと、見つけた。」


水中の中でも彼の凛とした声が耳に届く。


「…何で?」


そう口にした瞬間、俺は腕を振り払った。後ずさろうとしたが、久しぶりに動いたことや地面がぬかるんでいることもあり、バランスを崩してしまう。背中に回された手に支えられ、離れようとすると逆に引き寄せられる。


「逃げないで。」


耳の側に聞こえてきた声に、抵抗していた腕を止めると優しく頭を撫でられる。


ー会いたかった。でも、会いたくなかった。そんな矛盾な想いが胸を駆け巡って苦しかった。


ヒスイさんは俺が泣きそうになっているのに気付くと、おでこにキスをしてきた。驚いて目を見開くと、彼はクスリと笑みを見せる。


「帰ろう。」


彼はそう言うと俺の身体を片手で抱き締めて、水面に向かって泳ぎ出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい

市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。 魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。 そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。 不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。 旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。 第3話から急展開していきます。

「婚約を破棄する!」から始まる話は大抵名作だと聞いたので書いてみたら現実に婚約破棄されたんだが

ivy
BL
俺の名前はユビイ・ウォーク 王弟殿下の許嫁として城に住む伯爵家の次男だ。 余談だが趣味で小説を書いている。 そんな俺に友人のセインが「皇太子的な人があざとい美人を片手で抱き寄せながら主人公を指差してお前との婚約は解消だ!から始まる小説は大抵面白い」と言うものだから書き始めて見たらなんとそれが現実になって婚約破棄されたんだが? 全8話完結

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

処理中です...