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アルフが次に目が覚めた場所は見覚えるある景色だった。ゆっくりと身体を起こすと頭に鈍い痛みが走る。何故、頭痛がするのか分からなかったが自分の名前を呼んできたものの姿を視界に入れるとたちまち気を失う前の記憶を思い出した。

アルフは辛い記憶よりも恥ずかしい記憶の方が頭を占め、布団に隠れるように顔を隠した。ベッドが軋む音と共に身体は少しだけ沈む。目の前にブラッドが座ったことを察するとアルフは布団を握り締める力を強めた。

でも、その後は彼から何もしてこなかった。てっきり、布団を剥がれるか何か言われると思っていたので拍子抜けして、チラリと顔を出す。

「…ブラッド?」

名前を呼ぶと彼の方はピクリと揺れて伏せていた視線をこちらに向ける。

「ごめ「謝るな!」…でも…」

アルフは再び身体を起こすとブラッドの顔を胸に埋めた。朝からまたこの表情をしていたのかと思うと、悔しく思った。いや、本当はあの時からずっとこの表情をしていたのだろうと予想はついた。

「俺は助けられたんだ。それに勝手にどこかに行った俺のせいであってブラッドのせいじゃない。」

「違う…俺が、離れたから…」

「だから、…ああ、もう!これじゃ切りがない。なら、もう俺とブラッドのせいでいいよ。」

本当は自分のせいにして欲しかったが、変なところに責任感を持つ彼にはそうした方が良さそうだと思った。
ブラッドの頭を撫でてやると彼はそっと背中に手を回してきた。そして、次第に存在を確かめるように力を加えてくる。

「ねえ、アルフは俺とキスしたこと覚えてる?」

「へっ?!」

急に言われて思わず身体を離そうとしたが叶わなかった。

「それもゴメンね。アルフのファーストキス奪って。」

「…別にいい。」

その返事を受けてブラッドは顔を上げてきたので、アルフは慌ててそっぽを向いた。

「本当に初めてだったんだ。」

どこか嬉しそうに聞こえるのは気のせいだろうか。

「煩い。それはお前も一緒だろうが。男と初めてするのは…」

「まあ、そうだね。男に限らずだけど。」

「えっ?」

視線を戻すとはにかむような笑顔を向けられる。

「俺もファーストキスだよ。」

そう言われて一気に顔が熱くなる。

いやいやいやいや、たかがキスだから!これからも誰かとするレベルのものだから!そう頭に思い浮かんだ瞬間、ズキッと胸が痛んだ。そうだ…ブラッドはこれからも誰かとキスするんだ…

「アルフ?」

急に押し黙ったアルフにブラッドは顔を近付けた。綺麗な瞳に自分を映し出しているのが分かる。ここに誰か他の人を映して熱く見つめる彼を想像すると胸が苦しくなる。

「っ、嫌だ…。」

勝手に言葉を口にしていた。ブラッドは訳もわからなさそうに首を傾げている。

「ブラッドは俺のだもん…」

そう口にすると彼の首に顔を埋めた。



ブラッドは突然のことに驚いて硬まった。だって、あのアルフから俺のものって言われたのだ。何かと引き剥がそうとしてきた彼が初めて自分に甘えてきたように思う。

なんだ…え、何このかわいい子。え、急にどうしたんだ。

擦り寄って猫みたいな行動をする彼にブラッドはかつてないほど頬を赤らめた。そして、少しの間心を落ち着かせるように呼吸をすると顔を埋める青年に声を掛けた。

「アルフ、こっち向いて。」

嫌だと言うように首を振る彼にブラッドは宥めるように背中をさすってやる。昨夜のストレスのせいで子ども返りをしているのだろうか…。そう考えてみるがこの好機を逃したくはなかった。

「…アルフとキスしたい。」

急に硬まってしまった彼に、ブラッドも思わず口にしていたことに気付く。慌てて誤魔化そうかと悩んだが、隠したくはないと思い何も言わないことにした。

アルフは暫くしてから顔を離すと赤く染めた頬をブラッドに見せつけた。その反応からして嫌がっていないと判断するとブラッドはアルフの頭の後ろに手を回した。抱き締めていた片手もすぐに逃げられるように緩めてやると、そのまま引き寄せるように腕を引いたのだ。

そして、今度こそ互いの意識がはっきりしている中で口付けを交わしたのだ。
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