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俺は初めて森から出た。でも、ここからもっと遠くに逃げるために、走り続けた。これも、神様が付けてくれた特典のお陰だろう。普通なら、休憩をして何日もかけなければ辿り着けない場所まで来られた。
以前の森とは違って、今度はどこか不気味な雰囲気がある森だ。恐怖から身体が震えたが、自分は襲われても大丈夫だと言い聞かせて中に入る。
ヒスイさんは善人は助けるが、悪人には力を貸さない。先程のように殺す場合もある。だから、このような治安が悪い場所には来ないと分かっていた。
森に入るとすぐに狼に襲われた。衝撃で身体は地面に倒れるが、加護のお陰で俺の肌には爪や牙は通らない。死なないことは分かっていても、傷は付けられてみたいと初めて思った。前世ではあれほど痛いことは嫌だったのに、今では血が見たくなる。こんな、蕁麻疹じゃなくて。
身体に赤い斑点が浮かび上がるが、倒れるほどまではいかなかった。ヒスイさんが憐れんで一度だけ血を飲ませてくれたお陰だろう。
狼達は俺に危害を加えられないことが分かると、身体から退いてじっとこちらを睨んでくる。そして、他の狼に比べて一際体格のいい狼が目の前にやってくる。
「オマエ、何者だ?」
「俺はルカ。あなたがボス?」
「そうだ。」
「お願いがあるんだ、俺を暫くここに居座らせて欲しい。あなた達に危害は加えないから。」
「何だと?」
ボス狼が唸る。でも、何も怖くない。俺は前世から猛獣も大好きだったのでこれほど近くで見られることを逆に嬉しく感じてしまうほどだ。でも、それは本来の自分の時の心境に限る。
じっと見つめていると、ボス狼は溜め息を吐く。
「勝手にしろ。ただし、我らに何かしたら殺す。」
「ええ、好きなようにして下さい。」
その言葉を聞くと、狼達はそのまま暗闇の中に消えていった。1人になると、周囲の騒がしさが耳に入る。鳥が騒ぎ立て、またそこら中の茂みから音がする。
俺は一つ溜め息を吐くと、身体を起こして再び歩いた。この森を散策していると一つの湖を見つけた。ヒスイさんと水遊びしていた光景が頭に浮かんで、苦しくなる。
湖に足を入れてみると底が深いようで足が届きそうにない。でも、構わず身体をそのまま水の中へと沈めた。身体はどんどん下に沈み込んでいくが、陸地にいたように呼吸は出来る。ここだけ、何も音がしなくて静かだった。
足の裏に何か柔らかい感触を感じたことで、湖の底まで来たのだと分かる。
「…嫌われちゃった。」
膝を抱え込むと頭を埋めた。
自分の身体に傷を付けられないのなら、食事をしなければ死ねるのかと思った。何もせずじっとしていることは、前世の自分で慣れていたので俺はそのまま目を閉じることにした。
どれくらい経ったのか分からない。でも、優に数日は経過しているように思えた。お腹は空いている気はするが、別に何かを食べたいとは思わない。このままなら、餓死出来るのではないかと感じ始めた頃、身体が何かに揺すられた気がした。
でも、水嫌いな獣達がこんな場所に来れるはずがないと思い直す。だから、水の流れのせいだと思って顔を上げなかった。でも、次の瞬間、膝に回していた腕が引っ張られる。
「え?」
驚いて顔を上げた瞬間、泣きそうになった。
ーー何でここにいるの…
「やっと、見つけた。」
水中の中でも彼の凛とした声が耳に届く。
「…何で?」
そう口にした瞬間、俺は腕を振り払った。後ずさろうとしたが、久しぶりに動いたことや地面がぬかるんでいることもあり、バランスを崩してしまう。背中に回された手に支えられ、離れようとすると逆に引き寄せられる。
「逃げないで。」
耳の側に聞こえてきた声に、抵抗していた腕を止めると優しく頭を撫でられる。
ー会いたかった。でも、会いたくなかった。そんな矛盾な想いが胸を駆け巡って苦しかった。
ヒスイさんは俺が泣きそうになっているのに気付くと、おでこにキスをしてきた。驚いて目を見開くと、彼はクスリと笑みを見せる。
「帰ろう。」
彼はそう言うと俺の身体を片手で抱き締めて、水面に向かって泳ぎ出した。
以前の森とは違って、今度はどこか不気味な雰囲気がある森だ。恐怖から身体が震えたが、自分は襲われても大丈夫だと言い聞かせて中に入る。
ヒスイさんは善人は助けるが、悪人には力を貸さない。先程のように殺す場合もある。だから、このような治安が悪い場所には来ないと分かっていた。
森に入るとすぐに狼に襲われた。衝撃で身体は地面に倒れるが、加護のお陰で俺の肌には爪や牙は通らない。死なないことは分かっていても、傷は付けられてみたいと初めて思った。前世ではあれほど痛いことは嫌だったのに、今では血が見たくなる。こんな、蕁麻疹じゃなくて。
身体に赤い斑点が浮かび上がるが、倒れるほどまではいかなかった。ヒスイさんが憐れんで一度だけ血を飲ませてくれたお陰だろう。
狼達は俺に危害を加えられないことが分かると、身体から退いてじっとこちらを睨んでくる。そして、他の狼に比べて一際体格のいい狼が目の前にやってくる。
「オマエ、何者だ?」
「俺はルカ。あなたがボス?」
「そうだ。」
「お願いがあるんだ、俺を暫くここに居座らせて欲しい。あなた達に危害は加えないから。」
「何だと?」
ボス狼が唸る。でも、何も怖くない。俺は前世から猛獣も大好きだったのでこれほど近くで見られることを逆に嬉しく感じてしまうほどだ。でも、それは本来の自分の時の心境に限る。
じっと見つめていると、ボス狼は溜め息を吐く。
「勝手にしろ。ただし、我らに何かしたら殺す。」
「ええ、好きなようにして下さい。」
その言葉を聞くと、狼達はそのまま暗闇の中に消えていった。1人になると、周囲の騒がしさが耳に入る。鳥が騒ぎ立て、またそこら中の茂みから音がする。
俺は一つ溜め息を吐くと、身体を起こして再び歩いた。この森を散策していると一つの湖を見つけた。ヒスイさんと水遊びしていた光景が頭に浮かんで、苦しくなる。
湖に足を入れてみると底が深いようで足が届きそうにない。でも、構わず身体をそのまま水の中へと沈めた。身体はどんどん下に沈み込んでいくが、陸地にいたように呼吸は出来る。ここだけ、何も音がしなくて静かだった。
足の裏に何か柔らかい感触を感じたことで、湖の底まで来たのだと分かる。
「…嫌われちゃった。」
膝を抱え込むと頭を埋めた。
自分の身体に傷を付けられないのなら、食事をしなければ死ねるのかと思った。何もせずじっとしていることは、前世の自分で慣れていたので俺はそのまま目を閉じることにした。
どれくらい経ったのか分からない。でも、優に数日は経過しているように思えた。お腹は空いている気はするが、別に何かを食べたいとは思わない。このままなら、餓死出来るのではないかと感じ始めた頃、身体が何かに揺すられた気がした。
でも、水嫌いな獣達がこんな場所に来れるはずがないと思い直す。だから、水の流れのせいだと思って顔を上げなかった。でも、次の瞬間、膝に回していた腕が引っ張られる。
「え?」
驚いて顔を上げた瞬間、泣きそうになった。
ーー何でここにいるの…
「やっと、見つけた。」
水中の中でも彼の凛とした声が耳に届く。
「…何で?」
そう口にした瞬間、俺は腕を振り払った。後ずさろうとしたが、久しぶりに動いたことや地面がぬかるんでいることもあり、バランスを崩してしまう。背中に回された手に支えられ、離れようとすると逆に引き寄せられる。
「逃げないで。」
耳の側に聞こえてきた声に、抵抗していた腕を止めると優しく頭を撫でられる。
ー会いたかった。でも、会いたくなかった。そんな矛盾な想いが胸を駆け巡って苦しかった。
ヒスイさんは俺が泣きそうになっているのに気付くと、おでこにキスをしてきた。驚いて目を見開くと、彼はクスリと笑みを見せる。
「帰ろう。」
彼はそう言うと俺の身体を片手で抱き締めて、水面に向かって泳ぎ出した。
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