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奴隷商人と皇太子
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玲於に身体を抱き締められながら、ここ数日間のことについて話を聞いた。俺はもっと眠っているものだと思っていたので、こんなに早く目覚めたことに驚いていた。そして、記憶にない話をされて少し困惑していた。
「ーてことは、やっぱり俺の記憶は奪われたんだ。前世か…そんな記憶を持ってたんだな」
「みたいだな……不安か?」
「いや、別に。王が欲しがるってことは結構悲惨な記憶だったんだろ?なら、なくなって良かったんじゃないか。」
何か自分から消えた感覚はある。でも、以前に比べて心は軽くなっている気がする。
「でも、良かった。上手くいったんだな。」
目を閉じて周囲を確認すると自分と同じ力を持つ者は誰もいなかった。皆んなが望んでいた普通の人間に戻れたんだと証明している。
「ルーカス。」
「ねえ、玲於…。俺、なんだか今の自分が誇らしいんだ。」
目を開けてじっと青い瞳を見つめる。そして、彼の本当の名前を呼ぶ。
「リアム…もう自分を受け入れることにしたよ。」
「受け入れる?」
「うん。俺は自分がずっと嫌いだった。与えられた環境も、自分のことを利用する人達も何もかも嫌で仕方がなかった。でも、自分が捨てられるのが怖くて言われた通り…結局は行動してしまう自分がいた。…1人になるのが怖くて、自分が相手に与えられるものを必死に探して与えようと努力もしたな。」
我ながら、これまで必死に生きてきたんだと思った。いつの間にか自分を無意識に押し殺すようになって、主観的に考えることが難しくなっていた時もあった。
「でも、それに疲れてたんだってリアムと出会って知った。リアムといると素の自分が勝手に出てきて、毎日が楽しかったんだ。…俺のことを少しでも意識して欲しくて、玲於って呼んだり、自分の名前を教えたりもした。…でも、もう無理矢理、誰かを自分の元に留めておこうと動くのはやめるよ。」
そっと微笑むと、何故だか泣きたくなった。
「これからは、俺は俺の生きたいように生きる。だから、リアムも…っ、俺のこと気にしなくて、大丈夫だよ…。もう、自分を、犠牲にしないで生きるからっ…だから、っ、安心して……」
もう、同情から俺を引き止めて欲しくなかった。…同情だけで一緒にいてくれたわけではないのは分かってる。でも、そうでも思わないと彼を解放してあげられない。
「違う!そんなこと言うな!」
痛いっ、そう思うくらいに身体が彼と密着する。
「何でっ?俺は同情からいるわけじゃない!そんな感情で人を傍に置くほど優しい人間じゃない…」
「優しいよ。」
首を左右に振って答えると、リアムは苦しそうな顔をする。
「なら、俺の本来の皇太子としての姿を見るか?俺は、ルーカスに…冷徹な姿を見せて、嫌われたくなくて必死に隠している姿を?」
「そんなんで、嫌わないよ。」
「なら、俺から離れようとする言葉を言うな!」
俺から離れる気はさらさらない。だって、こんなに好きなのに離れられるはずがない。
ただ、怖いんだ。
好きって言われることも愛されることも怖い。…なんでこんな自分を愛してくれるのか、分からなくて不安になる。離れたくないのに、逃げたくなってしまう。
そんなわけの分からない感情が渦巻いて嫌だった。矛盾しているのは知ってる。自分でも突然、ふいに浮かんでくるこの思いに苦しくなる。
でも、きっとこの不安はこれからも俺を襲うと思う。そして、逃げたくなって、本当に相手のせいにして逃げるかもしれない。
これまで愛に飢えていたから、逆に愛されることがトラウマになっているのかもしれない。
「…俺が嫌ってリアムから離れることはないよ。」
「俺もだ。もう、こんな1人で待つ、辛い思いをさせないでくれ…」
きっぱりと言い切ってくれる言葉に胸がじんわりと温かくなる。
「悪いが、俺はもうルーカスを手放せない。どこか行こうとするなら、何が何でも離れられないようにしてやる。心体とも俺を必要とさせて、逃げられないように拘束してやる。」
そんな執着じみた感情が嬉しい。それでようやく俺の心は安心するのだ。
涙が頬を伝う。
本当に信じて良いのだろうか…俺のことを心から必要としていると…
そっと涙を拭われる。優しい手つきが嬉しくて恋しくて仕方がない。
「っ、なら、俺をずっと傍にいさせてっ…?いらなくなったら、俺を殺してっ…」
そうでないともう生きていけない気がする。俺を拾ったなら最後まで、ちゃんと面倒を見て欲しい。
「いいよ、そんな現実はこないけどね。ルーカスが望むことなら何でも叶えてあげたい。好きだよ、誰よりもずっと…だから、そんな不安で苦しそうな顔をしないで。」
おでこにキスを落とされる。でも、欲しいのはそこじゃない。腰に回していた手をリアムの首に回すと、それに応えるように1番欲しいと思っていた箇所に唇が落ちる。
何度も何度も触れ合い、身体の中から温めてくれる。
ああ、俺はやっと愛されているんだって受け入れられる。
「ーてことは、やっぱり俺の記憶は奪われたんだ。前世か…そんな記憶を持ってたんだな」
「みたいだな……不安か?」
「いや、別に。王が欲しがるってことは結構悲惨な記憶だったんだろ?なら、なくなって良かったんじゃないか。」
何か自分から消えた感覚はある。でも、以前に比べて心は軽くなっている気がする。
「でも、良かった。上手くいったんだな。」
目を閉じて周囲を確認すると自分と同じ力を持つ者は誰もいなかった。皆んなが望んでいた普通の人間に戻れたんだと証明している。
「ルーカス。」
「ねえ、玲於…。俺、なんだか今の自分が誇らしいんだ。」
目を開けてじっと青い瞳を見つめる。そして、彼の本当の名前を呼ぶ。
「リアム…もう自分を受け入れることにしたよ。」
「受け入れる?」
「うん。俺は自分がずっと嫌いだった。与えられた環境も、自分のことを利用する人達も何もかも嫌で仕方がなかった。でも、自分が捨てられるのが怖くて言われた通り…結局は行動してしまう自分がいた。…1人になるのが怖くて、自分が相手に与えられるものを必死に探して与えようと努力もしたな。」
我ながら、これまで必死に生きてきたんだと思った。いつの間にか自分を無意識に押し殺すようになって、主観的に考えることが難しくなっていた時もあった。
「でも、それに疲れてたんだってリアムと出会って知った。リアムといると素の自分が勝手に出てきて、毎日が楽しかったんだ。…俺のことを少しでも意識して欲しくて、玲於って呼んだり、自分の名前を教えたりもした。…でも、もう無理矢理、誰かを自分の元に留めておこうと動くのはやめるよ。」
そっと微笑むと、何故だか泣きたくなった。
「これからは、俺は俺の生きたいように生きる。だから、リアムも…っ、俺のこと気にしなくて、大丈夫だよ…。もう、自分を、犠牲にしないで生きるからっ…だから、っ、安心して……」
もう、同情から俺を引き止めて欲しくなかった。…同情だけで一緒にいてくれたわけではないのは分かってる。でも、そうでも思わないと彼を解放してあげられない。
「違う!そんなこと言うな!」
痛いっ、そう思うくらいに身体が彼と密着する。
「何でっ?俺は同情からいるわけじゃない!そんな感情で人を傍に置くほど優しい人間じゃない…」
「優しいよ。」
首を左右に振って答えると、リアムは苦しそうな顔をする。
「なら、俺の本来の皇太子としての姿を見るか?俺は、ルーカスに…冷徹な姿を見せて、嫌われたくなくて必死に隠している姿を?」
「そんなんで、嫌わないよ。」
「なら、俺から離れようとする言葉を言うな!」
俺から離れる気はさらさらない。だって、こんなに好きなのに離れられるはずがない。
ただ、怖いんだ。
好きって言われることも愛されることも怖い。…なんでこんな自分を愛してくれるのか、分からなくて不安になる。離れたくないのに、逃げたくなってしまう。
そんなわけの分からない感情が渦巻いて嫌だった。矛盾しているのは知ってる。自分でも突然、ふいに浮かんでくるこの思いに苦しくなる。
でも、きっとこの不安はこれからも俺を襲うと思う。そして、逃げたくなって、本当に相手のせいにして逃げるかもしれない。
これまで愛に飢えていたから、逆に愛されることがトラウマになっているのかもしれない。
「…俺が嫌ってリアムから離れることはないよ。」
「俺もだ。もう、こんな1人で待つ、辛い思いをさせないでくれ…」
きっぱりと言い切ってくれる言葉に胸がじんわりと温かくなる。
「悪いが、俺はもうルーカスを手放せない。どこか行こうとするなら、何が何でも離れられないようにしてやる。心体とも俺を必要とさせて、逃げられないように拘束してやる。」
そんな執着じみた感情が嬉しい。それでようやく俺の心は安心するのだ。
涙が頬を伝う。
本当に信じて良いのだろうか…俺のことを心から必要としていると…
そっと涙を拭われる。優しい手つきが嬉しくて恋しくて仕方がない。
「っ、なら、俺をずっと傍にいさせてっ…?いらなくなったら、俺を殺してっ…」
そうでないともう生きていけない気がする。俺を拾ったなら最後まで、ちゃんと面倒を見て欲しい。
「いいよ、そんな現実はこないけどね。ルーカスが望むことなら何でも叶えてあげたい。好きだよ、誰よりもずっと…だから、そんな不安で苦しそうな顔をしないで。」
おでこにキスを落とされる。でも、欲しいのはそこじゃない。腰に回していた手をリアムの首に回すと、それに応えるように1番欲しいと思っていた箇所に唇が落ちる。
何度も何度も触れ合い、身体の中から温めてくれる。
ああ、俺はやっと愛されているんだって受け入れられる。
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