俺は、嫌われるために悪役になります

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　嫌な視線が周りから突き刺さる。
　それでも気にしないように堂々と歩くのは、自分が弱いことを見せないためだ。

　だって、俺は意地が悪い男なんだから！

　真っ直ぐ学校の廊下を歩いていると前から駆け寄ってきた一人の女性とぶつかる。
　その拍子に、彼女は尻餅をついて倒れてしまった。

　前世の俺なら片足を地面に付き手を差し伸ばして心配そうな笑みを浮かべるであろう。
　そして、「ごめんね、大丈夫だった？」と声をかける。

　でも、俺は決めたんだ！誰にも好かないように生きようって。

　だから、優しい言葉も申し訳ない態度なんかもとらない。

　俺が彼女に視線を向けると、ピクリと肩が震える姿が目に入る。

　黙って片手を差し出すと、彼女は怯えたように目を潤ませて手を添えてくる。自身の方に引っ張り上げるとすぐさま握り締めていた手を離した。

「…気を付けろ。」

「はっ、はい、アルフ様」

　そう俺が口にすると彼女は何度も首を縦に振りながら答えた。
　内心、そんなに怯えなくても良いのにと思ったがこれで良いのだと思い直す。

　俺は再び足を進めると廊下の突き当たりにある階段を下りた。



　※



　彼の背中を最後まで見届け終わると、廊下は一気に騒がしくなった。

「やったわ！アルフ様の手まで握っちゃった！」

「ああ、羨ましすぎる！早く来月にならないかしら。私もアルフ様の当たり屋当選者に選ばれたいわ！」

　そう騒いでることを鈍感なアルフはもちろん知らない。
　まず、月一で開催されるそのイベントの存在さえも知らないのだから。



　※



　俺は迎えにきた馬車に乗り込むと、ホッと一息をついた。これで前世とは違って始めから嫌われる人生を歩めると感じていたからだ。

　俺、アルフ・クラークソンには前世の記憶が残っている。

　前世の俺には7歳離れた弟がおり、両親は弟ばかりに愛情を注いでいた。

　今とは違い前の家は裕福ではなかったため、生活は苦しかった。
　そのため、両親からは中学に通うことを嫌がられていた。
　どうやら、俺にはあまりお金を使いたくなかったらしい。
　それでも義務教育だからということで中学は通うことは叶った。

　俺は両親に少しでも良い息子だと思われたくて必死に努力をした。
　周囲の顔色を伺い、良い奴だと思われるように振る舞ったし、試験では常に一桁を保ち、学校の生徒会長を務めるなど先生からも良い印象をもたれるように努めた。
　運動も出来たので文武両道を目指してみようと思ったが、スポーツにはお金がかかることが多いので諦めた。

　我ながら、皆んなから気に入られようと必死だったと思う。
　でも、そんなに努力をしても両親からは愛情をもらえなかった。

　ただ邪魔だと、早く独り立ちして家から出て行けと言われ続けていた。
　自分がしていることの無意味さを感じ始めた頃に、信号を無視した車に轢かれて記憶は途絶えたのだ。

　そして、俺が次に目が覚めると自分がゆりかごの上で寝ている赤ん坊になっていた。
　その頃からドアの向こうからメイドや執事達が覗き込んで監視をしていたように思う。

　何やら皆んなで俺の悪口を言っていたようだった。
　だって、こちらに視線を向けてはすぐに逸らしていたから。俺も居心地が悪くて顔を向けないようにしていた。　　

　だから本当は彼らがどんな話をしていたのかもアルフには分かっていなかった。



　※



「あー、もう何であんなに可愛らしいんでしょう？！」

「本当だよ、まるで天使からいや神からの贈り物に違いない。」

「私は同じ世界に生まれることが出来て幸せです。」

　あの皆んなに厳しくて有名なメイド長と執事長までもがこの頃からメロメロだったという事実にさえも、自分の存在を拝め称えていたことなんて知るはずもなかった。