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奴隷商人と皇太子
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次の日、朝から玲於達が部屋に訪れて来た。昨晩は誰にも会うことなく、部屋に閉じ籠ったので今日会いに来たらしい。でも、彼らは焦った様子を見せる。
「空杜君、兄ちゃんって人が訪問して来たんだけど!」
「もう、来たんだ。」
昨日、イーサンと別れ際に約束をしたのだ。明日の朝、城に迎えに行くと。
空杜は応接間に向かって足を進めると、彼らも後をついてきた。部屋に入ると昨日とは違って、帝国の紋章が入った貴族の格好をしている。
「ソラ!」
名前を呼んで笑顔でこちらに足を進めてくる男は、両手を広げている。空杜は意思を固めると彼に向かって駆け寄った。
「兄ちゃん!今日も会いに来てくれたの?」
他の者からは不穏な雰囲気が流れる。本来なら、敵国の皇帝を城に招き入れることさえも嫌だったはずなのに、客として応接間に通してくれたのは俺のためだろう。
イーサンは身体を離すと昔のように頭を撫でてくる。
「ああ、ソラ。俺と、一緒に帰ろうか?」
うんと返事をしようとしたのに、声が出てこない。息を呑んで再び、返事をしようとすると後ろに身体が引かれる。
「やめて下さい。」
「玲於?」
上を見上げると優しく笑いかけられる。それだけで、不安に思っていた気持ちが和らいでいく。
「俺はソラと話してるんです。」
「ここではアリマって呼んで下さい。」
「はあ?」
「それが我が帝国の国民である恋人の名前ですから。」
見えない火花がどこか散っているように見える。それは他の者も同じらしく、頭を抱えている。
「ラドリエン皇帝、息子が失礼致しました。どうか、こちらに腰を掛けて頂けないかな。」
「…いえ、私も失礼致しました。」
イーサンはチラリとこちらに視線を向けると不服そうに身体を翻した。
「それで、私達からもアリマを連れて行かれるのは困るのですよ。彼は皇太子の専属騎士でもあるので。」
「それは、知らずに勝手なことを申してしまいましたね。でも、アリマを連れて帰らないと、後悔するのはそちらですよ?」
「どういう意味でしょうか?」
視線を向けて押し黙るイーサンに溜息を吐くと、空杜は玲於から離れた。そして、イーサンの側に立つと指輪を外して視線を前に向けた。それぞれが驚いたように視線を向ける。
「ご覧の通り、アリマも俺の仲間の1人になるんです。力を抑える方法は我が国でしか学べないんですよ。ですので、アリマは知識がなく、今すぐ学ばなければ悪魔の力に乗っ取られてしまうんですよ。」
「…そういうことですか。」
イーサンの瞳を見て、沈黙が部屋を包む。空杜は大好きな彼らの顔が見えなかった。自分の存在が忌み嫌われることを分かっていたのに、自分は騙して傍にいたのだ。
「なら、ラドリエン帝国が教えに来たらどうでしょうか?」
彼の言葉に反応するように視線を向けると、彼はいつもと変わらぬ態度で立っている。そして、自分と視線が合うと優しく微笑み掛けてくれた。
「…いえ、敵国に来るのは危険を伴いますので無理です。まず、この場所では教育材料が足りない。それに、もし何かあった時に治療を行えないではありませんか。薬では治らないんですよ。俺らと違って魔法を使えないですよね?」
「それなら、アリマを敵国に行くことも危険を伴うではありませんか。だから、平和条約でも結んで指導者が来ればいい。」
「皇太子、誰が好き好んで自分たちを貶めようとする国に行こうとするんですか?我らは先代の皇帝によって実験された被害者にも関わらず、人間達によって苦しめられてきたのです。アリマは受け入れられても、他の人は無理です。」
「アリマだけではないだろ?」
玲於は視線を背後に向ける。それにセスは答えるかのように瞳を赤く変化させた。空杜にとっては衝撃的だった。彼らは元からセスの身体に流れる血について知っていたのだ。
「…知っておられたんですね。」
「ええ、もちろんですよ。セスもアリマも我々によく仕えてくれる良い騎士ですよ。」
皇帝が話をする。隣にいる皇后も堂々としており、自分のことを思ってた以上に認めてくれていたんだと知った。
やっぱり、無理だ…この人達から離れたくない。そう思うと勝手に涙が溢れてくる。泣きたくないのに、泣いたら自分の意思で行こうとしているわけではないことがバレてしまうのに…
優しくて大きな手が自分の頭の後ろに回る。いつの間にか、目の前に来た彼に抱き締められており、そっとその背中に手を回した。
生きたいのに、離れたくない。でも、セスにも生きて欲しい。そんな感情を胸を蝕んで苦しかった。
暫くすると、隣に座っていた彼が溜息を吐く。そして、彼は姿勢を少しばかり崩すと、また大きな溜息を吐いた。
「…仕方ないですね。これでも、好きな相手には弱いんですよ。」
イーサンは自嘲をするとセスに視線を向けた。
「平和協定を結びましょう。そして、セス、貴方も力の使い方について学びに来なさい。我々がこちらに来るのは無理ですが、この場にいるあなた方を来るのは拒みません。ただし、受け入れられる存在ではないことを認識して来訪して下さいね。我が国では、貴方は敵国の騎士として有名すぎる。」
驚いてイーサンに視線を向けると、彼は柔らかな笑みを浮かべた。その姿はかつて、お兄さんと慕っていた時の彼のように見えた。
「空杜君、兄ちゃんって人が訪問して来たんだけど!」
「もう、来たんだ。」
昨日、イーサンと別れ際に約束をしたのだ。明日の朝、城に迎えに行くと。
空杜は応接間に向かって足を進めると、彼らも後をついてきた。部屋に入ると昨日とは違って、帝国の紋章が入った貴族の格好をしている。
「ソラ!」
名前を呼んで笑顔でこちらに足を進めてくる男は、両手を広げている。空杜は意思を固めると彼に向かって駆け寄った。
「兄ちゃん!今日も会いに来てくれたの?」
他の者からは不穏な雰囲気が流れる。本来なら、敵国の皇帝を城に招き入れることさえも嫌だったはずなのに、客として応接間に通してくれたのは俺のためだろう。
イーサンは身体を離すと昔のように頭を撫でてくる。
「ああ、ソラ。俺と、一緒に帰ろうか?」
うんと返事をしようとしたのに、声が出てこない。息を呑んで再び、返事をしようとすると後ろに身体が引かれる。
「やめて下さい。」
「玲於?」
上を見上げると優しく笑いかけられる。それだけで、不安に思っていた気持ちが和らいでいく。
「俺はソラと話してるんです。」
「ここではアリマって呼んで下さい。」
「はあ?」
「それが我が帝国の国民である恋人の名前ですから。」
見えない火花がどこか散っているように見える。それは他の者も同じらしく、頭を抱えている。
「ラドリエン皇帝、息子が失礼致しました。どうか、こちらに腰を掛けて頂けないかな。」
「…いえ、私も失礼致しました。」
イーサンはチラリとこちらに視線を向けると不服そうに身体を翻した。
「それで、私達からもアリマを連れて行かれるのは困るのですよ。彼は皇太子の専属騎士でもあるので。」
「それは、知らずに勝手なことを申してしまいましたね。でも、アリマを連れて帰らないと、後悔するのはそちらですよ?」
「どういう意味でしょうか?」
視線を向けて押し黙るイーサンに溜息を吐くと、空杜は玲於から離れた。そして、イーサンの側に立つと指輪を外して視線を前に向けた。それぞれが驚いたように視線を向ける。
「ご覧の通り、アリマも俺の仲間の1人になるんです。力を抑える方法は我が国でしか学べないんですよ。ですので、アリマは知識がなく、今すぐ学ばなければ悪魔の力に乗っ取られてしまうんですよ。」
「…そういうことですか。」
イーサンの瞳を見て、沈黙が部屋を包む。空杜は大好きな彼らの顔が見えなかった。自分の存在が忌み嫌われることを分かっていたのに、自分は騙して傍にいたのだ。
「なら、ラドリエン帝国が教えに来たらどうでしょうか?」
彼の言葉に反応するように視線を向けると、彼はいつもと変わらぬ態度で立っている。そして、自分と視線が合うと優しく微笑み掛けてくれた。
「…いえ、敵国に来るのは危険を伴いますので無理です。まず、この場所では教育材料が足りない。それに、もし何かあった時に治療を行えないではありませんか。薬では治らないんですよ。俺らと違って魔法を使えないですよね?」
「それなら、アリマを敵国に行くことも危険を伴うではありませんか。だから、平和条約でも結んで指導者が来ればいい。」
「皇太子、誰が好き好んで自分たちを貶めようとする国に行こうとするんですか?我らは先代の皇帝によって実験された被害者にも関わらず、人間達によって苦しめられてきたのです。アリマは受け入れられても、他の人は無理です。」
「アリマだけではないだろ?」
玲於は視線を背後に向ける。それにセスは答えるかのように瞳を赤く変化させた。空杜にとっては衝撃的だった。彼らは元からセスの身体に流れる血について知っていたのだ。
「…知っておられたんですね。」
「ええ、もちろんですよ。セスもアリマも我々によく仕えてくれる良い騎士ですよ。」
皇帝が話をする。隣にいる皇后も堂々としており、自分のことを思ってた以上に認めてくれていたんだと知った。
やっぱり、無理だ…この人達から離れたくない。そう思うと勝手に涙が溢れてくる。泣きたくないのに、泣いたら自分の意思で行こうとしているわけではないことがバレてしまうのに…
優しくて大きな手が自分の頭の後ろに回る。いつの間にか、目の前に来た彼に抱き締められており、そっとその背中に手を回した。
生きたいのに、離れたくない。でも、セスにも生きて欲しい。そんな感情を胸を蝕んで苦しかった。
暫くすると、隣に座っていた彼が溜息を吐く。そして、彼は姿勢を少しばかり崩すと、また大きな溜息を吐いた。
「…仕方ないですね。これでも、好きな相手には弱いんですよ。」
イーサンは自嘲をするとセスに視線を向けた。
「平和協定を結びましょう。そして、セス、貴方も力の使い方について学びに来なさい。我々がこちらに来るのは無理ですが、この場にいるあなた方を来るのは拒みません。ただし、受け入れられる存在ではないことを認識して来訪して下さいね。我が国では、貴方は敵国の騎士として有名すぎる。」
驚いてイーサンに視線を向けると、彼は柔らかな笑みを浮かべた。その姿はかつて、お兄さんと慕っていた時の彼のように見えた。
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