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アルフはテラスに出てブラッドが剣を振るっている姿を見ていた。素振りでも1つ1つの動作が美しく、思わず見惚れてしまう。自分も剣術の腕は良い方だが彼と比べることは到底出来ない。
「…恵まれてんな。」
前世では自分を偽って生きていた。本当はやりたくないこともやって良い子を演じていたのに、親は弟だけを可愛がっていた。きっと学校でも自分を偽り続けていたのは、1人になるのが怖かったからだと今では分かる。誰でもいいから自分の居場所となってくれる人が欲しかったんだ。
アルフは溜め息を吐くと、手すりの上に両手を組んで顎を乗せた。
嫌われるのは怖い。自分の存在を認めてくれないのも、必要としてくれないのも怖い。でも、それ以上に仲の良かった人から冷たい視線を向けられることの方が耐えられない。
…そんなことはない、大丈夫だっていう思いは心の片隅にはある。でも、どうしてもネガティブな思考へと呑まれてしまうのだ。
こう思うのも苦しい。自分が周りを信用してないようで嫌だ。でも、もうあの時の思いは味わいたくない。
「アルフー!」
下から自分を叫ぶ声が聞こえきて、反応するように顔を上げるとブラッドが片手を大きく振っていた。その姿に苦笑しながら、アルフも手を振って答えてやるとブラッドは満足したように邸宅へと足を向ける。
アルフは無意識に自分の腕に爪を立てていた箇所をさすった。思いの外強く力を加えていたようだ。
「…信じていいのかな。」
自分から離れていったイニスを思い浮かべる。きっと自分は嫌がりながらもどこかで心を許していたんだって1人になった時に思った。そして、これが前世のトラウマをはっきりと思い出させることになったことも。
息が苦しく感じて胸を押さえる。一度深く考えてしまうと、自分からは負の感情から抜け出せなくなる。思い出したくない。今は違う、幸せなのに…怖いっ
「大丈夫だよ。」
急に自分の身体が温もりに包まれてビックリする。思わず抵抗しようとしたが、鼻に届いた馴染みのある匂いに次第に心は落ち着き始める。
普段は生意気で自分勝手な癖に、自分が苦しい時はいつも真っ先に駆けつけて助けてくれる。
身体に回された手を掴むと掌を上に向け直して握り締めてくれる。自分よりも硬く温かい手がどこか心強い。
「…ブラッドって俺のこと好きだよね。」
知りたくないけど知りたい。そんな矛盾した思いが駆け巡る。
「当たり前じゃん。誰よりも大好きだよ。」
いつになく真面目な声色だった。…本当は分かっていたことだったが言葉にされるとホッとした。
「アルフも俺のこと大好きだもんね。」
言葉と同時に肩に温もりを感じて視線を向けると、ブラッドの赤い髪が見えた。その姿に自然と腕は動き、彼の頭を撫でていた。そして、口からは自然と言葉が出ていた。
「そうだな。」
もう、認めるしかなかった。自分がブラッドを必要としており、嫌われたくないって思ってることを…
「…恵まれてんな。」
前世では自分を偽って生きていた。本当はやりたくないこともやって良い子を演じていたのに、親は弟だけを可愛がっていた。きっと学校でも自分を偽り続けていたのは、1人になるのが怖かったからだと今では分かる。誰でもいいから自分の居場所となってくれる人が欲しかったんだ。
アルフは溜め息を吐くと、手すりの上に両手を組んで顎を乗せた。
嫌われるのは怖い。自分の存在を認めてくれないのも、必要としてくれないのも怖い。でも、それ以上に仲の良かった人から冷たい視線を向けられることの方が耐えられない。
…そんなことはない、大丈夫だっていう思いは心の片隅にはある。でも、どうしてもネガティブな思考へと呑まれてしまうのだ。
こう思うのも苦しい。自分が周りを信用してないようで嫌だ。でも、もうあの時の思いは味わいたくない。
「アルフー!」
下から自分を叫ぶ声が聞こえきて、反応するように顔を上げるとブラッドが片手を大きく振っていた。その姿に苦笑しながら、アルフも手を振って答えてやるとブラッドは満足したように邸宅へと足を向ける。
アルフは無意識に自分の腕に爪を立てていた箇所をさすった。思いの外強く力を加えていたようだ。
「…信じていいのかな。」
自分から離れていったイニスを思い浮かべる。きっと自分は嫌がりながらもどこかで心を許していたんだって1人になった時に思った。そして、これが前世のトラウマをはっきりと思い出させることになったことも。
息が苦しく感じて胸を押さえる。一度深く考えてしまうと、自分からは負の感情から抜け出せなくなる。思い出したくない。今は違う、幸せなのに…怖いっ
「大丈夫だよ。」
急に自分の身体が温もりに包まれてビックリする。思わず抵抗しようとしたが、鼻に届いた馴染みのある匂いに次第に心は落ち着き始める。
普段は生意気で自分勝手な癖に、自分が苦しい時はいつも真っ先に駆けつけて助けてくれる。
身体に回された手を掴むと掌を上に向け直して握り締めてくれる。自分よりも硬く温かい手がどこか心強い。
「…ブラッドって俺のこと好きだよね。」
知りたくないけど知りたい。そんな矛盾した思いが駆け巡る。
「当たり前じゃん。誰よりも大好きだよ。」
いつになく真面目な声色だった。…本当は分かっていたことだったが言葉にされるとホッとした。
「アルフも俺のこと大好きだもんね。」
言葉と同時に肩に温もりを感じて視線を向けると、ブラッドの赤い髪が見えた。その姿に自然と腕は動き、彼の頭を撫でていた。そして、口からは自然と言葉が出ていた。
「そうだな。」
もう、認めるしかなかった。自分がブラッドを必要としており、嫌われたくないって思ってることを…
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