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奴隷商人と皇太子

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玲於と街中を歩いていると、夕食パーティーの集合時間を聞くのを忘れたことに気付いた。この夕方にしては早い時間に家に伺いに行くのも、夕食を催促するみたいで嫌だった。でも、運良く叔母さんの親友であり里親にもなってくれた方と街中で出会うことが出来た。どうやら、足りない食材を買いに来たようだった。

「あら、ラニーが伝え忘れてたの?18時に集合よ。」
「手伝「手伝わなくて良いからね。何が出るのかサプライズで待ってて欲しいの。」…はい。」

言おうとしてたことを見事に当てられてしまった。迷惑を掛けるから、お手伝いしようと思っていたのにこれは無理そうだ。

「パムさんもすみせん。ありがとうございます。」
「あら、良いのよ。玲於君達のお陰で、私達も久しぶりに腕を振る舞えて嬉しいんだから。」

パムさんはニッコリと笑うと空いていない手の代わりに、肘で突っついてくる。

「それに、イケメンと美人ちゃんを拝めるんだから皆んな大喜びよ!」
「何それ。パムさん、まさか美人ちゃんって俺のことじゃないよね?」
「あなた以外に誰がいるのよ?」

俺は思わず苦笑を浮かべた。だが、玲於の顔には微笑が口角に浮かんでいた。これは知ってる。玲於がちょっと俺のことを揶揄おうとしている時の顔だ。

「空杜って、本当に美人過ぎますよね。」
「ええ。でも、女性よりも美人なのは嫉妬しちゃうけどね。」
「そんなことないし、俺嬉しくない。玲於みたいにイケメンって言われたいんだけど?」
「それは縁のない話ね。それじゃ、私は準備があるから行くわね。また後で。」

最後にズバッと酷いことを言って、パムさんは去っていた。

「なあ、空杜って何でラニーさんだけ叔母さんって呼ぶんだ?」
「俺もラニーさんって呼んでたんだけど、叔母さんって呼んでって言われたからかな。玲於は言われてない?」
「言われてないな。理由とか何か言われた?」
「叔母さんのが親戚みたいに聞こえるからだって。」
「空杜は、ほんといろんな人から愛されてるね。」

いろんな人…一瞬疑問がよぎったが、その言葉は胸に入り込んできた。

「うん、俺もそう思うよ。」

以前の自分だったら否定していたと思う。周りが好きだと言ってくれても、それはお世辞にしか聞こえてこなかったから。

でも、玲於と出会って自分の考えが変わった。今では、自分が周りの人達にどれだけ愛されているのか自覚を持ってるようになった。

そして、その中でも俺のことをただ1番愛してくれてる人が目の前にいる。

「俺って今は愛されキャラだからね。」

そう言って笑うと、玲於も嬉しそうに笑う。気分が良いからだろうか、久しぶりの故郷で浮かれているからだろうか。玲於の手を握ると、引っ張るように歩き出す。

「空杜?」
「早く、デートの続きしよ!」

今日が1番生きている中で楽しかった。だから、今までで1番笑えて、素直になれていると思う。

玲於は表情を緩めると握った手を繋ぎ直す。指を1本1本絡めて恋人繋ぎにした。

その途端、一気に恥ずかしくなってきたが、手を離そうとは思わなかった。むず痒いけど幸せな気持ちでいっぱいになったから。

「あと2時間でデートが終わっちゃうな。終わってほしくない?」
「終わってほしくないのはそっちだろ?」
「当たり前じゃん。あー、なんか本当に明日が来て欲しくない。」

俺もそう思う。玲於とは毎日顔を合わせているけれど、今日みたいに自由気ままに過ごせない。

でも、彼はいずれログナート帝国の皇帝となる男だ。やらないといけないことは人一倍に多い。

「こうなったら仕事を真面目にやろうかな。」
「それが普通だから。」
「いや、仕事自体はちゃんとやってるからね?ただ、ゆっくりやるのを止めて、スピードを上げようかなって。」

途端に、何やら考え始めた玲於に首を傾げる。

「…うん、いけるな。」
「何が?」
「俺が頑張れば、空杜と遊べる時間を週一で確保出来る!」

満面の笑みを浮かべている所、申し訳ないが眉間に皺が寄ってしまう。

「止めろ。それで頑張って身体を壊したらどうするんだよ?」

玲於はまさか否定されるとは思っていなかったみたいで目を瞬かせる。

「今のペースでやれ、無理すんな。遊ぶなら休む時間を確保しろ。」
「空杜は、俺と遊びたくないの?デートしたくないの?」

う"っ…そんな捨てられた子犬のような目で見ないで欲しい。

「そんなに、俺といるの嫌?」

指が離れ、繋がれていた手までもが離れそうになる。慌てて掌を握り締め温もりを引きつける。

「いたいよ!2人でもっと出掛けたい!」
「だよね!」

まるでそう言うことが分かってたように玲於は意地悪な笑みを浮かべる。

また、騙された…そう気付いて顔を赤く染め出すと身体が包まれる。もう、この顔が見られないなら良いやと投げやりになって、玲於の胸に顔を埋める。

「空杜は、もっと自分の意見を言って。特に俺に関することはさ。じゃないと、逆に寂しいな。」
「…分かったよ。」

背中を優しく撫でられて、顔を上げると玲於の向こうにいる人と目が合った。ゆっくりと顔を横に向けていくと、どの方向にいる人とも視線が合う。今は人が少ないといえるほどの時刻でもない。

心から恥ずかしい局面に晒されていると、「お幸せに!」という声が聞こえてきた。それにつられるように他の人からも祝福するような、ヤジを飛ばすような声も上がり出す。

もう、死にたいほど恥ずかしくなってまた俺は玲於の胸に顔を埋めた。それに対して玲於は、堂々と手を振ってお礼の言葉を述べている。この状況が満更でもないみたいだ。

帰ったらしばこう、そう心に決めた。
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